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騎士団会議

 真っ赤な血で身体を染めた女性が、美しい笑みを浮かべて見ている。


 白い服が赤い血を際立たせ、真っ白な翼はズタズタになっていた。長く輝く銀髪は切り刻まれてしまったようだ。


 姿はボロボロなのに、女性は輝いていて美しい。悲しいほどに美しかった。


「エリル…」


 小さく呟かれた声は青髪の青年から漏れたもの。


 激しい戦場であったのに、誰も動くことはない。動けないほど、女性は美しかったのだ。


 見つめ合う二人の邪魔をすることはできないと思ったほどで、誰もが想定外の出来事。


 次の瞬間、崩れ落ちた身体に青年は動く。腕に抱き止めれば、青年の腕すら血に染まる。


「エリル…」


 どう見ても致命傷だ。どれだけの力を持っていようと、こればかりは助けられない。


 凍らせた心が軋み、激しい痛みが襲う。なにかを言わなくてはと思うが言葉がでてこない。


「血に濡れていても、お前は美しいな」


 ようやく言えた言葉は、自分でも呆れてしまうものだった。


 女性もなにを言うのかと微かに笑みを浮かべる。けれど彼らしいとも思える言葉だ。


「今も昔も…お前ほどの女はいない……」


 最後ぐらい素直に言おうと思った。だが、少し遅すぎたようだ。


 そこまで言ったとき、笑みを浮かべたまま女性は死んでいたから。聞かせることはできなかった。一番大切な言葉を。


「また…俺に看取らせやがって……」


 まだ温かい身体を抱き締めたまま、青髪の青年は涙を堪える。


 泣くものか。泣くわけにはいかない。


 大切な者を失い、押し寄せる悲しみに必死で抗った。




「やめろ…もう…見せるな…」


 寝ては夢で見て目が覚める。寝直せば、同じ夢を見てまた起きるの繰り返し。


 それも、同じ夢を繰り返すだけなのだ。一晩で何回見たかもわからないほど、クオンはセイレーンの女性が死ぬ夢を見ていた。


 まるで意図的に見せているようだと察したが、それが数日も続くと精神的にも堪える。


「なんで…こんな夢……」


 焼かれる夢もきついと思ったが、この夢は心が締め付けられて苦しかった。感情にも影響がでている。


 色々な方面で影響がでて、いい加減やばいと思っていた。特に、毎日顔を合わせている副官だ。


(時間だ…)


 今日は会議があるとベッドから抜け出し、クオンは急いで支度をした。どのような状態だとしても、会議を欠席するわけにはいかない。


 支度を終えれば、すぐに家を出ようとして呼び止められる。


「持っていきなさい」


「あ、あぁ…」


 渡された包みに食事なのはわかった。朝食を食べる余裕はないだけに、これは助かったと思う。


「朝食はとるべきよ。会議のあとにでも食べなさい」


 両親がクオンの異変に気付いていないわけがない。わかっていて、なにも言わずに見守っている。


「行ってくる、母上」


 これ以上は心配をかけたくない。早く原因を突き止めなくてはと思うのだが、手がかりすらなかった。


 なぜこうなっているのか心当たりもない。誰かに相談して、どうにかなるものでもないだろう。


(結局、一人でどうにかするしかねぇ)


 考えるのだ。絶対に手がかりが見つかるはずだ。意味があるはずなのだから。


 考えながら歩いていれば、城の入り口で副官のリュース・リンバールが待っていた。


「おはようございます。リーナとは顔を合わせたくないかと、待ってました」


「あー…助かる…」


 あれからリーナを避けていたのだ。


 押し倒したのが原因ではない。そのとき見たものが原因だった。


「クオン、あまり口出しはしないつもりでしたが…」


「あとで聞く」


「わかりました」


 あまりにも顔色が悪い姿に、さすがに黙ってはいられない。


 リュースもクオンの身になにかが起きていて、それが原因でリーナを避けていることぐらいなら理解できた。


 本人が言わない以上、口出しするべきではないと思う。だが、今回ばかりはさすがにほっとけない。


 クオンの様子もだが、リーナの方も情緒不安定になっているのだ。若いのは、と陰口を叩かれる前になんとかしなくてはいけない。






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