記憶の夢3
ヒラヒラと舞い降りてきた羽根に、少年は空を見上げた。
陽射しを反射しながら銀色の髪が舞っている。金色に輝く鈴が澄んだ音を鳴らせば、近くにいる翼を持つ者達が舞う。
「あれが…セイレーンか……」
初めて見た翼持つ一族に、少年はきれいだと思った。なんてきれいな一族なのだろうと。
(人間だけが醜いのか)
今までされた仕打ちを考えれば、そんな気分になる。
同時に救いだとも思えた。この旅の意味を見失わずに済む。このきれいな一族を救える旅なら、意味があると。
(そうだよな。すべてがあんなんじゃねぇ。救う価値がないわけじゃない)
だから頑張れる。いつ終わるかわからない旅だが、そのときまで頑張ることができるだろう。目の前に広がる舞いだけで。
心地よい気持ちになれた少年は、背後で騒ぐ声に手を握りしめる。
「お前らはいい加減にしろ!」
振り向いた先で、赤髪の少年とエルフの青年が言い合っていた。
「クスクス」
「イリティスも止めろよな!」
笑いながら見ている美しきエルフの女性。彼女が原因でこうなっているわけで、抗議するように少年は怒鳴る。
「楽しいんだもの」
「あのなぁ…」
なにが楽しいんだかわからないと絶句する少年すら、エルフの女性は楽しげに笑うだけ。
まともな奴はいないのかと問いかけたくなったのだが、ここには問いかける相手すらいない。頭が痛くなる問題だった。
(旅の仲間、間違えたよな。完全に…)
どうしてこうなったんだっけなと考えてみたが、半ば不可抗力だとため息しか出ない。
「ふふっ、楽しい方々ですわね」
ゆっくりと降りてくるセイレーンの女性が一人。騒ぎが筒抜けだったようだ。
「悪い、邪魔したか?」
つい先程まで舞っていた一人だろう。筒抜けということは、邪魔をしてしまったのかもしれない。
よく見てみれば、上空からは他のセイレーン達も見ている。
「気にしないでくださいな。お客様は珍しくて、わたくし達もお話してみたかったところですから」
微笑む女性は、集落へどうかと招いてきた。ゆっくり話がしたいからと。
「よっしゃー! 野宿しないで済むー!」
『シオン、シオン、お風呂入れるかな?』
「入れる入れる!」
時折、なぜこんな兄を持ったのかと真剣に考える。だが、彼は大切な兄なのだ。
どんなときでも、ずっと隣にいてくれる。自分の良き理解者で、自分を守ろうとする兄。
(俺も、そうでありたい)
なにがあっても、兄を理解して傍にいる。それが望みだった。
数日の滞在予定だった。それが長期滞在に変わったのは、探しているものがここにあると言うからだ。
「また舞ってるのか」
「あら、よくここがわかりましたわね」
南にある小島。このようなところに現れるとは、セイレーンの女性も思わなかった。
魔物が現れるからと、ここまで来る者はあまりいない。だからちょうどいい場所だった。一人で練習したり、考え事をするときは必ず来るのだ。
「飛んでくのが見えたからな」
「見てたんですの?」
色々言われるのが嫌で見られないように出てきたつもりだったのだが、気付かれていたことに驚く。
「魔物が怖くないのか?」
「怖いですわ。けれど、ここは海が見えて好きなんですの」
「へぇ」
少年にはよくわからなかったが、セイレーンの視線から見た魅力がある場所なのかもしれない。
しかし、どれだけ魅力的だと言われても危険が付きまとう。
「付き合ってやるから、一人で行くな。外は危ない…」
少年の言葉に柔らかく笑う女性。夕陽に照らされた女性は、とても美しくて見惚れた。
「ありがとうございます」
「あっ…いや……」
自分でもよくわからない気持ちに視線を逸らせば、ふわりと近寄る女性。
「あなた様に、女神様の加護がありますように」
少年の手を両手で包むように握り、額を合わせる。おそらく、セイレーンの中では当たり前な仕草なのだろう。
「女神様の加護か……」
「女神様は嫌いでしたか?」
「いや、そんなことはない」
不安げに見上げてきた女性に、少年は笑いかける。
嫌いではない。けれど、好きでもない。兄が好きなだけだと、本人は思っていた。
また夢を見た。けれど不快な夢ではない。ないのだが、どこか悲しくなる夢だった。
(悲しい内容じゃなかったが…)
胸が締め付けられる夢にクオンは戸惑う。なにか意味があるのではないかと。
(増えたな…)
今までと違い、あの夢には仲間がいた。二人旅の日々ではない、ということになる。
(たぶん、青髪の記憶なんだ…)
夢の後半には赤髪の兄がいなかった。今までは二人を見ているだけと思ったが、そうではないらしい。
(赤髪がシオンで、青髪がリオン。新しく出てきたエルフ二人で、一人がイリティス。セイレーンの…)
そこまで考えた瞬間、クオンの思考が止まった。こんな偶然があるわけないと。
(七英雄…バカな……)
なぜそんな夢を見ているのか。どんな意味があるというのか。
調べようと思った。学校で習った以外の真実が、でてくるかもしれないと。そうすれば、夢の謎は解けるかもしれない。
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