記憶の夢2
小さく紡がれる歌声に、クオンが目を覚ましたのは夕陽が射し込む頃だった。
ぼんやりと見上げれば、リーナが椅子に座って歌っている。
やってしまったと身体を起こし、夢も見ずに寝ていたのだと気付く。
「クオン、大丈夫?」
気付いたリーナが心配そうに見てくる。
「あぁ…わりぃ」
おそらく、彼女が色々とやってくれたのだろう。休みであるはずの幼馴染みは、私服ではなく騎士団の制服を着ているのがその証だ。
「最近、おかしいと思ったから見てたの。でも、いつまで経ってもクオンが見えなくて…」
城に近いオーヴァチュア家の屋敷。そこからなら、城へ向かって歩く姿が見えたのかと新しい発見をする。
その結果、彼女は自宅までやってきたのだ。また貸しができてしまったと思う。
騎士団のすべてを統括するのはセルティだ。リーナはすぐさま休みの変更という形をとった。
「代わりに明日、クオンが出ることになるけど…」
大丈夫かと言いたげな視線に頷いて答える。さすがに、次の日まで休むわけにはいかない。
「リーナも、なにか予定があったんじゃねぇか」
「ないから大丈夫」
腕を磨くぐらいしかやることはないとリーナは言う。
「はぁ…だから男できねぇんだよ」
「なっ…余計なお世話よ!」
そんなものはいらない。クオンの隣に立っていられれば、それだけでいいのだ。他のものはいらないぐらいに。
「せめて、料理ぐらいとかならいいのに、休みが鍛練で終わるとか」
「失礼ね! 料理ぐらいできるから!」
「へぇ、お前にできるのか」
「おにぎりぐらいなら…握れるわよ……たぶん」
徐々に声が小さくなるリーナに、クオンは声を上げて笑った。
「体調は?」
リーナが知る限り、クオンが体調を崩すことはなかった。それほど丈夫なのか、管理がしっかりしているのか、そのどちらかだろう。
だからこそ目の前で倒れた姿には驚いた。
「もう、なんともねぇよ。ゆっくり寝られたし」
「また、夢?」
不安げに見てくるから、最後のは失言だったと思う。
「寝られないほど、酷いの」
「あー…いや、そんなに酷いってわけじゃ…」
「嘘つかない」
視線を逸らした瞬間、リーナにバレて気付く。嘘をつくときの癖があるとはよく言われていたが、これだったのだと。
「どんな、夢見てるの? 今回も覚えてない?」
視線を戻せば、真剣な表情で見ている。誤魔化すことはできないな、とため息を吐く。
かなり迷惑をかけているだろうし、彼女なら話しても問題ないと思う。
魔物討伐のとき、夢はまったく記憶に残らなかった。ただ、幸せな夢を見ていたような、そんな気分だけが残っていたのだ。
「でも、気になってたんだよね」
「あー…なんか、なにかを思いださなきゃいけねぇって」
そんな気持ちになっただけと言う。だから夢を思いだそうとしていたのだ。
「匂袋借りて見なくなったけど、返してからまた見て…」
「だから返さなくてよかったのに!」
貸したというよりは、あげたつもりだった。リーナとしては返ってこなくても問題はない。
「酷くなったのは、国に戻ってからだ。赤髪と青髪の双子がでてくる夢」
バツが悪そうに視線を逸らして言う。匂袋に関しては効果もすごかったが、こうなると思わなかったというのも本音だ。
もう大丈夫だと思っていた。夢で苦しむ日が来るなんて、思いもしない。
淡々と話す夢の内容に、リーナの表情も険しくなる。
石を投げつけられる夢、化け物と罵られる夢。特に不快と思ったのは、小屋ごと丸焼きにした夢や火炙りにしたものだ。
「なにかを急かすみてぇに、酷くなってく…」
「急かすって」
どういう意味かとリーナは見たが、クオンもわからないのだから答えようもない。
「クオン…」
どこか遠くを見る姿に、リーナはぎゅっと手を握り締めた。
もっと早く聞いてあげればよかったと思ったのだ。異変を感じた時点で、すぐに動いていればよかったと。
こんな夢を見続けていれば精神的にもきつかったはず。夢の内容は、気分のいいものではない。
「もう少し寝てたら?」
あれだけでは足りてないだろう。倒れるほどなのだから。
「そう、だな…」
なによりも、彼らしくない。おとなしくしている姿など。
.




