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変化始まる

 魔物討伐を終えた月光騎士団と聖虹(せいこう)騎士団は、三日の休暇が与えられた。一ヶ月もの間、休みなしで働いた為だ。


 一日目を休息に使い、二日目はリーナとの約束であったクレープ屋へ。甘いのあるじゃないかと思ったのだが、リーナに押し付けられたさっぱりものを食べた。


 そして三日目を自宅で過ごす。彼にしてはとても珍しい行動だ。


「なんなんだ…」


 カーテンすら締め切った部屋の中、再び始まった夢に悩まされる。


 たったの数日で、以前より酷くなっていたのだ。


「あれは…夢…なのか…」


 本当に夢なのだろうか。そう思うほど生々しい夢だと思っていた。現実に思えるほどに。


「わからねぇ…」


 なぜこんな夢を見るのか。考えてみたがさっぱりだ。慣れない場所にいたからだと思ったが、帰宅しても見ている。


 リーナに匂袋を返したあとから、また夢を見るようになった。変わったことがあるとすれば、今までと違い夢の内容を覚えていることだろう。


 同じ夢を繰り返し見る。たったそれだけのこと。


「はぁ…」


 悪夢ではないし、困っているというわけでもない。生活に支障がでれば問題だが、夢を見るだけで日常には問題ないだろう。


 しばらくは騎士団での職務だ。魔物討伐のような内容は当分ないはず。


(匂袋借りるのもなぁ)


 心配はかけたくない。あれの効果はすごかったが、あれじゃなければいけないわけでもないと思う。


「身体を動かせば寝れるか」


 うだうだ考えるのは自分らしくない。剣でも握っていれば夢も気にならないだろうと考える辺り、彼も単純だったりする。


 剣を持って向かった先は流星騎士団の元。クロエに相手してもらおうと思ったのだ。


「お前な…俺は職務中なんだよ」


 向かってみれば、訓練を見ている最中だったよう。


 好都合と声をかけたのだが、呆れたように見られて苦笑い。そこまで考えてはいなかったのだ。


「そっちに混ざるならいいぞ」


「んー…しょうがねぇか」


 訓練に混ざるならいいと言われ、仕方ないと渋々納得する。とにかく身体が動かしたかったので、この際文句は言えないと思ったのだ。


「クロエ様、いかがでしょうか。クオン殿と勝ち抜き戦などやってみては」


 そこに流星騎士団の副官が提案する。他の騎士達にとっても刺激になっていいはずだと。


「俺はいいぜ。そっちの方が面白そうだ!」


 乗ったとやる気に溢れたクオンに、それならやるかとクロエが了承する。





 やれやれと叫ぶ騎士達。クオンを打ち負かすため、流星騎士団の騎士達が挑み返り討ちにあう。


「思っていた以上に、効果があったな」


「はい」


 燃える部下を見ながらクロエは笑うしかない。これほどの効果になるとは、さすがに思っていなかったのだ。


「若手の出世頭ですからね。うちの騎士団には人気があるんです」


 含むような言い方に、苦笑いへと変わる。それはクロエを含むのだとわかったから。


 今はクオンだけが目立っているが、クロエが騎士になったときは当然ながら彼が目立っていた。


 団長になったのは二十歳だが、これも十分に若い。クオンが団長になるまでは、史上最年少と言われていたのも事実。


 だからこそ、誰よりもクオンの苦労はわかる。自分より若いのだからもっと大変だろうということも。


 さすがに騎士団の内部が分裂したり、辞めたなんてことはなかったのだが、クロエもそれなりに反感は買った。


「ツヴェルフには感謝してる」


 乗り越えられたのは、副官ツヴェルフ・グラネーデのお陰だと思っている。


 当時は小隊長だった彼が、若い団長を支える存在となっていた。


「クロエ様の役に立てたなら、なによりです」


 十近くも歳が離れているが、彼は家柄や若さなどでクロエを判断しない。普通の騎士だったときから、いつか上がってくると思っていた。


「もうしばらくは、俺のために役立ってもらいたいな」


「頑張りましょう」


 笑いながら言うから、ツヴェルフも笑いながら返す。


 おそらく、エラのことを言いたいのだ。今のクロエが困っているのは、彼女のことだけだから。


「さて、そろそろ俺の出番だな」


 次から次へと負けていく姿に、クロエが槍を手にする。


 いい加減、見ているだけに飽きていた。自分も動きたいのを我慢していたのだ。


「ほどほどにしてあげてくださいね。一応、遠征帰りですし」


 言うだけ無駄だろうとわかりつつ、ツヴェルフが言う。二人の関係は一年しか見ていなくてもわかるものだ。


 年齢差なんて関係ない。対等の関係を築く二人。そんな二人が少し羨ましくもなる。そのような関係を築けることが。


「俺があいつを前に、ほどほどなんてできると思うか?」


「やっぱり…」


 フッと笑う団長を前に、ツヴェルフも笑いながら送り出す。


 ここまで耐えただけでも十分だろう。弟みたいな存在であるクオンをいじめるのが、彼はなによりも好きなのだから。






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