魔物討伐4
神経を張り詰め、魔物をひたすら討つ日々。解放されたその場は大いに賑わっていた。
お酒も入り、さすがに付き合いきれないとバルコニーへ逃げ出したクオン。
「やっぱり、ここにいた。いるでしょ」
お皿に乗ったものを見た瞬間、クオンの瞳が輝く。
「チョコじゃん」
「セルティ様がくれたの。私達、お酒飲めないじゃん」
バルスデ王国では十八になるまでお酒は飲めない。二人とも十七で、あと一年は宴に参加してもジュースのみとなる。
騎士団を束ねる者という肩書きである以上、参加することは何度かあった。その都度、二人はジュースを片手に眺めているだけだったのだ。
「さすが、セルティ様だな」
「でしょ」
しかし、お酒よりこっちがいいとクオンは口の中へ放り込む。
どれだけ甘いものが好きなのか。よく言われることだが、好きなものは好きなのだからいいではないかと思う。
「そうだ、これ返さねぇとな」
懐から取り出した匂袋に、リーナは笑った。わざわざ持ってきたのかと。
「別にいいのに」
「十分助かった」
これを借りてから夢を見ることはなくなった。あのまま続いていたら、さすがに疲れがとれずに苦労したかもしれない。
「そう? また続くようだったら、貸してあげようか」
「もう勘弁だ…」
さすがにないと思いたかった。今まではなかったのだし、慣れない場所でこうなっただけだろう。
「クスクス」
うんざりとした表情に、リーナは笑いながらチョコを食べる。
「これ、甘すぎない?」
「いらねぇなら、俺が全部食う」
「食べるわよ!」
せっかくもらったのだからとリーナがムキになれば、二人は同時に笑う。
「もうすぐ帰れるな」
「そうね」
二人が参加する遠征は、この魔物討伐が初めて。
おそらく団長になってから、月光騎士団は様子見されていたのだろう。近場の魔物討伐はしたことがあるが、遠出はなかった。
「シリトルのパイが食いてぇ」
「そっち!?」
家が恋しいとかじゃないのか。突っ込みたくなったが、言えばお前だろと言われそうでやめる。
「あれはさ、やっぱ五日に一回は必要だ」
「……」
「な、なんだよ」
冷ややかな視線を向けられ、クオンが一歩引く。
「別に…」
まさか、五日に一回食べていたとは思わなかっただけ。それなりに多忙なわけで、いつ買いに行っていたのかと思ったのだ。
「欲しいなら、次からは買って来てやるけど」
「いりません。私は誰かさんみたいに、甘いものが主食じゃないの」
幼馴染みから見ても、クオンの主食は甘いものではないのかと思えた。
そんなことないと言いながら視線を逸らすから、説得力はない。クオンは嘘をついたり、困ったときには視線を逸らす癖があるのだ。
「まぁ、いいわ。クレープ忘れなければ」
「わかって……流れ星」
空を見たまま固まる姿に、またかとリーナも見上げる。そして、そのまま同じように固まった。
「すごい…」
今回は本当だったのだ。光が無数に流れていく夜空に、きれいだと思う。
「流れ星って、ほとんど見られないんだよね。そう聞いたんだけど」
なぜかはわからないが、流れ星が観測されたことはほとんどない。だからか、見られると幸運だとも言われていた。
なにが幸運なのかと思っていたが、実際に見るとそうかもしれないと思う。
こんなにきれいなものが、一生に一度見られるかどうかならと。
しばらく流れ星を見ていたリーナは、そこでクオンからまったく反応がないことに気付く。
「クオン?」
どうしたのかと見てリーナは息を呑む。
(きれい…)
見慣れた幼馴染み。けれど、月明かりで見る姿が別人に見えた。
「不吉だな…」
「えっ…」
「あの流れ星、不吉な感じがする」
急になにを言い出すのかと空を見る。リーナにはきれいな流れ星にしか見えないのだ。
「いや、気にすんな」
「でも…」
気にするなと言われても、さすがに気になる。問い詰めてやろうと思った瞬間、残っていたチョコを食べた。
「あぁー! それ私の!」
「油断してるのがわりぃんだよ! バーカ!」
そのまま室内に戻っていくクオンに、リーナの怒声が響いたのは言うまでもない。
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