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ガールズ in ゾンビランド~JK2人の終末くらし~  作者: 一二三 零


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23/23

★ストリップクラブは避けろ

好きなWeb小説が久しぶりに投稿されたので私も祝い投稿です

 人類は絶望の縁へ追い詰められていた。前例のないパンデミックが発生。政府は囲い込みを行おうとしたが、失敗。感染者はねずみ算的に増えていき、地上を闊歩するのは生者よりも亡者の方が多くなってしまった。

 つまらないテレビや、同僚たちとの気の抜けた会話はもはや遠い。ひたすらに追い込まれるような訓練の日々も遥か遠くにあり、いまあるのは終わりまであと数歩という、ひりつく現実だけだった。

 こんなはずではなかった、というのはきっといまだ息をする誰もが思っていることだろう。

 特に、田辺たち自衛官はことさらだった。

 ──こんなはずではなかった。

 田辺が自衛官となったのには高尚な理由があるわけではない。実家が貧しく、進学をするにも難しいために、学びながらも給料の出る自衛官を志したというだけだった。しかし、厳しくつらい訓練を乗り越えていくうちに、反射的に出る行動の指針や心の動きは画一的に整えられていく。もちろん、個性をまったく失うというわけではなく、朱に交われば赤くなるといういったことに近い。

 だから、未曾有の危機に対して、はじめのうちはどうにかできるのではと思っていたのだ。頭によぎる最悪を想像して顔を青くしながら、しかしそうはならないだろうと思っていた。

 しかし、そんなことはなかった。現実というものはありえないほど複雑で、そして人々は愚かだった。

 感染者の鎮圧の初期には、殺傷力のある武器の使用が禁止されていた。しかしそれは感染者を増やすこととなった。当然、銃などの携帯も議論されたが──国民の目を怖がった上がその許可を出さなかった。ようやく許可が出た頃にはもう遅く──街には感染者たちが溢れかえった。

 その後も、非感染者を感染者と誤認して射殺、正常な者しかいなかったはずのシェルター内で感染者の発生、指示系統の崩壊……ドミノ倒しのように問題が次々と起こり、もうどうしようもないところまで来てしまった。

 しかし、そんな中でも希望というものがあった。まだかろうじて上が機能していた時の最後の指示。ある人間を護送せよ、というものだった。

 曰く、その人間はこの地獄を終わらせる鍵を持っているらしい。

 ──月宮つきみや華子はなこ

 人類の最後の希望。今、この世界でもっとも価値の高い人間。

 ウィルスの研究員だという。今回の件の原因だろうと言われているウィルスによく似たものの研究をしていて、学会への出席のために都心へ出てきたのだという。初期の頃に政府に協力を申し出てシェルター内で研究を進めていた。ウィルスの感染経路や発病までの期間。発病後の感染者の挙動など。ワクチン開発まで手を伸ばしていたが、それが形になる前にシェルター内部で集団感染が発生。彼女はどうにか安全に脱出したが、彼女を守る盾がなくなってしまったという。

 そこで白羽の矢が立ったのが、田辺たちの班だった。

 田辺たちの班は奇跡的に無傷だった。上に指示を仰いで、繋がった無線が月宮華子を守るようにと伝えた。

 そうして待ち合わせ場所に、彼女はいた。

 想像していたよりも、ずっと平凡そうな女だった。常時スポットライトが当たっているようなカリスマや、あるいは〝研究者〟らしく癖のある人間を想像していた。しかし実際の彼女は、小綺麗だが特別目立つところがない女、という感じだった。

「ひゅうっ」

 隣りにいた先輩が小さく口笛を吹いた。にしし、と無駄に白く整えられた歯を見せて笑う。彼の自慢は矯正してホワイトニングされた歯だった。そして彼は、地味な女がタイプだった。月宮は地味というのとは少し外れている気もするけれど。

 容姿は悪はないが、目を引くほどではない。クラスで三番目くらいにかわいい子、くらいだろうか。受け答えも、なるほど彼女は頭がいいのだろうと思える理路整然としたもので、多少シンプルすぎるきらいもあったが、悪くはなかった。長広舌で不要な言葉を言う輩よりはよっぽどマシだ。どことなく疲れているように見えるのは、この世界だからだろう。

 拍子抜けだったものの、上からの命令は絶対だ。田辺たちは彼女を守りながら、彼女の勤務先だという研究所を目指した。そこへ行けば、この地獄を終わらせられるかもしれないという。


 彼女を守りながらの仕事は、思ったほど悪くはなかった。

 行く先、行く先で現れる感染者──もはや息をしていない腐りかけの死体だが──たちにはうんざりとしたが、目的・・のある仕事というのはいい。特に、それが現状を打破できる希望があるものは。

 以前はなにをやっても「でもどうせ、いつかはオレも、ああ(・・)なる」という思いが拭えなかった。今日をしのいでも明日は、明日をしのいでもその先は。徐々にその色を濃くする闇の中を進んでいくようだった。だが今の自分たちには光がある。たよりなく小さな光だが、深い闇ではまばゆいばかりのものだった。

 旅の途中で、班員たちはぽろぽろと欠けていった。ひとりは物陰に潜んでいた感染者に噛まれて。ひとりは逃げる途中で囮になって。ひとりは夜警の際に襲われて。

 櫛の歯が欠けるようにしてぽろりぽろりと消えていった。

 途中、彼女が体調を崩して民間のグループと合流したことがあった。熱が下がった後も、彼女はその場に留まった。そして研究のためにと田辺たちに指示を出して感染者を捕まえさせた。

 彼女は感染者の研究をした。といっても専門的な設備が揃っていたわけではない。それでもできることをやっていただけだ。

 感染者やつらは死んでいるはずなのに、どうやって体を動かしているのか。生存者を知覚しているのか、弱点はなにか。

 その研究に顔をしかめるメンバーもいた。だが多くが理解を示していた。敵を知ることはなによりも大切だ。それが非人道的なものであったとしても。

 その考えは通常時であれば非難されただろう。特に潔白が求められる立場の田辺たちには。だが、今はそんな批判ができる者たちはいなかった。

 発見の中には、知っているものもあれば、知らないものもあった。

 彼らには痛覚がない。知っている。彼らにはほとんど記憶がない。知っている。しかし生前の行動を反復することはある。知っている。彼らを止めるには脳を破壊するしかない。知っている。具体的には、脳幹を。……知らない。彼らは個々では脅威ではないが、集団になると、全体がまるでひとつの(・・・・)生物・・のように連携して行動することがある。──知らない。

 月宮は田辺たちにも分かるように理屈を説明してくれたが、実際に理解したのはその三割にも満たないだろう。しかし大まかな概要は理解した。

 彼らは死んでいる。しかし呻き、歩き、生物を食べる。たしかに心臓は動いていない。しかし彼らはそう(・・)なのだ。

 それに疑問を持たなかったかと言うと嘘である。しかし、日々の困難の中でそれらの理屈は押し流されて、彼らと対抗するのであればどうすればよいかというようなより実践的な内容ばかりを求めるようになった。

 月宮が行ったのは、原点の疑問への回帰だ。

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 彼女がいわく、感染者の体は確かに死んでいる。心臓の停止、呼吸の停止、瞳孔の散大。そのすべてをそなえている。しかし、完全に体の機能を止めたわけではないという。

 脳の大半は壊死している。だが脳幹を中心とした一部の部位が生きている。そのために歩くことも、人を襲うこともできるという。

 実際には医学的にどう考えてもおかしい動きをしているところもあると言っていたが、しかし設備が十分ではないためにそれ以上を調べることはできないという。

 田辺はそれでも、分からなかったことになんとなく理屈がついたような気がしてほっとした。

 そして、もうひとつ。〝感染者の集団がまるでひとつの生き物のように連携する〟ということについて。

 そちらは月宮の研究の成果というより、たまたま発見された感染者たちの特性だった。

 広い空間に感染者たちが一定間隔をおいて点々と存在するとして、生存者がその端の感染者に気づかれたとする。普通ならば、生存者に気づいた端の感染者から反応を示すだろう。そして順々に反応が伝播していくのが本来の動きのはずだ。しかし、そうはならなかった。

 生存者に気づいた感染者とは遠く離れた感染者──生存者から視認できない程度の距離は離れている──も気づくのだ。くるり、と一斉に顔を向けてくるさまは、恐怖ですらある。そして奴らは生存者に襲いかかってくる。まるで感染者の集団自体がひとつの生き物のように。

 この反応は、以前はなかったように思う。だが奴らはいつの間にか獲得していた。

 それは脅威だった。一体一体は注意さえすればたやすく対処ができる感染者たちだが、数が増えればその限りではない。奴らには脳が破壊されるという弱点以外はないにもかかわらず、こちらは奴らにひと噛みでもされればおしまいなのだ。


 民間人が作ったものとはいえ、決まった拠点を持っての生活は思った以上に快適だった。

 日が落ちきる前にその日に休む場所を探し、一晩中警戒しながら眠る必要はないし、新しい場所で常に気を張っている必要もない。

 もちろん拠点でも寝ずの番はあるが、それは交代制で余裕がある。

 しかし平穏な時間というのは長く続きはしない。

 その日は月宮も田辺たちと共に外へ出ていた。月宮は田辺たちが捕まえた感染者では足りず、実際に観察したいと言ったのだ。本来ならばそこまで危険のある行動ではないはずだった。拠点の周囲の感染者は、見つけ次第に対処していた。しかしその日、共に行動していた民間人が開けた車のガレージの中に数十人の感染者が隠れていて──田辺たちは拠点に戻ることができずに逃走することとなった。

 結局、逃走の末に班員をふたり亡くした。それでも拠点に戻ろうとすれば戻れた。しかしそうしなかったのは、共に行動していた民間人のひとりが「こんなはずでは」と取り乱した言葉を聞いたからだった。

 あのガレージを開けたのは、あそこに大量の食料が眠っているかもしれないと聞いたからだという。ガレージの元所有者が世界がこう変わる前に缶詰やらなにやらを溜め込んでいたらしい。元所有者はすでに死んでいるから──顔見知りが介錯をした──、財産・・は生きている人間がもらってもいいだろうと、拠点のリーダーに言われたという。

 もちろん、なにもかもがうまく行くわけではない。善意の行動が首を絞めたり、逆に悪意ある行動がひとを救うこともある。だからこの結末も、不幸な事故だった、ということかもしれない。しかし、そう簡単に頷けない程度に不審の芽があった。今思い返せば、そういえば、と思う程度のことではあるが。

 あそこには必要なものがあるはず、と向かった先に感染者の集団がいたことが何度かあった。拠点のためになる提案をしたのに、妙に渋られることがあった。重火器を物欲しげな目で見ていなかったか?

 結局、田辺たちは安全を取った。月宮のそろそろ目的地へ向けて移動を開始したいという願いもあり、再びその日暮らしの生活に戻った。


 その店に逃げ込んだ時、メンバーは三人だった。田辺とその先輩、そして月宮。班のメンバーは少しずつ欠けていき、三日前にまたひとり失った。

 携帯していた銃は弾をすべて打ち切ってただの重い鉄の塊になってしまった。間合いの狭いナイフでは複数体に襲われた際にかなり不利だ。目的地まで直線距離であればそれほど時間がかからないはずだったが、感染者の集団を避けるようにしているせいで、ずいぶんと遠回りをすることになった。

 その頃になると、田辺たちは希望に酔えなくなっていた。あれほど己が世界を変えるのだという使命感に燃えていたのに、班のメンバーが欠けていくうちにそれは削り落とされていき、いつの間にか諦念が胸を占めるようになっていた。

 どうせ、彼女を送り届けても未来はない。彼女は約束された〝希望〟ではなくて、あくまで〝かもしれない〟だけなのだ。そもそも五体満足で送り届けられるかも怪しい。以前と比べて脱落者が出る間隔が短くなっている。いつ自分が〝次〟になるかも分からない。

 しかしそれでも田辺を動かしたのは惰性のようなものだった。今ここで諦めれば、今まで失われてきたものがすべて無駄になってしまう。それだけは許せなかった。

 感染者たちの足音が消えて、田辺たちはやっと息をついた。そして改めて自分たちが逃げ込んだ店を見て、驚きの声を上げた。

「──ここ、は……」

 酒が用意されているバーの横に、一段高くなった小さな舞台がある。そしてその舞台の中心にポールが一本通っていた。

 しばしあれはなんだろうと頭を悩ませていたら、隣りにいた先輩がぽつりと呟いた。

「ストリップバー……か?」

 そう言われてみれば、海外の映画やドラマで見たことがあるような気がする。あのポールを使って下着姿の女が踊るのだ。よく分かったなと少しばかり先輩に引く。彼は班の中でひときわガタイが良く、明るい好青年なのだが、少し癖が強い。

 田辺は改めて舞台を見た。ストリップバーは日本では一般的ではない。都会のどこかにならば物珍しいものとしてありそうだが、ここはかなりの田舎だ。この店のオーナーはかなりのもの好きだったのだろう。


 ◆


 なにがどうして、こうなっている。

「ぎゃははっ!」

 下品な笑い声が三人しかいない店内に響く。

 気分が高揚して、べつにたいして面白くもないのに口元が笑ってしまう。不安も不満も頭の隅に押しやられて、ただただ愉快さだけが今目の前にあった。──田辺たちはできあがっていた。

 まず、酒があったのがいけない。

 常に気を張っていなければならない場所から一時的に避難して、安全な室内で気が緩んだ。やれやれ、しばらくここで休憩するかと店内に目を向けて、バーの中にある数々の酒に気がついた。中には名前だけ知っていて飲んだことのない高級なものもあった。今は任務中だ。少なくとも目的地につくまでは完全に無防備な状態を作るわけにはいけない。誘惑に負けてはならない──そう思うのに、月宮が「少しだけ、飲みません?」と控えめに微笑んで。──気づけば田辺たちはベロベロに酔っていた。

 酒の種類はさまざまにあった。棚の中にはツマミ替わりのドライフルーツやナッツ類なども。田辺たちはお高い酒を次々に開け、お高いだけあって美味い酒にますます酔いを深めた。

「あっは、俺、なんか楽しくなってきたっ!」

 そう言って、先輩が立ち上がった。がばりと上着を脱ぐとあっという間に上半身裸となった。いくら室内といっても今は冬だ。しかし酒の力なのか、先輩はまったく寒さを感じていないようだった。

 田辺はちらりと隣に座る唯一の女性──月宮を見た。彼女は嫌悪に顔をしかめるどころか、面白がる様子で笑っていた。気分を害していたらどうしようと思ってが──どうやらここは笑ってもいいところらしい。田辺はやんやと先輩を囃し立てた。

 先輩は気分をさらに上げたようで、おもむろに舞台に上がるとポールを使って踊り始めた。といっても素人がそれっぽく体をくねらせているだけだ。妖艶というより滑稽と呼ぶのが正しく、田辺と月宮はゲラゲラと笑った。

 先輩が舞台の上で珍妙なカタツムリのような踊りを披露していると、突如ムーディーな曲がかかりはじめた。月宮がレコードをかけたらしい。正常な思考であれば、奴らを呼び寄せる大きな音なんてとんでもないとレコードをかけようとすら思わなかっただろう。しかし運がいいことに、あるいはこういう店なので当たり前かもしれないけれど、防音だった。

 同時に意外だと思った。彼女はこういう悪ノリができるタイプだとは思わなかった。はじめて知った。

「あはははっ」

 音楽があると先輩の変な踊りが少しだけマシなものに見えてきた。

 月宮も面白そうに笑っている。

「おい、田辺ぇ! オマエも、こっちこいっ!」

 先輩が、ケラケラと笑っている田辺を手招く。白い歯がきらりと光った。「えぇ~」渋る声を上げているが、先輩にそんなものは関係ない。「来いよ!」また呼ばれる。

「……行ってきたらどう?」

 月宮も面白がるように田辺を見た。彼女にそう言われると弱い。彼女は護衛対象ではあるが、顔もそこまで悪くはないのだ。男の性で笑ってほしいと思ってしまう。「来いよ!」舞台上で先輩がまた呼ぶ。

「も~、わかりましたよぉ!」

 口だけは嫌がりながらも、田辺は軽い足取りで舞台に上がった。「よく来たな!」と先輩に頭を撫でられ、そのまま服を脱がされた。そうして珍妙なカタツムリの横に、珍妙なチンアナゴが追加された。

 ぎゃはぎゃはと笑う。馬鹿なことをしている。しかし、楽しい。

 田辺と先輩、そして月宮は、夜が更けるまで楽しく飲んで笑って、踊った。


 そして、翌日。

「────は?」

 田辺は、瓶やら缶やらつまみの袋やらが散乱した、しかし自分以外の人の気配がしない室内で目を覚ました。抱きしめていた酒瓶がぬるく己の体温を移していて、それが嫌に気持ちが悪かった。


次は年内には投稿したいです。

よければ、読んだぜのスタンプをください(オラに力を・・・)

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