第10話「泣いた子鬼と黄泉還り」
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前回のあらすじ。
壱子たちは腑分け、つまり解剖を見に忌部省に向かっています。
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延々と続くかと思われた鳥居の列は思いのほか早く途切れ、申し訳程度に整備された山道に姿を変えた。
それは奇妙な道案内だった。
案内役と目された白装束の子供たちは、壱子たちの後ろからただ着いて歩くだけで、先導してくれはしないのだ。
しかし、ただ付いて来るだけなのかというと、そんなこともなく、分岐路で壱子が道を違えそうになると黙って立ち止まる。
つまり、やんわりと間違いを正すのだ。
一度だけ、それを壱子が「お主らが先に言ったほうが効率的ではないか?」と抗議してたのだが、それでも子供たちは黙って、先に進むよう促すだけだった。
うんざりしながら先に進んだ壱子たちは、やがて注連の張られた禍々しい黒門の前にたどり着く。
黒門の塗装はところどころ浮き上がり、一部はカビが生えたり、腐敗したりしている。
奥には切り立った崖があり、岩肌がむき出しになっていた。
もの寂しい光景に、壱子は形の良い眉を寄せて首を傾げる。
「ここが忌部省か?」
壱子が振り返って尋ねると、子供たちは同時にうなずく。
が、なおも無言である。
「もう少し……愛想を良くしてくれてもいいと思うが」
「……」
「話をするのにも融通を利かせねばならぬのか……菓子でも持ってくればよかった」
思わず壱子が愚痴をこぼすと、突然、黒門が内側から開かれた。
完全に気を抜いていた壱子は飛び上がり、そばにいた平間の脚にすがりついた。
門の奥には、曲がりくねった細い道がずっと続いていて、沿道にはぽつぽつと建物が置かれているのが見える。
しかし、平間の注意を引いたのはそんなことではない。
開け放たれた門の先で待ち構えていた男の姿が、奇妙だったのだ。
「この世の楽園へようこそお姫さん方! 首を長くして待っていたぞ」
男は笑顔で言うが、声を掛けられた壱子は目を丸くして答えない。
しかし、もし平間が同じ立場であっても、壱子と同様の反応しか出来なかっただろう。
壱子たちが何も言わないのを見て、男はそれを予知していたかのように饒舌に続けた。
「おーっと、これは笑うところだ。面白いだろ、このナリで首を長くすれば人間並みになれるかも、ってな」
平間も壱子も、そして紬も、どう返答すべきか、考えあぐねていた。
端的に言うと、男は小さい。
男の身長はおおよそ|四尺半《百三十五センチメートル》ほどで、小柄だと言ってはばからない壱子よりも小さい。
かと言って顔立ちは大人のそれで、指は太く、眉弓は厚ぼったく、実年齢は三十代か四十代に見える。
彼がいわゆる小人症というものだと平間が気付くのに、そう長い時間は必要なかった。
男の頭は綺麗に剃髪されていて、その服装は仏門に入っている者がよく身にまとっているものだった。
しかし衣服が小奇麗な一方で、野放図に伸ばされた髭はボサボサとしてだらしがなく、身なりに統一感がない。
いわば「無理やり着せられている」かのような違和感があるのだ。
なおも誰も返事をしないのを見かねてか、男は困ったように、しかし何処か楽しげに再び口を開く。
「勘弁してくれよ、アンタらまで舌を抜かれちまったのか」
「私達まで……とは?」
「その二人だ。そいつらは昔、親にやらされていた詐欺でとっ捕まってな。罰として舌を抜かれた」
男が目配せすると、子供たちは同時に口を開ける。
たしかに、そこにはあるべき舌が無い。
平間は思わず顔をこわばらせる。
「な、楽しいところだろ、ここは」
いつの間にかすぐ近くにいた男が、平間を見上げて笑う。
「俺は忌部省統監の脛折。脛折臣だ。付いて来いよ、案内するぜ」
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黒門をくぐり、壱子たちは細い道を進んでいく。
意外にも下草は丁寧に刈り取ってあり、歩きにくさは感じない。
先を行く脛折は、早口で話し始める。
「遠路はるばるご足労願って申し訳ない。ここはあらゆる点で素晴らしいところだが、唯一、立地だけが最悪でね。その格好じゃ歩きにくかったろう? お姫様」
「そんなことはない」
「そうかい? なら良かった。だが、あいつらの道案内は分かりづらかったろう。異様に無口だからな。まあその分、俺が無意味にたくさん話すようにしている。世の中分業が大事だとつくづく思うよ。これが人類を進歩させた一大要因だろうな」
「……返答に困るのじゃが」
「それは失礼。しかし生憎だが、俺はあんたのような貴族のお姫様を楽しませる話題、例えば詩や花や琴なんかの引き出しは持っていなくてね。いやはや、無教養で申し訳ない限りだ」
「ふむ、ならばどんな引き出しをお持ちなのかな」
「そうだな……例えば忌部省が普段何をする場所なのかとか、あいつら……道案内のガキどもの身の上話とか、俺がどうしてこんな愉快な体つきをしているのか、とか……お好みはあるかい?」
「では、なぜ子供らは私達の前を歩かなかったのじゃ?」
「無視か。まあ良い、慣れっこだからな」
脛折は後ろに視線を向ける。
道案内をした二人の子供は、今もまだ平間たちのあとに付いて歩いていた
「なぜあいつらが前を歩かなかったのか、理由は単純明快だ。あいつらは穢れていて、あんたらはそうじゃないからだ」
「……それはあの子らが以前、罪を犯したからか?」
「違う。罪の穢れは罰を受けることで綺麗さっぱり拭い取られている。お上はとてもお優しい。盗みを働いた人間は普通なら縛り首だが、あいつらは子供だったから”商売道具”の舌だけで済んだ」
「ではなぜ、彼らが穢れていると?」
「それも単純明快だ。ここが忌部で、あいつらも忌部だからだ。死体を触る人間は、死体と同様に穢れている。だから、穢れていない人間の前を歩くことが出来ない」
「……悪習ではないか」
「確かに面倒だ。ちなみに俺も忌部だが、ご覧の通り僧籍に入っていてね。よく分からんが、清浄と不浄が中和されているから、こうしてあんたらの前に立って歩くことができている」
脛折は目尻のしわを深くして、手を広げてみせる。
まるで道化師のようだ、と平間は感じる。
それを無視して、壱子は平坦に尋ねた。
「彼らの名は?」
「阿と吽だ。俺が付けた。双子らしいからな、洒落ているだろ」
「ならば、本当の名はなんという?」
「……イヤにこだわるな。気に入ったか? だがあいつらは浄嵐神社の外には出られない。お持ち帰りは出来ないぜ」
「そうではない。道案内の礼がまだ済んでおらぬ。しかし名を知らぬでは、礼も出来ぬじゃろう」
「律儀だね。そういう人間は大好きだぜ」
「はぐらかさないで頂きたい」
「本心さ、間違いなく。ただ正直なところ、俺もあいつらの本当の名を知らないんだ。俺が会った時にはもう舌を抜かれていたし、あいつらは字を書けない」
「……」
「それに何より、本当の名なんて興味も意味も無いからな。ここではあいつらの名は阿で、吽だ。郷に入ればと言うだろう。過去を詮索するのは一周回って無礼だぜ、お姫さん」
そう言って、脛折は眉を片方だけ吊り上げてみせる。
おどけた仕草だが、そこにはえも言われぬ真剣味があった。
しばしの沈黙を経て、壱子が頭を下げる。
「そうか……そうじゃな。済まなかった」
「は? んん? イヤに素直だな。あんた偽物か?」
「何を言う。私は正真正銘、佐田玄風が娘・壱子じゃ。もし疑わしいのなら、守刀の家紋も見せようか」
「そういう意味じゃない。褒めているんだ。貴族ってのは俺にたしなめられたら、決まって嫌な顔をするもんだ。素直に詫びるような変な奴は、一人とていなかった」
「……変で悪かったな」
「だから褒めているんだよ。変ってことは良いことだぜ。賛否両論あるかも知れないが、少なくとも俺はそう思っている。だから例え、大貴族のわがまま娘がお忍びで腑分けに顔を出そうが、従者が主のお姫様に横恋慕しようが、一向に構わない。むしろ応援したいとさえ持っているくらいだ」
「それこそ生憎じゃが、平間はびっくりするほどの朴念仁でな。私の最大限の誘惑(※)を持ってしても、一向に行動に移そうとせぬ」
(※:膝に乗る、手をつなぐ、お菓子を食べさせてあげる、等の行為を指す。)
壱子はため息混じりに言うが、脛折は眉間を歪ませて首を傾げる。
「何の話かわからないが、着いたぞ」
「……ここが?」
足を止めた脛折に、壱子が怪訝な顔をして尋ねる。
そこには、道の脇にポッカリと口を開ける洞穴があった。
洞穴は坑道のように板が敷かれていて、入り口には黒門と同じく注連縄が張られている。
壱子の問いかけを背中で受けながら、脛折は洞穴へ向けて歩いていく。
「死体は地上に置いてはいけない。彼岸と此岸の境界が曖昧になってしまうからだ。ゆえに忌部でも、死体は黄泉に置く習慣になっている」
「つまり、腑分けもその洞窟の中でやるのか?」
「そういうことだ。こう見えてなかなか快適だぞ。夏は涼しいし、冬はそんなに寒くない。特に夏場は足が早くなるから、かなり助かっている。古い死体の匂いはまあ酷くてな、一度嗅いでみるといい。刺激的だぜ。ああそれと、言い忘れていたが先客がいるぞ」
「先客? 死んだ射月のことか?」
「柔軟な考え方はぜひ育んでいくべきだと思うが、今回は的外れだ」
「むぅ……だったら誰じゃ。私の知っている人間か?」
「それは知らん。腑分けにぜひ立ち会いたいと言われてな。こちらも断る理由が無いから、ご招待申し上げた。なんでも、死体の親族だとか」
「親族? 平間、そんな話あったか?」
「いや、記憶に無い」
平間が首を振ると、壱子は残念そうに鼻を鳴らす。
それを見て、脛折が口を開く。
「とりあえず会ってみたらどうだ。あんたほど立派なご身分なら、誰が来ても身構えることも無いだろ」
「それもそうじゃな」
「……嫌味のつもりだったんだが」
「知っておるよ」
涼しい顔で答える壱子に、脛折は心底嬉しそうに顔を歪ませた。
そしてそのまま、洞穴の奥へ歩を進めていく。
分岐路を三つ過ぎると、突き当りに小部屋が現れた。
広さはおおよそ平間の家と同じくらいだが、もちろん壁は岩だし、光も乏しいのでかなりの圧迫感がある。
部屋の中央には長さ二尺《約六十センチメートル》ほどの直方体の材木が等間隔に整然と敷かれていて、壁には燭台が打ち付けられていた。
「阿、下の連中に準備を済ませるように伝えろ」
脛折が言うと、阿は黙ってうなずく。
「よし。吽は道具を持ってこい。場所は分かるか?」
吽もうなずくと、脛折は目を細める。
「ならば行け。阿は足元に気をつけろ。ゴツゴツしているからな。吽は道具が重いかも知れん。もし無理なら適当な奴に手伝ってもらえ。いいな?」
二人は再びうなずき、足早に部屋の外へ消えていく。
その後ろ姿を見送った脛折に、壱子が声をかけた。
「案外優しいのじゃな」
「そりゃそうだ。文字通り『同じ穴の狢』だからな。俺はあいつらのことを愛している」
おどけて言う脛折に、壱子は不信感たっぷりの視線を向ける。
脛折は肩をすくめて、思い出したように言った。
「そういえば、もう一人の見学者の紹介をしよう。こっちに来いよ」
脛折が言うと、小部屋の奥の暗がりから人影がひとつ現れる。
見覚えのあるその顔は、以前宴の席で見知った少年だった。
たしか詩織の従者をしていて、水臥小路と壱子が言い争っていた際、一矢放って処刑台の縄を切った、あの少年だ。
少年は壱子に片膝をついて礼をすると、視線を落としたまま口を開く。
「松月と申します。普段は水臥小路家の一姫・詩織様にお仕えしています。以後お見知りおきを」
明瞭に話す少年・松月は、どうやら壱子をしっかりと認識しているようだった。
松月の顔つきは平間から見ても整っていて、美少年と言っても過言ではないだろう。
宴で見せた弓の腕はかなりのものだったが、歳の頃はまだ十五ほどと、平間より年少に見える。
あと五年もすれば、立派な若者に成長することは確実だと思われた。
松月の物腰は低く、貴人に対するそれそのものだったが、対する壱子は警戒感をあらわにする。
「よろしく、松月。これは詩織殿による監視、という理解でよろしいかな」
「それについては、私は意見する立場にはありません。私はただ、詩織様に『忌部に行け』と仰せつかったまでです」
「……なるほど。で、他に用件は?」
「ございません」
「そうか」
壱子は業務的な応答を済ませると、松月から視線を外す。
と、松月が早口で言う。
「しかし、個人的にお伝えしたいことならございます。お許しいただけますか」
「ん、ああ。無論じゃ。聞こう」
「ありがとうございます。実は、殺された射月はともに詩織様にお仕えする間柄でした」
「じゃろうな……親しかったのか?」
「はい、とても」
松月がそう答えた瞬間、平間は周囲の空気が一気に緊張感を帯びたのに気付いた。
静かだが、激しい感情が松月の言葉に込められていたのだ。
平間は壱子のやや前に進み出でようとするが、壱子はそれを制する。
松月は続ける。
「射月は私の実の姉です。そして姉は、私が最も尊敬する人物の一人でした」
「……惜しい者を亡くしたな。生前に語らえなかったのが残念じゃ」
「ありがとうございます。ですが、私が申したいのは、姉を殺した人間を絶対に許さないということです。たとえそれが、どんな人間であっても」
そう言って松月は顔を上げ、まっすぐに壱子を見据える。
壱子への疑いを隠さない松月に、壱子はあえて鈍感に答えた。
「全くもって同感じゃ。そのための協力は惜しまぬよ」
「感謝します。願わくば、そのお言葉が覆りませぬよう」
「その心配は無用じゃ。さ、そろそろ膝が冷たかろう。立ってくれ」
壱子が促すと、松月は素直に立ち上がった。
その目からは、敵愾心がありありと伝わってくる。
「喧嘩は終わったか?」
横で見ていた脛折がニヤニヤしながら言うと、松月は気まずそうにうなずいた。
それを見て、脛折は笑みを崩さずに言う。
「よし。なら始めよう。ちょうど準備が出来そうだ」
言うが早いか、黒衣の男たちが射月を寝かせた板を運んできた。
その後ろには、阿と吽の姿もある。
黒衣の男たちは、射月を板ごと部屋の中央に安置すると、何も言わずに小部屋から退出する。
射月は薄い白の着物に着替えさせられていて、当然だが目を閉じたままピクリとも動かない。
心なしか、その表情は屋敷にいた時よりも穏やかであるように見える。
その時、平間は射月の襟もとに、かすかに茶色い染みがあることに気づいた。
辺縁がハッキリしていることから、どうも垢による汚れではないように見えた。
「二人とも、ご苦労さん」
脛折は阿と吽に声をかけ、乱雑に僧衣を脱いで阿に渡した。
下に着ていた襦袢もはだけ、上半身が顕になる。
思いのほか引き締まったその体躯に、先程から興味なさげだった紬が小さく声を上げる。
上裸となった脛折は、吽の持ってきた木箱から禍々しい鉄の鋸を取り出し、それを眺めて笑う。
「それじゃ、ぱぱぱっと終わらせてしまおう。楽しい腑分けの時間だ」
が、すぐに松月の視線に気付いて訂正する。
「ああ失礼、楽しくはないな。興味深い……そう、興味深い時間の始まりだ」
気まずそうに言う脛折を横目に、壱子は平間に耳打ちする。
「平間、あの松月という少年、厄介じゃ」
「確かに、完全に壱子を犯人だと思っているな」
「それもあるが、根はまっすぐで正義感が強いのが、一層タチが悪い。が、良いこともある」
「というと?」
「懐柔しやすいということじゃ。腑分けで松月がどう反応するか、注視しておけ」
「ああ、分かった」
平間が頷くと同時に、脛折が射月の衣を勢いよく脱がせ始めた。
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例のごとく蛇足です。
長くなってきたので、登場人物のおさらいをしましょう。
確認のために、君はこれを読んでもいいし、読まなくてもいい。
でも読んでくれるとちょっと嬉しい。
・平間京作
十六才。主人公であり貴方の目。壱子の従者。
彼の見たものに嘘偽りは一切存在しないが、必ずしも正確ではない。
最低限の武術の心得と知識、それに常識を備えている。
真面目な性格。
・佐田壱子
十三か十四才くらい。平間の主の理知的な少女。
実家がめちゃくちゃ太いのみならず、皇国で明らかになっている医学的知識をすべて習得している。
しかし引きこもりがちなので、実践的知識に乏しい。
あと運動神経が悪い。
からかうと面白いので平間が好き。
からかわれるのは面白くないので、紬のことは苦手。
・巻向紬
十八才くらいに見える。平間の元副官で、今は壱子に小遣いをもらっている。
情報通で、皇都に流れる噂をいち早く察知しては壱子に伝えている……らしい。
しかし実際に彼女の情報は正確なので、情報屋としての腕は確かなようだ。
からかうと面白いので平間と壱子が好き。
お金も好き。
・水臥小路惟人
五十才くらい。左大臣で、つまり皇国の貴族で一番偉い人。
壱子を側室に迎え入れようと暗躍しているのだが、少し前の宴で大喧嘩しているので円満には行かなさそう。
現時点では影が薄いが……。
・水臥小路依織
十六才くらい。左大臣の娘で詩織の妹。
壱子の友達。子供っぽいが、邪悪ではない。
全体的にほわほわ系女子。付くべきところに肉が付いていて、壱子を歯噛みさせている。
最近まで母親にべったりだったが、どうやら今は自立しつつある模様。
・水臥小路詩織
十六才くらい。左大臣の娘で依織の姉。
壱子とは友達でも何でもない。大人びているが、ヒステリックな部分が見え隠れしている。
今回の事件の犯人は依織だ、と強硬に主張しており、依織をビンタして周囲をドン引きさせた。
殺された射月・およびその弟である松月は、詩織の侍女・従者である。
第二皇子との婚姻が決定しているらしい。
・射月
享年二十歳。美人。
詩織の侍女をしていたが、屋敷の中庭で死体となって発見される。
周囲に悪い噂は一切なく、壱子をして「むしろ逆に怪しい」と言わしめるほど。
詩織との出会いは、幼い頃に詩織に拾われたというもの。
首には紐状のもので絞められたような痕がある。そしてこれから解剖される予定。
美人薄命とはこのこと。
・松月
十四才くらい。平間よりは年下に見える。
詩織の従者で、弓がとても上手い。
現時点では直情的な性格だと思われ、明確に壱子が犯人だと疑っている。
美少年だが、壱子は一切興味を示していない。
いわく、「私が美しい顔を見たい時は、鏡を見れば良い。つまり飽いておるのじゃ」とのこと。
しかし平間はそんなことを知らないので、心中穏やかではない。
……のだが、これは物語的には非常にどうでも良い事実である。
・詩織・依織の母親
四十才くらい。「壱子が中庭から逃げ去るのを見た」と主張する。
状況的にはおそらく嘘なのだが、なぜそんなことを言ったのかは不明。
また、毒殺未遂事件では「依織の身体を定期的にまさぐる」という謎めいた行為をしていることが明らかになった。
「毒を盛る侍女を見た」とも言っていたし、虚言癖があるのだろうか?
・朝霧
依織・詩織の屋敷に仕える、古株の侍女。
苦労人。
・紫
壱子に仕える古株の侍女。
苦労人。
・佐田玄風
壱子の父で右大臣。つまり皇国の貴族で二番目に偉い人。
壱子に医学知識を叩き込んだ張本人だが、かつて無理やり結婚させようとしたために、壱子との仲はあまり良くない。
水臥小路家は政敵。
平間は何回か会ったことがあるが、いわく「とにかく怖かった」とのこと。
・脛折臣
忌部省統監。つまり一番偉い人。
小人症で背が低いが、その性格は陽気そのもの。に見える。
お坊さんので髪を剃り落としているが、全体的にだらしないせいで破戒坊主っぽさが甚だしい。
その胡散臭さは、紬と同じベクトルである。
ちなみに、皇国において小人症の人物に対する扱いはあまり良くない。というか悪い。
だからこそ忌部省にいるのかも知れないし、そうじゃないかも知れない。
・阿
・吽
忌部省で小間使いとして働く双子。
阿が姉で吽が弟。おおむね十才くらい。
舌を抜かれているため発音能力が著しく低いが、ちゃっかり手間賃を徴収するあたり、抜け目のない性格らしい。
・大黒丸
依織の飼い猫。
絶世の美貌をもち、それは壱子をも凌ぐ……かも知れない。
およそ全ての猫は、誰かにとっての世界一の猫である。
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