戦わない解決
「ぬぅん!」
「くっ、一ノ錠飛ばして二ノ錠・解!」
アルデバランの刀とライチの剣、耳に響く鉄が鉄を叩く音がフロアに響いた。つばぜり合う中、ライチは作戦通り俺とホテイが向き合うところから逆方向にアルデバランを弾き飛ばした。
「ふっふっふ、エビスよこれでタイマンだな!」
「二対一だバカタレ」
「どちらでも私にとっては対して変わらんっ!」
ライチの一撃は入ったはずなのに元気なもんだ。だがダメージはゼロじゃない。そこに勝機を見出したい。宙に浮く拳をかわすのは難しくない。とはいえイフリートとウンディーネの合わせ技が効かなかった今ダメージを与える術がないに等しい。どうするか……
「先生!」
「ロアンどうした!?」
「ちょっと試したいことがあるのですが!」
「えっ!?」
新しい回復技か? しかし、まだそこまでのダメージは受けていない。それはロアンも分かっているはずだ。とすればバフかデバフ……何にせよホテイを倒せればいい!
「やってみてくれ!」
「はい! 少々お時間をください!」
準備が必要なほどの技か、期待しつつここは時間稼ぎするか。
「何をしようとしているか知らんが面白くなるなら遊んで待つとしよう、正直者の蜃気楼!」
「!?」
何をされたのか真っ白な空間に放り込まれた。正直者の蜃気楼というのは空間移動の術だったのか、はたまた幻を見せる術か……
「お気に召したかな?」
どこからともなくホテイが現れる。
「ここはどこだ?」
「ここは全ての魔力が無効になる精神下の空間だ」
とか言いつつ不意打ち食らわせてくるつもりじゃ……
「正義の鉄槌! とやっても何も出ないわけだ」
完全に身構えてしまったがホテイの言葉通り何も出なかった。
「実は私は戦うのが得意じゃなくてな、ほとんどのことをこうして対話で解決してきた」
あれだけの力を持っていながらよく言えるもんだと思った。
「時にエビスよ、あっちの世界からこっちの世界に来た者たちの共通点に気づいているか?」
「ランダムじゃないのか?」
俺たちは何か意図的に選ばれてこっちの世界に飛ばされていたっていうのか。
「うむ、こっちの世界に来たものは皆共通してあっちの世界で燻っていた者たちだ」
「何でそんなこと分かるんだよ」
「ブルーオーシャンは使用者がイメージした者の過去を映すことができる。暇つぶしに様々な者の過去を見ていたところこの共通点に気づいた。私もその一人だ」
プライバシーってもんはないのか! それ以前に勝手に使っていいものなのか……?
「あっちの世界では明らかに間違っている者を、ぶん殴ってやりたくてもできない場面を法廷で見てきた。こっちの世界は力で、強さで正義を証明することができる世界だ」
あっちの世界は理不尽なことが多い。腕力では何事も解決できないようにできている。
「エビスもそうだろう。あっちの世界では叶わなかった教師の夢がこっちでは叶っている。それを捨ててまであっちの世界に帰る意味がどこにあるというのか」
「確かにほとんどお前の言うとおりだ。でも俺たちは帰らなきゃならない、この夢や願いが叶った世界に甘えてちゃダメなんだ」
「だがあっちの世界では何も……何も成せないじゃないか!」
「俺はこっちの世界でたくさんのものを貰った。あっちの世界に戻ってもこっちに来る前と同じにはならない、しちゃいけない。以前の俺たちじゃ成せなかったことを成すために帰るんだ!」
「……私にもできるのか」
「行き詰ったら話くらい聞いてやるよ、SGFのよしみでな」
「それは心強いな」
真っ白い空間は崩壊してライチとアルデバランが対峙する光景が戻ってきた。と同時にロアンが呼び掛けてくる。
「先生! 大丈夫ですか!?」
「あぁ」
「良かったです! それより準備できました! やっちゃっていいですか!?」
「ん~、多分もう要らないと思うんだよな」
いつのまにか片膝を抱えて地べたに座り、一点を見つめるホテイはこっちの視線に気づくと両手を挙げて戦う意思のないことを示した。
「私が力を溜めている間に一体何が……」
「対話による平和的解決ってやつだ」
「私の見せ場が……」
解決したのだからそんなに肩を落とさないで欲しい。
「もうあっちの勝負も止めていいんじゃないか?」
「そうだな、正直者の蜃気楼で勝手に解決してもらうとしよう。説明のため私も少し潜ってくる」
剣を交えるライチとアルデバランに向けてホテイが手をかざすと三人まとめて意識を失った。
「あ、あれ!? ライチさん大丈夫ですか!?」
ライチのサポートに徹していたテトラだったが、急な展開に困惑する。
「テトラ、この勝負終わりだ」
「ということは……勝ったんですね!」
「勝ったというか和解した形だが、万事解決だ」
緊張の線が切れたテトラは溶けるんじゃないかというくらいに全身の力を抜いた。
数分後にホテイの意識が戻り、その後しばらくしてライチとアルデバランも意識を取り戻した。
「アルデバランとのわだかまりは解けたのか?」
「めちゃくちゃ謝って何とかなったっす」
「そうか、お疲れさん」
それで何とかなったのかよという笑いをこらえながら、なんとかライチを労うことに成功した。
いくつかアルデバランと言葉を交わしていたホテイに一声かけブルーオーシャンの玉座へ向かう。
「エビスよ、非常に言いにくいんだがブルーオーシャンは人の過去を見ることができる他にこの国の空気を作っている。無策に持って行くと良くないと思うのだが……」
「あー外を覆ってる膜はこれが作ってたのか! じゃあどうするよ?」
まさかの問題が発生した。空気がなくなれば俺たちも生きて帰れないがブルーオーシャンは必要だ。両方何とかする方法は……
「簡単なことじゃ、ぬぅん!」
そう言うとアルデバランは床に剣を突き立てた。何をしているか見て取れないが、しばらくすると地響きと共に重力が強くなった。
「アルデバラン殿! 何を!?」
「空気がなくなるなら地上に出りゃいいじゃろ? この国と海底の接合部分を切り離せば浮力でその内地上に出るってわけじゃ」
ホテイの問いにさも当たり前のようにアルデバランは答えた。頭では理解しても常軌を逸しているんだから実行できないはずなんだが……
重力に耐えて踏ん張っていると日の光が近くなり、ついには地上に出た。
「お~やっぱ地上の空気はうまい気がするなぁ」
「ですねぇ」
ロアンがライチの治療をしている傍で俺はテトラと黄昏ている。テトラは治療を手伝ってもいいんだぞ?地上の空気を楽しんでいるとホテイとアルデバランの会話が聞こえた。
「アルデバラン殿、ありがとうございました」
「正義ちゃんとワシの仲じゃからのぉ」
「そう、ですね。勝手に地上に上がってしまいましたが国民は何て言うでしょうね」
「そうじゃな、これからワシが命の限り時間をかけて説明していくとするわい」
何か次元の違う話をしていた。
「これでブルーオーシャンを貰っても問題ないわけだな」
「大丈夫じゃろ」
守人から許可を得てついにブルーオーシャンを手に入れた。
「我が校に帰るとするか!」
「エビスよ、あれは要らんのか?」
ホテイが指さす先にはクラゲに捕らわれたギョクロとチユキが軽蔑の目でこちらを見ていた。
「……すまん! 完全に忘れてた! ホテイ、クラゲを解いてくれ!」
こうしてブルーオーシャンの入手、仲間の奪還に成功した俺たちはギョクロとチユキに小言を言われながら学校への帰路に就いた。ある程度小言を言われた後は修学旅行の思い出を語りながら……
どうも!ロカクです('ω')ノ
私としたことが危うく前回の投稿から1年が経つところでしたw
急にスランプに陥りましてね~、いや~投稿に至って良かったですよ。
さて、今までぼかしていました次回本編最終回です!締めの言葉は次回に取っておきます。
ではまた次回(=゜ω゜)ノ




