五人目説
「あんた『五人目説』聞いたことあるんでしょ?」
「あぁ、前の世界から現世界に来た五人目の人間がこの世界を滅ぼすんだろ? でもそれって幻想破壊を失敗した副作用なんじゃ……?」
幻想破壊の失敗から得たものを順を追って説明するという姉貴、俺よりずいぶん長い間現世界に居ることもあり、その知識は疑いようがない。
「ナバロは真の意味を言わなかったか……ふむ、改めて私は幻想破壊を失敗したわけだけどこの失敗は決定的なヒントを生むわけよ」
「というと?」
「とりあえずこれ見てよ」
渡されたのは四つ折りにされた紙、種も仕掛けもなさそうだが開けてみるとそこに書かれていたのは……
「魔力?」
「そう! それが失敗の産物なのよ!」
「ちょっと意味が分からないんですが」
本当になんの変哲もない、しいて言うならちょっと質の良い紙に「魔力」と書かれているだけでそれが産物とは……これだけでは理解できない。
「そうでしょうね、あんた男の子っぽい格好した少女にも会ったでしょ?」
「多分あいつだと思うんだけど……」
「うん、その子が言うには私は『四人目』なのよね、それを踏まえて聞いてもらいたいんだけど、あたしは持っている情報から完璧に準備を整えて幻想破壊を行ったの」
「うん」
ちょっと回りくどすぎやしませんか? あの紙はなんだったんだよ!
「じゃあその情報はどこから手に入れたと思う?」
「調べたんじゃねーの?」
「確かに調べはしたけど、この世界の生物全部記憶を操作されてるのか誰一人として前世界について知ってる者はいなかったわ」
そりゃそうだ、夢かフィクションで片付けられるだろう。
「で、あたしは幻想破壊に必要なもの『三つ』をナバロから聞いたけどその中に『魔力』はなかった」
「ふーん……!?」
「何となく繋がったみたいね」
姉貴はライチとエンジを治療する際、指示するばかりで自分では全く手を出さなかった。こっちの世界に来て三年半となる俺でもエンジほどの怪我ならともかくライチくらいならなんとかできたかもしれない。ましてや姉貴はあれだけの指示が出せて、何をすべきか分かっていたとすればテトラと協力して同時治療も可能だったはず。それをしなかったとなると……
「あたしは全く魔力がない、それゆえに幻想破壊に失敗したってわけよ」
「!?」
かける言葉が見つからない。魔力がない姉貴は最初から失敗するようになっていた、それでいてこの五人目説を作ったやつに踊らされてたってわけだ。そう考えるとこうして平然としているのは強がってるんじゃないかと思えてくる。
「でもね、もう情報は揃ってんのよ」
「根拠は?」
「私の調べによると過去数百年の間にも前世界から現世界に人が来たケースいくつかあったんだけど、六人目以降の情報が全くなかった。でも、全ケースで間違いなく五人目がいるの」
毎回五人目が幻想破壊を成功してきたってことか……
「私が知ってる限りあんたもバカじゃないはずだから分かってると思うけど、『五人目説』っていうのは五人目が世界を滅ぼすんじゃなくて最初から五人目が幻想破壊を成功するように仕組まれてるってことだったのよ」
最初のディスりは余計だと思うがこれでようやく全て繋がった。先人たちは幻想破壊を失敗する毎に次の転生者に引き継ぐためのヒントを残存する国の半分を滅ぼすという絶望と引き換えに手に入れていた……と。
「悪いけど俺はまだ……」
「まだやんなくても大丈夫よ! ってか物が揃ってないからできないし! それにまだ子供たちのこともあるでしょ、放棄したらぶん殴るわよ!」
満面の笑みで言われても……いやまぁ急かされるより断然良いし、もちろんまだやる気はない!
「そーゆーわけであんたは魔力も持ってるわけだし、条件さえ揃えばいつでもできるわけだからいろいろケリつけたら声かけてよ」
「うぃっす」
正直幻想破壊を発現するにあたって直接関係ないようなことも混ざっていたがそれよりなにより五人目に照準が合わせられていたというのが最も有益だった。
しばらく話し込んで戻ってみるとライチもエンジも目を覚ましていた。もう談笑なんかしている。
「あ、エビスさん! なんの話だったんですか?」
「まぁ……互いの学校で交流しようって話だな」
「そうですか」
あまり納得させられなかったらしい。そりゃそんな話なら自分達の前で話せってことだもんな。申し訳ないけど今はこれで勘弁してくれ。
「そういえば先生、最終戦の結果はどうなったんっすか?」
「それどころじゃなくて聞いてなかったな」
清々しいほどの互角からの最後の一太刀、お互いに手応えはあっただろうが食らっちまった感もまたあったんだろう。自分が倒れたから負けか? いや、相手も倒れてたんだから勝ちもあるだろうという葛藤が両者共にあるとみた。
「それなら、相手が違ってればどっちも合格する実力を見てとれたってことで二人とも合格みたいよ」
「そっすか……」
両成敗かと思いきや両者通過か、まぁ他の試合をちゃんと見ていた訳じゃないが最終戦はレベルが違っていた。運営の寛大さに感謝しつつありがたく受け入れ……
「僕は合格じゃなくていいっす」
「なんでだよ!?」
「記憶はないんすけど多分三ノ錠を解放したとき僕は自我を失った。自分をコントロールできないような奴ダメっすよね? それに……」
もったいないと思うと同時にそのプライドは分からんでもないとも思う。しかし技や自分自身をコントロールできなかったなら練習すればいい。致命傷を与えたのもライチで、勝っていたと言っても過言ではないが……
「次があるんで」
事情を知っている者は察したことだろう。ライチは今ここに居ないメンバーの事を、勝てなかったあいつの事を考えていると。知らない者は「来年に向けて切り替えたんだ」と思うだろうが十中八九そうじゃない。なぜならやろうと思えば目の前の合格を掴むことはできるのだから。
「飛び級で上級っていうのもカッコいいっすからね!」
「今年はもうないけどな、ちょっと本部に言ってくるわ」
年二回の実施で一回目は前の世界で言うところの四月、俺は見れないが次は必ずやってくれると確信している。
「末広いいの!?」
「あぁ、本人が言うならしょうがない」
「そう……」
裏事情を言うと変にライチのプライドを傷つけかねないし、分かってる奴だけ分かってればいいんだと思う。
それから俺は本部に言ってライチの中級ライセンス辞退を申し入れた。会長とその他運営の面々は不思議そうな顔をしながらも深くは聞かず受理してくれた。
今回の試験は魔法使い組二人の合格以上に得るものがあった。課題の方も全員クリアでいいだろう。なんたって審査基準は他でもない俺なのだから。
どうも!ロカクです!
今回2週飛ばしてしまったので(関係ないですが)ちょっと長めになっています。お得感ありますね!
私の最近はというとやることが多くてクーラー病で……幸せをください状態ですw
頑張っていきましょい!
それではまた次回!




