猫じゃらしと白魔術
『アルペジオ学園の三大尉が次々と参加者の球体を破壊していくぅ!』
冒険者ライセンス中級試験、参加者全員一つの球体を持った状態からスタートし、途中他の参加者から球体の奪取を可として制限時間終了時に球体を一つでも持っていれば合格となる。開始早々フクロウ率いるアルペジオ学園の生徒たち通称「三大尉」が快進撃を見せているらしいが……
『ずっとこのままでいいんですかねぇ?』
『これ一つ死守できればいいわけだから大丈夫なんじゃない?』
確かにルール上はライチの言う通りだが過去にこのルールで何度か行われているとすれば積極的に参加しないやつの対策はされてそうなもんだけどなぁ。
『えー、参加者のみなさん、もうすぐ試験開始三十分となりましてもうガンッガン戦っている頃だと思います。しかし、土竜も多いようでやはり円滑にとはいってないようです。そこで、お手元の球体をご覧ください。白と黒の球体があるかと思いますが、三十分経過時点で黒の球体は……ドゥルルルルル……デン! 破裂しまーす!』
はぁ!? 球体の色なんか見てねぇし、第一最初に配られてんだからこうなること前提だろ!? しかしなるほど、こういう手できたか。うちの生徒たちは……
『白は……私だけですかね?』
『……これ絶体絶命じゃん!』
『何かしら陰謀を感じますわっ!』
『動かなきゃいけないみたいだね』
黒球体を破壊したのは無意味だったってことか、なら最初から白球体だけを配らなかったのには何か意図があるのか?
『おっとぉ? ここで追加情報です! 球体の色に関しては今までの実績に基づいて決められているとかいないとか……です!』
そんなあやふやな追加情報があるか! だが夏休みに俺が見ていた期間にしていたことと言えばライチは置いといて、ロアンが森の浄化、ギョクロとチユキは買い物……うん、この状況は仕方ないと思う!だが誰がどこから見てたっていうんだ?
『でもどうすんの? このまま隠れてるわけにもいかなくなったじゃん?』
『三つの白球体と実績に基づいた配り方に課題……よし! 三大尉とやらを倒しにいこう!』
『『『!?』』』
なぜそうなる!? と思ったが、よくよく考えてみれば利にかなっている。名が知れわたるほどの実力と実績、それにこっちに足りない白球体三つ、そして必殺技を出す機会、全てを合わせるとすればそうなるわな。
『目標を三大尉として、その道中のモブから白球体をぶんどればたとえ三大尉に勝てなくても万事オッケー、名付けて「試合に負けずして勝負に勝つ作戦」だ!』
ん~まぁネーミングはともかく要は全部取るってことでよろしいのかな? 何はともあれ面白そうじゃねぇか。
数秒後、ライチ、ギョクロ、チユキが所有していた黒球体は例によって破裂し、ロアンを含めた四人は動き出した。
『お前ら弱そうだなぁ、ちょっと相手してもらおうか!』
『こっちのセリフなんだよなぁ……白球体は持ってなさそうだけど僕の技で片付けようかなっ!』
早速モブらしいやつとエンカウントした。ライチはやる気なようだが必殺技は出すまでもないような気がする。
『ちょっと待ってください! まだ手の内を明かすのは得策とは言えませんわ』
『チユキ、何か策があるんだね?』
『はい! 私の必殺技でお相手いたしますわっ!』
それ本末転倒じゃないか?
『参りますっ! 召喚・ホワイトタイガー!』
猫じゃらしに念を込めるという端から見ると何ともおかしな状況ではあるが、チユキに寄り添うように立派な白い虎が顕現した。それにしても「猫じゃらし」という名前から固定観念にとらわれていたが、より強そうな虎に変換するとは……白魔術とアイテムを見事に融合させたな。
『それ手の内を明かしてることにならないの?』
『ふっふっふ、甘いですわねライチさん! これはなんと第一段階ですのよっ!』
『ソレハスゴイヤ』
冷静というか冷たいというかどや顔のチユキに対してライチの片言は優しさがなかった。
『と、虎だと!? ……う、うぉらぁ!』
『グルルル……』
『あまり血を見たくないので降参してあるだけ白球体を置いていけば見逃して差し上げますが……』
『ガゥ!』
『ひぃ~』
圧倒的優勢に立ち、ここに女王チユキが誕生した。勝負あったな。
『こ、これで勘弁してください~』
『いいでしょう、お下がりなさい』
モブは走り去っていった。あの顔で意外にも白球体を持っていたことを考えると人は見かけによらないらしい。 それからも四人はモブを狩り続け、三大尉と退治する前に全員分の白球体を集めきった。
『後は守りきるだけか』
『カイザーのおかげで超楽勝だったし!』
『ちょ、もっと可愛い名前がいいですわ!』
『可愛いって感じじゃないと思うんですけど……』
暇になったのかチユキが召喚した白虎の名前についてもめているようだが、もはや襲ってくる輩はいない。白虎がいることで素晴らしくモブを寄せ付けないようだ。何事もなくこのまま終わるかと思われた残り三十分弱、事態は動いた。
『えー、一時間経過しまして残り三十分……と言いたいところなんですけど会長と言う名のクソヤローがやかましいのでここで終了とします!』
『えっ、まだ必殺技出してないんだけど!?』
『急に終わるとか無しでしょ!』
『突飛な状況も冒険ではよくあることです! で、ここからがわりと重要なのですが、中級合格者は一試験二十人前後と定められております。対して残り白球体は四十個と規定の倍程残っているのです。そこで明日中級試験第二ラウンドを行います!』
うわ~、そう来たかぁ。会長いい加減にしてくれよ~……いや、これでアルペジオ産金の卵である三大尉と戦わなくて済んだとすれば合格に一歩近づいたということでラッキーなんじゃないか?
『第二ラウンドはランダムマッチングで一対一の勝ち残り、場所はこの会場にスタッフが夜通し作ってくれるであろうステージで行います! 既に今白球体を持っている人は集計してありますのでその方々のみ第二ラウンド進出となりまーす!』
司会のお姉さん所々裏事情漏らしすぎでは? それより強引に規定数に寄せてくるあたり運営の気が知れん。しかしタイマンなら生徒たちの成長及び必殺技を余すところなく見れそうだ。
どうも!ロカクです!
この一話が今週分になります!
この辺は書きやすいですね~、頭のなかで完成してる上に楽しいんでね!
もうすぐ50話!次回もよろしくお願いします!




