表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平凡女の非凡な死  作者: よろず
おまけ
18/18

新人ご挨拶

 ふと気が付いた。おかしい…。

 私、相棒になってから結構経ったよ。多分逃亡生活より長くなったんじゃないかな?お仕事も今の所イレギュラーなく、慣れて来た。

 慣れて来たからこそ気が付いた。

 私、黄泉さん以外の死神に、会えて無いんだけど?


「ね、まさおさん?」


 今はまさおさんのお膝の上。

 二人でふよふよ空中散歩中です。霊体だから、座ったままでも移動出来るの。便利!

 いつもの如く私の髪を撫でながら小首を傾げた彼に、私はにっこり、笑い掛けた。


「まさおさん、他の死神、避けてるでしょう?」


 あ、ギクリとしたな?図星だな?


「ご挨拶の件はどうなったのでしょう?」


 私の記憶が間違えじゃなければ、他の死神が近くにいる時に会わせてくれるって言った。

 逃亡生活中、私は他の死神さんを見掛けたし、黄泉さんトーマくんとも出会ったんだよ?私には感知機能が無いから気付けないけどさ、まさおさんにはある。ここまで遭遇しないのなら、まさおさんが避けているとしか思えないんだよね。


 にぃっこり綺麗に微笑む私。

 顔を逸らして誤魔化そうとするまさおさん。


「まさおさん?」


 笑顔に見つめられるのが耐えられなくなったのか、まさおさんが私の後頭部に手を添えて、そっと私を抱き寄せる。私は素直に従って、彼の黒マントの胸元に頬を寄せた。


「出来れば貴女を、誰にも見せたくない。」


 不貞腐れまさおさん。

 生者の人間ならば監禁したい発言だけど、私達霊体だし、担当の霊魂以外には死神とその相棒にしか視認されない。だからまさおさんの願望は、他の死神を避けていれば簡単に叶ってしまう。

 もう!どれだけ私を好きなんですか?デレデレしちゃうけど、ここは堪える。


「黄泉さんは性別不明だけど男性っぽいし、トーマくんは完全男の子だよね?だからね、女性の知り合いもいたら楽しいかなと思うのですが、如何でしょう?」


 無言。

 でもこれは多分、シカトではなくて葛藤中だと思うから黙って待ちましょう。

 ひんやり黒マントに頬擦りして、指先で皺を辿って遊ぶ。

 葛藤しながらも、まさおさんは私の髪を梳いてくれている。

 穏やかな時間。


「……わかりました。一組、近くにいるようなので連れて行きましょう。」


 わぁい!

 ありがとうの意味を込めて、彼の顎にキスをする。コツンて固いキス。相手がまさおさんだからか、癖になる感触。


「アリーシャ…もっと……」

「だめー!後でね?」


 まさおさんもキス大好き。

 でもおねだりに答えていたら、多分そのまま誤魔化されそう。まさおさんにそういう意図はなくて、本当にただキスをしたいだけだろうけど、彼とキスしてると他の事なんてどうでも良くなっちゃうんだもん。

 コスプレ衣装の着せ替え提案をした時は、それで誤魔化された。

 ナース服、女医さん、女教師、ミニスカポリスなどなど…そういう衣装を扱うお店に連れて行ってみたけど、彼は困ってた。

 困ってるまさおさんが可愛い。

 衣装といえば、彼は無意識で私を着物に着替えさせてしまう事が稀にある。多分、昔を思い出してる時だ。

 懐かしそうに、悲しそうに謝られるけれど、彼が満足するまで私はそのままでいいよって言う事にしてる。


「どんな人達?」

「…会えばわかりますよ。」


 額にこつりとキスをされて、腕に抱かれたままの瞬間移動。

 辿り着いた場所は、公園だ。

 住宅街の中にある小さな公園で、遊具は滑り台とブランコだけ。三つあるベンチの一つに、景色にそぐわない骸骨が一人と、膝の上に黒猫一匹?


「こんにちわ。歳三、トラ。」


 まさおさんが名前を二人分言った。死神さんに名前があるから、相棒がいる死神さんで…私達の目の前には骸骨と黒猫。

 猫か!猫も相棒になれるのか!


「にゃぉん」


 猫が鳴いた。

 それに応えるように死神さんが頷いた…と思ったら、猫が人間の女の人になった?!


「お初にお目にかかります。わたくし、トラと申します。こちらは歳三(としぞう)。彼が黒猫であったわたくしに惚れ込んだようなので、普段は猫の姿なのです。驚かせてしまったかしら?」


 明治時代の女学生って感じの袴姿だ。とても上品な女性。

 猫?人間で猫?変身可能?

 大混乱だけど、まずはご挨拶!


「初めまして!新しく彼の相棒になったアリーシャです。彼はまさお。突然お邪魔してしまい、申し訳ございません。ご挨拶に伺わせて頂きました。」


 きちり両手はおへそのちょい下で揃えて、斜め四十五度の最敬礼。

 トラさんが凛とした雰囲気だから、緊張してしまう。


「あらあら、ご丁寧にどうも。アリーシャさんのお噂はかねがね。黄泉とトーマからも聞いております。」

「そうなんですか?」


 黄泉さんトーマくんって知り合い多そうだな。二人とも明るく元気で人懐こいから、可愛がられてそうな気がする。


「えぇ。そちらの彼…まさおさん、でしたわね?貴女を必死に探してらしたから、どんな方なのかと気になっておりましたの。」

「そんなに必死だったんですか?」

「えぇ、えぇ、それはもう。相棒持ちの死神を訪ねては、相棒の情報を集めてらしたから、わたくし達の中では有名ですのよ。」

「……トラ、あまり恥ずかしい話をアリーシャに吹き込まないで下さい。」

「あら、ごめんあそばせ。」


 まさおさんに文句を言われたトラさんは、ほほほと上品に笑う。

 華族か?華族的なお家だったのか?だが猫はなんだ?気になる!何処まで質問しても良いんだろうか?


「"まさお"か。名を持たない死神に、名は特別。相棒の存在も特別だ。良かったな。」

「そうですね。やっと、一安心です。」


 歳三さんはハスキーでダンディなオジ様ボイス。

 あぁもう!猫好き強面オジ様が頭に浮かんでしまった!みんなに怖がられているけど猫にデレデレ。てか骸骨だから、まんまだ!

 歳三さんトラさんペア、なんだか色々私の琴線にどストライクなんですが!


「アリーシャ?どうしました?大人しいですね?」


 誰が借りて来た猫か!


「なんだか、いざ会ってみたら緊張しちゃって……」


 もじもじ、恥じらいアピールで誤魔化しておいた。内心大興奮なのを悟られるのは流石に恥ずかしい。

 だけれどそこはまさおさん、見事に悟られていました。


「貴女の事だ。猫の姿が気になって、質問をしたくてうずうずしているのでしょう?」

「ぐっ……ご名答。」


 くすくす笑いのまさおさん。抱き寄せられて額にキスされた。なんだかとっても恥ずかしい。赤面だ。


「猫か…トラは俺が猫に変えている。」


 歳三さんがトラさんを見つめたら、女学生がしゅるんと黒猫になった。

 死神の特殊能力?これも相棒データベースにはない…けど…まさおさんの、私をお着替えさせられる能力みたいな物なのかも。

 黒猫トラさんはしなやかな動作でベンチに飛び乗って、歳三さんの膝の上に丸まった。長い尻尾がゆらゆら嬉しそう。


「輪廻の輪に自ら向かう黒猫を見掛けたんだ。俺はその魂がどうしても欲しいと願った。そうしたらトラは、人間として生を得た。だから、手に入れた。」


 愛おしそうに、骨の手が黒猫を撫でている。黒猫も、ゴロゴロ幸せそう。

 死神の相棒にも色んなパターンがあるみたい。

 トラさんはお仕事の時、黒猫の姿と女学生の姿、相手の魂で使い分けてるんだってさ。黒猫を道案内だと思って黙ってついて来る人もいれば、人間として会話が必要な人もいる。

 私は姿を変えられないから、会話して説得するパターンしか出来ないけれど、相棒の仕事のやり方も人によって違うんだね。

 ご挨拶と雑談を終えて、またお会いしましょうって約束をしてからお暇した。

 二人きりになって、まさおさんの視線を感じた。立った状態で彼の胸元に張り付いてる私を、まさおさんが見下ろしている。


 そして、お着替えが発動した。


 自分の身体を見下ろして、お尻も見て、頭に感じた違和感を手で探ってから外して確認。再び装着したら両手を軽く握って猫のポーズ。で、まさおさんの胸元へしなだれ掛かる。


「………にゃぉん?」


 まさおさん…想像しちゃったんだね?動揺してるね?

 私の頭には黒の猫耳カチューシャ。お尻には長い尻尾。

 服は…露出の激しいエロ系黒猫。これあれだ、この前連れて行ったコスプレ衣装のお店にあったやつだ。想像してごらん?って、私がしつこく指し示したやつだ。


「似合うかにゃ?ま・さ・お・さん?」

「すすすすすみません!すぐに戻しますっ!」

「おバカだにゃぁ?動揺してるといつも戻せないじゃにゃいか。堪能して良いんだにゃん?にゃん、にゃん」


 まさおさんしかいないし、恥は捨てよう!むしろ動揺しまくりのまさおさんをにゃんにゃん言って弄るの、楽し過ぎる!


「可愛いかにゃ?」

「か、可愛いです。可愛い過ぎます。飼いたいです。」

「あなただけの愛猫ですにゃん!」


 ふわり飛び上がって、後でって約束したキスの雨を降らせてあげる。

 まさおさんの骨の手が私の腰に回って、背中をそっと、撫でられた。


 結局まさおさんは照れて、恥ずかしがって動揺しまくって、でもしっかりがっつり黒猫コスプレの私を堪能していた。そんなあなたも大好きです!

 ちなみに霊体、イメージで身体出来てるみたいなんで無駄毛はありません!問題無しっす!心配ご無用!

 by.アリーシャ


ア「ね、まさおさん?」

ま「なんですか?」

ア「性欲は無いって言ってたけどスケベ心はあるんだね?」

ま「なっ!また貴女は何を言い出すんですかっ?!」

ア「責めてるんじゃないよ?私限定なら、好きなだけ発揮してくれて良いんだよ?」

ま「……………考えておきます。」

ア「あー、考えるんだぁ?(ニヤニヤ)」

ま「貴女はこういう時、意地悪です。」

ア「拗ねないで?大好き。」

ま「貴女には勝てる気がしない。(苦笑)」


 いついつまでも…


ア「読んで頂き、ありがとうございます!(斜め四十五度最敬礼)」

ま「……僕の愚かしい過去が…」

ア「えー?私達の愛の歴史、でしょう?」

ま「そう、ですね…。ありがとうございました。」

ア「そうして二人は、永久の幸福を手に入れましただにゃん!」

ま「………にゃん…」

ア「骸骨猫っ!何それ、まさおさん限定で可愛い!片手だけでなく両手で言ってみようか?」

ま「もうやりません。(ふいっ)」

ア「だがそこも可愛い!」

ま「貴女の方が愛らしいです。」


 デレデレイチャイチャエンドレス!



 おわり

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ