新人ご挨拶
ふと気が付いた。おかしい…。
私、相棒になってから結構経ったよ。多分逃亡生活より長くなったんじゃないかな?お仕事も今の所イレギュラーなく、慣れて来た。
慣れて来たからこそ気が付いた。
私、黄泉さん以外の死神に、会えて無いんだけど?
「ね、まさおさん?」
今はまさおさんのお膝の上。
二人でふよふよ空中散歩中です。霊体だから、座ったままでも移動出来るの。便利!
いつもの如く私の髪を撫でながら小首を傾げた彼に、私はにっこり、笑い掛けた。
「まさおさん、他の死神、避けてるでしょう?」
あ、ギクリとしたな?図星だな?
「ご挨拶の件はどうなったのでしょう?」
私の記憶が間違えじゃなければ、他の死神が近くにいる時に会わせてくれるって言った。
逃亡生活中、私は他の死神さんを見掛けたし、黄泉さんトーマくんとも出会ったんだよ?私には感知機能が無いから気付けないけどさ、まさおさんにはある。ここまで遭遇しないのなら、まさおさんが避けているとしか思えないんだよね。
にぃっこり綺麗に微笑む私。
顔を逸らして誤魔化そうとするまさおさん。
「まさおさん?」
笑顔に見つめられるのが耐えられなくなったのか、まさおさんが私の後頭部に手を添えて、そっと私を抱き寄せる。私は素直に従って、彼の黒マントの胸元に頬を寄せた。
「出来れば貴女を、誰にも見せたくない。」
不貞腐れまさおさん。
生者の人間ならば監禁したい発言だけど、私達霊体だし、担当の霊魂以外には死神とその相棒にしか視認されない。だからまさおさんの願望は、他の死神を避けていれば簡単に叶ってしまう。
もう!どれだけ私を好きなんですか?デレデレしちゃうけど、ここは堪える。
「黄泉さんは性別不明だけど男性っぽいし、トーマくんは完全男の子だよね?だからね、女性の知り合いもいたら楽しいかなと思うのですが、如何でしょう?」
無言。
でもこれは多分、シカトではなくて葛藤中だと思うから黙って待ちましょう。
ひんやり黒マントに頬擦りして、指先で皺を辿って遊ぶ。
葛藤しながらも、まさおさんは私の髪を梳いてくれている。
穏やかな時間。
「……わかりました。一組、近くにいるようなので連れて行きましょう。」
わぁい!
ありがとうの意味を込めて、彼の顎にキスをする。コツンて固いキス。相手がまさおさんだからか、癖になる感触。
「アリーシャ…もっと……」
「だめー!後でね?」
まさおさんもキス大好き。
でもおねだりに答えていたら、多分そのまま誤魔化されそう。まさおさんにそういう意図はなくて、本当にただキスをしたいだけだろうけど、彼とキスしてると他の事なんてどうでも良くなっちゃうんだもん。
コスプレ衣装の着せ替え提案をした時は、それで誤魔化された。
ナース服、女医さん、女教師、ミニスカポリスなどなど…そういう衣装を扱うお店に連れて行ってみたけど、彼は困ってた。
困ってるまさおさんが可愛い。
衣装といえば、彼は無意識で私を着物に着替えさせてしまう事が稀にある。多分、昔を思い出してる時だ。
懐かしそうに、悲しそうに謝られるけれど、彼が満足するまで私はそのままでいいよって言う事にしてる。
「どんな人達?」
「…会えばわかりますよ。」
額にこつりとキスをされて、腕に抱かれたままの瞬間移動。
辿り着いた場所は、公園だ。
住宅街の中にある小さな公園で、遊具は滑り台とブランコだけ。三つあるベンチの一つに、景色にそぐわない骸骨が一人と、膝の上に黒猫一匹?
「こんにちわ。歳三、トラ。」
まさおさんが名前を二人分言った。死神さんに名前があるから、相棒がいる死神さんで…私達の目の前には骸骨と黒猫。
猫か!猫も相棒になれるのか!
「にゃぉん」
猫が鳴いた。
それに応えるように死神さんが頷いた…と思ったら、猫が人間の女の人になった?!
「お初にお目にかかります。わたくし、トラと申します。こちらは歳三。彼が黒猫であったわたくしに惚れ込んだようなので、普段は猫の姿なのです。驚かせてしまったかしら?」
明治時代の女学生って感じの袴姿だ。とても上品な女性。
猫?人間で猫?変身可能?
大混乱だけど、まずはご挨拶!
「初めまして!新しく彼の相棒になったアリーシャです。彼はまさお。突然お邪魔してしまい、申し訳ございません。ご挨拶に伺わせて頂きました。」
きちり両手はおへそのちょい下で揃えて、斜め四十五度の最敬礼。
トラさんが凛とした雰囲気だから、緊張してしまう。
「あらあら、ご丁寧にどうも。アリーシャさんのお噂はかねがね。黄泉とトーマからも聞いております。」
「そうなんですか?」
黄泉さんトーマくんって知り合い多そうだな。二人とも明るく元気で人懐こいから、可愛がられてそうな気がする。
「えぇ。そちらの彼…まさおさん、でしたわね?貴女を必死に探してらしたから、どんな方なのかと気になっておりましたの。」
「そんなに必死だったんですか?」
「えぇ、えぇ、それはもう。相棒持ちの死神を訪ねては、相棒の情報を集めてらしたから、わたくし達の中では有名ですのよ。」
「……トラ、あまり恥ずかしい話をアリーシャに吹き込まないで下さい。」
「あら、ごめんあそばせ。」
まさおさんに文句を言われたトラさんは、ほほほと上品に笑う。
華族か?華族的なお家だったのか?だが猫はなんだ?気になる!何処まで質問しても良いんだろうか?
「"まさお"か。名を持たない死神に、名は特別。相棒の存在も特別だ。良かったな。」
「そうですね。やっと、一安心です。」
歳三さんはハスキーでダンディなオジ様ボイス。
あぁもう!猫好き強面オジ様が頭に浮かんでしまった!みんなに怖がられているけど猫にデレデレ。てか骸骨だから、まんまだ!
歳三さんトラさんペア、なんだか色々私の琴線にどストライクなんですが!
「アリーシャ?どうしました?大人しいですね?」
誰が借りて来た猫か!
「なんだか、いざ会ってみたら緊張しちゃって……」
もじもじ、恥じらいアピールで誤魔化しておいた。内心大興奮なのを悟られるのは流石に恥ずかしい。
だけれどそこはまさおさん、見事に悟られていました。
「貴女の事だ。猫の姿が気になって、質問をしたくてうずうずしているのでしょう?」
「ぐっ……ご名答。」
くすくす笑いのまさおさん。抱き寄せられて額にキスされた。なんだかとっても恥ずかしい。赤面だ。
「猫か…トラは俺が猫に変えている。」
歳三さんがトラさんを見つめたら、女学生がしゅるんと黒猫になった。
死神の特殊能力?これも相棒データベースにはない…けど…まさおさんの、私をお着替えさせられる能力みたいな物なのかも。
黒猫トラさんはしなやかな動作でベンチに飛び乗って、歳三さんの膝の上に丸まった。長い尻尾がゆらゆら嬉しそう。
「輪廻の輪に自ら向かう黒猫を見掛けたんだ。俺はその魂がどうしても欲しいと願った。そうしたらトラは、人間として生を得た。だから、手に入れた。」
愛おしそうに、骨の手が黒猫を撫でている。黒猫も、ゴロゴロ幸せそう。
死神の相棒にも色んなパターンがあるみたい。
トラさんはお仕事の時、黒猫の姿と女学生の姿、相手の魂で使い分けてるんだってさ。黒猫を道案内だと思って黙ってついて来る人もいれば、人間として会話が必要な人もいる。
私は姿を変えられないから、会話して説得するパターンしか出来ないけれど、相棒の仕事のやり方も人によって違うんだね。
ご挨拶と雑談を終えて、またお会いしましょうって約束をしてからお暇した。
二人きりになって、まさおさんの視線を感じた。立った状態で彼の胸元に張り付いてる私を、まさおさんが見下ろしている。
そして、お着替えが発動した。
自分の身体を見下ろして、お尻も見て、頭に感じた違和感を手で探ってから外して確認。再び装着したら両手を軽く握って猫のポーズ。で、まさおさんの胸元へしなだれ掛かる。
「………にゃぉん?」
まさおさん…想像しちゃったんだね?動揺してるね?
私の頭には黒の猫耳カチューシャ。お尻には長い尻尾。
服は…露出の激しいエロ系黒猫。これあれだ、この前連れて行ったコスプレ衣装のお店にあったやつだ。想像してごらん?って、私がしつこく指し示したやつだ。
「似合うかにゃ?ま・さ・お・さん?」
「すすすすすみません!すぐに戻しますっ!」
「おバカだにゃぁ?動揺してるといつも戻せないじゃにゃいか。堪能して良いんだにゃん?にゃん、にゃん」
まさおさんしかいないし、恥は捨てよう!むしろ動揺しまくりのまさおさんをにゃんにゃん言って弄るの、楽し過ぎる!
「可愛いかにゃ?」
「か、可愛いです。可愛い過ぎます。飼いたいです。」
「あなただけの愛猫ですにゃん!」
ふわり飛び上がって、後でって約束したキスの雨を降らせてあげる。
まさおさんの骨の手が私の腰に回って、背中をそっと、撫でられた。
結局まさおさんは照れて、恥ずかしがって動揺しまくって、でもしっかりがっつり黒猫コスプレの私を堪能していた。そんなあなたも大好きです!
ちなみに霊体、イメージで身体出来てるみたいなんで無駄毛はありません!問題無しっす!心配ご無用!
by.アリーシャ
ア「ね、まさおさん?」
ま「なんですか?」
ア「性欲は無いって言ってたけどスケベ心はあるんだね?」
ま「なっ!また貴女は何を言い出すんですかっ?!」
ア「責めてるんじゃないよ?私限定なら、好きなだけ発揮してくれて良いんだよ?」
ま「……………考えておきます。」
ア「あー、考えるんだぁ?(ニヤニヤ)」
ま「貴女はこういう時、意地悪です。」
ア「拗ねないで?大好き。」
ま「貴女には勝てる気がしない。(苦笑)」
いついつまでも…
ア「読んで頂き、ありがとうございます!(斜め四十五度最敬礼)」
ま「……僕の愚かしい過去が…」
ア「えー?私達の愛の歴史、でしょう?」
ま「そう、ですね…。ありがとうございました。」
ア「そうして二人は、永久の幸福を手に入れましただにゃん!」
ま「………にゃん…」
ア「骸骨猫っ!何それ、まさおさん限定で可愛い!片手だけでなく両手で言ってみようか?」
ま「もうやりません。(ふいっ)」
ア「だがそこも可愛い!」
ま「貴女の方が愛らしいです。」
デレデレイチャイチャエンドレス!
おわり




