国王に拝謁
ついに、国王に拝謁する時がやって来た。ジャスミンは、爆発しそうな心臓を抱えながら、ロランと共に謁見の間に入室した。室内には家臣たちが居並び、中央に置かれた玉座には、国王シャルル三世がどっかりと腰掛けている。荘厳な雰囲気に圧倒されそうになりながら、ジャスミンは隣にいるロランをチラと見た。
今日の彼は、白地に銀の刺繍が施された堂々たる正装姿で、彼の美しい銀髪とよく合っている。一方のジャスミンは、淡いグリーンのドレス姿だ。持っている中で最も良い品をアンヌに選ばせたのだが、ロランの瞳の色にそっくりである。偶然だが対になったようで、何だか嬉しい。
「私がほとんど話すから、緊張するな」
ロランが囁く。ジャスミンは小さく頷くと、国王の前に進み出た。
シャルル三世は、鋭い瞳と顎が尖った細面の顔立ちを持つ、神経質そうな男性だった。ふさふさとたくわえられた黒い髭が、威厳を醸し出しているが、思ったよりは威圧感が無い。ジャスミンは、少しだけ緊張がほぐれるのを感じた。
‘あら……、あの方は’
そこでジャスミンは、国王の隣に控える男性に目を留めた。国王とよく似た顔立ちで、同じように髭をたくわえているが、瞳はぎょろりとしており、顔の輪郭も国王と比べいかつい。もしや、とジャスミンは思った。
「ブノワ王弟殿下であらせられる」
ジャスミンの視線に気がついたのか、ロランが小声で説明してくれる。書庫で学んだのを、ジャスミンは思い出した。国王を助けて軍事・外交などをつかさどる、セルフォシア王国ナンバー2の存在だ。だから、この場にも同席しているのだろう。
「オリオール辺境伯殿、ご夫人。楽にするがよい」
国王は、機嫌の良い声音で告げた。
「オリオール殿。そなたはこの戦いで、実に多くの魔物を成敗してくれた。聞くところによると、そなたは魔物の息の音を止める、不思議な薬を用いたのだとか。画期的な作戦、余は高く評価する」
「恐れ多いお言葉にございます」
ロランは、丁重に礼を述べた。
「ですがその薬を私に託したのは、隣にいる妻のジャスミンでございます。正確にはアミュレといいまして、香辛料の一種なのですが。妻は、香辛料への造詣が深いのでございます」
「ほう、なるほど。オリオール殿が、妻こそが功労者と申していたのは、そういうことか」
シャルル三世の視線が、ジャスミンへと向けられる。ジャスミンは、緊張しながらも答えた。
「もったいないお言葉でございます、陛下。私はただ、この香辛料に護身効果があると知り、お守り代わりに夫に持たせただけでございます。魔物を仕留めたのは偶然でして、お褒めいただくほどのことはしておりません」
「夫婦そろって、謙虚なことよ」
国王は、満足そうに髭を撫でた。
「いずれにせよ、オリオール夫妻のおかげで魔物が全滅したのは事実。そしてダールヴィランド軍は無事撤退、ソイザウルクアもダールヴィランドを見放した。この戦いの功労者として、夫妻には相応の褒美をつかわそう」
「身に余る光栄でございます」
ロランが、恭しく礼をする。ジャスミンも倣おうとしたが、その時「お待ちを」と声がかかった。王弟ブノワであった。
「ご夫人。あなたは香辛料にお詳しいようだが、そもそもなぜ学ぼうと思われたのだ?」
好奇心というよりは詰問するような口調に、ジャスミンは戸惑った。
「料理が好きなもので、それで勉強いたしました。色々な風味を味わえますので」
つまみ、とは言いづらいが。十分理屈は成り立っているだろう。だがブノワは、何だか納得していない様子だ。
「しかし、アミュレとかいう香辛料は、料理とは関係無かろう。それなのに仕入れて所持していたと?戦争が起きる以前から?」
「……本で読みまして、面白そうだと思っただけですわ」
不穏な空気が漂い始める。なぜ追及するのだろう、とジャスミンは不安になった。
「ほう、なるほど」
ブノワが、口の端を歪める。彼はやおら、兄王の方へ向き直った。
「陛下、お聞きくださいませ。このオリオール殿は、確かに功績を挙げられた。しかし私はどうも解せず、彼のことを調べたのです。するとご夫人は、いつも同じ商人から香辛料を仕入れているとのこと。その商人の仕入れ元とは……、ソイザウルクアだったのです」
ジャスミンはロランと、思わず顔を見合わせていた。確かにジレットは、アミュレをソイザウルクアから仕入れると言っていた。ソイザウルクア……、ダールヴィランドの、元同盟国である。
「陛下」
ブノワが、シャルル三世の方へ身を乗り出す。
「おかしいとは思われませぬか。オリオール夫人は、料理に使うわけでもない香辛料を、戦争勃発前から仕入れて準備していた。まるで、開戦を知っていたかのようです。しかもその仕入れ元は、ソイザウルクア。まさかとは思いますが、夫妻はソイザウルクアと通じていたのでは?」




