無事のご帰還
約三時間後。ジャスミンたちは、厨房の卓に突っ伏していた。
「みんな。ご協力ありがとう。助かったわ……」
あれからジャスミンとウードたちは、必死でアミュレ作りに取り組んだのだ。原料となる調味料類をありったけかき集め、計量し、慎重に調合していく。こうして、前世でいえば金魚鉢三個ほどの壺分のアミュレが完成したのだった。
「奥様!ジレット殿より、ニフェールとネステーを入手いたしました!」
そこへ、瓶二つを抱えたゴーチェが走り込んで来る。ジャスミンは、パッと体を起こした。
「ありがとう!では、これらの壺と一緒に、早馬でロラン様に届けてちょうだい。決してこぼしたり、なくしたりしないようにお願い」
ロランは、‘布袋に詰めずともよい’と言っていた。どうやら、ひたすらたくさんの量を急いで求めているらしい。ならば、壺ごと送ればよいだろう。
「承知いたしました!」
ゴーチェが使用人を呼びつけ、テキパキと采配する。無事使者が出発すると、ジャスミンは深いため息をついていた。
「これで一安心ね……。ああ、そうだわ」
ジャスミンは思い出して、午前中に作った焼きおにぎりを取り出した。
「皆、お腹がすいたでしょう?よかったら食べてちょうだい。一人二個ずつあるわ」
作ったおにぎりは十個だ。ゴーチェ、ウードと料理人三人でちょうど分けられると思ったのだが、彼らはいやいやとかぶりを振った。
「何を仰います。一番お疲れなのは、奥様ですのに」
「そうですよ。アミュレのために、ぶっ通しで活動されていたではないですか。奥様こそ、召し上がるべきです」
彼らは、熱心に訴えている。固辞するのも悪いかな、とジャスミンは思った。
「では、いただくことにするわ。でも、あなたたちも食べてね。いつもの試食だと思って、感想を聞かせて欲しいの」
一人一個ずつ押しつければ、さすがに彼らもおとなしく受け取った。
「ほお。よくいただく、米の塊ですね。でも、風味が全く違います」
「違っていたらすみませんが……、これはいつぞやの‘スシ’に付いていたスープではありませんか?」
「よくわかったわね」
ジャスミンは、にっこりした。
「あのスープは、色々と使い道があるのよ。どう、お米に合うでしょう?」
「全くです」
「香ばしくて、美味しいですね」
皆、頷き合っている。お世辞ではなさそうで、ジャスミンはほっとした。
「今後もアレンジしてみるつもりだから、期待してね。皆からも、意見が欲しいわ。……それと、お米とこのスープで、さらに新しいレシピを開発するつもりなの。少し時間はかかると思うけど、待っていてね」
せんべいを作るのだ、とジャスミンは拳を握りしめた。ここまでやって来たのは、ひたすらにせんべいのためなのである。
「まだ、新メニューがあると!?」
「奥様は、天才です!」
ウードたちが、目を丸くする。あまり騒がれると、気恥ずかしいが。とはいえ、作り方を知らない身でせんべいを制作するのは、恐らく至難の業だ。だからこそ、やり甲斐があるとも言える。
‘ロラン様ご不在の間、しっかりと領地を守るわ。そして、お料理も両立してみせる……!’
ジャスミンは、固く誓ったのだった。
※※※
それから、一週間後のことだった。
ジャスミンは、オリオール邸の玄関で、あっけにとられていた。そこには、ロランの姿があったのだ。汗と泥にまみれ、息を乱しながら馬を連れて立っている。早馬で駆けつけたのは明らかだった。
「ジャスミン、喜んでくれ」
ロランは、声も高らかに語った。
「我がセルフォシア王国は、ダールヴィランド・ソイザウルクア連合軍に勝利した。両国は撤退し、もう魔物に悩まされることは無い。……ジャスミン」
ロランは、ジャスミンの手を取った。
「全て、君のおかげだ。一緒に、王都へ来てくれ。国王陛下が、君に直々に会いたいと仰っている」
ジャスミンは、絶句していた。




