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第1話 約束

 2046年。


 恋愛は数値化されていた。


 人々は腕に装着した情報端末――ブレスレットを使って生活している。


 電話。


 買い物。


 動画視聴。


 ゲーム。


 仕事。


 全てが思考だけで操作可能だった。


 頭の中でイメージするだけでウィンドウが開き、指一本動かさずに操作が完了する。


 そんな時代に誕生した恋愛マッチングアプリ――ラブステータス。


 運動能力。


 頭脳。


 センス。


 ルックス。


 経済力。


 AIが利用者の情報を自動解析し、恋愛ステータスとして数値化する。


 今では国民の九割が利用しており、結婚した夫婦のほとんどがラブステータスで出会うと言われていた。


 だが、その頃の俺はラブステータスに興味がなかった。


 理由は単純だ。


 俺には幼稚園の頃から好きな人がいたから。


◇◇◇


「なおくん……」


 泣きそうな顔をした女の子がいた。


 白石玲奈。


 小さくて、大人しくて、いつも男の子達にからかわれていた。


「泣くなよ」


 俺は鼻をすすりながら言った。


 頬が少し痛い。


 玲奈を庇っていたら、俺まで泣かされてしまった。


「ごめんね……」


「気にするなって」


 今日は幼稚園最後の日。


 玲奈は遠くへ引っ越してしまう。


 もう会えないかもしれない。


 それが少し寂しかった。


「なおくん」


「ん?」


 玲奈は俺の服をぎゅっと掴んだ。


「遠くに行っても忘れないよ」


「俺も」


「本当?」


「ああ」


 玲奈は少しだけ笑った。


 そして。


 背伸びをして。


 俺の頬に軽くキスをした。


 ちゅっ。


 一瞬、何が起きたか分からなかった。


「れ、玲奈!?」


 顔が熱い。


 玲奈は耳まで真っ赤になりながら言った。


「大きくなったら……」


「う、うん」


「私をお嫁さんにしてね」


 そう言って笑った玲奈は、世界で一番可愛かった。


 その笑顔を。


 俺は今でも忘れていない。


◇◇◇


「おはようございます」


 教室の空気が変わった。


「白石さんだ」


「今日も可愛いな」


「マジで芸能人レベルだろ」


 そんな声が聞こえる。


 俺はゆっくり顔を上げた。


 長い黒髪。


 整った顔立ち。


 誰もが振り返るほどの美少女。


 白石玲奈。


 大学で再会した時は信じられなかった。


 でも間違いない。


 あの日の玲奈だった。


 声も。


 笑顔も。


 全部同じだった。


 ただ一つ違うのは。


 今の玲奈は遠い存在になってしまったこと。


「白石れいなさん、おはよう」


「おはようございます」


 まただ。


 誰も知らない。


 玲奈は『れいな』じゃない。


 レナだ。


 それを知っているのは――。


「レナちゃん……」


 俺だけだった。


 もちろん聞こえないように呟く。


 聞かれたら変な奴だと思われる。


 それに。


 俺はまだ聞けていない。


 あの日の約束を覚えているのか。


 俺のことを覚えているのか。


 何一つ聞けないまま、大学生活は二年目を迎えていた。


 だから今日も。


 俺は遠くから彼女を見るだけだった。

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