プロローグ
雨音と雷鳴が夜をのみ込んでいた。
土屋希望は息を切らして飛び起きる。額には冷たい汗。心臓は胸を突き破りそうなほど激しく脈打っていた。
__また、あの夢だ。
薄暗い病室。けたたましく鳴り響くモニターのアラーム。ベッドには、村木香織が横たわっている。
「村木さん!」
何度呼んでも返事はない。
モニターに映る一本の水平線だけが、残酷な現実を突きつけていた。
数か月前、三十歳の患者・村木香織は希望の目の前で息を引き取った。
あの日、自分がもっと早く異変に気づいていれば__。
新人看護師だった自分ではなく、別の看護師が担当していれば__。
その後悔は、今も悪夢となって希望を苦しめ続けていた。
荒い呼吸を整えながら部屋を見渡す。散らかったコンビニの容器、弱まる気配のない雨音。現実に戻ったはずなのに、胸のざわめきだけは消えない。
その時、不意に一枚のメモが脳裏によみがえった。
「あの夜、すべてを見ていた」
病院のロッカーで見つけた、差出人不明のメッセージ。
悪質ないたずらだと思い、すぐに捨てたはずだった。
だが、それ以来、誰かに見られているような感覚が消えない。
香織の死は、本当に病気によるものだったのか。
希望はゆっくりとカーテンを開けた。
闇を裂く稲妻が夜空を白く染める。
__真実を知らなければ、この悪夢は終わらない。
その決意とともに、希望は病院に隠された闇へと足を踏み入れることになる。




