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偽物聖女と千年の約束  作者: バナナマヨネーズ


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エピローグ

 それから事態は急速に加速していった。

 ランドール率いる辺境伯と辺境周辺の貴族たちで構成された連合軍が王都に向けて進軍した翌日のことだった。

 

「伝令!! 王都陥落!! 王都陥落!! 王の生死不明!!」


 そう伝えた伝令は、ランドールとゴルセールに王都が突然の雷雨と嵐によって壊滅したことを知らせたのだ。

 ランドールはゴルセールと視線だけでこの先の行動を示しあった。

 

「連合軍に告げる! 我々の目的は被害に遭った民の救助に変更! 全軍俺に続け!!」


 ランドールの良く通る声がそう宣言してた。



 時は少し遡る。ランドールと連合軍が辺境伯領から王都に向けて進軍した少し後のことだ。

 ランドールの背を見送り無事を祈っていたサラは、空を見上げてただ一言呟く。

 

「贄はここだ」


 そう呟いた次の瞬間だった。

 

 真龍ディエィソーンが動き出したのだ。

 空を覆う、ボロボロの結界が消え去り、サラの目の前に淡い光が集まる。

 サラは、膝を付き頭を下げた格好でその時を待った。

 

『永かった……。我が花嫁よ……』


 直接頭に響くような、そんな音にサラは肩を震わす。

 何も言わないサラに対して、音は更に響いた。

 

『面を……』


 音にそう促されたサラは、強く瞼を閉じた後、覚悟を持って顔を上げた。

 そして無意識に息を呑んだ。

 今にも言えてしまいそうな白い靄。微かにしか感じられない妖気。

 これが本当に一族に伝わっていたあの大妖怪なのかと……。

 

 白い靄は、おかしそうに笑っていた。

 不思議な声色の音が、サラに言うのだ。

 

『名を……』


 サラは、一瞬のためらいを見せたが、それでも凛とした声で言い放った。

 

「わたしはサラ。火の国の沙羅。人柱として捧げられし巫女……。いいえ、わたしはサラ。真龍ディエィソーン……。いいえ。妖総大将ぬらりひょんを約束の姫の元に葬送する者だ!!」



 そう言ったサラは、すぐさま地面に両手をついて声高らかに祝詞を上げた。

 

「我が家名、神華(しんか)の名のもとに祈る。千年前の約束を果たすと誓う。我が一族の姫の残せし願い。姫の伴侶、妖怪総大将ぬらりひょんを異界から姫の眠る天に葬送する!! 眠れ眠れ、寄る辺寄る辺、降られ降られ……」


 そう言い放ったサラは、長く伸びた髪を胸に忍ばせていた小刀で切り落とした後、手首を切って血で切り落とした髪を囲う様に円陣を描く。

 

 円陣が完成した後、膝を付きいつの間にか天中に昇っていた月に向かって最後の祈りを捧げる。

 

「妖総大将様。わたしは、異界に残っていた姫の血族だ。国にいるときはただ言われるがまま生贄になるべく生きていたよ。でも、こちらに呼ばれて、愛する人と出会って、姫の本当の願いに気が付いたよ。自分の国は大事だ。でも、それよりも愛する人の幸せことが一番の大切。だから、もう国は守らなくていい。姫の元に逝け。姫が待っている」


 サラはそう呟くと、その小さな呟きが聞こえたのだろう。

 しわがれた弱々しい声が、まるで泣いているかのように音を発した。

 

『そう……か。ああ……我は、永いこと回り道をしたのだな……。ああ、姫……』


 その音が消えた後、ディエイソ王国は完全に滅んだのだ。

 大雨が国中の命以外のあらゆるモノを洗い流した。

 

 

 

 

 

 ランドールが、突然の大雨で混乱するディエイソ王国を立て直すために要した月日は決して短いものではなかった。

 奇跡的に無事だった作物を人々に振り分け、国としての最低限の機能と生活基盤の復興。

 ランドールは、何のために身を粉にしているのか分からなくなりながらも、それでも必死に国を立て直した。

 ただ、連合軍を率いて王都に攻め入った理由を思い出せずにいた。

 なにか大切なことがあった気がしたが、何も思い出せなかった。

 胸に大きな穴が空いたような、虚無感がランドールを何かをしなければという思いに駆り立てたのだ。

 

 ようやく国として体裁が整った時、ランドールは夢を見たのだ。

 

 どこか知らない国で、蛇のような巨大な生物と、黒髪の美しい少女が何かの儀式をしている光景。

 嬉しそうな少女の様子から、それは幸せなことなのだと感じ取る。

 しかし、次の瞬間目の前は炎に包まれていた。

 先ほどまで嬉しそうな表情をしていた少女は、黒く深い闇に飲み込まれようとしていた。

 そんな少女を追う様に蛇のような生物は闇に吸い込まれていった。

 暗く、深い闇の中をさまよったランドールは、遠くに見つけた光に導かれるように歩き出した。

 眩しい光の先に見たのは、あの少女の幸せそうな笑顔だった。

 ランドールの良く知る世界で生きる少女の傍らには小さな蛇のような生物がいた。

 幸せそうな笑顔ではあったが、どこか寂しそうではあった。

 

 その表情がランドールの記憶を刺激する。

 そんな顔させてくない。守りたい。傍に居たい……。

 

 そんな夢を毎夜見るようになっていた。ランドールは、この胸の空白を埋める何かを求めて旅に出ることにしたのだ。

 国政が落ち着いた今、何故国盗りをしようとしたのか分からないまま、国を治めるよりも、国を誰よりも思うゴルセールに任せることにしたランドールは、導かれるように国境に向かっていた。

 

 誰も住むことのなくなった国境は、思うほど荒れてはいなかった。

 長閑過ぎる風景を流し見ながらもランドールは、胸が騒めてい仕方がなかった。

 美しい花畑の先に、巨大な大木がポツンと寂しそうに佇んでいたのだ。

 

 何かに惹かれるようにその巨木に近づいたランドール。

 

『また……、会えた……』


 風がそう囁いた気がしたランドールは、胸に空いた大きな空白がどんなに大切なものだったのか思い出す。

 

「サラ……」 



 ランドールのその声に先ほどまで寂しそうに見えた巨木が嬉しそうに風に揺れたのだ。

 愛おしそうに巨木の表面を優しく撫でたランドールは、その場に座り瞳を閉じた。

 ランドールは、夢を見た。

 

 黒髪の愛おしい少女と笑い合う自分の姿を。

 それは、夢の中の出来事だったのか、それともどこかで本当にあったことなのか。

 分からないが、それはとても幸せな時間だということだけが真実だった。



 

『偽物聖女と千年の約束』 おわり

 

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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