第18話 帰宅
セリカちゃんが大暴走してからしばらく時間は経ったが、僕やセリカちゃん、アヤメちゃんの三人は館でのんびりしていた。
実際のところ、頭領にさせられたわけだが通常業務は全てダンゾウさんに引き続きお願いすることになった。
ダンゾウさんは頭領代理として今まで同じように頑張って頂こう。
アヤメちゃんは僕らが里から帰るときに一緒についてきた。
とはいえ、別に僕が修行することはなくセリカちゃんの友達枠だ。
「ゼロ殿、セリカの料理はすばらしいですね」
始めは僕と気まずい感じなっていたようなアヤメちゃんだったが、時間がたっていつも通りに接している。別に僕を気に入っているからと言って、僕を男として見ているかは別問題だ。
「いや、え、アヤメちゃん味覚大丈夫?」
「師匠、酷いです!」
「あ、料理としてではなくて、これは毒薬として使えるのではないかと」
「……アヤメまで!」
彼女は忍者であるため、ある程度の毒物への耐性があり、そのおかげではじめネーカの麻痺毒がある唾液にも耐えられたし、セリカちゃんの料理も食べられるらしい。
ネイカの麻痺毒と同格と言うのも恐ろしい。
「これでも前よりはマシなんだけどね、そもそもは料理じゃなかったし」
忍者娘がここで生活するようになってから、僕の家事の時間はかなり減り二人に任せることも増えてきていた。
ただ、やはり客人ではあるから僕が休めるわけではなく、保護者みたいな気分だ。多分レイナさんからしたら僕ってそういうものなのかもしれない。
「あ、そろそろ私は帰ります」
アヤメちゃんが午後には一度里に帰り、更に遂にセリカちゃんの進級試験が近づいてきたという事で一度王都へ帰ることになっていた。
やっと修行の日々から解放さたが、そもそも修行をしていないからただ美少女たちと一つ屋根の下で仲良くしていただけのような気もする。
食器の片づけは僕がやるからと彼女を留める。さっさと帰ってほしいとまでは流石に思っていないけれど、皿洗いまでを客人に任せるわけにはいかない。
「ゼロ殿、また来てもよろしいですか?」
「いつでもきていいよ、とは言わないけどたまには遊びにおいで」
「アヤメ、またね」
「うん。セリカもね」
二人の少女は仲良くなっていて、互いを呼び捨てで呼ぶようになっていた。
こうしてまず忍者娘は館を出て行った。
「そろそろ私も時間ですね」
「うん、ここまでよく頑張ったね」
何をとは言わない。多分一番頑張ったのは料理の練習だけど。
セリカちゃんが来てからもう2か月近く経っていたのか、そう思うと何だか寂しい気もしないでもない。
「ありがとうございます。また試験が終わったら修行に来ます!」
「……無理はしなくていいと思うけどね」
始めほどは邪険にしないけど、別に無理しなくてもいいよ。
セリカちゃんは少し視線を外し、もじもじとしている。
なんだろうか。
「あの、師匠」
「うん、どうしたのセリカちゃん」
僕の目を見て、意を決したように言葉を紡ぐ。
「あの、お名前で呼んではいけないでしょうか」
「ん?」
すごく緊張している様子で、結構普通のことを聞いてきた。別にそもそも師匠と呼ぶ必要もなかった気はする。
と、そこで思い出したのだが、よく考えたら僕が適当なノリで師匠と呼べって言った気がする。もしかしてそれでずっと師匠呼びだったとか?
「えっと、あの、アヤメがゼロ殿って名前で呼んでいるじゃないですか……わ、私も呼びたいなぁ……って」
なるほど、彼女からしたら師匠よりもゼロの方が距離感が近いと。名前で呼んでいるアヤメちゃんに今までのポジションを取られたように感じたのかもしれない。
「いいよ、というかごめんね。はじめに僕が適当言ったせいで」
「いえ! ……あの、ゼロ様」
「どうしたの?」
はにかんだようにセリカちゃんは笑い、可愛らしかった。
「えへへ、呼んでみただけです」
顔が真っ赤なのを見て、少し僕も恥ずかしくなってきた。
セリカちゃんはすごく照れたように、すごく嬉しそうに僕の名前を呼んでくる。
「まあ、またおいで」
僕の方から眼を逸らして帰宅を促すことにしたのだった。
「はい! 試験が終わってすぐは家族と旅行に行く予定なのですぐには戻れないと思いますが、絶対に戻ってきますね、ゼロ様」
外に出てからも何度かこちらを振り返るようにして森に消えていった。
「ネーカ、いるよね?」
「ぜろ、ドウシタノ」
「今回はレイナさんの魔力もないから、セリカちゃんの護衛をしてくれる?」
「ウン」
初めて森を抜けてここに来たときは、そもそもレイナさんの精神操作によって色々効果もあったが、今は彼女一人だけだ。
多分今の実力で言えばこの森程度ならなんとかなるのかもしれないけど、一応ネーカに護衛を頼んでおく。
するすると音もなく彼女の気配が消えていき、僕は大きく息をついた。
「…………静かだ」
今まで騒いでいた二人がいなくなり、静寂の中で鐘は二度鳴った。




