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第15話 忍者襲来


「……眠れない」


 慣れない部屋だからか、そもそもこの床に寝具を引くという文化のせいだからか。

 外の虫がちろちんちろりんと鳴いているのをBGMに、考え事をしていれば眠れるだろうと思っていたが、残念ながら数時間経っても夢の世界に旅立てていない。


 ……困った。

 別に一日くらい眠らなくてもいいけど、それよりも何かの気配がある。


 ここは忍びの隠密軍団がいる里。

 もしかして誰かに監視されている?



 確かめる手段は一つ。


「いい加減そろそろ出てきませんか?」


 僕は虚空に話しかける。

 正直僕の勘違いだったらすごく恥ずかしいんだけど、誰も聞いていないしいいかなと思っている。


 1秒、2秒、3秒……誰からも返事が来ない。

 やばい、すごく恥ずかしくなってきた。


「何故わかったんだ?」


 なんか床の一部が持ち上げられて男が出てきた、こわ。

 僕はいつでも大声を出せるように準備しつつ、上体を起こす。


 男もやはりアヤメちゃんやダンゾウさんと同じような黒装束を身に纏っているため彼はとりあえずイルガの者なのだろう。


 流石に何となく、とかとりあえず言ってみたとかは口に出せず、僕は謎の余裕感を持って自信満々に答える。


「僕は【不可視】だからね」


 こんな恥ずかしい名乗り方は初めてだ。今が夜で良かった、多分僕の顔は真っ赤だ。


「……なるほどな、流石の二つ名持ちか」


 男はクナイを手にしており、感心しているようだが殺意を隠してはいない。

 正直殺意なんてわからないけど、殺そうという意気込みはわかる。



「で、僕に何の用なの?」


「うん、【不可視】。お前を殺して名声を高めようと思っていたのだ。問答無用!」



 謎の、僕と同い年くらいの男が僕を殺さんと近づいてくる。


「いや、ちょっとストップ」


「なんだ、命乞いか?」


「いや、違うけどちょっとストップストップ」


 男は怪訝そうな感じだったが、どかっと床に胡坐で坐した。恐らく今すぐ殺さないという事を示しているようだ。


 忍者は強情な人が多いけど、話を聞いてくれる人が多い……気がする。


「君、名前は? 流石に全部君呼びだと面倒だけど」


「うむ、俺はコータって言うんだ、よろしくな」


 殺そうとしているのによろしくとは如何ほどか。

 まあいいや、とりあえず殺されるのも痛いだろうからなるべく避ける。


「コータ君、よく考えてほしいんだ。闇討ちをしても名声は高まらないと思うんだ」


「……そうか?」


「冷静に考えてよ。寝込み襲いましたってただの不意打ちだよ? それでコータ君の実力を認めてくれると思う?」


 コータ君は腕組みしながら少し悩み、ぽんと手を叩いた。


「それもそうか!」


「……コータ君、君もしかしてアヤメちゃんの親戚?」


「おう、アヤメは俺の従姉妹だ」


 ……僕は頭を抱える。

 忍者って色々ポンコツが集まるのだろうか、心配になってきた。



「つまり、俺は日中お前に戦いを挑めばいいってことか!」


「いや、そうじゃないでしょ」


「今度はなんだよ、違うのか?」


 なんで忍びが日中で戦いを挑むんだよ。

 忍びらしく隠れてろよと言いたい。でもそれを言うと、不意打ちを了承してしまうようなものなので僕は考える、なるべく僕にクナイの刃を向けない方法を。



「忍びっていうのは暗部組織なのかい? 違うだろ」


「時には暗殺もするぞ。ただ……」


「イルガの民はもっと誇り高い忍びだと思ったんだけどな、コルガと同じか」


 日中に聞いたダンゾウさんからの情報を適当にねじ込む。


「ふざけるな、イルガのみなを愚弄するのか?」


 明らかに地雷を踏み向けたようだ。感情的になっている人間の方が操作はしやすいが、言葉には気を付けなくては。



「本来忍びっていうのはそもそも公になってはいけない組織じゃないのかい? 君はそれを名声だの戦いを挑むだの、本質を理解していない」


「…………」


 僕は忍びとは何も理解していないけど、自分の命大事に口から出枷を言い続ける。


「そんなものが欲しいのなら闇討ちでもすればいいさ。それをして誰が評価してくれるんだい? 君はそんなちんけな評価が欲しいのかい?」


 実際どうなんだろう。二つ名を殺しまくったら色々と有名にはなれるだろうけど、それって何を目標にしているんだろう。

 最強というのは誰にでも勝つから最強であって、誰でも殺せるから最強ではないと思う。


「では俺はどうすればいい?」


「それは知らないよ、自分で考えるといい。でも、そもそも表舞台に立ちたいというのなら、君はもう忍びをやめるべきだ。裏方に向いていないんだよ」


 少しずつ彼を言動で圧殺できている気がする。

 人間言いくるめることがとても大切なのだ。僕は魔法が使えないけど、言葉という魔法で相手を何とか出来るかもしれない。


 多分詭弁だったり言いがかりだったり誤魔化しだったりするわけだけど、戦闘になった瞬間僕は瞬殺されるわけだし、命乞いの代わりに口撃するしかない。



「うん、なんかお前と話していたら、少し考え直した方がいい気がしてきた。忍びとはなんたるか」


「そうだろそうだろ?」


 因みに僕は明日忍びの頭領に話を如何にして断るかを考えている。


「だから今日は一旦撤退して考えがまとまって、それでも僕を殺したくなったらくればいいさ。僕はいつでも待ってる」


 どうせ館に引き籠ってるから、一生会えないんだろうけどね。

 僕は一生裏方で表舞台になんて立ちたくないんだ。



「【不可視】、お前はやはり器がでかい」


「全然だよ」


 やはりが何かわからないけど。


「いやいや、謙遜することはない。力がありながら、それに驕らず思考を回し続ける。強者というのはそういうものなんだな」


 何やらコータ君は右手を差し出してくるので、とりあえず握手をしておく。なんだろう、これ。

 

「ではな、また明日に」


「うん、おやすみ」


 うん、僕は明日君には会わないようにして森に戻るよ。

 彼の気配がなくなってから、僕はのんびりと横になって眠ることにしたのだった。



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