Chapter6卒業編♯5 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
向日葵が教えてくれる、波には背かないで
Chapter6卒業編 √文芸部(波音物語)×√軽音部-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
登場人物
滅びかけた世界
ナツ 16歳女子
ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家。母親が自殺してしまい、その後は一人で旅を続けていたがスズと出会い行動を共にするようになった。
スズ 15歳女子
マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。
ナツと共に奇跡の海を目指してやって来た。
老人 男
ナツの放送を聞いて現れた謎の人物。元兵士の男。緋空浜の掃除を一人でしている。Narumi Kishiと彫られたドッグタグを身に付けているがその正体は・・・
中年期の明日香 女子
老人ともう一人の兵士を見送りに来た、中年期頃の明日香。
七海 女子
中年期の明日香と同じく、老人ともう一人の兵士を見送りに来た少女。年齢は15、16歳。
老人と同世代の男兵士1 男子
中年期の明日香、七海に見送られていた兵士。老人、レキ、男兵士2と同じ隊に所属していた。
レキ 女子
老人たちと同じグループの若い女兵士で、年齢は25歳前後。老人、男兵士1、男兵士2と同じ隊に所属していた。老人とは親しかった様子。
老人と同世代の男兵士2 男子
中年期の老人、男兵士1、レキと同じ隊に所属している兵士。
滅んでいない世界
貴志 鳴海 18歳男子
波音高校三年三組、運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。 Chapter4の終盤に菜摘と付き合い始めた。
早乙女 菜摘 18歳女子
波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。鳴海と付き合っている。生徒会選挙の直後に原因不明の病に襲われ、現在は入院中。
白石 嶺二 18歳男子
波音高校三年三組、鳴海の悪友、不真面目なところもあるが良い奴。文芸部のいじられキャラである。高校卒業後は上京してゲームの専門学校に通うことを考えている。
天城 明日香 18歳女子
波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。夢は保育士になること。最近は受験前のせいでストレスが溜まっている。なんだかんだで響紀とは良い関係。
南 汐莉15歳女子
波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。バンド”魔女っ子少女団”のメインボーカルで歌とギターが得意。20Years Diaryという日記帳で日々の行動を記録している。Chapter5の終盤に死んでしまう。
一条 雪音18歳女子
波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。元天文学部部長で、今は文芸部に所属。真面目な性格のように見えるが・・・
柊木 千春女子
Chapter2の終盤で消えてしまった少女で、嶺二の想い人。
三枝 響紀15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のリーダー兼リードギター担当。クールで男前キャラ、同性愛者、 Chapter3で明日香に一目惚れして以来、彼女に夢中になっている。
永山 詩穂15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のベース担当。基本はマイペースだが、キツい物言いをする時もある。
奥野 真彩15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のドラム担当。バンドの賑やかし要員。
早乙女 すみれ45歳女子
菜摘の母、45歳には見えない若さ美しさを保つ。優しい、とにかく優しい。
早乙女 潤46歳男子
菜摘の父、菜摘とすみれを溺愛しており二人に手を出そうとすれば潤の拳が飛んでくる。自動車修理を自営業でやっている。永遠の厨二病。
神谷 志郎43歳男子
波音高校三年の教師。鳴海、菜摘、嶺二、明日香、雪音の担任。担当教科は数学。文芸部顧問。Chapter5の終盤に死んでしまう。
荻原 早季15歳女子
Chapter5に登場した正体不明の少女。
貴志 風夏24歳女子
鳴海の6つ年上の姉、忙しいらしく家にはほとんど帰ってこない。智秋と同級生で親友関係。いつの間にか看護師の仕事を始めている。
一条 智秋24歳女子
雪音の姉。妹と同じく美人。謎の病に苦しんでいたがChapter3の終盤にドナーが見つかり一命を取り留めたものの、再び体調を崩し現在は入院中。
双葉 篤志18歳男子
波音高校三年二組、天文学部副部長。雪音とは幼馴染み。
有馬 勇64歳男子
波音町にあるゲームセンター“ギャラクシーフィールド”の店主。千春が登場したゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”の開発者でもある。なお現在の”ギャラクシーフィールド”は儲かっている。
細田 周平15歳男子
野球部に所属している一年生。Chapter5では詩穂に恋をしていた。
貴志 紘
鳴海の父親、事故で亡くなっている。菜摘の父、潤と高校時代クラスメートだった。
貴志 由夏理
鳴海の母親、事故で亡くなっている。菜摘の母、すみれと高校時代クラスメートだった。
神谷 絵美29歳女子
神谷の妻。Chapter5では妊娠していた。
波音物語に関連する人物
白瀬 波音23歳女子
波音物語の主人公兼著者。妖術を使う家系『海人』の末裔、そして最後の生き残り。Chapter4の終盤、妖術を使い奈緒衛の魂を輪廻させ、自らの魂も輪廻出来るようにした。
佐田 奈緒衛17歳男子
波音の戦友であり恋仲。優れた剣術を持ち、波音とは数々の戦で戦果をあげた。Chapter4の終盤に死んでしまった人物。
凛21歳女子
波音、奈緒衛を慕う女中。緋空浜の力を持っており、遥か昔から輪廻を繰り返してきた。波音に輪廻を勧めた張本人。体が弱い。奈緒衛と同じくChapter4の終盤に死んでしまった人物。
明智 光秀55歳男子
織田信長と波音たちを追い込み凛を殺した。
織田 信長48歳男子
天下を取るだろうと言われていた武将。
一世 年齢不明 男子
ある時波音が出会った横暴で態度の悪い男。
Chapter6卒業編♯5 √文芸部(波音物語)×√軽音部-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
◯837滅びかけた世界:波音高校三年三組の教室(朝)
教室にいるナツ、スズ、老人
教室の中には机と椅子が30脚以上ある
机に向かって椅子に座っているナツとスズ
ナツとスズが使っている机、椅子は黒板の前に置いてあり、それ以外は後ろに下げられてある
教室の中には小さなゴミやほこりが溜まっている
老人は教卓に座っており、肩にはボルトアクション式のライフルがかけられている
話をしているナツ、スズ、老人
ナツ「たくさんの戦いがあったって言ったけど、本当は戦いから逃げてたんじゃないの?」
老人「そうかもしれないな」
ナツ「あんた、脱走兵なんだよね?」
老人「ああ」
ナツ「やっぱり逃げたんじゃん、戦争から」
少しの沈黙が流れる
スズ「逃げたら良くないの?なっちゃん」
ナツ「たくさんの人類と世界を見捨てて逃げたんだよ、逆に許されると思う?」
スズ「ん〜・・・許されないかもしれないけど・・・それでも、誰かが許してあげないと」
老人「その必要はない」
スズ「なんでよ〜」
老人「俺は許されないからだ」
スズ「それは私が決めることなのに〜!!」
老人「たとえスズが許したとしても、俺は俺のことを絶対に許さないだろう・・・」
再び沈黙が流れる
ナツ「理解出来ない・・・」
老人「何がだ?」
ナツ「どうしてあんた一人が生き残ったの?他の人たちはどうなったの?どうして友達や家族を助けようとしなかったの?どうして・・・苦しんでる人たちから逃げたの・・・?」
少しの沈黙が流れる
老人「俺が弱くて・・・無能で・・・最低な人間だから・・・逃げることしか出来なかったんだ」
◯838貴志家リビング(日替わり/朝)
外では弱い雨が降っている
時刻は七時半過ぎ
制服姿で椅子に座ってニュースを見ている鳴海
キッチンで風夏が弁当を作っている
ニュースキャスター2「今日も一日小雨が・・・」
◯839◯828の回想/波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)
外では弱い雨が降っている
文芸部の部室にいる鳴海、詩穂、真彩
鳴海、詩穂、真彩は椅子に座っている
それぞれの椅子の近くにはカバンが置いてある
教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙、傘立てが置いてある
校庭には水たまりが出来ている
教室の傘立てには3本の傘が立ててある
話をしている鳴海、詩穂、真彩
詩穂「先輩、響紀くんは全員に責任があるって言ってましたけど、私は文芸部の人たちに問題があったんじゃないかって思ってるんです」
真彩「し、詩穂!!」
詩穂「だって一年生がわがままな三年生たちに囲まれてるんですよ?魔女っ子少女団と違って文芸部は独自のルールや締め切りが多いし、朗読劇のことも汐莉のストレスになってると思います」
鳴海「分かってる・・・」
詩穂「分かってるなら!!分かってるんだったら汐莉を助けてくださいよ!!」
鳴海「俺にも・・・優先順位ってものがあるんだ・・・(少し間を開けて)出来るなら俺だって南を助けてやりたいが・・・」
少しの沈黙が流れる
詩穂「先輩は・・・最低な人だ」
◯840回想戻り/貴志家リビング(朝)
外では弱い雨が降っている
時刻は七時半過ぎ
制服姿で椅子に座ってニュースを見ている鳴海
キッチンで弁当の準備をしている風夏
鳴海「(小声でボソッと)最低な人、か・・・」
風夏が弁当を完成させる
風夏「弟〜、お姉様の真心と添加物がたっぷり入った手作り弁当が出来たぞ〜」
立ち上がる鳴海
鳴海「添加物は要らねえだろ・・・」
◯841波音図書館に向かう道中(朝)
弱い雨が降っている
刃の欠けた剣を持った千春が道を歩いている
千春は波音図書館に向かっている
千春は傘を持っていないのにもかかわらず、体が濡れていない
明日香と響紀が千春の正面から歩いて来る
学校を目指している明日香と響紀
明日香と響紀は傘をさしながら楽しそうに話をしている
明日香「今度駅前に出来たティラミスのお店に行ってみない?」
響紀「ぜひ!!明日香ちゃんの食事してる姿を見ることで眼福を・・・」
千春が明日香と響紀が前から歩いて来ることに気づく
千春「(立ち止まって)あ、明日香さ・・・」
明日香と響紀は千春の存在に気づかないまま、千春の横を通り過ぎる
明日香「(呆れながら)またそんな気持ち悪い言葉を・・・」
響紀「美しい明日香ちゃんと、明日香ちゃんの幸せが満たされる甘い物の究極コラボ!!これを眼福と言わずに・・・」
明日香と響紀には千春のことが見えていない
立ち止まったまま明日香と響紀のことを見ている千春
◯842波音高校三年三組の教室(朝)
外では弱い雨が降っている
校庭には水たまりが出来ている
朝のHR前の時間
どんどん教室に入ってくる生徒たち
教室にいる生徒たちは周りにいる人と喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている
黒板の横には傘立てが置いてあり、生徒たちの傘が立ててある
教室に入る鳴海
菜摘、雪音は欠席している
明日香は自分の席でスマホを見ている
嶺二、神谷はまだ来ていない
傘立てに傘を入れ、自分の席にカバンを置く鳴海
チラッと鳴海のことを見る明日香
明日香はスマホを見たまま立ち上がり、鳴海の席のところへ行く
明日香「(スマホを見たまま)今日の昼」
鳴海「昼・・・?」
明日香「(スマホを見たまま)部室」
鳴海「片言で意味が通じると思ってるのか」
明日香「(スマホを見たまま)黙って頷きなさい。今日の昼休み、部室、分かった?」
鳴海「昼は忙しいんだよ。用があるならちゃんとした日本語で今話を・・・」
明日香「(スマホをポケットにしまって鳴海の話を遮り)昼休みは部室に来いって言ってんの」
鳴海「おい、俺にも予定があるんだぞ。好き勝手に約束を取り付けるんじゃ・・・」
明日香「(鳴海の話を遮って)あっそう、部室に来る気はないのね。それなら私も違うことをするから」
鳴海「何だよ?違うことって」
明日香「菜摘へ会いに行く」
少しの沈黙が流れる
鳴海「あいつは関係ないだろ」
明日香「じゃあ部室に来て」
再び沈黙が流れる
鳴海「分かったよ・・・行けば良いんだろ行けば」
◯843波音図書館の前(朝)
弱い雨が降っている
千春は傘を持っていないのにもかかわらず、体が濡れていない
波音図書館の扉の前に立っている千春
千春は刃の欠けた剣を持っている
千春は波音図書館の扉から中を覗いでいる
貸し出しを行うカウンターの上に時計が置いてある
カウンターの上の時計は八時半を指している
波音図書館の中では数人の司書が本の整理をしている
波音図書館の中を覗くのをやめる千春
波音図書館の扉を見る千春
扉には”開館時間 午前10:00〜午後7:00”と書かれたシールが貼られている
千春は扉の前で座り込む
◯844波音高校特別教室の四/文芸部室(昼)
昼休み
外では弱い雨が降っている
文芸部の部室にいる明日香
教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙、傘立てが置いてある
校庭には水たまりが出来ている
明日香は窓から校庭を眺めている
少しすると風夏の手作りを弁当を持った鳴海が部室に入って来る
鳴海「来てやったぞ」
椅子に座る鳴海
明日香「これからどうすんの」
鳴海「飯を食う」
鳴海が持っていた弁当を奪い取る
鳴海「う、奪うなよ!!」
明日香「まるで昨日の私ね・・・」
明日香は鳴海の弁当を教室の隅にあったパソコンの上に置く
椅子に座る明日香
明日香「私が言ってるのは部活のこと。どうすんの」
鳴海「休みにするしかないだろ・・・」
明日香「いつまで休部にするつもり?」
鳴海「サボってる奴ら次第だ。南、一条、それから嶺二・・・あいつらが学校に来ない限り、部活は休みになる」
明日香「少なくとも嶺二と雪音の心配は要らないでしょ」
鳴海「何でそう言い切れるんだよ?」
明日香「今日、嶺二が学校をサボったのは雪音の家に行くためだから」
鳴海「嶺二が・・・一条の家に・・・」
明日香「そう」
鳴海「止めなかったのか・・・?」
明日香「どうして私が止めなきゃならないの」
少しの沈黙が流れる
鳴海「あの二人は裏で何をするか分からないんだぞ・・・」
明日香「じゃあ鳴海が雪音の家に行けば?あんたが雪音を呼び戻せるとは思えないけど」
再び沈黙が流れる
鳴海「これでまたあいつらが余計なことをしたら・・・」
明日香「(鳴海の話を遮って)嶺二と雪音が何をしようが私には関係ないでしょ。責任は副部長のあんたにあるんだから」
鳴海「お前、文芸部を壊す気か」
明日香「別にそんなつもりはないけど?」
鳴海「なら何が目的なんだよ」
明日香「私は響紀の手伝いがしたいだけ」
鳴海「響紀の手伝いか・・・(少し間を開けて)お前も・・・嶺二も・・・一条も・・・響紀も・・・永山も・・・奥野も・・・ろくに文芸部のことを考えてないよな」
明日香「軽音部が文芸部のことをいちいち考えるわけないでしょ。鳴海、あの子たちは朗読劇に参加するためにバンドをやってるんじゃないの」
鳴海「バンドの活動目的の方が俺たちには関係ないだろ!!あいつらがいなきゃ朗読劇は出来ないんだぞ!!」
明日香「そんなことないから。朗読劇は文芸部だけでも成立するって知ってるでしょ、鳴海」
少しの沈黙が流れる
鳴海「ふざけるな・・・お前がどれだけあいつに迷惑をかけたと思ってるんだ・・・」
明日香「あいつ・・・?誰のこと?」
鳴海「自分で考えろ・・・」
明日香「私があんたや嶺二以外の人に迷惑をかけたんだとしたら・・・謝りたいんだけど・・・」
鳴海「諦めるんだな・・・」
明日香「私、本当に誰かを傷つけたの?」
鳴海「ああ」
再び沈黙が流れる
明日香「鳴海、取り引きをしない?」
鳴海「取り引き?」
明日香「そうそう。私は嶺二たちが何を企んでるか教えてあげるから、あんたは私が誰を傷つけたのか、教えてよ」
鳴海「悪いが教える気はない」
明日香「どうして?嶺二と雪音を一緒にするのはまずいんじゃないの?」
鳴海「そうかもな」
明日香「よっぽど言いたくないのね、私が誰を傷つけたのか」
鳴海「ああ。取り引きは失敗だ」
明日香「まあ本当にいるかどうかは分からないから良いけど・・・(少し間を開けて)で、文芸部はどうすんの」
鳴海「手は考えてある、嶺二に先を越されたがな・・・」
明日香「先を越された?何それ」
鳴海「家に行くんだ」
明日香「誰の?」
鳴海「南のだよ」
明日香「直接汐莉を引っ張り出すってわけ?」
鳴海「そうだ」
明日香「(呆れて)乱暴なやり方・・・」
鳴海「向こうが連絡を無視する以上、家に行くのが一番手っ取り早いだろ」
明日香「あんたが好きなようにするのは構わないけど、責任は休んでる菜摘や汐莉、それから部員の私たちにはないからね。合同で朗読劇が出来るか・・・文芸部が廃部になるか・・・鳴海の行動が全てを
決めるのよ」
鳴海「ああ・・・」
立ち上がる明日香
明日香「口にしないと気が済まないから言うけど、嶺二たちは千春を復活させようとしてる」
鳴海「嶺二たちって・・・一条もそうなのか?」
明日香「多分ね。千春を復活させてあげる代わりに、条件として嶺二は雪音の犬になったんじゃない」
鳴海「(舌打ちをして)チッ・・・各々好き勝手に目的を作りやがって・・・」
明日香「無理もないでしょ。みんないろんな取り引きや条件を呑んで朗読劇の準備を進めてきたんだから。今までの鳴海と嶺二の言動を振り返れば、部員たちの目的が変わってきても当然です」
鳴海「(小声でボソッと)クソ犬どもが・・・」
明日香「それはあなたも同じでしょ?菜摘のわんちゃん」
明日香は部室から出て行く
◯845波音図書館(朝)
外では弱い雨が降っている
図書館の歴史コーナーを見ている千春
図書館には千春以外に数人の利用者がいる
周囲を警戒しながら一冊の本を手に取る千春
千春が手に取ったのは“波音町の始まり〜奇跡の力と刻まれた歴史〜”というタイトルの分厚い本で、Chapter1のナツとスズが図書室で読んでいた物と同じ本
本を開く千春
千春「(“波音町の始まり〜奇跡の力と刻まれた歴史〜”を読みながら 声)江戸時代の波音町、とある女が藍染丸という名のボロボロになった刀を護身用として家に置いていた。女は貧しく、年老いた両親の世話をするだけの毎日を過ごしていた。周りにいた人たちは貧乏な彼女のことを馬鹿にした。ボロボロの刀を見て、そんな物では人はおろか豆腐すら切れないぞと。女にとってその刀は代々受け継いできた大切な物だった。もちろん、刀を買い換えるなんてことはしなかった。ある日、女の家からは刀が消えていた。女は刀を失ったことを嘆き、刀が戻ってきて欲しいと強く望んだ。しばらくすると女は背の高く顔が整った男と結婚した。あまりの美形っぷりに驚き、周りにいた人たちは男の名前を聞いた。男は藍染丸と答えた。あのボロボロの刀と同じ名前だったのだ。藍染丸は健康的で女が死ぬまで働き続けた」
本を閉じる千春
千春「(本を棚に戻しながら 声 モノローグ)藍染丸の所有者が菜摘さんの生まれ変わる前の姿・・・?それとも凛の生まれ変わり・・・?」
千春は棚から一冊の本を手に取る
千春が手に取ったのは”波音町のヤバい噂!!奇跡と緋空浜の闇”というタイトルの本
本の表紙を見る千春
本の表紙には著者らしきサングラスをかけた胡散臭い男が写っている
千春「(”波音町のヤバい噂!!奇跡と緋空浜の闇”の表紙を見ながら 声 モノローグ)こ、これは・・・何という怪しい本!!しかも歴史コーナーにあるなんて・・・後で別の場所に移動させないと・・・」
警戒しながら周囲を見る千春
千春の周りには人がいない
再び”波音町のヤバい噂!!奇跡と緋空浜の闇”の表紙を見る千春
千春「(”波音町のヤバい噂!!奇跡と緋空浜の闇”の表紙を見ながら 声 モノローグ)それにしても・・・こんなあからさまに胡散臭い本を真に受ける人がいるのでしょうか・・・?人間とは、自分の目で仕入れた情報以外は信じない生き物だと思っていたのですが・・・」
”波音町のヤバい噂!!奇跡と緋空浜の闇”を開く千春
千春「(”波音町のヤバい噂!!奇跡と緋空浜の闇”をパラパラとめくりながら 声 モノローグ)一応・・・読んでみることにしましょう・・・読まず嫌いは著者のおじ様に失礼ですからね・・・」
”波音町のヤバい噂!!奇跡と緋空浜の闇”をめくるのをやめて、適当なページを読み始める千春
千春「(”波音町のヤバい噂!!奇跡と緋空浜の闇”を読みながら 声)えーっと・・・それは、私が12歳の時だった。よく晴れた日、私が緋空浜を散歩していると、一人の少女を見かけた。歳は15、6くらいだろうか?その少女は浜辺で、一人将棋を嗜んでいる最中だった。当時の私は、将棋のルールを分からなかったが・・・それでも、私は彼女に声をかけた。彼女は一人将棋をしながら、淡々と未来について語ってくれた。そう・・・あの少女は、未来からやって来ていたのだ!!」
勢いよく”波音町のヤバい噂!!奇跡と緋空浜の闇”を閉じる千春
千春「(声 モノローグ)ほ、本の表紙とタイトルにも負けないくらい胡散臭い内容です!!全く!!けしからんのです!!緋空浜を侮辱するのは万死に値します!!!(少し間を開けて)いや、それは嘘です。万死には値しません・・・ですが・・・こんなスカポンタンでアンポンタンな本を世に出した出版社の方は少し気の毒に思います。きっと著者の方に弱みを握られていたのでしょう。それか賄賂ですね。人間とは、お金に弱い生き物なのです」
警戒しながら再び周囲を見る千春
千春「(警戒しながら周囲を見て 声 モノローグ)しかしながら・・・私としたことが、若干この本の続きが気になっています・・・もちろん、波音町の秘密を探るという私の目的からは、ほんの少しばかり遠ざかってしまいますが・・・人間とは、臨機応変に動く生き物なのです!!まあ私は、人間ではなくゲームのキャラクターなんですけど・・・」
周囲を見るのをやめて、適当に”波音町のヤバい噂!!奇跡と緋空浜の闇”を開く千春
”波音町のヤバい噂!!奇跡と緋空浜の闇”を読み始める千春
千春「(”波音町のヤバい噂!!奇跡と緋空浜の闇”を読みながら 声)どれどれ・・・と言っても、未来からやって来たというのは仮定でしかない。彼女の話す地球の未来、すなわち今の私から見た過去の歴史がおおよそは当たっていたものの、それは彼女が未来人だったからではなく、単に予知能力を備えていただけで・・・」
”波音町のヤバい噂!!奇跡と緋空浜の闇”を読むのをやめる千春
千春「(声 モノローグ)予知能力・・・この本の著書の方が出会った少女は、凛と同じ力を持っていたということ・・・?そんな偶然があるのでしょうか・・・?」
”波音町のヤバい噂!!奇跡と緋空浜の闇”をパラパラとめくる千春
千春「(”波音町のヤバい噂!!奇跡と緋空浜の闇”をパラパラとめくりながら 声 モノローグ)人間とは、見落としてしまうようなところにヒントを隠す生き物なのです。この本は輪廻転生や波音物語についても触れているかもしれません。ここは念入りにチェックしておきましょう」
”波音町のヤバい噂!!奇跡と緋空浜の闇”をめくるのをやめて、適当なページを読み始める千春
千春「(”波音町のヤバい噂!!奇跡と緋空浜の闇”を読みながら 声)それは、私が15歳の時だった。当時の私は受験を目前にして、インフルエンザに感染してしまった。インフルエンザの症状はなかなか治らず、母からはお前の受験の結果によっては愛犬の餌代が無くなると脅され、父には大事な営業を控えているから移すなと怒鳴られる毎日を過ごしていた。そんなある日、私は全身が黄色で、触覚の生えた宇宙人に拉致されたのだ。その宇宙人は、2m半近くある身長に、スイカサイズの胸と尻を有する、ダイナマイトボディな・・・」
再び勢いよく”波音町のヤバい噂!!奇跡と緋空浜の闇”を閉じる千春
千春「(声 モノローグ)す、スイカサイズのおっぱいと・・・お尻・・・に、人間の頭よりも大きなおっぱいとお尻があるなんて信じられません!!!一度で良いので拝見してみたいのです!!!い、いや・・・見るだけでは勿体無いですよね・・・ここは人類の代表として、宇宙人と交渉をします!!まあ私は、人間じゃないんですけど・・・しかし!!銀河の平和のためにも!!おっぱいコミュニケーションで外交をするのです!!お互いの胸を触り合えば、きっと心も通じ・・・」
徐々に千春の顔が赤くになる
顔を真っ赤にしながら千春はそっと”波音町のヤバい噂!!奇跡と緋空浜の闇”を棚に戻す
千春「(声 モノローグ)に、人間とは・・・エロに夢中な生き物なのです・・・ま、まあ私は・・・人間じゃないんですけど・・・」
深くため息を吐く千春
千春「(声 モノローグ)学園祭から約5ヶ月・・・私は大きく変わった・・・そう、いろんな意味で・・・変わり果ててしまったのです・・・」
◯846回想/緋空浜(昼)
快晴
浜辺で倒れている千春
千春の横には刃の欠けた剣が置いてある
刃の欠けた剣はChapter2の終盤で千春が使っていた剣と同じ物
波が太陽の光を反射させてキラキラと光っている
少しすると千春が意識を取り戻す
周囲を見る千春
千春「(周囲を見ながら)ここは・・・緋空浜・・・?」
千春は立ち上がる
体についた砂を払う千春
千春は刃の欠けた剣を拾う
千春「(刃の欠けた剣を見ながら)何故これが・・・」
千春は刃の欠けた剣を持ったまま歩き出す
浜辺を散歩している老婆を見つける千春
千春は老婆の元へ駆け寄る
千春「(老婆に向かって)す、すみません・・・ここは緋空浜ですか・・・?」
老婆は千春のことを無視する
千春「(老婆に向かって)あ、あの・・・場所を知りたいんですが・・・」
老婆には千春の声が聞こえておらず、千春の姿も見えていない
老婆は千春の存在に気づかないままどこかに行ってしまう
千春は呆然と立ち尽くしている
足元を見る千春
浜辺に千春の歩いた跡は残っていない
◯847回想/通学路(昼)
波音高校に向かう道を歩いている千春
千春は刃の欠けた剣を持っている
正面から主婦が歩いて来る
立ち止まる千春
千春「(主婦に向かって)きょ、今日の日付を教えてもらえませんか」
主婦は老婆と同じく、千春の声が聞こえておらず、千春の姿も見えていない
主婦は千春の存在に気づかないまま歩いている
主婦を追いかける千春
千春「(主婦を追いかけながら大きな声で)ま、待って!!!」
歩き続ける主婦
千春「私のことが見えてないんですか!?」
主婦は変わらず歩き続ける
主婦を追いかけるのをやめる千春
◯848回想/スクランブル交差点(昼)
スクランブル交差点でたくさんの人が信号待ちをしている
その中には千春もいる
千春は刃の欠けた剣を持っている
少しすると信号が青になる
たくさんの人が交差点を渡り始める
千春も交差点を渡る
千春は交差点の中心で立ち止まる
深呼吸をする千春
千春「(大きな声で)お、おはようございます!!!!」
千春の声が周囲に響き渡るが、千春の声は千春自身にしか聞こえていない
少しの沈黙が流れる
千春「や、やっぱり・・・見えてないし・・・聞こえてない・・・?(少し間を開けて大きな声で)だ、誰か反応してくださーい!!!!」
再び千春の声が周囲に響き渡るが、またしても千春の声は人に届いていない
千春「(声 モノローグ)私は・・・幽霊にしまったのです!!まあ私は、元々命あるものじゃないんですけど」
信号が点滅し始め、慌てて交差点を渡り切る千春
◯849回想/公園(昼過ぎ)
公園にいる千春
ベンチに座って俯いている千春
千春は刃の欠けた剣を持っている
公園には千春以外に人はいない
千春「(俯いたまま)菜摘さんの力が私をこの世に留めたの・・・?で、でも・・・確かに私は・・・病院で消失したはずなのに・・・」
◯850Chapter2◯272の回想/波音総合病院外(夜)
強い雨が降っている
学園祭の後
波音総合病院の外で座っている嶺二と千春
千春の横には刃の欠けた剣が置いてあり、嶺二は刃のかけらを持っている
泣いている嶺二
嶺二「(泣きながら大きな声で)また会えるって信じてる!!!!俺待ってる!!!!千春ちゃんと会える日まで待ってるから!!!!!」
千春「さようなら嶺二さん・・・大好きです・・・」
◯851回想/公園(昼過ぎ)
公園にいる千春
ベンチに座って俯いている千春
千春は刃の欠けた剣を持っている
公園には千春以外に人はいない
千春「(俯いたまま)嶺二さん・・・」
顔を上げる千春
汗だくの太った中年の男が千春の上に座ろうとしている
驚いて立ち上がる千春
千春「(汗だくの太った中年の男に向かって怒りながら)わ、私が座ってたんですよ!!」
汗だくの太った中年の男はポケットからハンカチを取り出し、額の汗を拭き始める
千春「(汗だくの太った中年の男に向かって怒りながら)む、無視しないでください!!」
太った中年の男を汗を拭き終え、ポケットにハンカチをしまう
千春「(太った中年の男に向かって怒りながら)人の上に座ろうとするなんて失礼です!!まあ私は人間じゃないんですけど!!」
太った中年の男は、ハンカチをしまったポケットとは別のポケットからガラケーを取り出す
太った中年の男はどこかに電話をかける
太った中年の男「(電話をしながら)もしもし・・・はい・・・石田です・・・もう一度、ご検討を・・・はい・・・僕にはこの仕事しかないんです・・・」
電話先の男が太った中年の男怒鳴っている
太った中年の男「(電話をしながら)お願いします・・・次は失敗をしないように・・・」
電話が切れる
太った中年の男「も、もしもし・・・?」
ため息を吐く太った中年の男
ポケットにガラケーをしまう太った中年の男
千春は太った中年の男の隣に座る
千春「(太った中年の男に向かって)また頑張りましょう、ね?」
太った中年の男「ああ・・・早く死にたいな・・・」
立ち上がる太った中年の男
太った中年の男は公園から出て行く
千春「(立ち上がり)あっ、待って・・・」
太った中年の男に千春の声は届かない
少ししてから再びベンチに座る千春
千春「人間とは・・・前を向いて幸せを掴む生き物なのです・・・下を向いていれば、落ちてしまうのが人間なのです・・・」
◯852Chapter3◯293の回想/波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)
文芸部の部室にいる鳴海、菜摘、千春
教室の隅にプリンター一台と部員募集の紙が置いてある
椅子に座りパソコンと向かい合ってタイピングをしている鳴海
鳴海は小説を手元に置きながらタイピングをしている
菜摘は読書をしている
鳴海と菜摘には千春の姿が見えていない
千春は刃の欠けた剣を持っている
外で活動している運動部の掛け声が聞こえる
鳴海「(タイピングをしながら)しかしあれだなー」
菜摘「(本を閉じて)んー?」
鳴海「(タイピングをしながら)文芸部も寂れたなぁ・・・」
菜摘「そうだね・・・」
千春「(大きな声で)私はここにいます!!!ここにいるんです!!!」
千春の声は鳴海と菜摘には聞こえていない
鳴海「(タイピングをしながら)俺と嶺二の部誌が仕上がったら、また部員集めでもするかぁー」
菜摘「ビラ配りのバイトをしてる子に声をかける?」
鳴海「(タイピングをしながら)おう、文芸部に入れて学校に忍び込ませる」
菜摘「(笑いながら)怒られちゃうね」
鳴海「(タイピングをしながら)今度はは怒られないように上手いこと・・・」
千春「大きな声で)鳴海さん!!!菜摘さん!!!」
千春の声は変わらず鳴海と菜摘には届かない
鳴海と菜摘は楽しそうに話を続ける
千春「(声 モノローグ)どうやら私は消え損ねたようです。ゲームの世界から飛び出したのは良いものの、結局人間には成り切れず、幽霊のようにふわふわと漂う存在になってしまいました」
◯853回想戻り/波音図書館(朝)
外では弱い雨が降っている
図書館の歴史コーナーを見ている千春
図書館には千春以外に数人の利用者がいる
千春「(本棚を見ながら 声 モノローグ)初めは戸惑ったけど・・・私も順応することを覚えたのです。もっとも、このフリーダムな生活によって、私の性格は変わってしまったんですが・・・」
周囲を警戒しながら一冊の本を手に取る千春
本を開く千春
千春「(本を読みながら 声 モノローグ)変化とは、人間に必要な過程なのです。私は人間になり損ねましたが、少しでも人間に近づけるように頑張っています」
本を閉じる千春
千春「(本を棚に戻しながら 声 モノローグ)当面の目標は、菜摘さんを救うことと、文芸部の皆さんとコミュニケーションを取ることの二つ。まず菜摘さんを救うには、奇跡について調べないと・・・」
千春は棚から一冊の本を手に取る
千春が手に取ったのは“波音町の知られざる歴史と暮らし”というタイトルの本
適当に“波音町の知られざる歴史と暮らし”を開く千春
千春が開いたページには、廃寺と化した緋空寺の写真が載っている
千春「(“波音町の知られざる歴史と暮らし”を読みながら 声)とりわけ波音町の中でも異彩を放っているのが緋空寺だ。緋空寺は建設時期や宗派が不明で、いつ廃寺になったかのも分かっていない。目立った情報と言えば、白瀬波音関連のことだろう。かの有名な波音物語は、緋空寺で執筆されている。というのも、波音は緋空寺に身を置いていたからだ。緋空寺の境内には二基のお墓があり、一基が白瀬波音、もう一基には佐田奈緒衛が眠っているとされる。現在、緋空寺は立ち入り禁止になっていて、近づくことも・・・」
“波音町の知られざる歴史と暮らし”を読むのをやめる千春
千春「(声 モノローグ)緋空寺・・・ここに行けば波音町の秘密が・・・いや・・・そんな単純なことはないはずです・・・緋空寺が神秘的な場所なら、はるか昔に歴史学者たちが調べ尽くしているでしょう。専門家の彼らにも分からないことだとすれば、緋空寺の謎は一筋縄ではいきません・・・」
再び“波音町の知られざる歴史と暮らし”を読み始める千春
千春「(“波音町の知られざる歴史と暮らし”を読みながら 声)波音町にある奇跡・・・正確に言うと緋空浜の奇跡だが、定かではないことがある。それは、白瀬波音の力のことだ。波音村の人々は、波音が持つ異次元の力に生活を潤してもらっていたとされるが、では波音町の奇跡とは何だろうか?白瀬波音の魔法の力のことか、それとも本当に町が奇跡を起こすのか。奇妙なのが、江戸時代の末期ごろまでは白瀬波音の力と極めて近しい力を持った者の記録が残っていることだ。今や波音町の輪廻転生伝説を信じる者は少ないが、奇跡が人為的にしか起きないのであれば、輪廻転生もまた、何者かの強力な意志によって引き起こされているのかもしれない」
“波音町の知られざる歴史と暮らし”を閉じる千春
千春「(声 モノローグ)私が消えていないのは緋空浜が奇跡を起こしたから・・・?それにしては・・・中途半端というか、失敗しているようにも思えますが・・・しかし・・・確実に菜摘さんの力は私の元から離れています・・・(少し間を開けて)菜摘さんは白瀬波音の生まれ変わり・・・それは間違いないです。分からないのは凛の魂・・・推論で目星をつけるんだとしたら、彼女の生まれ変わりは・・・」
“波音町の知られざる歴史と暮らし”を棚に戻して、また別の本を手に取ろうとする千春
千春が手に取ろうとしている本は高い位置にある
爪先立ちをする千春
千春が手に取ろうとしているのは”女武将だった白瀬波音が町の名前になるまで”というタイトルの本
爪先立ちで何とか”女武将だった白瀬波音が町の名前になるまで”を引っ張り出す千春
千春が本棚から”女武将だった白瀬波音が町の名前になるまで”を完全に引き抜いた瞬間、周りにあった数冊の本が落ちる
千春「や、やってしまった・・・」
恐る恐る周囲を見る千春
歴史コーナーには千春以外に一人の男がいる
男は目を丸くして床に落ちた数冊の本を見ている
男には千春の姿が見えていないが、千春の持っている”女武将だった白瀬波音が町の名前になるまで”は見えている
男には”女武将だった白瀬波音が町の名前になるまで”が浮かんでるように見えている
慌てて持っていた”女武将だった白瀬波音が町の名前になるまで”を落とす千春
男には宙に浮かんでいた”女武将だった白瀬波音が町の名前になるまで”が突然落ちたように見える
少しの沈黙が流れる
床に落ちた”女武将だった白瀬波音が町の名前になるまで”を呆然と見ている男
千春は走ってその場から逃げる
急いで図書館から出る千春
貸し出しのカウンターにいた司書には、誰もいないはずの自動ドアが勝手に開閉しているように見える
不思議そうに自動ドアを見ている司書
波音図書館の外に出て来た千春
弱い雨が降っている
図書館の扉の前で深呼吸をする千春
千春「(声 モノローグ)そうなのです・・・これこそがこの生活の最大のデメリット・・・見えない存在になったのは基本的に私のみ・・・とっても不都合だと声を大にして言いたいのです。まあ、私が声を大にしたところで誰にも届かないんですけど・・・(少し間を開けて)境界線は自分でも分かっていません」
歩き出す千春
千春の体は雨に濡れていない
◯854回想/駅ビル前(昼)
快晴
駅ビルの前にいる千春
駅ビル自動ドアの近くから駅ビルの中を覗いている千春
千春は駅ビルの中にあるクマのぬいぐるみのお店を見ている
千春は刃の欠けた剣を持っている
千春「(駅ビルの自動ドアから駅ビルの中にあるクマのぬいぐるみのお店を覗きながら)あ、あれは・・・嶺二さんが取ってくれたぬいぐるみと同じ種類の・・・」
駅ビルの自動ドアに向かって歩き出す千春
千春「(勢いよく駅ビルの自動ドアに体をぶつけて)あいたっ!!」
よろける千春
駅ビルの自動ドアは開いていない
千春のおでこが赤くなっている
涙目でおでこを押さえる千春
千春は涙目でおでこを押さえながら、今度は慎重に駅ビルの自動ドアに近づく
駅ビルの自動ドアの前で立ち止まる千春
駅ビルの自動ドアは変わらず開いていない
千春「(おでこを押さえたまま)開けてくださーい・・・」
千春はおでこを押さえるのをやめる
駅ビルの自動ドアの前で飛び跳ねる千春
駅ビルの自動ドアは反応しない
千春「(駅ビルの自動ドアの前で飛び跳ねながら)おーい・・・ここにいるんですよー」
微動だにしない駅ビルの自動ドア
飛び跳ねるのをやめる千春
千春「良いでしょう・・・あなたがその気なら、私にも考えがあります」
千春は刃の欠けた剣を駅ビルの自動ドアに向かって構える
千春「(刃の欠けた剣を駅ビルの自動ドアに向かって構えたまま)同じ人ならざる者同士の間柄なので、なるべく手荒なことはしたくないのですが・・・(少し間を開けて)まあ私は、あなたよりもかなり人間的ですけどね・・・」
刃の欠けた剣を駅ビルの自動ドアに向かって振り下ろす千春
駅ビルの自動ドアが開く
刃の欠けた剣を振り下ろしていた千春の動きが止まる
千春の後ろから一人のOLが駅ビルの中に入って行く
慌ててOLの後に続く千春
駅ビルの中に入った千春
千春「(駅ビルぼ自動ドアに向かって)出る時は開けてくださいね・・・」
◯855回想戻り/波音図書館の裏(朝)
弱い雨が降っている
波音図書館の裏にいる千春
波音図書館の裏には花壇、プランター、植木鉢があり、それぞれにたくさんの植物が植えてある
千春はプランターの隙間に手を突っ込んでいる
千春の体は雨に濡れていない
プランターの隙間から刃の欠けた剣を取り出す千春
千春は刃の欠けた剣を見ている
千春「(刃の欠けた剣を見ながら 声 モノローグ)幽霊になった私に影響を受けるアイテムもあります。例えばこの剣は、私が持っている時だけ人間の視界から消えるようです」
◯856回想/公園(昼)
快晴
公園にいる千春
公園には大きな木が一本生えている
千春は公園のベンチに座っている
千春は刃の欠けた剣を持っている
公園には千春以外に人はいない
大きなあくびをする千春
千春「眠い・・・少し休もう・・・」
千春は刃の欠けた剣をベンチに立て掛ける
俯き眠り始める千春
時間経過
夕日が沈みかけている
少年たちの遊ぶ声が公園内に響いている
目を覚ます千春
体を伸ばす千春
千春「(体を伸ばしながら)少し寝過ぎましたね・・・今日はこの後も図書館に・・・」
千春はベンチを見る
ベンチに立て掛けてあったはずの刃の欠けた剣が無くなっている
目を擦る千春
千春は少しの間ベンチを見続ける
我に返って慌てて立ち上がる千春
千春「な、ない!?なくなった!?」
ベンチの下を確認する千春
ベンチの下に刃の欠けた剣はない
千春はベンチの周りを見るが、ベンチの周りに刃の欠けた剣はない
千春「ど、どうしよう・・・ギャラクシーフィールド時代の私の思い出が・・・」
公園では変わらず少年たちの遊ぶ声が響いている
少年1「俺にはこの聖剣エクスカリバーがある!!」
少年2「な、なにぃ!?」
千春「えくすかりばあ?」
少年たちの声が聞こえる方を見る千春
少年1が刃の欠けた剣を構えている
木の棒を持った少年2と少年3が少年1とチャンバラをしようとしている
少年たちの年齢は10歳前後
千春「(少年1を指差して大きな声で)あー!!!それ私のですー!!!返してくださいー!!!」
少年たちに千春の声は届かない
少年3「(木の棒を構えたまま)そんな壊れかけのおもちゃのどこがエクスカリバーなんだ!!」
少年1「(刃の欠けた剣を構えたまま)折れてる方が格好良いだろ!!きっとたくさんの戦いで傷がついちゃったんだよ!!」
少年2「(木の棒を構えたまま)傷がついてる剣なんかダセえ!!」
千春「おもちゃじゃないのです・・・それにダサくないのです・・・」
5時のチャイムが鳴る
少年2「や、やばい!!もう5時だ!!」
少年3「今日は帰ろうぜ!!熱血爆裂ガリャーマンの放送が始まる前にさ!!」
少年1「えー!!戦いはー!?」
少年2「また明日で良いじゃん!」
少年1「せっかく良い武器を見つけたのになぁ・・・」
少年1は名残惜しそうに刃の欠けた剣を放り投げる
千春「あっ・・・」
刃の欠けた剣は綺麗な放物線を描いて、公園に生えていた大きな木に引っかかる
少年1に続いて、少年2、3も大きな木の方へ棒を投げる
少年2、3が投げた棒は、刃の欠けた剣と同じように大きな木に引っかかる
少年たちは話をしながら公園から出て行く
千春は大きな木があるところへ向かう
刃の欠けた剣は大きな木の頂上で引っかかっている
大きな木を見上げている千春
千春「(大きな木を見上げたまま小声でボソッと)少年とは・・・武器を愛する生き物なのです・・・」
千春は大きな木を揺らそうとするが、木が丈夫過ぎて全く動かない
大きな木を揺らすのを諦める千春
千春は大きな木から少し離れる
千春は公園の中にある石を拾い始める
時間経過
千春は両手にたくさんの石を抱えている
刃の欠けた剣を狙って石を投げる千春
石は刃の欠けた剣に当たらない
千春は石を投げ続けるが、全て刃の欠けた剣に当たらない
時間経過
大きな木の目の前に立っている千春
千春は拳を握り締める
千春「(拳を握り締めたまま)分かりました・・・正拳突きであなたを真っ二つにしてあげましょう。こう見えても私は、悪霊退治の誇り高き戦士なのです」
握り締めた拳を後ろに引く千春
千春は思いっきり大きな木を殴る
一瞬で涙目になる千春
千春が殴った衝撃で、枯葉が数枚落ちて来る
刃の欠けた剣は変わらず大きな木の頂上で引っかかっている
涙目で右手にフーフーと息を吹きかける千春
千春の右手は赤くなっている
少しの間千春は右手に息を吹きかけ続ける
千春「(右手に息を吹きかけるのをやめて)わ、私の専門は剣術ですので・・・」
時間経過
大きな木を見上げている千春
千春「(大きな木を見上げながら)こうなったら最終手段を使います・・・」
深くため息を吐く千春
千春は大きな木に手と足をかける
千春は木登りを始める
千春「(木登りをしながら)よいしょっと・・・」
器用に木登りをする千春
千春あっという間に大きな木の頂上まで登り詰める
大きな木の枝の隙間に引っかかっていた刃の欠けた剣を手に取る千春
千春「さて・・・戻りますか・・・」
千春が乗っていた大きな木の枝から軋むような音が聞こえて来る
千春「(大きな木の枝を見て)ん・・・?この音は・・・?」
千春が乗っていた大きな木の枝が折れ、千春は木から落ちる
千春「(頭を手で押さえながら体を起こして)いたたたたたた・・・幽霊が木登りしただけなのに・・・何故折れたの・・・」
頭を押さえるのをやめて立ち上がる千春
千春は刃の欠けた剣を探す
千春は周囲を見るが、刃の欠けた剣をどこにも落ちていない
千春「う、嘘・・・まさかまだ木の上に・・・」
千春は急いで大きな木から離れ、木の全体を見る
刃の欠けた剣は、大きな木の中腹部分に引っかかっている
千春「また登れってことですか・・・」
千春は大きな木へ近づく
再び大きな木に手と足をかける千春
千春は再び木登りを始める
◯857回想戻り/波音図書館の裏(朝)
弱い雨が降っている
波音図書館の裏にいる千春
波音図書館の裏には花壇、プランター、植木鉢があり、それぞれにたくさんの植物が植えてある
千春の体は雨に濡れていない
刃の欠けた剣を見ている千春
千春「(刃の欠けた剣を見ながら 声 モノローグ)この5ヶ月間、何かと苦労が多いのです・・・性格が変わってしまうのも無理はありません・・・半透明になったメリットは水に濡れないことくらいで、あとはデメリットばかり。さながら私は、悪魔に魂を売った愚かな人間のようです。まあ私は、人間じゃないんですけど」
◯858波音高校に向かう道中(昼前)
弱い雨が降っている
波音高校を目指している千春
千春は刃の欠けた剣を持っている
千春の体は雨に濡れていない
千春「(声 モノローグ)少し早いですが、波音高校に向かってみましょう。文芸部の美しい友情を見守るのも、私の役目です。と言っても、最近の文芸部は・・・美しい友情や爽やかな青春とは程遠くなっています・・・(少し間を開けて)人間社会とは、脆くてすぐに壊れてしまうような関係で出来ているのでしょうか?」
◯859◯747の回想/波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/昼過ぎ)
外では強い雨が降っている
遠くの方では雷が鳴っている
文芸部の部室にいる鳴海、明日香、嶺二、汐莉、千春、響紀、詩穂、真彩
鳴海、明日香、嶺二、汐莉、響紀、詩穂、真彩には千春の姿が見えていない
千春は刃の欠けた剣を持っている
円の形に椅子が並べられてある
教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙、傘立てが置いてある
教室の中の傘立てには7本の傘が立ててある
校庭には水たまりが出来ている
窓際で鳴海が嶺二の胸ぐらを掴んでいる
鳴海から顔を背けている嶺二
嶺二「(鳴海に胸ぐらを掴まれ顔を背けたまま)悪い・・・あれは嘘だ・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海は渋々嶺二の胸ぐらを離す
鳴海は自分の席に戻ろうとする
汐莉「嶺二先輩、大丈夫ですか?」
嶺二「まーな・・・大したことじゃねえよ」
鳴海はいきなり振り返って嶺二の顔面を思いっきり殴る
殴られた拍子に倒れる嶺二
鳴海「(怒鳴り声で)裏切りやがって!!!!!」
殴られた嶺二の頬を赤くなっている
千春「な、鳴海さん!!!」
千春の声は鳴海には届かない
嶺二のところへ駆け寄る千春
千春の姿は変わらず誰にも見えていない
鳴海「(怒鳴り声で)お前のせいで文芸部は廃部になるかもしれないんだぞ!!!!!」
嶺二「んなことくらい分かってるよ・・・」
少しの沈黙が流れる
立ち上がる嶺二
鳴海「今日はもう帰れ・・・」
明日香「えっ・・・?」
鳴海「今日はもう帰ってくれ・・・」
明日香「何でよ?」
鳴海「良いから・・・早く帰るんだ・・・」
千春「み、皆さん!!今までみたいに話し合いをしましょうよ!!」
千春の声は鳴海たちには届かない
響紀「行こう、明日香ちゃん」
明日香「そうね・・・」
千春「(大きな声で)明日香さん!!!」
明日香と響紀はカバンを持って立ち上がる
千春「明日香さんを止めるにはどうしたら・・・」
千春は周囲を見る
千春「(明日香が座っていた椅子を見て)そうだ!」
傘立てから傘を取り出す明日香と響紀
千春は明日香が座っていた椅子を倒す
鳴海たちには椅子が一人で勝手に倒れたように見えている
千春「(大きな声で)話し合いましょう!!!人間とは、会話を大切にする生き物なのです!!!」
鳴海たちは倒れた椅子のことを見ている
真彩「(倒れた椅子を見たまま)心霊現象・・・?」
詩穂「(倒れた椅子を見たまま)ゆ、幽霊なんていないって・・・」
少しの沈黙が流れる
明日香「じゃ、私たちは帰るから」
響紀「お疲れ様です」
部室を出る明日香と響紀
千春「(声 モノローグ)部室の窓を全て破壊したら私のことを・・・(首を横に振り少し間を開けて)ダメですよね・・・そんなことをしても・・・」
◯860波音高校に向かう道中(昼前)
弱い雨が降っている
波音高校を目指している千春
千春は刃の欠けた剣を持っている
千春の体は雨に濡れていない
千春「(声 モノローグ)文芸部の皆さんとは筆談も出来ません・・・(少し間を開けて)この生活は私への罰・・・ゲームセンターギャラクシーフィールドを救いたいと願った私の・・・菜摘さんの力を使わせてしまった私の・・・人間社会に憧れたゲームキャラクターへの罰なのです。私は彼らの仲間に入ることも、この世から消え去ることも出来なかった。菜摘さんが弱る姿と、壊れ行く文芸部の顛末を、私は見続けなきゃいけないのかもしれない。正直に打ち明けると、この生活はとても惨めなものです。嶺二さんや菜摘さんとお喋りが出来ず、彼らの生活に憧れを抱き、同時に嫉妬しています。そして少しでも気を抜けば、孤独という絶望で頭がいっぱいになるわけです。まあこんな生活でも・・・永遠とゲームの中に閉じこもってるよりは良いですけど・・・」
千春は歩き続ける
少しすると波音高校が見えてくる
千春「(声 モノローグ)今、文芸部の皆さんは立ち止まっている。人間には人間ならではの悩みがあって、必ずしも友情や恋愛の終着点が幸せを招くとは断言出来ない・・・複雑に絡み合った意志が戦うことで、苦しみが生まれる場合もあります。だからこそ私は・・・もう一度の文芸部の輪へ戻りたいのです。友人として、彼らが抱えている問題を解決するために・・・(少し間を開けて)私は変わりました、性格も、立場も、状況も、学園祭の頃とはまるで違います。今の私なら、苦しんでる人や悩んでる人の手を引っ張れるでしょうか?」
波音高校の前で立ち止まる千春
千春「(声 モノローグ)いや・・・私が引っ張らなきゃいけないのです。幽霊のような私が・・・菜摘さん、鳴海さん、汐莉の手を・・・」
◯861波音高校特別教室の四/文芸部室(昼)
◯844と同じシーン
昼休み
外では弱い雨が降っている
文芸部の部室にいる鳴海、明日香、千春
鳴海と明日香には千春の姿が見えていない
千春は刃の欠けた剣を持っている
鳴海と明日香の会話を見聞きしている千春
教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙、傘立て、鳴海の弁当が置いてある
校庭には水たまりが出来ている
鳴海「家に行くんだ」
明日香「誰の?」
鳴海「南のだよ」
明日香「直接汐莉を引っ張り出すってわけ?」
鳴海「そうだ」
千春「私も汐莉の手を引っ張りに行きたいです!!」
鳴海と明日香には千春の声は聞こえていない
明日香「(呆れて)乱暴なやり方・・・」
鳴海「向こうが連絡を無視する以上、家に行くのが一番手っ取り早いだろ」
千春「はい!!お家に行きましょう!!」
千春の声は鳴海と明日香には届いていない
明日香「あんたが好きなようにするのは構わないけど、責任は休んでる菜摘や汐莉、それから部員の私たちにはないからね。合同で朗読劇が出来るか・・・文芸部が廃部になるか・・・鳴海の行動が全てを決めるのよ」
鳴海「ああ・・・」
千春「明日香さんも鳴海さんと一緒に・・・」
立ち上がる明日香
千春「(声 モノローグ)明日香さんは汐莉の恋敵でした・・・(少し間を開けて)汐莉の家には私と鳴海さんの二人で行った方が良さそうです・・・」
鳴海と明日香は会話を続けている
明日香「口にしないと気が済まないから言うけど、嶺二たちは千春を復活させようとしてる」
千春「わ、私嶺二さんと雪音さんに復活したいなどと頼んだ覚えはないのです!!」
千春の声は鳴海と明日香には届いていない
鳴海「嶺二たちって・・・一条もそうなのか?」
立ち上がる明日香
明日香「口にしないと気が済まないから言うけど、嶺二たちは千春を復活させようとしてる」
鳴海「嶺二たちって・・・一条もそうなのか?」
明日香「多分ね。千春を復活させてあげる代わりに、条件として嶺二は雪音の犬になったんじゃない」
鳴海「(舌打ちをして)チッ・・・各々好き勝手に目的を作りやがって・・・」
鳴海に向かって頭を下げる千春
千春「(鳴海に向かって頭を下げたまま)ごめんなさい鳴海さん・・・消え損ないの私のせいで・・・また文芸部の皆さんにご迷惑を・・・」
千春は頭を下げ続けるが、鳴海と明日香にその姿は見えない
千春「(鳴海に向かって頭を下げたまま 声 モノローグ)嶺二さん・・・お願いです・・・もう私のことを忘れて前に進んでください・・・あなたが立ち止まっていては、文芸部も滞ってしまいます・・・」
頭を上げる千春
千春「(声 モノローグ)嶺二さん、ほとんどの人間は、失恋を経験するものです・・・菜摘さんと鳴海さんのような美しい恋も中にはありますが、反対に私と嶺二さんのように上手くいかない恋もあります・・・嶺二さん、人間とは・・・終わってしまった恋に心を掴まれる生き物ではないのです・・・(少し間を開けて)人間の恋が切ないのは、失恋をしてもその先にまた新しい恋が待っているからだと思います・・・」
鳴海と明日香は変わらず会話を続けている
鳴海「(小声でボソッと)クソ犬どもが・・・」
明日香「それはあなたも同じでしょ?菜摘のわんちゃん」