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Chapter6卒業編♯4 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海

向日葵が教えてくれる、波には背かないで


Chapter6卒業編 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海


登場人物


滅びかけた世界


ナツ 16歳女子

ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家。母親が自殺してしまい、その後は一人で旅を続けていたがスズと出会い行動を共にするようになった。


スズ 15歳女子

マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。

ナツと共に奇跡の海を目指してやって来た。


老人 男

ナツの放送を聞いて現れた謎の人物。元兵士の男。緋空浜の掃除を一人でしている。Narumi Kishiと彫られたドッグタグを身に付けているがその正体は・・・


中年期の明日香 女子

老人ともう一人の兵士を見送りに来た、中年期頃の明日香。


七海 女子

中年期の明日香と同じく、老人ともう一人の兵士を見送りに来た少女。年齢は15、16歳。


老人と同世代の男兵士1 男子

中年期の明日香、七海に見送られていた兵士。老人、レキ、男兵士2と同じ隊に所属していた。


レキ 女子

老人たちと同じグループの若い女兵士で、年齢は25歳前後。老人、男兵士1、男兵士2と同じ隊に所属していた。老人とは親しかった様子。


老人と同世代の男兵士2 男子

中年期の老人、男兵士1、レキと同じ隊に所属している兵士。






滅んでいない世界


貴志 鳴海(なるみ) 18歳男子

波音高校三年三組、運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。 Chapter4の終盤に菜摘と付き合い始めた。


早乙女 菜摘(なつみ) 18歳女子

波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。鳴海と付き合っている。生徒会選挙の直後に原因不明の病に襲われ、現在は入院中。


白石 嶺二(れいじ) 18歳男子

波音高校三年三組、鳴海の悪友、不真面目なところもあるが良い奴。文芸部のいじられキャラである。高校卒業後は上京してゲームの専門学校に通うことを考えている。


天城 明日香(あすか) 18歳女子

波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。夢は保育士になること。最近は受験前のせいでストレスが溜まっている。なんだかんだで響紀とは良い関係。


南 汐莉(しおり)15歳女子

波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。バンド”魔女っ子少女団”のメインボーカルで歌とギターが得意。20Years Diaryという日記帳で日々の行動を記録している。Chapter5の終盤に死んでしまう。


一条 雪音(ゆきね)18歳女子

波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。元天文学部部長で、今は文芸部に所属。真面目な性格のように見えるが・・・


柊木 千春(ちはる)女子

Chapter2の終盤で消えてしまった少女で、嶺二の想い人。


三枝 響紀(ひびき)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のリーダー兼リードギター担当。クールで男前キャラ、同性愛者、 Chapter3で明日香に一目惚れして以来、彼女に夢中になっている。


永山 詩穂(しほ)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のベース担当。基本はマイペースだが、キツい物言いをする時もある。


奥野 真彩(まあや)15歳女子

波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のドラム担当。バンドの賑やかし要員。


早乙女 すみれ45歳女子

菜摘の母、45歳には見えない若さ美しさを保つ。優しい、とにかく優しい。


早乙女 (じゅん)46歳男子

菜摘の父、菜摘とすみれを溺愛しており二人に手を出そうとすれば潤の拳が飛んでくる。自動車修理を自営業でやっている。永遠の厨二病。


神谷 志郎(しろう)43歳男子

波音高校三年の教師。鳴海、菜摘、嶺二、明日香、雪音の担任。担当教科は数学。文芸部顧問。Chapter5の終盤に死んでしまう。


荻原 早季(さき)15歳女子

Chapter5に登場した正体不明の少女。


貴志 風夏(ふうか)24歳女子

鳴海の6つ年上の姉、忙しいらしく家にはほとんど帰ってこない。智秋と同級生で親友関係。いつの間にか看護師の仕事を始めている。


一条 智秋(ちあき)24歳女子

雪音の姉。妹と同じく美人。謎の病に苦しんでいたがChapter3の終盤にドナーが見つかり一命を取り留めたものの、再び体調を崩し現在は入院中。


双葉 篤志(あつし)18歳男子

波音高校三年二組、天文学部副部長。雪音とは幼馴染み。


有馬 (いさむ)64歳男子

波音町にあるゲームセンター“ギャラクシーフィールド”の店主。千春が登場したゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”の開発者でもある。なお現在の”ギャラクシーフィールド”は儲かっている。


細田 周平(しゅうへい)15歳男子

野球部に所属している一年生。Chapter5では詩穂に恋をしていた。


貴志 (ひろ)

鳴海の父親、事故で亡くなっている。菜摘の父、潤と高校時代クラスメートだった。


貴志 由夏理(ゆかり)

鳴海の母親、事故で亡くなっている。菜摘の母、すみれと高校時代クラスメートだった。


神谷 絵美(えみ)29歳女子

神谷の妻。Chapter5では妊娠していた。


波音物語に関連する人物






白瀬 波音(なみね)23歳女子

波音物語の主人公兼著者。妖術を使う家系『海人』の末裔、そして最後の生き残り。Chapter4の終盤、妖術を使い奈緒衛の魂を輪廻させ、自らの魂も輪廻出来るようにした。


佐田 奈緒衛(なおえ)17歳男子

波音の戦友であり恋仲。優れた剣術を持ち、波音とは数々の戦で戦果をあげた。Chapter4の終盤に死んでしまった人物。


(りん)21歳女子

波音、奈緒衛を慕う女中。緋空浜の力を持っており、遥か昔から輪廻を繰り返してきた。波音に輪廻を勧めた張本人。体が弱い。奈緒衛と同じくChapter4の終盤に死んでしまった人物。


明智 光秀(みつひで)55歳男子

織田信長と波音たちを追い込み凛を殺した。


織田 信長(のぶなが)48歳男子

天下を取るだろうと言われていた武将。


一世(いっせい) 年齢不明 男子

ある時波音が出会った横暴で態度の悪い男。

Chapter6卒業編♯4 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海


◯809社殿/女中の寝室(500年前/朝方)

 女中たちが眠る広い和室

 和室の中は薄暗く汚らしい

 たくさんの女中たちがボロボロの布団で眠っている

 女中の中には凛がいる

 汗だくでうなされている凛


老人「(声)俺は一度も勝てなかった・・・」

ナツ「(声)あんなふうに歳を取りたくない・・・」

スズ「(声)さよならをしなくて良いなら・・・」


 ナツ、スズ、老人の声が被さるようにどこからか響いてくる

 

凛「(うなされながら)波音様・・・奈緒衛様・・・」

レキ「(声)目が甘えんだよ・・・もっと本気で狙え・・・」

七海「(声)行っちゃダメ・・・」

明日香「(声)私は・・・七海の母親にはなれない・・・」

嶺二「(声)こんな方法で千春ちゃんと再会して・・・」

雪音「(声)あの子の力があれば・・・」

早季「(声)早乙女菜摘の代わりは・・・」

汐莉「(大きな声)神谷先生!!!」


 明日香、嶺二、汐莉、雪音、七海、レキの声が被さるようにどこから響いてくる

 汐莉の大きな声で飛び起きる凛

 凛の呼吸は乱れ、息切れをしている


凛「(息切れをしながら)ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

鳴海「(声)家族なんてろくなもんじゃない・・・」

菜摘「(声)鳴海くん・・・またね・・・」

 

 鳴海、菜摘の声が被さるようにどこからか響いてくる

 

凛「(呼吸を整えながら)ハァ・・・ハァ・・・また・・・予知夢でございますか・・・」


 深呼吸をし、立ち上がる凛


◯810社殿/馬小屋(500年前/朝方)

 外では弱い雨が降っている

 社殿の中に馬小屋がある

 馬小屋には数十頭の馬がいる

 馬小屋の中にいる凛

 凛は一頭の馬を撫でている

 凛は腰に短刀を差している


凛「(馬を撫でながら)波音様と奈緒衛様のお役に立てぬ夢など、見聞きするだけで身体が痛みますゆえに、戦と繋がりのない予知はご勘弁を願いたいのです」


 馬を撫でるのをやめて咳き込む凛


凛「(咳き込みながら)ゲホッ・・・ゲホッ・・・予知のせいか・・・今日は体が・・・ゲホッ・・・」


 馬が凛の顔を覗くように見る


凛「(咳き込みながら)ゲホッ・・・し、心配はございませぬよ・・・」


 着物姿の早季が凛の後ろに立っている

 少しすると凛の咳が止まる

 早季は凛のことを見ている

 凛は早季に見られていることに気付く


凛「(腰に差していた短刀を鞘から抜き振り返って)何者でございますか!!」


 凛は振り返って後ろを見るが、早季はいない

 凛は周囲を見る

 一人の女中が馬小屋に入って来る

 

女中1「凛!!波音様がお戻りになりましたよ!!」


 驚いて女中1の声が聞こえた方を見る凛


女中1「(不思議そうに)凛・・・?何かあったのですか?」

凛「い、いえ・・・」


 凛は短刀を鞘に納める

 再び早季が立っていたところを見る凛

 早季が立っていたところには誰もいない


◯811社殿/波音の寝室縁側(500年前/朝)

 外では雨が降っている

 波音の部屋は狭い和室

 和室の隅には畳まれた布団が置いてある

 和室の縁側に座っている波音、奈緒衛、凛

 和室の縁側からは中庭が見える

 中庭には一本の松の木が生えている

 中庭には水たまりが出来ている


奈緒衛「秋霖、か・・・何とも嫌な天候だ・・・」

波音「雪よりは良かろう」

奈緒衛「それもそうだな」

凛「しかし波音様、雨の中の戦は不自由が多いと聞き及びましたよ」

波音「こらこら凛、我が家臣たちは雨で変動するほど脆弱ではないのだぞ」

凛「さ、さすが波音様とその家臣の方々でございますね!!雨風にも勝てるとは!!」

波音「うむ。奈緒衛、そなたも我らが雨や風、雪に負けるほど弱くはないと知っておるだろう?」

奈緒衛「いや・・・俺のような忠誠心のある家臣でも、雨の戦は不得意だよ。出来ればやめてくれという感じだ」

波音「ずいぶん弱気ではないか、奈緒衛」

奈緒衛「凛が申していた通り、雨だと不都合が多いのでな。とてもではないが、戦のしやすい気候とは言えぬだろう」

波音「そなたが気候に左右されるとは少々意外だな・・・」

奈緒衛「得意不得意は誰にでもあるさ」

凛「まさに百人百様ございますね」

奈緒衛「そういうことだ。それに凛」

凛「何でございましょう」

奈緒衛「今、この時にある勝利は波音が掴み取ったもので、俺は大して貢献などしていないよ。家臣の力が無くても、最後に勝つのは必ず波音なんだ」

波音「な、何を申すか奈緒衛!!私の勝ちはそなたらと共に掴んでおる!!」


 首を横に振る奈緒衛


奈緒衛「家臣の俺や凛が直接戦を勝たせてきたわけではないだろ?」

波音「そ、その言い分は屁理屈であるぞ・・・奈緒衛・・・」

  

 少しの沈黙が流れる


奈緒衛「俺と凛が今日まで敗北を知らずに生き抜けてこれたのは、波音のお陰だ。感謝してもしきれないよ、波音」

波音「そ、そのように礼を言われても・・・あまり嬉しくはないな・・・」

奈緒衛「す、すまぬ・・・(少し間を開けて)少しでも日が出てくれれば・・・俺も多少なりは戦で役に立てると思うのだが・・・」

波音「(小声でボソッと)我らの戦況に問わず・・・そなたらは私の役に立っておるのだぞ・・・何故奈緒衛と凛はこうも自信に欠けておるのだ・・・」

奈緒衛「えっ?」

凛「波音様、今何と・・・?」

波音「な、何も申してはおらぬ!!」


 波音のことを見ている奈緒衛と凛

 再び沈黙が流れる


波音「(奈緒衛と凛から顔を逸らして)こ、こちらをジロジロ見るでない!!」


 波音のことを見るのをやめる奈緒衛と凛


凛「時に波音様」

波音「う、うむ」

凛「家族とは、不要なものでございましょうか?」

波音「不要だと?何故そのような考えを持つのだ?」

凛「分かりませぬ・・・何者かが・・・家族のことで苦しんでいるような気がして・・・それでお尋ねしました」

奈緒衛「曖昧な人物像だな・・・」

波音「凛よ、その者を夢で見たのか?」

凛「はい。ただ、私めの知人ではないと思います・・・」

奈緒衛「となれば・・・(少し間を開けて)時の先で出会う者かもしれないぞ」

凛「未来でお会いする・・・ということでございましょうか?」

奈緒衛「ああ」

波音「奈緒衛、凛の夢について早まった答えを出してはならぬよ。こやつの力は本物だ」

奈緒衛「そ、そうか・・・」

波音「凛、お主が夢で見た人物とやらは、家族がいるから苦しんでおったのだな?」

凛「いいえ波音様、家族がいるからではなく・・・幼き頃に父君と母君を失った経験が心の傷になっているようでございます・・・家族なんてろくなものではないと、彼はそう申していました」

奈緒衛「彼?そいつは男なのか?」

凛「はい。奈緒衛様と同じ年頃の青年でございます」

波音「それはまた不憫な子だ・・・その若者が奇跡に導かれることを祈ろう・・・」


◯812貴志家リビング(日替わり/朝)

 外では弱い雨が降っている

 時刻は七時半過ぎ

 テーブルの上に置き手紙がある

 “朝ご飯は冷蔵庫の中にあります♡”と書かれている

 制服姿で椅子に座ってニュースを見ている鳴海


ニュースキャスター1「秋霖から氷雨へと移り行く・・・」


◯813◯806の回想/ファミレス(放課後/夕方)

 外では弱い雨が降っている

 ファミレスにいる鳴海とすみれ

 二人の目の前にはコーヒーが置いてある

 ファミレスには仕事帰りのサラリーマンやOL、勉強をしている学生などがいる

 鳴海とすみれは話をしている

 

すみれ「信じられない。あんな酷い事故でご両親は亡くなってしまったのに・・・子供たち二人が助かるなんて・・・きっと奇跡が起きたお陰だ。それ以外には考えれないって・・・」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「い、医者が・・・そう言ったんですか」


 頷くすみれ


◯814回想戻り/貴志家リビング(朝)

 外では弱い雨が降っている

 時刻は七時半過ぎ

 制服姿で椅子に座ってニュースを見ている鳴海

 テーブルの上にはテレビのリモコンが置いてある


鳴海「(声 モノローグ)すみれさんの言っていたことは考えない方が良い・・・」


 リモコンを手に取ってテレビを消す鳴海

 立ち上がる鳴海


◯815波音高校三年三組の教室(朝)

 外では弱い雨が降っている

 校庭には水たまりが出来ている

 朝のHR前の時間

 どんどん教室に入ってくる生徒たち

 教室にいる生徒たちは周りにいる人と喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている

 黒板の横には傘立てが置いてあり、生徒たちの傘が立ててある

 教室に入る鳴海

 菜摘、雪音は欠席している

 明日香、嶺二は自分の席でスマホを見ている

 神谷はまだ来ていない

 傘立てに傘を入れ、自分の席にカバンを置く鳴海

 鳴海が登校して来たことに気付く嶺二

 嶺二はスマホをポケットにしまい、急いで鳴海の席のところへ行く


嶺二「な、鳴海、今日の部活、やることが決まってねーんだったら、お、俺の作戦・・・つか提案を・・・」

鳴海「(立ち上がって嶺二の話を遮って)悪いが後にしてくれ」


 鳴海は傘立てがあるところへ向かう

 鳴海について行く嶺二


嶺二「ど、どこに行くんだよ?」

鳴海「(傘立てから傘を取り出して)ちょっとな」


 鳴海は教室の扉へ向かう


嶺二「お、おい!!せめて話は聞けって!!」


 鳴海は嶺二の言葉を無視して教室から出て行く

 明日香がチラッと教室を出て行く鳴海の背中と嶺二のことを見る

 明日香と嶺二の目が合う

 慌てて嶺二から顔を逸らしてスマホをいじり出す明日香

 明日香の席のところへ行く嶺二

 明日香の机のまん前で立ち止まる嶺二


嶺二「今目を逸らしやがったな」

明日香「(スマホを見ながら)は、な、何?」


 明日香のスマホを奪い取る嶺二


明日香「ちょ、ちょっと!!か、返してよ!!」

嶺二「うるせーバーカ」


 明日香のスマホをポケットにしまう嶺二


明日香「(小声でボソッと)神谷に言いつけてやる・・・」

嶺二「(呆れながら)てめーは小学生か・・・」


 少しの沈黙が流れる


嶺二「スマホを返してほしけりゃ、俺の話を聞け」

明日香「何で」

嶺二「だから言ってんだろ、スマホを返してほしけりゃの俺の話を・・・」

明日香「(嶺二の話を遮って)嘘でしょ、それ」

嶺二「は・・・?」

明日香「あんたの話を聞いただけじゃ、私のスマホは返ってこない。どうせその後にも意味不明な取り引きが続くんだから」

嶺二「お前・・・俺のことをよく理解してんだな・・・」


 再び沈黙が流れる


明日香「返して」

嶺二「何を?」

明日香「私の携帯」

嶺二「だからまずは俺の話を聞けって。スマホはその後返してやっから」

明日香「大っ嫌い」

嶺二「俺の話を聞くってことだな?よっしゃ、さすが明日香だぜ」


◯816波音高校特別教室の四/文芸部室(朝)

 外では弱い雨が降っている

 朝のHRの前の時間

 文芸部の部室にいる鳴海

 教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙、傘立てが置いてある

 校庭には水たまりが出来ている

 傘立てには鳴海の傘が立ててある

 鳴海は椅子に座って部員募集の紙を見ている

 

◯817波音高校三年三組の教室(朝)

 外では弱い雨が降っている

 校庭には水たまりが出来ている

 朝のHR前の時間

 どんどん教室に入ってくる生徒たち

 教室にいる生徒たちは周りにいる人と喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている

 黒板の横には傘立てが置いてあり、生徒たちの傘が立ててある

 菜摘と雪音は欠席している

 嶺二は明日香の席の近くで明日香と話をしている

 神谷はまだ来ていない


嶺二「あいつ、最近様子がおかしいだろ?」

明日香「嶺二が一年生と二年生にお金を渡したせいじゃないの」

嶺二「それだけが理由であんな根暗になるか普通」

明日香「鳴海もあんたも普通じゃないでしょ」

嶺二「必ずしも普通が良いとは限らないって言うよな、明日香」

明日香「魅力的な個性がある人の場合はね。因みにあんたたちは違うから」


 少しの沈黙が流れる


嶺二「話を戻すが・・・ここんとこ鳴海の様子がおかしいんだよ」

明日香「放っておけば良いのに・・・」

嶺二「あんな状態で放っておけるわけねーだろ」

明日香「あんたのその思いやり、お節介って言うんだけど気づいてた?」


 再び沈黙が流れる


明日香「嶺二、人は一度にたくさんの人間を気にかけることは出来ないの。だから今のうちに鳴海と雪音のどちらかを選ばないと、後でゴタゴタが・・・って何で私がこんなアドバイスをあんたにしてるんだか・・・」

嶺二「つまり俺たちが鳴海を選べば良いってことだな?」

明日香「俺たちって、どうしていつも私を巻き込もうとするわけ?あんたら二人の問題なのに」

嶺二「そりゃあ・・・明日香を巻き込む理由は一つしかねーだろ」

明日香「何」

嶺二「親友だからだ」


◯818波音高校廊下(朝)

 外では弱い雨が降っている

 部員募集の紙の束と傘を持った鳴海が廊下を歩いている

 廊下では喋っている生徒や、教室に入ろうとしている生徒がたくさんいる

 

鳴海「(声 モノローグ)菜摘のことも・・・姉貴のことも・・・南のことも・・・嶺二のことも・・・千春のことも・・・両親のことも・・・事故のことも・・・」


 階段を降りて行く鳴海


鳴海「(声 モノローグ)一度忘れてしまおう・・・今は文芸部の活動に集中するんだ・・・」


◯819波音高校三年三組の教室(朝)

 外では弱い雨が降っている

 校庭には水たまりが出来ている

 朝のHR前の時間

 どんどん教室に入ってくる生徒たち

 教室にいる生徒たちは周りにいる人と喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている

 黒板の横には傘立てが置いてあり、生徒たちの傘が立ててある

 菜摘と雪音は欠席している

 嶺二は明日香の席の近くで明日香と話をしている 神谷はまだ来ていない


明日香「わ、私あんたたちのことを親友だなんて・・・」


 話途中だった明日香の腕を引っ張り明日香を立たせる嶺二


嶺二「(明日香の腕を引っ張って)いーから行くぞ明日香!!あいつが一人で何をしているのか確認するんだ!!」

明日香「(嶺二に引っ張られながら)れ、嶺二!!引っ張らないで!!」


 嶺二は明日香の腕を引っ張ったまま傘立てから傘を二本取り出す

 嶺二は明日香の腕を引っ張って教室から出て行く


◯820波音高校校門(朝)

 弱い雨が降っている

 傘をさして校門の前に立っている鳴海

 鳴海は部員募集の紙の束を持っている

 たくさんの生徒たちが門を潜って学校の中へ入って行く

 通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出している鳴海


鳴海「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出して)文芸部です!!部員の募集をしています!!良かったら覗きに来てください!!活動場所は特別教室の四です!!」


 鳴海の前を通りかかる生徒たちは、鳴海のことを気に留めず周りの生徒たちと楽しそうに話をしながら校舎内へ入って行く

 唇を強く噛む鳴海

 少ししてから唇を噛むのをやめる鳴海


鳴海「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出したまま)お願いします!!文芸部を波高に残すために、皆さんの力を貸してください!!あと四人!!あと四人部員が集まれば、文芸部は潰れずに済むんです!!どうかお願いします!!文芸部を・・・文芸部を守りたいんです!!」


 鳴海の前を通りかかる生徒たちは、変わらず鳴海のことを無視し続ける


鳴海「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出したまま)文芸部副部長の貴志鳴海です!!部員の募集をしています!!良かったら覗きに来てください!!活動場所は特別教室の四です!!普段は部誌を書いたり、朗読劇の準備をしたりしています!!」

鳴海「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出したまま 声 モノローグ)お願いだ・・・誰か・・・誰でも良いから・・・文芸部に入ってくれ・・・」

鳴海「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出したまま)興味がある人は、三年三組の教室か特別教室の四に来てください!!いつでも待ってます!!」

鳴海「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出したまま 声 モノローグ)そうか・・・千春は・・・いつもこんな思いをしていたのか・・・」


◯821Chapter1◯55の回想/帰路(放課後/雨)

 雨が降っている

 横断歩道の信号が青になるのを待っている鳴海

 鳴海は傘をさしている

 信号が青になり横断歩道を渡り始める鳴海

 横断歩道を渡り終えた先で傘をさした千春がビラ配りをしている

 横断歩道を渡り終える鳴海


千春「(鳴海にビラを差し出して)ゲームセンター“ギャラクシーフィールド”で遊んで行きませんか?たくさんのゲーム機を揃えています。お友達と一緒に遊びに来てください」


 鳴海は千春の手を払い除ける


千春「(鳴海にビラを差し出したまま)ギャラクシーフィールドはお客様が必要なんです、このままではお店が潰れてしまいます」


 千春を無視して歩き続ける鳴海


◯822回想戻り/波音高校校門前(朝)

 弱い雨が降っている

 傘をさして校門の前で部員募集を行っている鳴海 

 鳴海は部員募集の紙の束を持っている

 鳴海は通り過ぎて行く生徒たちに部員募集の紙を差し出すが、生徒たちは鳴海を無視して校舎内へ入って行く

 

鳴海「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出したまま大きな声で)お願いします!!!!文芸部存続のために、一年生と二年生の力を貸してください!!!!」

汐莉「鳴海先輩!!」


 どこからか汐莉の声が聞こえる

 鳴海は周囲を見る


鳴海「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出すのをやめて汐莉を探しながら)し、汐莉?」

汐莉「ここですよ!!先輩!!」


 再びどこからか汐莉の声が聞こえる

 鳴海は汐莉を探し続ける

 汐莉は校舎へ向かっているたくさんの生徒たちの間に立っている

 汐莉のことを見つける鳴海 

 汐莉は傘をさしていない

 鳴海は急いで汐莉の方へ向かう


鳴海「(汐莉の方へ向かいながら)汐莉!!傘を・・・」

真彩「(心配そうに)鳴海先輩・・・?大丈夫っすか・・・?」


 再び周囲を見る鳴海

 汐莉はどこにもいない

 汐莉が立っていた場所には詩穂と真彩がいる

 詩穂と真彩は傘をさしている


鳴海「(周囲を見ながら)み、南は・・・」

詩穂「先輩、汐莉がいたんですか?」


 周りを見ながら汐莉のことを探し続ける鳴海

 少しの沈黙が流れる

 

鳴海「(周囲を見ながら)い、いや・・・」


 心配そうに顔を見合わせる詩穂と真彩

 周囲を見るのをやめる鳴海

 俯く鳴海


鳴海「(俯いたまま)クソ・・・」


 再び沈黙が流れる

 傘をさしているのにもかかわらず、鳴海の体は雨で濡れている


真彩「ぶ、部員募集なら、うちらも手伝いますよ。先輩」

鳴海「(顔を上げて)い、良いんだ。俺一人で出来る」


 校門の影に明日香と嶺二がいる

 校門の陰から鳴海、詩穂、真彩のことを見ている明日香と嶺二

 明日香と嶺二は傘をさしている


嶺二「(鳴海、詩穂、真彩のことを見たまま)ほら見ろよ!!鳴海のやろーおかしくなってるじゃねーか!!」

明日香「(鳴海、詩穂、真彩のことを見たまま)シッ!声のボリュームを落として!」


 鳴海に別れを告げる詩穂と真彩

 詩穂と真彩は校舎内へ入って行く

 

嶺二「(鳴海のことを見たまま)ひ、一人になっちまったぞ・・・」


 再び鳴海は通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出す


鳴海「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出したまま大きな声で)文芸部副部長の貴志鳴海です!!!!部員の募集をしてます!!!!」


 鳴海の前を通る生徒たちは、鳴海のことを気に留めず周りの生徒たちと楽しそうに話をしながら校舎内へ入って行く

 明日香と嶺二は変わらず校門の陰から鳴海のことを見ている


明日香「(鳴海のことを見たまま)嶺二、私の携帯」

嶺二「(鳴海のことを見たまま)え、ああ・・・」


 鳴海のことを見たままポケットから明日香のスマホを取り出す嶺二

 スマホを明日香に差し出す嶺二

 嶺二からスマホを受け取る明日香


嶺二「(鳴海のことを見たまま)どーする明日香、俺たちもてつだ・・・」

明日香「(嶺二の話を遮って)私教室に戻る」

嶺二「な、何でだよ!?」

明日香「なんでって、携帯を取り戻したから」

嶺二「し、親友を見捨てるのか!?」

明日香「そもそも親友じゃないんだけど・・・というか友達でもないし」


 少しの沈黙が流れる

 鳴海は変わらず通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出している


鳴海「(通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出したまま大きな声で)お願いします!!!!文芸部を廃部にさせたくないんです!!!!皆さんの力を貸してください!!!!あと四人部員が必要なんです!!!!」


 鳴海は通りかかる生徒たちに部員募集の紙を差し出すが、生徒たちは鳴海を無視して校舎内へ入って行く


明日香「そういうことだから」


 明日香は校舎内へ向かって行く

 

嶺二「そ、そういうことだから、じゃねーよ!!おい!!明日香!!」


 校舎内に入る明日香


◯823波音高校一年六組の教室(朝)

 外では弱い雨が降っている

 校庭には水たまりが出来ている

 朝のHR前の時間

 どんどん教室に入ってくる生徒たち

 教室にいる生徒たちは周りにいる人と喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている

 黒板の横には傘立てが置いてあり、生徒たちの傘が立ててある

 汐莉は欠席している

 響紀の席の近くに集まっている詩穂と真彩

 話をしている響紀、詩穂、真彩

 教師はまだ来ていない


詩穂「鳴海先輩、真彩と汐莉を見間違えてたよね」

真彩「や、やっぱあれってそうなの?」

詩穂「絶対そうだよ。真彩の顔面を見ながら汐莉って言ってたじゃん」

響紀「あの人アホだから、ついに後輩の見分けがつかなくなったんじゃないの?」

真彩「やばいっしょ・・・アホとかそーゆーレベルじゃないって・・・」

詩穂「鳴海先輩、心弱そうだし、汐莉から連絡がないのがよっぽどショックだったのかもよ」

真彩「うちらよりも汐莉のことがお気に入りだったか・・・」

響紀「それでも片想い」

詩穂「どういうこと?」

響紀「鳴海先輩は汐莉のことを気に入ってたのかもしれないけど、汐莉は文芸部の中で・・・特定的に仲の良い人はいないって言ってたから・・・片想いなの」

真彩「汐莉らしいネガティブな考えだな〜・・・全員と仲が良いって言っとけば良いのにさ〜・・・」

詩穂「先輩しかいない空間だと大変なんだよ。気を使ったり気を使われたりで」

真彩「今更大変アピールをされても・・・汐莉がうちらに出来ることを教えてくんないと・・・助けよーにも助けられないよっていうのがうちの本音かな・・・」


 少しの沈黙が流れる


響紀「汐莉は・・・人の悪意が無くても傷つく子だと思う」

真彩「それってハートがガラスなだけじゃん」

響紀「感受性の問題なの。汐莉は繊細で、私たちよりもずっと周りのことを・・・」

真彩「(響紀の話を遮って)お前は汐莉の母親か」


 再び沈黙が流れる


響紀「親友・・・(少し間を開けて)私は汐莉のことを・・・親友だと思ってる」

真彩「(小声でボソッと)汐莉がうちらのことを親友だと思ってる保証はどこにもないけどね・・・」

響紀「それでも・・・親友なの」

真彩「へいへい・・・」

詩穂「響紀くん。私も響紀くんの言ってたことの意味が分かるよ。世界には、優しくされて泣いてしまう人もいるし、気を使われて息苦しく感じる人もいるよね」

響紀「うん」

詩穂「例えばだけど、響紀くんと真彩がお互いに死ねって言ったら、一番傷つくのは死ねという言葉を聞いていた汐莉なんだ。(少し間を開けて)他人のことを自分のように受け取るのが汐莉の優しさだし・・・弱さにもなっちゃうんだよね・・・人の悪意が無くてもっていうのは、そういうことだよ、真彩」

真彩「い、いちいち説明されなくても分かってますけど・・・」


 汐莉の席を見る響紀

 汐莉の席には誰も座っておらず、汐莉の荷物だけが残されている


響紀「(汐莉の席を見ながら)軽音部と文芸部の全員に・・・汐莉を傷つけた責任がある・・・」


◯824波音高校二年生廊下(昼)

 昼休み

 外では弱い雨が降っている

 二年生の廊下にいる鳴海

 鳴海は部員募集の紙の束を持っている

 廊下では喋っている二年生や、昼食を取りに移動している二年生がたくさんいる

 鳴海は通りかかる二年生たちに部員募集の紙を差し出している


鳴海「(通りかかる二年生たちに部員募集に紙を差し出したまま)文芸部です!!部員の募集をしています!!」


 二年生の女子生徒二人が鳴海のことを見ながらこそこと話をしている


二年生女子生徒1「(鳴海のことを見ながらこそこそと)見て、あの人またやってる」

二年生女子生徒2「(鳴海のことを見ながらこそこそと)あー・・・文芸部・・・だっけ?こんな時期に部活に入る子なんているわけないのにさ」

二年生女子生徒1「(鳴海のことを見ながらこそこそと)ね。つか来年は受験だし。今部活に入るくらいだったら勉強するっつうの・・・」


 二年生女子生徒1と2に見られていることに気づく鳴海

 二年生女子生徒1と2に近づく鳴海


鳴海「(二年生女子生徒1と2に部員募集の紙を差し出しながら)ぶ、文芸部副部長の貴志鳴海です。今部員を募集してるんだけど、興味があったら・・・」

二年生女子生徒2「(鳴海の話を無視して二年生女子生徒1に向かって逃げるように)い、行こう」


 頷く二年生女子生徒1

 歩き出す二年生女子生徒1と2

 二年生女子生徒2の肩が鳴海とぶつかって鳴海は部員募集の紙の束を落とす

 廊下に部員募集の紙が散らばる

 慌てて部員募集の紙を拾う鳴海

 二年生女子生徒1と2は走って鳴海の元から去る

 

鳴海「(小声でボソッと)せめて拾ってから行けよ・・・」


 通りかかる生徒や、廊下にいる生徒は鳴海のことを手伝おうとはしない

 廊下の曲がり角の近くでは嶺二が鳴海のことを見ている

 嶺二は紙パックの牛乳をストローで飲みながら鳴海のことを見ている

 鳴海は変わらず一人で廊下に散らばった部員募集の紙を拾っている


鳴海「(部員募集の紙を拾いながら小声で)すまなかった・・・千春・・・」


◯825波児商店街(昼)

 商店街の外では弱い雨が降っている

 商店街の中に千春がいる

 買い物に来た主婦などが商店街の中のお店を見て回っている

 商店街の中を俯きながら歩いている千春

 千春は刃の欠けた剣を持っている

 千春が持っている刃の欠けた剣は、Chapter2の終盤で千春が使っていた物と同じ

 千春とすれ違う人たちには千春の姿が見えていない


鳴海「(声 モノローグ)今になって千春の気持ちを知っても・・・遅過ぎる・・・(少し間を開けて)あいつは一人でギャラクシーフィールドを守ったように・・・俺も・・・」


◯826波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)

 外では弱い雨が降っている

 文芸部の部室にいる鳴海、明日香、嶺二、詩穂、真彩

 円の形に椅子を並べて座っている鳴海、明日香、嶺二、詩穂、真彩

 それぞれの椅子の近くにはカバンが置いてある

 教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙、傘立てが置いてある

 校庭には水たまりが出来ている

 教室の傘立てには5本の傘が立ててある

 ボーッとしている鳴海

 

鳴海「(声 モノローグ)文芸部を・・・」

嶺二「おい鳴海、どーするんだよ?」

鳴海「な、何の話だ?」

嶺二「今日の活動のことに決まってんだろ」

鳴海「そ、そうだな・・・」


 考え込む鳴海

 明日香、嶺二、詩穂、真彩のことを順々に見る鳴海


鳴海「響紀も・・・休みなのか」

明日香「(呆れて)今日は生徒会に行ってるってさっきも言ったでしょ」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「さ、三年生を送る会の準備を進めてるんだよな?」

明日香「そうそう、あんたの指示通りにね」

鳴海「よし・・・(少し間を開けて)なら今日の部活は・・・中止にしよう」

真彩「(驚いて)ちゅ、中止っすか?」

鳴海「ああ・・・四人も休んでる奴がいるんだ。こんな状態で活動をしてもしょうがないだろ」

真彩「そ、そうっすね・・・」


 再び沈黙が流れる

 カバンを持って立ち上がる明日香

 傘立てから傘を取り出す明日香


明日香「お疲れ様」

鳴海「ああ」


 部室を出る明日香

 慌ててカバンを持って立ち上がる嶺二

 嶺二は急いで傘立てから傘を取り出す


嶺二「あ、明日香!!待てよ!!」


 走って部室を出る嶺二


鳴海「動じない明日香と・・・慌てる嶺二か・・・嫌な予感しかしない組み合わせだ・・・」


 詩穂と真彩のことを見る鳴海


鳴海「(詩穂と真彩のことを見たまま)それはお前たちは軽音部コンビも同じか・・・」

真彩「わ、私たちも嫌な予感がするコンビなんすね・・・」

鳴海「そりゃそうだろ・・・あの響紀が率いているバンドのメンバーだからな・・・どんな命令を受けてここに残ってるか分かったもんじじゃない」

真彩「め、命令なんてないっすよ!!た、ただ・・・その・・・」

鳴海「何だ?」

詩穂「相談があるんです。鳴海先輩」

鳴海「相談?」

詩穂「はい・・・汐莉のことで」


◯827波音高校校門(放課後/夕方)

 弱い雨が降っている

 傘をさした明日香が門を通り学校の外へ出る

 傘をさしたたくさんの生徒たちが門を通り学校の外へ出て行っている

 少ししてから傘をさしていない嶺二が明日香を追いかけに来る


嶺二「(明日香を追いかけながら大きな声で)明日香!!!明日香!!!」


 走って門を通り学校の外へ出る嶺二


嶺二「(明日香を追いかけながら大きな声で)待てって!!!おい!!!明日香!!!」

 

 嫌そうに立ち止まる明日香

 明日香に追いつく嶺二


嶺二「(息切れをしながら)ハァ・・・ハァ・・・お前ら・・・マジで俺の話を聞かな過ぎだろ・・・」

明日香「私も鳴海も、嶺二のつまらないお喋りには興味がないの」

嶺二「(息切れをしながら)ハァ・・・ハァ・・・お前と鳴海だけじゃねーよ・・・雪音ちゃんもだ・・・」

明日香「当然でしょ。雪音は私たちより優しくないんだから」

嶺二「(呼吸を整えながら)ハァ・・・どーせツンデレって奴だろ・・・」

明日香「誰一人あんたにはデレてないと思うけど・・・」

嶺二「千春ちゃんは・・・」

明日香「(嶺二の話を遮って)千春だって嶺二の腐り切った性格を知ればデレなくなるでしょうね」


 少しの沈黙が流れる


嶺二「ここは話をスムーズに進める場面だから、反論しないでやるよ・・・」

明日香「どうも」

嶺二「明日香、この後の予定は?」

明日香「勉強」

嶺二「ないってことだな、とりあえずどっか店に入るぞ」

明日香「あんたも人の話をぜんっぜん聞かないよね」

嶺二「お互いにお互いの話を聞いて尊重し合おうぜ。そうすりゃ話だってすぐ終わるし、明日香は受験勉強に魂を削れるだろ?」

明日香「分かった。私、嶺二のことは一生尊重出来ないんだと思う」

嶺二「じゃー明日香は黙って俺の話を聞いて、黙って俺に協力してくれ」

明日香「そんな上から目線であーだこーだ言う奴の話を私が聞くとでも?」

嶺二「お前さ・・・絶対俺や鳴海から影響を受けて、わがままになってるよな。そーゆーところは響紀ちゃんに治してもらった方がいーぞ」

明日香「う、うっさい!!」


 歩き出す嶺二


嶺二「とりあえず店だ店店。あったけえもんが食えるとこに行こーぜ?」

明日香「か、勝手に決めないでよ!!」


 嶺二を追いかける明日香


嶺二「つーかよく考えてみれば響紀ちゃんも自分勝手だよな・・・(笑いながら)明日香はこの三年間わがままな奴に囲まれ過ぎたんじゃねのーか?」

明日香「ひ、響紀は関係ないし!!(少し間を開けて)私がわがままになってるんだとしたら、それは嶺二と鳴海のせいでしょ・・・」

嶺二「いやー、さすが俺と鳴海の天才コンビだなー」

明日香「褒めてないっつうの・・・」


 再び沈黙が流れる


明日香「ねえ・・・」

嶺二「んだよ?」

明日香「傘・・・ささないの?」

嶺二「ああ」

明日香「どうして・・・?」

嶺二「雨に打たれながら歩いていると反省してるよーに見えるだろ?」


 少しの沈黙が流れる


嶺二「今俺は受験を控えたクラスメートを無理矢理を連れ出してるわけだ。罪悪感はこれぽっちもないが、少しでも反省してる感じがありゃお前の機嫌も良くなるかと思ったんだよ。まーあれだな、雨に濡れた犬を見て可哀想だと思うのと同じ心理だ」

明日香「嶺二は犬以下の存在だけどね・・・」


◯828波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)

 外では弱い雨が降っている

 文芸部の部室にいる鳴海、詩穂、真彩

 鳴海、詩穂、真彩は椅子に座っている

 それぞれの椅子の近くにはカバンが置いてある

 教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙、傘立てが置いてある

 校庭には水たまりが出来ている

 教室の傘立てには3本の傘が立ててある

 話をしている鳴海、詩穂、真彩

 

鳴海「そうか・・・それは響紀の言う通りだな・・・」

真彩「い、言う通りって・・・私たち全員に汐莉のことで責任があるんすか・・・」

鳴海「ああ・・・」

真彩「そ、そんなぁ・・・うちら何もしてないのに・・・」

詩穂「むしろ何もしてないのがヤバかったのかも・・・」

真彩「え・・・もー汐莉が複雑過ぎて意味分かんないよー・・・」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「しお・・・いや・・・南は俺がどうにかする」

詩穂「どうって何をするんですか?いつもの部活みたいな適当なことはやめてくださいよ」

鳴海「心配するな、これでも考えはあるんだ」

詩穂「先輩、響紀くんは全員に責任があるって言ってましたけど、私は文芸部の人たちに問題があったんじゃないかって思ってるんです」

真彩「し、詩穂!!」

詩穂「だって一年生がわがままな三年生たちに囲まれてるんですよ?魔女っ子少女団と違って文芸部は独自のルールや締め切りが多いし、朗読劇のことも汐莉のストレスになってると思います」

鳴海「分かってる・・・」

詩穂「分かってるなら!!分かってるんだったら汐莉を助けてくださいよ!!」

鳴海「俺にも・・・優先順位ってものがあるんだ・・・(少し間を開けて)出来るなら俺だって南を助けてやりたいが・・・」


 再び沈黙が流れる


詩穂「先輩は・・・最低な人だ」


◯829ファミレス(放課後/夕方)

 外では弱い雨が降っている

 ファミレスにいる明日香と嶺二

 二人の目の前にはパンケーキが置いてある

 ファミレスには仕事帰りのサラリーマンやOL、勉強をしている学生などがいる


嶺二「(パンケーキを食べながら)あういのおおであないが・・・」

明日香「(嶺二の話を遮って)食べるのは話の後にして」


 口に詰まっていたパンケーキを飲み込む嶺二


嶺二「仕方ねーな・・・(少し間を開けて)今日の議題は鳴海のことだ」

明日香「また?今朝もあいつのことでスマホを盗まれたばっかなのに」

嶺二「お前な、鳴海は一人で文芸部のことを背負うつもりなんだぞ?」

明日香「そうだとしても私には関係ないでしょ」

嶺二「てめーは文芸部員だろ」

明日香「私はただの部員で、鳴海は副部長兼菜摘の代理。立場が全然違うんだから、一緒にしないでよ」

嶺二「あいつに菜摘ちゃんの代わりが務まるのか?」

明日香「絶対無理」

嶺二「そーだろ。しかも当の鳴海は、菜摘の代わりじゃねーんだよとか言って逆ギレする有様だぜ?このままじゃあいつは壊れちまうよ」

明日香「そんな馬鹿みたいに心配してるのは嶺二だけでしょ」


 少しの沈黙が流れる


明日香「菜摘が鳴海に任せてるんだから、私たちも鳴海に丸投げしておけば良いの。それに鳴海は私たちに手伝わせる気がないんだし」

嶺二「明日香、みんな鳴海に任せ過ぎなんだ」

明日香「副部長が仕事を任されるのは当然のことだと思うけど?」

嶺二「限度があるだろ・・・あいつ、昼休みも一人で部員募集をしてたんだぜ?」

明日香「同情を誘ってんの?」

嶺二「そ、そういうわけじゃねーけどよ・・・別に手伝ってやっても良いじゃねーか・・・」

明日香「あんたがね」

嶺二「俺だけで菜摘ちゃんと汐莉ちゃんの穴を埋めれるわけねーだろ」

明日香「あんたたち親友なんでしょ。お得意の友情パワーで鳴海のことを助けてあげなさいよ」

嶺二「残念だったな。俺と鳴海の友情はもう終わっちまう寸前だ」

明日香「つまり私と嶺二の関係も終わるってことね」

嶺二「な、波高を卒業するまでは続けてくれよ!!」

明日香「私、友達は量より質で選ぶの」

嶺二「なら俺と鳴海は最高じゃねーか」


 再び沈黙が流れる


明日香「他を頼りなさい。私を当てにするだけ時間の無駄になるから」

嶺二「おめー以外に誰を頼れって言うんだよ?今文芸部で生きてんのは俺と鳴海と明日香しかいねーんだぞ」

明日香「汐莉が学校に戻って来ることを期待するのね」

嶺二「し、汐莉ちゃんはダメだ」

明日香「何でよ?あんたらアホに付き合ってくれるのは汐莉くらいしかいないのに」

嶺二「だ、ダメなもんはダメなんだよ。今以上に余計なストレスをかけるなんて、汐莉ちゃんが可哀想だ・・・」


◯830波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)

 外では弱い雨が降っている

 文芸部の部室にいる鳴海、詩穂、真彩

 鳴海、詩穂、真彩は椅子に座っている

 椅子に座っている鳴海、詩穂、真彩

 それぞれの椅子の近くにはカバンが置いてある

 教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙、傘立てが置いてある

 校庭には水たまりが出来ている

 教室の傘立てには3本の傘が立ててある

 話をしている鳴海、詩穂、真彩


鳴海「南が抱えてる問題は・・・一日や二日で解決するようなことじゃない。時間がかかるんだ」

真彩「時間をかければ・・・解決することなんすか?」

鳴海「あいつ次第としか・・・言いようがない・・・」

詩穂「雪音先輩とトラブルになったのも、汐莉が抱えてる問題が原因なんですよね?」

鳴海「どうだろうな・・・」

詩穂「きっと喧嘩になったんだ」

真彩「で、でもさ詩穂、もし仮に二人が喧嘩をしたとして、二人とも学校に来なくなるのはおかしくない?」

詩穂「両方とも負けたのかも」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「そろそろ帰れよ、南のことは俺が何とかするから」

詩穂「待って。先輩は汐莉が抱えてる問題を知ってるんですよね?」

鳴海「あ、ああ・・・」

詩穂「教えてください」

鳴海「な、何をだよ」

詩穂「汐莉が抱えてる問題をです」

鳴海「そ、それは・・・」


 再び沈黙が流れる


真彩「な、鳴海先輩!!お願いします!!うちら、汐莉の力になりたいんす!!」


◯831Chapter6◯587の回想/公園(放課後/夕方)

 月が出ている

 公園の時計は7時過ぎを指している

 公園にいる鳴海と汐莉

 公園には鳴海と汐莉以外に人はいない

 ブランコに座って話をしている鳴海と汐莉

 鳴海の隣にはエナジードリンクの入ったコンビニのビニール袋が置いてある

 

汐莉「鳴海先輩・・・」

鳴海「ん?」

汐莉「私の気持ちは誰にも言わないでください」

鳴海「南がそう頼むなら・・・俺は誰にも言わないけどさ・・・」

汐莉「ありがとうございます」

鳴海「自分から打ち明ける気はあるのか?」

汐莉「(首を横に振り)口が裂けても菜摘先輩にだけは言えませんよ」

鳴海「そう・・・だよな・・・(少し間を開けて)菜摘以外にも言うつもりはないのか」

汐莉「少なくとも朗読劇が終わるまでは・・・菜摘先輩に限らず、知らない方が良い情報ですから」


◯832回想戻り/波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)

 外では弱い雨が降っている

 文芸部の部室にいる鳴海、詩穂、真彩

 鳴海、詩穂、真彩は椅子に座っている

 それぞれの椅子の近くにはカバンが置いてある

 教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙、傘立てが置いてある

 校庭には水たまりが出来ている

 教室の傘立てには3本の傘が立ててある

 話をしている鳴海、詩穂、真彩


鳴海「ろ、朗読劇のことだ。あいつは凛役をやらなきゃならないし、曲作りとバンドの練習もあるだろ?色々と積み重なってる問題が多いんだよ」

真彩「そうなんすか・・・」

鳴海「南が学校に戻って来たら、お前たちはあいつを支えてやれ」

真彩「は、はい!」


 少しの沈黙が流れる


詩穂「帰る?真彩」

真彩「(頷き)うん・・・」


 詩穂と真彩をカバンを持って立ち上がる

 傘立てから傘を取り出す詩穂と真彩


真彩「お疲れ様でした」

鳴海「おう、また明日」


 部室を出る詩穂と真彩


◯833ファミレス(放課後/夕方)

 外では弱い雨が降っている

 ファミレスで話をしている明日香と嶺二

 二人の目の前にはパンケーキが置いてある

 嶺二のパンケーキは食べかけの状態

 ファミレスには仕事帰りのサラリーマンやOL、勉強をしている学生などがいる


嶺二「飯も食わずに二年生の廊下で部員募集をしてたんだぜ?」

明日香「副部長が必死だと部員の私たちは楽ね」

嶺二「お前・・・そこまで非道な奴だったのか・・・」

明日香「嶺二は私のことを分かってない」

嶺二「何すかそのめんどくさそーな会話の前置き」

明日香「私は・・・鳴海のことが好きだったの」

嶺二「それはもう重々承知しておりますとも」

明日香「好きだったのは過去のことだって分かってる?」

嶺二「もちろん分かってるぜ?鳴海には菜摘ちゃんが、明日香には響紀ちゃんが出来て巣立って行ったってことだろ?」

明日香「ムカつく表現だけど簡潔に言えばそう。私が鳴海に向けていた愛情はもうどこにもないの」

嶺二「それは恋から来た愛情じゃねーか。まだ腐れ縁の愛情と、親友という関係から成り立つ愛情が・・・」

明日香「(嶺二の話を遮って)ふざけないで。菜摘や汐莉に甘やかされてばかりのあんたらに、私が手を貸すと思う?貸すわけないでしょ。私はそんなに都合の良い女じゃないの」


 少しの沈黙が流れる


明日香「あんたが千春に尽くしたり、鳴海が菜摘に尽くすのと同じ関係を私に求めないでよ。私はあんたたちの犬?それともメイド?どっちも違うから、私はただのクラスメート。分かった?無条件で人に愛と情けを捧げられるほど、私の心は豊かじゃないの。ましてや女の助けがないと壊れてしまうような友情のために利用されるなんて、死んでも御免なんだから」


◯834帰路(放課後/夕方)

 弱い雨が降っている

 帰り道、一緒に帰っている詩穂と真彩

 部活帰りの学生がたくさんいる 

 話をしている詩穂と真彩

 

詩穂「鳴海先輩の言ってたことは嘘だ」

真彩「やっぱそうだよね〜・・・どうして嘘をつくのかな〜・・・」

詩穂「私たちに知られたら先輩の立場がやばくなるんだよ。だから隠すんだ」

真彩「それって・・・浮気か!?」

詩穂「菜摘先輩という聖母がいながら汐莉と雪音先輩の両方に手を出していた・・・みたいな?昼ドラ展開」

真彩「ぶ、文芸部ちょードロドロじゃん・・・そんなラブモンスターーたちに近づきたくねーよー・・・」

詩穂「さすがにないと思うけど・・・可能性はゼロじゃないか・・・」

真彩「ま、マジ!?」


 考え込む詩穂と真彩


真彩「ないな」

詩穂「ないね。でも鳴海先輩が隠しごとをしてるのは確かだよ。あの人、全体的に信用出来ない要素が多過ぎる」

真彩「えー、そんなに怪しい?」

詩穂「うん。最初は私たちに物を買ってくれたりして良い人オーラを出してたけど、今となってはそれすらも罠だったじゃないかって思えてきた」

真彩「詩穂は疑り深いなぁ・・・」

詩穂「だって物を買い与えるのって実質的な買収行為になるじゃん」

真彩「い、言われみればそーだね・・・私たち買収されてたのか・・・」

詩穂「神谷先生に密告しようよ。鳴海先輩に買収されましたって」

真彩「えぇ!?そこまでする必要はなくね!?」

詩穂「でも先伸ばしにしちゃって良いの?鳴海先輩が汐莉を追い詰めたのかもしれないんだよ?」

真彩「な、鳴海先輩が?そんなことある・・・?」

詩穂「汐莉は人の悪意が無くても傷つく子だって響紀くんも言ってたじゃん」

真彩「う、うん・・・」

詩穂「鳴海先輩に責任があるよ。あの人は汐莉の問題を知ってるのに、汐莉から逃げてるんだ」

真彩「わ、訳があるんじゃないの?汐莉のことを助けられない理由がさ・・・」

詩穂「そんなの言い訳にしかならないと思う」


◯835ファミレス(放課後/夕方)

 外では弱い雨が降っている

 ファミレスで話をしている明日香と嶺二

 二人の目の前にはパンケーキが置いてある

 嶺二のパンケーキは食べかけの状態

 ファミレスには仕事帰りのサラリーマンやOL、勉強をしている学生などがいる


嶺二「響紀ちゃんは・・・俺たちのために、朗読劇を成功させよーと頑張ってくれてるんだぜ」

明日香「頑張ってるのはあんたがおかしな約束を取り付けたからでしょ」

嶺二「約束は約束だ。つか響紀ちゃんは幾らでも自分のことを利用してくれって言ってたぞ」

明日香「それが何よ」

嶺二「響紀ちゃんには死ぬ気で三年生を送る会の準備と、バンドの練習をやってもらうが・・・鳴海のせいで俺たちが描いていた朗読劇は破綻するんだ。ん?待てよ?鳴海のせいと言っても、こういう時は連帯責任になるんじゃねーのか?ああ、間違いねーな。鳴海と響紀ちゃんは努力をしたが、他の連中が手伝わなかったせいで企画は失敗した・・・こっちの方がしっくりくるぞ。二人には申し訳ねーけど、部員の俺らのやる気がなかったんだから、失敗してもしょーがねーよな、明日香」


 少しの沈黙が流れる


嶺二「よく聞いとけよ。てめーが肩書きだけの文芸部員にしかこだわらねーんだったら、好きなだけ鳴海に仕事を押し付けてれば良い。だがな、俺はお前の意志とは関係なく響紀ちゃんを使わせてもらうぞ。どんな結果が待ってよーが、響紀ちゃんには全力で朗読劇の準備をして貰わなきゃ困るんだ。あいつの才能が、菜摘ちゃんの本が、汐莉ちゃんの歌声が、何かを変える見込みを1%でも秘めてるんだったら、俺はこの朗読劇を全力でやる。分かったか?」


 再び沈黙が流れる


明日香「雪音はどうするの」

嶺二「どうもしねーよ」

明日香「嘘をつかないで。あんたは雪音と何か企んでる」

嶺二「それは俺の問題だ」

明日香「やめておきなさい。上手くいくわけないから」

嶺二「俺が何を考えてるのか、お前は知らねーだろ」

明日香「残念だけど、私にはあんたの考えてることが手に取るように分かるの。三年間わがままに付き合わされたお陰でね」

嶺二「そーかよ。なら小さな情報を知って一人で喜んでろ」

明日香「一人で?私は誰かに喋るつもりなんだけど?」

嶺二「憶測で好き勝手言うのは哀れだぞ、明日香」

明日香「そうね。私から鳴海には言っとくから、憶測だけど、嶺二が朗読劇で千春を甦らせようとしてるって。もしくは、嶺二と雪音が全力で他人を利用して、人の想い踏みにじりながら朗読劇で千春を生き返らせようとしてるんだけど、鳴海はどう思う?(少し間を開けて)こんな感じ、憶測だからかなり適当な文になってるでしょ?でも一応私文芸部員だし、副部長の鳴海にあんたの秘密を伝えるのも大事だと思ってるんだよね。あ、そうそう、嶺二が言ってたように鳴海は私の親友だし、私が部員としての責任を果たす良い機会にもなるし、まさに一石二鳥ってわけ」


 椅子の背にもたれる嶺二

 少しの沈黙が流れる


嶺二「(椅子の背にもたれたまま)なあ・・・明日香・・・」

明日香「何」

嶺二「(椅子の背にもたれたまま)いつから俺たちの関係は・・・こんなに酷くなっちまったんだろーな・・・」

明日香「私が知るわけないでしょ・・・」


 再び沈黙が流れる


明日香「あ、あんたたちは自分の意志を大切にするあまり、周りが見えなくなってたんじゃないの・・・」

嶺二「(椅子の背にもたれたまま少し笑って)明日香、お前にだけは言われたくねーよ」


◯836帰路(放課後/夕方)

 弱い雨が降っている

 帰り道、話をしながら歩いている詩穂と真彩

 二人は話をしている

 部活帰りの学生がたくさんいる


詩穂「鳴海先輩は文芸部にいる唯一の後輩を助けずに、部員募集をしてる。先輩がそんなんだから・・・汐莉は学校に来なくなったんだと思わない・・・?」

真彩「んー・・・」

詩穂「やっぱり責任は鳴海先輩にあるよ。鳴海先輩が軽音部と文芸部を悪い方に落としたんだ」


 少しの沈黙が流れる


真彩「鳴海先輩は、詩穂が考えてるよーな人じゃないと思うけどなぁ・・・つーかただ不器用なだけで、根は良い人に見えるし・・・」

詩穂「真彩はコロッケとか奢ってくれたから鳴海先輩のことが好きなんでしょ?」

真彩「それもあるんだけどさ〜・・・でも実際、悪い人には見えないんだよね〜・・・」

詩穂「へぇ・・・(少し間を開けて小声でボソッと)私はあいつのこと・・・嫌いだな・・・」

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