Chapter6生徒会選挙編♯4 √文芸部(波音物語)×√軽音部(ライブ)-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
向日葵が教えてくれる、波には背かないで
Chapter6生徒会選挙編 √文芸部(波音物語)×√軽音部-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
登場人物
滅びかけた世界
ナツ 16歳女子
ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家。母親が自殺してしまい、その後は一人で旅を続けていたがスズと出会い行動を共にするようになった。
スズ 15歳女子
マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。
ナツと共に奇跡の海を目指してやって来た。
老人 男
ナツの放送を聞いて現れた謎の人物。元兵士の男。緋空浜の掃除を一人でしている。Narumi Kishiと彫られたドッグタグを身に付けているがその正体は・・・
老人の回想に登場する人物
中年期の老人 男子
兵士時代の老人。
中年期の明日香 女子
老人ともう一人の兵士を見送りに来た、中年期頃の明日香。
七海 女子
中年期の明日香と同じく、老人ともう一人の兵士を見送りに来た少女。年齢は15、16歳。
老人と同世代の男兵士1 男子
中年期の明日香、七海に見送られていた兵士。中年機の老人、レキ、男兵士2と同じ隊に所属している。
レキ 女子
老人たちと同じグループの若い女兵士で、年齢は25歳前後。中年期の老人、男兵士1、男兵士2と同じ隊に所属している。
老人と同世代の男兵士2 男子
中年期の老人、男兵士1、レキと同じ隊に所属している兵士。
アイヴァン・ヴォリフスキー 男子
ロシア人。たくさんのロシア兵を率いている若き将校。容姿端麗で、流暢な日本語を喋ることが出来る。年齢は20代後半ほど。
両手足が潰れたロシア兵 男子
重傷を負っているロシア人の兵士。中年期の老人と出会う。
滅んでいない世界
貴志 鳴海 18歳男子
波音高校三年三組、運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。 Chapter4の終盤に菜摘と付き合い始めた。
早乙女 菜摘 18歳女子
波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。鳴海と付き合っている。
白石 嶺二 18歳男子
波音高校三年三組、鳴海の悪友、不真面目なところもあるが良い奴。文芸部のいじられキャラである。高校卒業後は上京してゲームの専門学校に通うことを考えている。
天城 明日香 18歳女子
波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。夢は保育士になること。最近は響紀に好かれて困っており、かつ受験前のせいでストレスが溜まっている。
南 汐莉15歳女子
波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。明るく元気。バンド”魔女っ子少女団”のメインボーカルで歌とギターが得意。20Years Diaryという日記帳で日々の行動を記録している。Chapter5の終盤に死んでしまう。
一条 雪音18歳女子
波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。元天文学部部長で、今は文芸部に所属。真面目な性格のように見えるが・・・
柊木 千春女子
Chapter2の終盤で消えてしまった少女で、嶺二の思い人。
三枝 響紀15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のリーダー兼リードギター担当。クールで男前キャラ、同性愛者、 Chapter3で明日香に一目惚れして以来、彼女に夢中になっている。
永山 詩穂15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のベース担当。おっとりとしている。
奥野 真彩15歳女子
波音高校一年生、軽音楽部所属。バンド魔女っ子少女団のドラム担当。バンドの賑やかし要員。
早乙女 すみれ45歳女子
菜摘の母、45歳には見えない若さ美しさを保つ。優しい、とにかく優しい。愛車はトヨタのアクア。
早乙女 潤46歳男子
菜摘の父、菜摘とすみれを溺愛しており二人に手を出そうとすれば潤の拳が飛んでくること間違いなし。自動車修理を自営業でやっている。愛車のレクサスに“ふぁるこん”と名付けている。永遠の厨二病。
神谷 志郎43歳男子
波音高校三年の教師。鳴海、菜摘、嶺二、明日香、雪音の担任。担当教科は数学。文芸部顧問。Chapter5の終盤に死んでしまう。
荻原 早季15歳女子
Chapter5に登場した正体不明の少女。
貴志 風夏24歳女子
鳴海の6つ年上の姉、忙しいらしく家にはほとんど帰ってこない。智秋と同級生で親友関係。仕事をしつつ医療の勉強をしている。
一条 智秋24歳女子
雪音の姉。妹と同じく美人。謎の病に苦しんでいたがChapter3の終盤にドナーが見つかり、一命を取り留めた。リハビリをしながら少しずつ元の生活に戻っている。
双葉 篤志18歳男子
波音高校三年二組、天文学部副部長。
有馬 勇64歳男子
波音町にあるゲームセンター“ギャラクシーフィールド”の店主。千春が登場したゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”の開発者でもある。
細田 周平15歳男子
野球部に所属している一年生。Chapter5では詩穂に恋をしていた。
貴志 紘
鳴海の父親、事故で亡くなっている。菜摘の父、潤と高校時代クラスメートだった。
貴志 由夏理
鳴海の母親、事故で亡くなっている。菜摘の母、すみれと高校時代クラスメートだった。
神谷 絵美29歳女子
神谷の妻。Chapter5では妊娠していた。
波音物語に関連する人物
白瀬 波音23歳女子
波音物語の主人公兼著者。妖術を使う家系『海人』の末裔、そして最後の生き残り。Chapter4の終盤、妖術を使い奈緒衛の魂を輪廻させ、自らの魂も輪廻出来るようにした。
佐田 奈緒衛17歳男子
波音の戦友であり恋仲。優れた剣術を持ち、波音とは数々の戦で戦果をあげた。Chapter4の終盤に死んでしまった人物。
凛21歳女子
波音、奈緒衛を慕う女中。緋空浜の力を持っており、遥か昔から輪廻を繰り返してきた。波音に輪廻を勧めた張本人。体が弱い。奈緒衛と同じくChapter4の終盤に死んでしまった人物。
明智 光秀55歳男子
織田信長と波音たちを追い込み凛を殺した。
Chapter6生徒会選挙編♯4 √文芸部(波音物語)×√軽音部-夏鈴ト老人ハ大掃除ニツキ=好きにしろ、決別する海
◯488波音高校三年三組の教室(日替わり/朝)
外は晴れている
教室に入る鳴海
朝のHRの前の時間
神谷はまだ来ていない
どんどん教室に入ってくる生徒たち
教室にいる生徒たちは周りにいる人と喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている
菜摘、嶺二、雪音が教室の窓際で話をしている
明日香は自分の席で書類に何か書いている
チラッと明日香のことを見て、自分の席にカバンを置き窓際に行く鳴海
菜摘「おはよう」
鳴海「(小声でボソッと)うっす・・・(再びチラッと明日香を見て)明日香に謝罪するなら今だと思うか?」
菜摘「(明日香のことを見て)うーん・・・明日香ちゃん、忙しそうに見えるけど・・・」
嶺二「んなこと構ってらんねえって、土下座なら今しかねーよ」
鳴海「だよな、やっぱ今しかないよな」
菜摘「鳴海くん、昨日は土下座しないって言ってなかった?」
鳴海「そうだ、土下座はしない」
嶺二「は?おめえこの期に及んで土下座しねーとか、プライドの高さバグってんだろ」
鳴海「今更土下座なんか出来るかよ!」
嶺二「プライドは捨てたらどうかね、ミスターワトソン」
鳴海「うるせえ!!というかプライドは別に関係ねえよ!!」
雪音「土下座するかどうかで悩む暇があるなら、早く謝りに行ったら?」
嶺二「そーだぞ。早く土下座しろ」
鳴海「(小声でボソッと)クソが」
菜摘「(呆れて)鳴海くん・・・」
鳴海「何だよ?」
少しの沈黙が流れる
菜摘、嶺二、雪音の三人が鳴海のことを見ている
鳴海「あ、謝ってきます・・・」
菜摘「(手を振り)うん、行ってらっしゃい」
明日香の元へ行く鳴海
明日香は鳴海が近づいても、変わらず書類に何か書いている
鳴海「あ、明日香・・・」
明日香「(書類に何か書きながら)何?」
菜摘、嶺二、雪音は鳴海と明日香のことを見ている
心配そうにしている菜摘
鳴海「あー・・・えっとー・・・お、おはようだな」
明日香「(書類に何か書いたまま)おはよう」
吹き出して笑いながら鳴海と明日香のことを見ている嶺二
嶺二「(笑いながら小声で 鳴海と明日香のことを見たまま)お、おはようだってさあいつら」
菜摘「(心配そうに鳴海のことを見たまま)鳴海くん・・・挨拶してる場合じゃないよ・・・」
頭を掻く鳴海
鳴海「(頭を掻きながら 声 モノローグ)あ、挨拶してる場合じゃないだろ俺!!!」
明日香は一切鳴海のことを見ない
頭を掻くのをやめる鳴海
鳴海「き、昨日のことなんだが・・・」
嶺二「(鳴海と明日香のことを見たまま)おっ!土下座するか!?」
鳴海「き、昨日は・・・その・・・(かなり間を開けて)か、かいわれ大根の日だったらしい」
再び笑い出す嶺二
嶺二「(笑いながら小声で 鳴海と明日香のことを見たまま)か、かいわれ大根の日!き、昨日はかいわれ大根の日!!」
雪音「(鳴海と明日香のことを見たまま呆れて)早く謝れば良いのに・・・」
菜摘「(鳴海のことを見たまま呆れて)鳴海くん・・・しっかりして・・・」
鳴海「(声 モノローグ)な、な、何を言ってるんだ俺は!!!まずいぞ!!!は、早く謝らなくては!!!!」
鳴海「お、お、お、俺と・・・あ、あ、あ、あす・・・」
明日香「(書類に何か書きながら)噛み過ぎでしょ」
鳴海「お、俺と明日香が・・・喧嘩した日は・・・か、かいわれ大根の日だったんだ・・・だ、だから・・・それで・・・」
明日香は書類に何かを書いていたが、手を止める
明日香「あっそう」
明日香は書類を持って立ち上がる
明日香「私、忙しいの」
鳴海「えっ?」
明日香は書類を持ったまま早足で教室を出て行く
鳴海「お、おい!!明日香!!」
慌てて明日香を追いかけ教室を出る鳴海
嶺二「かいわれ野郎がどうなるか気になるし俺たちも行くか?」
菜摘「う、うん!」
鳴海と明日香を追って教室を出る菜摘、嶺二、雪音
◯489波音高校階段(朝)
階段の踊り場で話をしている鳴海と明日香
その様子を隠れて上から見ている菜摘、嶺二、雪音
明日香の手には書類がある
登校して来る生徒たちが不思議そうに鳴海たちのことを一度見る
鳴海「き、昨日は・・・悪かった・・・(少し間を開けて)言い過ぎたよ・・・ごめん・・・」
明日香「そう」
少しの沈黙が流れる
鳴海「そう・・・って・・・?」
明日香「別に?」
鳴海「明日香、言いたいことがあるんだったら昨日みたいにはっきり言ってくれよ。今日は開き直らずに聞くからさ」
明日香「特に何もないけど?」
再び沈黙が流れる
明日香「用が済んだならもう行っていい?」
鳴海「ま、待てよ」
明日香「なんで?私に謝ることが目的だったんでしょ?」
鳴海「そ、それはそうだが・・・(かなり間を開けて)これじゃあ謝ったとは言えないだろ・・・」
困っている鳴海
菜摘、嶺二、雪音は変わらず、隠れて上から鳴海と明日香のことを見ている
嶺二「(隠れて鳴海と明日香のことを見ながら小声で)明日香の奴・・・まだキレてるのかよ・・・」
雪音「(隠れて鳴海と明日香のことを見ながら小声で)当然じゃない?あれだけ言ったんだから」
菜摘「(隠れて鳴海と明日香のことを見ながら小声で)ここは鳴海くんの踏ん張らないとダメだね」
鳴海と明日香は少しの間黙り続ける
鳴海「明日香・・・本当にすまなかった・・・反省する・・・」
明日香「分かった」
鳴海「わ、分かったはないだろ・・・こ、これでも真剣に謝ってるんだぞ、俺」
明日香「ふざけてかいわれ大根の日って言ってたくせに」
鳴海「か、かいわれ大根は・・・わざとじゃない・・・すまん・・・(かなり間を開けて)明日香・・・どうしたら許してくれるのか教えてくれ・・・」
明日香「許した。はい、もういいでしょ」
鳴海「そういうのじゃなくて・・・ちゃんとした許しを・・・」
明日香「(鳴海の話を遮って)私に支配されたくないって昨日言ってたよね?なのに私の話を聞くの?まさかたった一日で心変わりしたってこと?あの鳴海が?あの、菜摘以外の人の話を全く聞かない、鳴海が?」
鳴海「す、すまない・・・」
明日香「しつこいんだけど」
鳴海「し、しつこいって言ったって謝るしかないんだからしょうがないだろ・・・」
明日香「あ、今開き直った?」
少しの沈黙が流れる
鳴海「すまん・・・」
明日香「もう行っていい?私、次に支配出来そうな人を探したいし」
鳴海「さっきから気になってたんだけど、何をそんなに急いでるんだ?」
明日香「(手に持って行った紙を上げ)神谷に提出する物があんの」
鳴海「(明日香の持ってる紙を見ながら)何のプリントだよそれ」
隠れて上から見ていた菜摘と雪音が、明日香の紙を見て何かに気づく
菜摘「(隠れて明日香の持ってる紙を見ながら)あ、あの紙・・・」
雪音「(隠れて明日香の持ってる紙を見ながら)退部届けだ」
嶺二「(驚いて大きな声で)た、退部届け!?!?」
明日香が上を見る
明日香が菜摘、嶺二、雪音の存在に気づく
慌てて隠れる菜摘、嶺二
雪音は諦めて隠れるのをやめる
明日香「(菜摘たちがいる上を見ながら)隠れても無駄」
恐る恐る顔を出す菜摘と嶺二
明日香「(呆れながら)そんなところにいないで降りてきたら?」
菜摘「う、うん」
階段を降り、踊り場に行く菜摘、嶺二、雪音
菜摘「あ、明日香ちゃん・・・」
明日香「無理」
菜摘「まだ何も言ってないよ・・・」
明日香「どうせ辞めないでって言うんでしょ?悪いけど無理」
鳴海「明日香、何も辞めることはないだろ」
嶺二「そーだぞ、鳴海も謝ってるんだし許してやれよ」
明日香「もうあんたたちに付き合ってられなくなったの。分かる?鳴海が謝ったとか、私が許してないからとか、そういうのは関係ない」
鳴海「(小声でボソッと)結局まだ許してないのか・・・」
明日香「当たり前でしょ。あんた、私のことクソ野郎呼ばわりしたのに」
菜摘「(驚いて)そ、そんな酷いことを言ったの!?」
再び沈黙が流れる
鳴海「申し訳ない・・・」
雪音「申し訳ない、じゃなくて申し訳ございません、ね」
鳴海「も、申し訳ございません・・・」
嶺二が無理矢理鳴海の頭を押し倒す
嶺二「(無理矢理鳴海の頭を押し倒したまま)んなわけだから明日香、許してやってくれ」
明日香「無理」
嶺二「(無理矢理鳴海の頭を押し倒したまま)どうしても?」
明日香「どうしても」
鳴海の頭を離す嶺二
菜摘「明日香ちゃん、許さなくても良いから、文芸部には残ってよ。お願い」
明日香「どうして?私が抜けても部員は五人いるんだし、朗読劇だって軽音部が協力してくれるんだから何とかやっていけるでしょ?」
菜摘「人数の問題じゃないよ・・・みんなが必要だから・・・明日香ちゃんには辞めてほしくないんだ・・・全員で朗読劇をやりたいもん。それに・・・明日香ちゃんがいなくなったら寂しいよ」
明日香「さ、寂しいって・・・そんなの・・・私には関係ない。だ、大体受験も控えてるのに・・・」
雪音「忙しい合間を縫って、部活をやるから楽しいんじゃないの?」
菜摘「そうそう、雪音ちゃんの言う通りだよ」
明日香「二人は進路が決まってなくて自由な時間が多いからそんなことを言えるんでしょ」
嶺二「受験のことがそんなに気になるなら、事前に勉強する曜日を決めてそん時だけ部活は休めば良くね?」
明日香「嫌なの、中途半端は」
鳴海「だから辞めるのか?全部を投げ出して?そっちの方が中途半端だろ」
明日香「鳴海は私にどうしてほしいわけ?昨日は辞めさせる勢いでボロクソに言ってくれたけど」
鳴海「辞めさせたかったんじゃない・・・昨日は・・・」
明日香「昨日は何?」
鳴海「南のことや・・・進路で・・・頭がいっぱいになってて・・・それで・・・明日香に色々言われたから・・・」
明日香「私のせいってこと?」
鳴海「違う!!悪いのは俺だ・・・明日香が言ってたように、もっと上手く南をフォローしてやるべきだった。でも・・・あの時、咄嗟に思いついたのが花粉症で・・・」
明日香「さすが、天才の思考は違うね」
菜摘「明日香ちゃん・・・」
チャイムが鳴る
嶺二「(明日香の手から退部届けを奪い取り)やべ遅刻だ!!!!この話はまた今度な!!!!」
嶺二は階段を駆け上がって行く
明日香「ちょ、嶺二!!!待ちなさい!!!」
明日香は嶺二を追いかける
◯490波音高校食堂(昼)
昼休み
食堂にいる鳴海、菜摘、嶺二
込んでいる食堂
注文に並ぶ生徒がたくさんいる
昼食を食べ終えた菜摘と嶺二
鳴海の目の前には手付かずの醤油ラーメンがある
食堂のテーブルはほとんど埋まっている
菜摘「ラーメン、伸びちゃうよ」
鳴海「今は食う気になれないんだ・・・」
嶺二「要らねーなら俺によこせ」
鳴海「嶺二、さっきカツ丼とカレーうどん食っただろ」
嶺二「それが?」
鳴海は無言で醤油ラーメンを動かし、嶺二の前にやる
嶺二「あざっす!!」
醤油ラーメンを食べ始める嶺二
頭を抱える鳴海
醤油ラーメンをすする嶺二
鳴海「(頭を抱えながら)まさか辞めるなんて・・・」
嶺二「あいつはまだ辞めてねーぞ。明日香の退部届けは俺様の胃の中にあるからな」
顔を上げる鳴海
菜摘「い、今なんて言ったの?」
嶺二「明日香の退部届けは俺様の胃の中にある」
少しの沈黙が流れる
鳴海「胃の中にあるって・・・どういうことだよ・・・?」
嶺二「(醤油ラーメンをすすりながら)ふったんだ」
鳴海「すすりながら喋るな」
嶺二は麺をすすった後、レンゲでスープをすくい一口飲む
嶺二「だから、食ったんだ、ヤギみたいに。これで明日香は辞めずに済むだろ」
再び沈黙が流れる
菜摘「嶺二くん・・・それ本当?」
嶺二「やだなぁ菜摘ちゃん、嘘に決まってるじゃないか」
醤油ラーメンをすする嶺二
鳴海「てめえ、ふざけてる場合じゃねえんだぞ」
嶺二「もっとふざけられる余裕を持てよ、鳴海」
鳴海「何が、余裕を持てだ。バカたれ」
菜摘「嶺二くん、明日香ちゃんの退部届け、本当はどこにあるの?」
嶺二「(ニヤリと笑い)どこだと思う?」
鳴海「知るか、早く教えろ」
嶺二「財宝は男子トイレの掃除ロッカーに封印した」
菜摘「(ドン引きして)うわっ、最低」
嶺二「だってよ、あの退部届けには保護者の印鑑が押されてたんだぜ?明日香の奴はマジで辞める気だぞ?」
鳴海「だとしても最低だろ・・・」
嶺二「これもひとえに菜摘ちゃんと文芸部のための行動ってわけだ」
菜摘「私、男子トイレに隠せなんて頼んでないよ・・・」
嶺二「それは俺が独断専行したからな」
鳴海「明日香が俺たちの首を狩る日もそう遠くはなさそうだ・・・」
嶺二「だからこの件は明日香に言うなよ?俺だってまだ死にたかねーし」
鳴海「とんでもない罪を上からおっかぶせやがったなてめえ」
嶺二「鳴海が明日香にキレなきゃこんなことにはならなかったんだよ。明日香抜きじゃ、響紀ちゃんの生徒会選挙だってどうなるか分かんねーんだぞ」
鳴海「(小声でボソッと)クソが・・・」
醤油ラーメンをすする嶺二
菜摘「(少し怒ったように)鳴海くん」
鳴海「何だよ?」
菜摘「言葉使い」
鳴海「言葉使いがなんだ」
菜摘「もっと綺麗な言葉を使ってよ、鳴海くん」
鳴海「あー・・・すまん・・・でもクソがって言いたくなる状況だろ?」
菜摘「つまりどんな状況なの?」
鳴海「クソみたいな状況のことだよ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「今のクソは、どんな状況かって聞かれたから、それに対する返答として使っただけだ。悪気はないが、謝る。すまん」
嶺二「鳴海、さっきからクソって言葉を言いたいのか?それとも謝りたいのか?どっちなんだ?」
鳴海「謝りたいに決まってるだろ」
嶺二「とてもそうには見えねーが・・・」
鳴海「うるせえ」
菜摘「鳴海くん、これからは汚い言葉を使うんじゃなくてスイートメロンパンが食べたいって言いなよ」
鳴海「何のために?」
菜摘「可愛いじゃん!」
嶺二「非常に素敵なアイデアだな」
鳴海「どこが素敵だ」
嶺二「俺、数えとくから。10回スイートメロンパンが食べたいって言ったら俺たちにメロンパンを奢れよ?」
鳴海「ふざけんな。メロンパンくらい自分で買え」
菜摘「そういう生意気な態度を改めるためにも、今後はスイートメロンパンが食べたいにしよう」
鳴海「勝手に決め・・・」
菜摘「(鳴海の話を遮って)はい、この話はおしまいね、今は明日香ちゃんをどうするか考えなきゃ」
鳴海「(小声でボソッと)俺のことなのに俺の話は無視かよ・・・」
嶺二「鳴海、メロンパンのことはもうどーでもいーから、頭を切り替えろ」
鳴海「言われなくても今懸命に切り替えてる最中だ」
菜摘「鳴海くん、嶺二くん、明日香ちゃんのことで何か良い作戦はある?」
鳴海「作戦って言われてもな・・・」
再び沈黙が流れる
嶺二「菜摘ちゃん、今日の部活の予定は?」
菜摘「朗読劇のことをやろうかと思ってたんだけど・・・明日香ちゃんがいないし・・・んー・・・」
嶺二「ってことは予定無しだな?」
菜摘「うん」
嶺二「なら軽音部の部室に行こう」
鳴海「また軽音部か・・・」
嶺二「あの子たちの協力が必要だからな」
鳴海「今度は何を頼むつもりなんだよ?」
嶺二「それは後のお楽しみにしてろ」
◯491波音高校一年六組の教室/軽音部一年の部室(放課後/夕方)
校庭では運動部が活動している
教室の隅にはリードギター、ベース、ドラム、その他機材が置いてある
椅子に座っている菜摘、嶺二、雪音
菜摘、嶺二、雪音に向かい合って汐莉、響紀、詩穂、真彩が座っている
鳴海は文芸部員と軽音部員の間で正座している
それぞれ椅子の隣に学校用のカバンを置いている
鳴海のカバンは正座している鳴海の隣に置いてある
明日香「(立ち上がり大きな声で)明日香ちゃんは私の物なのに!!!」
鳴海「(汐莉、響紀、詩穂、真彩に対して頭を下げ大きな声で)すまん!!!!本当にすまん!!!!」
詩穂「明日香先輩は物じゃなくって人だからね響紀くん」
響紀「(大きな声で)天城明日香は私物です!!!!」
嶺二「そーだ。明日香は響紀ちゃんの物であり、好きなようにしていい」
響紀「はい!!」
真彩「本人がいないところで言い切っちゃうの、ヤバくないっすか・・・」
嶺二「まあやん、これは響紀ちゃんと明日香の問題だから、我々が口出しすることじゃないんだよ」
真彩「そ、そうなんすかね・・・」
鳴海が頭を下げたまま、少しの沈黙が流れる
汐莉「鳴海先輩・・・とりあえず頭を上げてください」
ゆっくり頭を上げる鳴海
嶺二「さてと・・・謝罪も終わったことだし、そろそろ名探偵の出番かな」
菜摘「うん、お願い嶺二くん」
嶺二「任せたまえ。鳴海、響紀ちゃん、まずは座るんだ」
椅子に座る響紀
鳴海はカバンを持ち立ち上がる
鳴海は教室の後ろにあった椅子を引っ張って来る
鳴海は雪音の隣に椅子を置き、座る
雪音「(小声で鳴海に)名探偵?嶺二が?」
鳴海「(小声で)らしいぞ」
雪音「(小声で)ふーん・・・」
嶺二「今現在、明日香から退部届けを取り上げてはいるが・・・その効果もいつまであるのか分からない」
詩穂「取り上げたってことは、どこかに隠したんですか?」
嶺二「ああ、男子トイレ・・・」
鳴海「(大きな声で)机の中だ!!!!机の中に隠してある!!!!」
真彩「その前に男子トイレって聞こえたよーな・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「スイートメロンパンが食べたい」
汐莉「鳴海先輩、メロンパンが好きなんですか?」
鳴海「好きではない」
雪音「でも食べたいと?」
鳴海「ああ」
菜摘「鳴海くん」
鳴海「何だ」
菜摘「良い感じだよ」
鳴海「良い感じ、な・・・(小声でボソッと)どこが良い感じなのか全く分からねえけど・・・」
詩穂「鳴海先輩、もうすぐ波音駅の近くにショッピングモールが出来ますよ」
鳴海「それがどうかしたのか?」
詩穂「ショッピングモールの中には超高級パン屋さんがあって、中でもメロンパンが一押しなんだとか」
鳴海「あー・・・なるほど・・・?」
詩穂「もし先輩が食べたら、後で美味しかったかどうか教えてください。私もメロンパンが好きなので」
真彩「味の感想なら自分も聞きたいっす!!」
鳴海「ま、待て、俺は別にメロンパンなんか好きじゃないんだ」
菜摘「でも鳴海くんは今メロンパンが食べたいんでしょ?」
嶺二「それもスイートのな?」
少しの沈黙が流れる
鳴海「明日香の退部届けは男子トイレのロッカーの中にある。因みに嶺二が隠した。明日香の退部届けが汚物まみれになっていても・・・(咳払いして)失礼、スイートメロンパンまみれになっていてもそれは全部嶺二のせいだ」
立ち上がる響紀
菜摘「どこ行くの?響紀ちゃん」
響紀「男子トイレです」
雪音「気をつけてね」
部室を出ようとする響紀
鳴海「(大きな声で)おいおいおいおい!!!気をつけてね、じゃねえだろ!!!」
雪音「ん?なに?」
鳴海「(大きな声で)何じゃねえよ!!!」
響紀「どうしたんですか、急に大きな声を出して」
鳴海「(大きな声で)男子トイレだぞ!!!何で誰も止めないんだよ!!!」
菜摘「あー・・・そういえば響紀ちゃんって女子トイレを使ってるの?」
響紀「半々ですかね」
鳴海「(驚いて大きな声で)は、半々!?!?!?」
響紀「何をそんなに驚いてるんですか」
鳴海「(大きな声で)いや驚くだろ!!!人は生まれながらにどちらかの性別に属してる生き物なんだぞ!!!」
汐莉「鳴海先輩、今の発言はLGBTに対する差別です」
嶺二「そーだぞ。最近は多様性を大事にしてるんだから、発言にはくれぐれも気をつけたまえ」
鳴海「いやいやいや、そういう問題じゃなくて・・・響紀が男子トイレに入ったらダメだろ・・・」
響紀「私は女と男の中間にいる生物なので」
菜摘「でも一人で男子トイレに行くのは危なくない?」
響紀「女子トイレの方が危ないですよ。だって隣に女子がいるんですから」
菜摘「そ、そっか・・・それもそうだね・・・」
鳴海「そりゃ女子トイレだから普通隣には女子しかいないだろうな・・・」
真彩「先輩、私たちも前は止めたんすよ、女子なんだから男子トイレは使うなって。でもこいつ、全然話を聞かなくて・・・」
雪音「つまり、もう止めるのは諦めたと?」
真彩「そうっすね・・・私たちも諦めかけてたんすけど・・・」
詩穂「ある時先生に、響紀くんが男子トイレに入ろうとしてるのが目撃されて・・その後は出禁です」
嶺二「マジかよ・・・」
鳴海「じゃ、じゃあ・・・さっき言ってた半々ってのは嘘か・・・?」
響紀「嘘じゃないですよ。ちょっと覗いて、誰もいないようなら今でも男子トイレを使ってます」
鳴海「おい」
菜摘「響紀ちゃん、誰か見られたりしないの?」
響紀「たまにバレます」
詩穂「この間も男子トイレを使って、それで親が呼び出されたって言ってたよね」
響紀「うん」
鳴海「響紀・・・」
響紀「何ですか」
鳴海「俺の勘違いかもしれないんだが・・・お前さ・・・もしかして・・・問題児ってやつなのか・・・?」
響紀「はい」
再び沈黙が流れる
汐莉「先輩、響紀は一年生の間だとちょっとした有名人なんですよ」
菜摘「へえ・・・響紀ちゃん目立ちそうだもんね」
響紀「いやぁそれほどでも。鳴海先輩と嶺二先輩の悪行に比べたら私のやったことなんて狐の悪戯以下ですよ」
嶺二「聞いたか鳴海。やっぱ俺たち凄いらしいぞ」
雪音「悪い意味でね」
眉間を押さえため息を吐く鳴海
鳴海「(眉間を押さえながら)響紀、呼び出しを食らった回数を教えろ・・・」
響紀「両親がですか?」
鳴海「(眉間を押さえたまま)ああ・・・」
響紀「18回くらいですかね」
鳴海「(眉間を押さえたまま)嶺二、お前の親は?」
嶺二「覚えてねーけど、10回あるかないかだと思うぜ。お前んとこの姉貴もそんなもんだろ?」
鳴海「(眉間を押さえたまま)多分な・・・」
菜摘「三人ともよく呼び出されてるんだね」
嶺二「天才は普通の枠には収まらねーってことよ」
真彩「れーじ先輩のポジティブシンキングが眩し過ぎるっす」
嶺二「見習ってくれても良いんだぜ?」
真彩「は、はい・・・考えときます・・・」
鳴海「俺たちはスイートメロンパンが食べたくなるような先輩だから・・・せめて反面教師にしてくれよ・・・」
菜摘「(驚いて)な、鳴海くんが早くもスイートメロンパンを使いこなしてる!!」
鳴海「これでも努力してるんだ」
菜摘「努力するのは素晴らしいことだよ、鳴海くん」
鳴海「そうだな・・・出来ればこんなことでは努力したくねえけど・・・」
詩穂「スイートメロンパンって何かの代名詞なんですか?」
鳴海「ああ」
詩穂「やっぱりそうなんだ」
鳴海「スイートメロンパンにどんな意味があるのかは自分らで考えてくれ」
真彩「え〜・・・気になるなぁ・・・」
汐莉「鳴海先輩のことだから・・・スイートメロンパンの意味はクソとかじゃないですか?」
鳴海「(驚いて)おおっ、よく分かったな南」
汐莉「鳴海先輩、しょっちゅう言ってますから、クソクソって」
首を何度も縦に振る菜摘
鳴海「悪気はないんだけどな」
雪音「だから問題なんでしょ?」
鳴海「そういうことだ・・・」
響紀「スイートメロンパンの話が出たので、私は男子トイレに出陣してきます」
嶺二「待てよ響紀ちゃん、まだ俺の話は終わっちゃいねえ」
響紀「今度は何ですか?」
嶺二「明日香のことで・・・軽音部のみんなに頼みがあるんだ」
響紀は椅子に座る
響紀「話を聞きましょう」
嶺二「軽音部のみんなって言ったけど、これは文芸部にも大きく関係してる話だから、(鳴海たちのことを見て)菜摘ちゃんたちも真面目に聞いておいてほしい」
菜摘「(頷き)分かった」
嶺二「俺と鳴海は・・・明日香と知り合ってもう三年にもなる。一年の時から同じクラスメートだし、喧嘩したってなんだかんだでずっと一緒にやってきた。ただの腐れ縁かもしれねーけど・・・俺は結構、俺たち三人の関係が好きだ。まあ・・・明日香からすりゃあ、うぜーだけかもしれないが・・・それでも、菜摘ちゃん言ってただろ、みんなが必要だって」
菜摘「うん。文芸部と軽音部の全員の力を合わせなきゃ・・・朗読劇は成功しないもん」
◯492天城家明日香の自室(放課後/夕方)
机に向かって現代文の勉強している明日香
机の上には入試対策の参考書、現代文の問題集、資料集、ノート、筆記用具が置いてある
嶺二「(声)そうだ。みんなの力が必要なんだ。俺たちはいない奴のためにも・・・場所を残しておかなきゃならねえし・・・それに・・・俺も菜摘ちゃんの気持ちが分かるよ。明日香がいなきゃ寂しいよな」
菜摘「(声)うん・・・」
嶺二「全く嫌になるぜ・・・三年間同じクラスだったくせに、卒業前の朗読劇にだけあいつがいないなんてよ」
◯493波音高校一年六組の教室/軽音部一年の部室(放課後/夕方)
校庭では運動部が活動している
教室の隅にはリードギター、ベース、ドラム、その他機材が置いてある
椅子に座っている鳴海、菜摘、嶺二、雪音
菜摘、嶺二、雪音に向かい合って汐莉、響紀、詩穂、真彩が座っている
それぞれ椅子の隣に学校用のカバンを置いている
嶺二が話をしている
嶺二「鳴海たちも分かってるだろーけど、今回の明日香は本気で文芸部を辞めようとしてるはずだ。だから俺たちは、それを全力で止める必要がある・・・全力で止めなきゃなんねえんだ・・・(少し間を開けて)俺は明日・・・明日香に交渉をしに行く。もうどんだけ嫌われたって構わねえよ、やるしかねーからな。明日香には、部員がもう一人増えるまで文芸部に残ってくれと頼む。断られたら明後日も、そのまた次の日も、あいつが了承するまで頼み込んでやるんだ。部員が一人増えたら、お前は辞めて良いって言ってな。だからみんなは協力して、文芸部の部員を何とか集めてほしい」
少しの沈黙が流れる
鳴海「れ、嶺二・・・良い考えだと思うけどよ・・・それだと結果的に明日香が辞めちまうんじゃねえのか?」
嶺二「(頷き)ああ。そこでだ・・・一つみんなに頼みたいことがある」
鳴海「何だよ・・・?」
嶺二「今後は・・・文芸部と軽音部の活動を統一してくれねーか」
顔を見合わせる鳴海たち
嶺二「なるべく行動を一緒にしねーと、明日香を残すための秘策が使いもんにならねーんだ」
菜摘「嶺二くん、その明日香ちゃんを残すための秘策って、何なの?」
嶺二「コンパクトにまとめて説明するのであれば、明日香を響紀ちゃんに惚れさせるって作戦だな」
菜摘「ごめん嶺二くん・・・コンパクト過ぎてよく分からない・・・」
嶺二「つまり、文芸部と軽音部の活動を一緒にしちまって、それから響紀ちゃんに、明日香が文芸部に残っていたいって思うような環境を作ってもらうんだよ」
菜摘「えっとー・・・それがどうして秘策になるの・・・?」
嶺二「響紀ちゃんが文芸部に出入りすりゃあ、明日香だって無条件でついてくるだろ。もっとも、この作戦において一番肝なのは明日香が響紀ちゃんに惚れるかどうかだが・・・」
再び沈黙が流れる
詩穂「要するに、部員が増えるまでは文芸部に残ってくださいと明日香先輩に言って、私たちが部員集めをしてる間に、いつしか明日香先輩は文芸部を抜けられなくなっている、というわけか・・・」
嶺二「そーゆーことだ」
雪音「で、それが上手くいくかは、響紀と明日香の関係次第であると?」
嶺二「ああ」
鳴海「明日香が惚れる前に、新しく部員が入ってきたらどうするんだ?」
嶺二「そん時は・・・失敗だな・・・(少し間を開けて)また別の作戦を考えて・・・説得を試みるか・・・」
雪音「どうしてわざわざみんなで部員募集をするの?かえってハイリスクなのに」
嶺二「理由は主に二つある。一つ目は、軽音部と協力してやってる方が全力に見えて、嘘っぽくないからだ。明日香の目を欺くには俺たちだけじゃ無理があるし、それに全員でやってれば、部員を増やすのだって簡単そうに見えるだろ?」
雪音「もう一つの理由は?」
鳴海「部員を増やす必要があるから・・・だ・・・」
嶺二「イエス」
雪音「どういうこと?」
嶺二「雪音ちゃんにしては珍しく冴えてないじゃねーか」
汐莉のことを見る鳴海、菜摘、嶺二
菜摘「(汐莉のことを見たまま)私たちが卒業したら、文芸部は汐莉ちゃん一人になっちゃうもんね」
真彩「そっかぁ・・・文芸部って、汐莉以外はみんな三年生だから・・・」
汐莉「待ってください、私一人のために部員募集をしようって言うなら、別に今じゃなくたって・・・」
嶺二「汐莉ちゃんのためだけじゃねーよ。汐莉ちゃんと、明日香と、文芸部と、未来に入って来るであろう文芸部の後輩たちと、千春ちゃんのためだ」
汐莉「嶺二先輩・・・」
嶺二「千春ちゃんだって・・・文芸部が無くなってたら寂しがるだろ・・・」
汐莉「そう・・・ですね・・・」
鳴海「せっかく作った部活を、一年で廃部には出来ないしな」
菜摘「うん!!私たちが作ったんだから、私たちで守らなきゃ!!!」
鳴海「ああ」
嶺二「(頭を下げて)汐莉ちゃん、響紀ちゃん、詩穂ちゃん、まあやん、勝手だけど、俺たち文芸部に協力してくれ!!このままじゃ卒業出来ねえんだ!!!」
顔を見合わせる詩穂と真彩
響紀「嶺二先輩」
顔を上げる嶺二
響紀「この私にお任せあれ」
嶺二「(嬉しそうに)信じてたぜ!響紀ちゃん!」
鳴海「あの明日香を惚れさせる自信があるのか・・・」
響紀「この私に明日香ちゃんのことで不可能はありません!!!」
詩穂「また言い切っちゃた・・・」
菜摘「響紀ちゃん、ほんとにやれるの?」
響紀「明日香ちゃんは私の手のひらの上で転がるボールも同然ですから。あとは強引に突き落とせば良いんです」
嶺二「確実に落とせるんだな?」
響紀「はい」
鳴海「強引に突き落とすって、一体何をするんだ?」
響紀「秘密です」
少しの沈黙が流れる
鳴海「あー・・・そうか・・・」
汐莉「響紀、生徒会選挙は大丈夫なの?」
響紀「男子の立候補者はほとんど死に絶えたし、楽勝」
汐莉「女子の方が手強いよ」
響紀「汐莉、私はね、そこら辺の女よりも精神的にも身体的にも強いの。毎日鍛えてるんだから」
嶺二「響紀ちゃんがタフで助かったよ」
鳴海「ほんと、優秀な後輩だよな・・・」
少しだけ俯く汐莉
菜摘「(頭を下げて)汐莉ちゃん、響紀ちゃん、詩穂ちゃん、真彩ちゃん、私からもお願い。いっぱい迷惑かけちゃうかもしれないけど、手伝ってほしい」
詩穂「先輩たちよりも、私たちの方が迷惑をかけないか・・・」
菜摘「(顔を上げ)大丈夫!!文芸部はトラブルに慣れしてるし!!」
雪音「(鳴海と嶺二の方を見て)なんせこっちにはトラブルの元凶が二人もいるからね」
嶺二「二人?トラブルメーカーは鳴海一人だろ」
鳴海「面目ねえ・・・」
真彩「うちらも色々とやらかすと思うんすけど、それでも良ければ是非是非協力させてください!」
菜摘「ありがとう、真彩ちゃん」
再び沈黙が流れる
詩穂「あのー」
嶺二「何か質問があるのかね、詩穂くん」
詩穂「質問というか・・・お願いというか・・・報告というか・・・」
嶺二「言ってみたまえ」
詩穂「親が呼び出されるのだけは絶対に無理なので・・・」
嶺二「呼び出されるのは俺の親か鳴海の姉貴だから安心しなさい」
鳴海「逆に安心出来ないんだが」
響紀「詩穂、なんで呼び出しが無理なの?」
詩穂「呼び出しなんかされたらママとパパがショック死しちゃうよ、ついでに部屋で飼ってるカナリアもストレスで飛べなくなるかも」
真彩「詩穂の家族って、メンタル弱過ぎて金魚すくいの金魚みたいだよな〜」
詩穂「私もたまにそう思う」
真彩「てか呼び出しはうちの親も無理っすね、死んでからその後悪魔になるんで」
鳴海「スイートメロンパン不謹慎だな」
真彩「めっちゃ怖いんすよ、私の親」
菜摘「怒られなきゃ平気平気」
鳴海「つか怒られても気にしなきゃ良いだろ」
雪音「さすが、怒られ慣れしてる人の意見は違う」
鳴海「まあな・・・」
雪音「既にトラブルに巻き込まれたも同然なのに、軽音部のみんなは見返りがなくて可哀想だね」
嶺二「失礼な、見返りはあるぞ」
真彩「(驚いて)な、何か貰えるんすか!!」
嶺二「思い出」
真彩「(棒読みで)アー」
汐莉「思い出って貰う物じゃなくて作る物だと思うんですけど・・・」
嶺二「俺らが作った思い出を後輩の君たちにプレゼントするんだよ、どーだ、嬉しいだろ?」
真彩「そ、そうっすねー・・・」
菜摘「真彩ちゃん、何か欲しい物があるの?」
真彩「ご、ご飯とか・・・?」
詩穂「真彩は食物のことしか頭にないもんね」
真彩「人間食べずには生きていけないじゃん?」
菜摘「それなら、手伝ってくれたお礼にみんなの欲しい物を・・・」
鳴海「お、俺が買おう!!!」
菜摘「えっ?鳴海くんが?」
鳴海「お、おう!!!俺が何でも叶えてやるぞ!!!」
真彩「ぽ、ポテトチップスコンソメダブルパンチ味を一生分ください!!」
鳴海「そ、そういう願いは叶えられんのだ・・・」
響紀「鳴海先輩、明日香ちゃんの体フリータッチ券を貰えますか」
鳴海「そんな物はこの世に存在してねえ・・・」
嶺二「なら一生遊んでいける分の金を・・・」
鳴海「(嶺二の話を遮って)残念ながらお前の願いは受け付けてないんだ」
嶺二「使えねー奴だな」
鳴海「うるせえスイートメロンパン野郎が。俺が与えられる物は限られてんだよ」
詩穂「CD一枚とか・・・?」
鳴海「うむ。それなら問題ないな」
少しの沈黙が流れる
汐莉「思ってたよりもしょぼいですね・・・」
雪音「鳴海、海外旅行は?軽音部のみんなも連れて行ってあげたら?」
鳴海「いやそれはさすがにちょっと・・・」
真彩「先輩、外国行くんすか?」
鳴海「行かね・・・」
嶺二「(鳴海の話を遮って)行くぜ。文芸部で卒業記念の海外旅行だ」
鳴海「おい」
真彩「へ〜、私も外国行ってみたいな〜」
菜摘「真彩ちゃんも来る?」
真彩「(驚いて)い、良いんすか!!」
菜摘「うん」
真彩「お、奢ってくれるなら行きます!!」
菜摘「詩穂ちゃんは?」
詩穂「僭越ながら私も・・・」
菜摘「(鳴海のことを見て大きな声で)鳴海くん!!!」
鳴海「な、何だよ?」
菜摘「(鳴海のことを見たまま大きな声で)手伝ってくれたお礼に海外旅行をプレゼントってどうかな!!!」
鳴海「ど、どうかなって・・・」
響紀「文芸部で海外旅行ということは、愛しの明日香ちゃんも海外に?」
鳴海「あ、ああ・・・あいつが文芸部を辞めなければの話だが・・・」
響紀「(大きな声で)私も行きます行きます明日香ちゃんとヴェネチアに行きたいんです連れて行ってくださいお願いします!!!!」
鳴海「ひ、響紀、まずは落ち着くんだ・・・」
響紀「落ち着いてますヴェネチアとても楽しみですグラッチェ」
鳴海「い、良いかお前ら・・・この際はっきりさせておこう・・・(少し間を開けて大きな声で)海外には行かん!!!」
嶺二「鳴海・・・俺はお前のそういうところが物凄く嫌いだ」
鳴海「黙ってろ嶺二」
汐莉「鳴海先輩、嘘ついたんですか」
鳴海「嘘?嘘なんか別についてねえだろ」
汐莉「先輩この前言いましたよね・・・海外旅行は検討するって・・・」
鳴海「け、検討したからこそ、海外旅行は無くなったんだよ」
菜摘「えっ、いつ検討なんかしたの?」
鳴海「そ、それは・・・昨日の夜中にだな・・・」
菜摘「一人で?私たちに何も相談せず?」
鳴海「お、俺副部長だろ?だ、だからさ、こういうことは副部長が一人で検討したって良いと思うんだよな」
菜摘「確かに鳴海くんは副部長だけど、部長は私だよ。私が文芸部の創立者なんだからね?」
鳴海「で、でもよ菜摘、部員の意見を聞くのも部長の仕事のはずだろ・・・?」
菜摘「ならここにいる全員で多数決をする?海外旅行賛成か反対かで」
再び沈黙が流れる
汐莉「鳴海先輩・・・今、スイートメロンパンが食べたいじゃないんですか?」
鳴海「うるせえ」
響紀「では軽音部の旅費は鳴海先輩のポケットマネーということで。助かります」
鳴海「(大きな声で)助かります、じゃねえわ!!!そんな金あるか!!!」
響紀「協力してくれた後輩を見捨てるんですか?」
鳴海「いや別に見捨ててねえだろ・・・」
汐莉「軽音部ってご褒美がないと頑張れないタイプの集まりなんです」
鳴海「お、思い出がご褒美になるだろ・・・」
嶺二「お前、俺と同じこと言ってんぞ」
鳴海「や、やっぱ思い出が一番だからな・・・」
真彩「思い出も良いっすけど、形に残る物が欲しいようなー・・・」
詩穂「お金?それともご飯?もしくは外国?」
雪音「あるいは全部?」
鳴海「ぜ、全部だと・・・?」
菜摘「だって鳴海くん、私たちの願いを叶えてくれるんでしょ?」
全員が一斉に鳴海を見る
鳴海「あ、あははは・・・け、検討に・・・検討を重ねることにしよう・・・」
汐莉「(鳴海のことを見たまま)検討に検討を重ねるだけですか?鳴海先輩」
鳴海「あ、いや・・・検討に検討を重ねて・・・脳が壊死しない程度に検討をするが・・・」
響紀「(鳴海のことを見たまま)トラブルメーカーの鳴海先輩、お詫びは貰えるだけ貰えますよ」
鳴海「あ、ああ・・・」
◯494帰路(放課後/夜)
帰り道、一緒に帰っている鳴海と菜摘
部活帰りの学生がたくさんいる
菜摘「今日の嶺二くん、なんかいつもと違ったよね」
鳴海「そうか?」
菜摘「うん。明日香ちゃんのこととか、文芸部のこととかさ、色々ちゃんと考えてるように見えたもん」
鳴海「そりゃあ、あいつも本気になってるんだろ。千春のためだって言ってたし」
少しの沈黙が流れる
菜摘「あのさ・・・鳴海くん」
鳴海「ん?」
菜摘「やっぱり・・・千春ちゃんを探しに行こうよ」
◯495帰路(放課後/夜)
帰り道、一緒に帰っている汐莉、響紀、詩穂、真彩
部活帰りの学生がたくさんいる
真彩「何がゴールなのかなぁ」
汐莉「えっ?」
真彩「今私たちがやろうしてること・・・ってかやってること?のゴールって何だと思う?」
詩穂「朗読劇でしょ?」
真彩「いや〜・・・それは違うよーな気がするんだよな〜・・・」
響紀「真彩、私たちのゴールは明日香ちゃん」
真彩「明日香先輩をゴールにしてるのは響紀だけっちゅうねん・・・」
響紀「明日香ちゃんのついでに、私たちは朗読劇を成功させるの」
真彩「でもさ〜、朗読劇をやるってだけなのに、なんかどんどん話が複雑になってきてない?」
汐莉「まあやん、先輩たちだって好きでこんな面倒くさいことをやってるわけじゃないと思うよ」
真彩「それは理解してるけど・・・(少し間を開けて)あの人たち、本当に朗読劇の成功を目指してるのかな・・・」
◯496帰路(放課後/夜)
帰り道、一緒に帰っている鳴海と菜摘
二人は話をしている
部活帰りの学生がたくさんいる
鳴海「どうやって探すんだ?」
菜摘「分からない・・・(少し間を開けて)探さなくても・・・私が・・・」
少しの沈黙が流れる
俯く菜摘
◯497帰路(放課後/夜)
話をしながら帰っている汐莉、響紀、詩穂、真彩
四人は話をしている
部活帰りの学生がたくさんいる
詩穂「なんでそんなふうに思うの?」
真彩「え、だって・・・朗読劇がやりたいって言ってる割には、めちゃくちゃ遠回りしてるじゃん?」
汐莉「それは私たちがスケジュールのことを隠してるからだよ!ほんとなら生徒会選挙なんか参加しなくても合同で朗読劇は出来たのに!」
真彩「まー確かに・・・遠回りのきっかけを作ったのは私たちでもあるけど・・・でもなんか、朗読劇の成功だけが目的って感じじゃないんだよな〜・・・」
響紀「実際、それ以外にも目標があるんでしょ?汐莉」
汐莉「えっ・・・そうなのかな・・・」
少しの沈黙が流れる
詩穂「真彩の言いたいこと、少しだけ分かる。文芸部はみんな熱量が違うよね」
真彩「そーそー。しっかりしてるのは菜摘先輩とれーじ先輩だけだしー」
詩穂「えー、嶺二先輩ってしっかりしてるのかなー・・・」
響紀「あの人は馬鹿」
真彩「めっちゃdisるじゃん・・・」
響紀「でも馬鹿なのが嶺二先輩の良いところだから」
汐莉「そうだね」
真彩「今日の嶺二先輩、ちょっとかっこよかったけどなぁ」
詩穂「まさか惚れちゃった?」
真彩「(首を横に振り)惚れない惚れない」
再び沈黙が流れる
詩穂「汐莉、先輩たちがどうして朗読劇をやりたいのか知ってる?」
汐莉「さあ・・・卒業しちゃうから、その前に一度文芸部で大きな活動がしたかったのかもしれないね」
真彩「やっぱ思い出作りってことか〜」
汐莉「うん、そうだと思うよ」
少しの沈黙が流れる
響紀「ねえ汐莉」
汐莉「ん?」
響紀「汐莉って、文芸部の中で誰と仲が良いの?」
詩穂「あっ、それ私も知りたい」
汐莉「うーん・・・誰なんだろ・・・」
◯498帰路(放課後/夜)
帰り道、一緒に帰っている鳴海と菜摘
部活帰りの学生がたくさんいる
俯いている菜摘
鳴海「菜摘・・・何かするんじゃないよな・・・?」
菜摘「(俯いたまま)出来るかどうかは分からないけど・・・千春ちゃんのために・・・もう一度・・・」
立ち止まる鳴海
鳴海「やめろ・・・」
顔を上げ、鳴海に合わせて立ち止まる菜摘
鳴海「そうだ菜摘・・・さっき永山が言ってだたろ。波音駅の近くに新しくショッピングモールが出来るって」
菜摘「うん・・・」
鳴海「生徒会選挙が終わったら・・・俺とデートしてくれ」
菜摘「デートなんて・・・いつでもするのに・・・」
見つめ合う鳴海と菜摘
鳴海は菜摘から目を逸らす
鳴海「(目を逸らしたまま)約束だ・・・生徒会選挙が終わったら・・・俺と一緒に・・・」
菜摘「うん」
菜摘の顔を見る鳴海
鳴海は歩き出す
鳴海に合わせて歩き出す菜摘
鳴海「(声 モノローグ)悪いな・・・」
菜摘「(声 モノローグ)ごめんね・・・」
◯499ゲームセンターギャラクシーフィールド店内(夜)
客で溢れている店内
レトロなゲーム機がたくさん置いてあり、客がゲームで遊んでいる
客層は小さい子から大人まで様々
故障中のゲームはなく全て起動している
店長の有馬勇が、10歳くらいの少年にゲームの操作方法を教えている
ギャラクシーフィールドの壁にはかつて千春が配っていたビラが貼られている
鳴海「(声 モノローグ)菜摘のためなんだ・・・」
菜摘「(声 モノローグ)鳴海くんのためだから・・・」
◯500緋空浜(夜)
雲で月が隠れている
浜辺で柊木千春らしき人物が、一人で海を見ている
浜辺には千春以外に人がいない
鳴海「(声 モノローグ)もうこれ以上・・・あいつの力は使わせられない・・・」
菜摘「(声 モノローグ)もう一度・・・力を使ってあげたいけど・・・」
ポツポツと雨が降ってくる
夜空を見上げる千春
◯501帰路(放課後/夜)
話をしながら帰っている汐莉、響紀、詩穂、真彩
部活帰りの学生がたくさんいる
真彩「汐莉さん・・・もしかして文芸部の中でぼっちっすか」
汐莉「そんなことはないと思うけど・・・」
響紀「やっぱり歳上との関係ってしんどい?」
汐莉「んー・・・」
ポツポツと雨が降ってくる
詩穂「あれ、雨降ってきた?」
真彩「えっ、嘘。今日って晴れの予報じゃなかったっけ?」
汐莉「多分・・・」
立ち止まり、両手をかざして雨が降ってるか確認する汐莉
夜空を見上げる響紀
汐莉の両手には小さな雨の雫が乗っている
◯502緋空浜(夜)
雨が降っている
浜辺に立っている千春
浜辺には千春以外に人がいない
千春は夜空を見上げている
夜空を見上げるのをやめ、両手をかざし、雨を確認する千春
少しずつ雨が強くなる
雨が降ってるのにも関わらず、千春の両手は全く濡れていない
◯503帰路(放課後/夜)
強い雨が降っている
走っている汐莉、響紀、詩穂、真彩
ずぶ濡れになっている四人
真彩「(走りながら)あーもうめっちゃ降ってきたじゃん!!!」
汐莉「(走りながら)どっか雨宿りするところない!?!?」
詩穂「(走りながら)駅近のファミレス!!!」
響紀「(走りながら)ビリの人が奢りね!!!」
響紀が雨の中、先頭を走る
響紀を追いかける汐莉、詩穂、真彩
◯504ファミレス(夜)
ファミレスにいるずぶ濡れの汐莉、響紀、詩穂、真彩
店員が汐莉たちのテーブルから離れて行く
店内には仕事帰りのサラリーマン、OL、学生がちらほらいる
真彩「最悪だ・・・濡れたし、寒いし」
詩穂「真彩、さっき転びかけてたよね」
真彩「こ、転んでなんかいませんけど!!ちょっと踊っただけですけど!!」
詩穂「へえ〜、あれで踊ってたんだ〜」
真彩「(汐莉のことを見て)汐莉!!私、転んでないよね?転びかけてもないよね!?てか踊ってたよね!?!?」
汐莉「う、うん・・・そうだね・・・」
少しの沈黙が流れる
響紀「水取って来るけど、みんないる?」
汐莉「あ、私も行くよ」
真彩「私と詩穂の分は取ってきて〜」
詩穂「取ってきて〜」
響紀「分かった」
立ち上がる汐莉と響紀
汐莉が歩き出そうとした瞬間、雨の影響で汐莉の履いていたローファーが滑る
汐莉「きゃっ!!」
転けそうになった汐莉を、反射的に響紀が支える
響紀は汐莉の右手を右手に握り、左手で腰を支えている
真彩「おーあぶねー」
響紀「(汐莉の体を支えながら)お嬢様、お怪我はありませんか?」
汐莉「(目を逸らし)う、うん・・・」
汐莉の顔が真っ赤になっている
詩穂「響紀くん、男なら最強だったよ・・・」
響紀「(汐莉の体を支えたまま)文芸部の先輩は、汐莉が転けそうな時支えてくれないでしょ?」
汐莉「(目を逸らしたまま)えっ、ど、どうかな・・・」
汐莉はチラッと響紀の胸を見るが、すぐに視線を逸らす
汐莉の腰を離し、右手を握ったまま2、3歩前を歩く響紀
響紀「(汐莉の右手を握ったまま)お嬢様、お足元にお気をつけください」
左手で汐莉を手招きする響紀
響紀に従って、ゆっくり歩く汐莉
響紀は汐莉の右手を握ったまま、2、3歩前を歩き、汐莉はその後ろゆっくりついて行く
真彩「あんなのが男だったらたまらん」
詩穂「たまらんって?」
ドリンクコーナーに辿り着く汐莉と響紀
汐莉と響紀のことを見ている詩穂、真彩
汐莉と響紀は飲み物をコップに注いでいる
真彩「(汐莉と響紀のことを見ながら)響紀が男だったら、取り合いになるじゃん」
詩穂「(汐莉と響紀のことを見ながら)ご飯と響紀くん、どっちが好きなの?」
真彩「(驚いて詩穂のことを見る)は?」
詩穂「ご飯と響紀くん、結婚するならどっち?」
真彩「そんなの決まってる」
詩穂「どっちなの?」
◯505滅びかけた世界:緋空浜(昼過ぎ)
晴れている
ゴミ掃除をしているナツ、老人
スズは浜辺で一人遊んでいる
浜辺にゴミの山がある
ゴミの山は、空っぽの缶詰、ペットボトル、重火器、武器類、骨になった遺体などの様々なゴミが積まれて出来ている
ゴミの山の隣には大きなシャベルが砂浜に突き刺さってる
ゴミの山から数百メートル先の浜辺は綺麗になっている
浜辺には水たまりが出来ており、水たまりの中にもゴミがある
三人は軍手をしている
三人それぞれに一台ずつスーパーのカートがある
スズのカートは浜辺に置きっぱなし
三台のカートのカゴにはビニール袋が敷いてあり、その中にゴミを入れていくナツ、老人
ナツと老人から少し離れたところでスズはゴミを漁っている
スズ「(死んだ魚を手に取り、ナツと老人に見せ)ご飯だ!!!」
死んだ魚は腐っている
ナツ「(チラッと死んだ魚を見て、トングでゴミを拾い)腐ってるよ」
スズ「(死んだ魚をナツと老人に見せたまま)食えない?」
老人「(トングでゴミを拾いながら)腐った魚を食ったらどうなるか知ってるか?」
スズ「(死んだ魚をナツと老人に見せたまま)知らなーい」
老人「(トングでゴミを拾いながら)腹が腐る」
スズ「(死んだ魚をナツと老人に見せたまま)食えないってこと?」
老人「(トングでゴミを拾いながら)そうだ」
その辺に死んだ魚を投げ捨て、浜辺のゴミを漁り始めるスズ
老人「(トングでゴミを拾いながら)ナツ、お前さんも遊びに行って良いんだぞ」
ナツ「(トングでゴミを拾いながら)遊びに行ってほしいの?」
老人「(トングでゴミを拾いながら)そういうわけじゃないが・・・さっきゴミ拾い以外のこともしたいって言ってただろう」
ナツ「(トングでゴミを拾いながら)覚えてない」
老人のカートの中はゴミでいっぱいになっている
老人はカートをゴミ山まで引き、ゴミ山の前で止まる
カートからカゴを取り出し、中に入っていたゴミをゴミ山に捨てる
老人のカートからゴミがなくなる
老人「そうだ、どこかで遊ぶ物を調達して・・・」
ナツ「(トングでゴミを拾いながら老人の話を遮って)要らない」
少しの沈黙が流れる
老人「そうか・・・」
トングでゴミを拾い始める老人
スズは変わらず浜辺でゴミを漁っている
スズ「(ゴミを漁りながら)お宝!!お宝!!おおっ!!」
スズはゴミの中から真っ黒なサングラスを見つける
スズは服の袖口でサングラスの汚れを拭き、かける
スズ「凄い!!!ちょー黒い!!!」
スズはサングラスをかけたまま、ゴミ漁りを再開する
スズはゴミの中から古く錆びかけた手鏡を見つける
錆びかけた手鏡でサングラス姿の自分を見ているスズ
スズ「(錆びかけた手鏡で自分自身を見ながら)ふーん・・・」
サングラスを外し、頭にかけるスズ
錆びかけた手鏡で自分自身を見ているスズ
スズ「(錆びかけた手鏡に写っている自分自身に対して)全部、良くなるかな?」
頷くスズ
錆びかけた手鏡の中に写っているスズも頷く
スズ「(錆びかけた手鏡に写っている自分自身に対して)本当?」
頷くスズ
錆びかけた手鏡の中に写っているスズも頷く
スズ「(錆びかけた手鏡に写っている自分自身に対して)絶対に絶対?」
頷くスズ
錆びかけた手鏡の中に写っているスズも頷く
スズ「(錆びかけた手鏡に写っている自分自身に対して)奇跡は起きる?」
頷くスズ
錆びかけた手鏡の中に写っているスズも頷く
スズ「(錆びかけた手鏡に写っている自分自身に対して)そっか〜、私がそう言うなら間違いね〜」
錆びかけた手鏡に写っているスズの後方で一瞬、波音高校の制服を着た女子生徒の姿が写る
スズは驚き、慌てて自分の後ろを見るが誰もいない
スズ「(後ろを見ながら)い、今の・・・お化け!?!?」
スズは再び錆びかけた手鏡を見るが、スズの姿しか写っていない
スズは錆びかけた手鏡を左右にゆっくり振り、誰か写らないか確認する
スズ「(錆びかけた手鏡を左右に振りながら)おーい、お化けー、出てこーい」
錆びかけた手鏡の中にトングでゴミ拾い中のナツと老人の姿が写る
二人は喋らず、黙々とゴミを拾っている
スズ「(錆びかけた手鏡に写っているナツと老人を見て)なっちゃんとジジイの安全を確認!!!二人は楽しそうにゴミ拾いをしています!!」
ゴミ拾い中の老人の手が止まる
スズのことを見る老人
スズは錆びかけた手鏡越しに、周囲を見ている
スズ「(錆びかけた手鏡越しに周囲を見ながら)どこだ!!どこに行ったお化け!!」
ナツは変わらずトングでゴミを拾っている
老人「(ナツのことを見て)スズは一体何をしているんだ?」
ナツ「(トングでゴミを拾いながら)知らない。スズに直接聞けば」
再び沈黙が流れる
老人「君らと出会ってまだ一日も経っていないのか・・・時は優しくないな・・・」
ナツ「(トングでゴミを拾いながら)歳を取ると時間の進みって早くなるんでしょ?」
老人「一般論ではそうだ」
ナツ「(トングでゴミを拾いながら)あんたは違うの?」
老人「(頷き)老いても遅く感じる時があるよ。例えば今日という一日とかね」
老人はトングでゴミを拾い始める
老人「(トングでゴミを拾いながら)君が俺を嫌っているのはとても残念だ」
ナツの動きが止まる
老人「(トングでゴミを拾いながら)友達にはなれそうにないか」
ナツはトングでゴミを拾い始める
少しの沈黙が流れる
ナツ「(トングでゴミを拾いながら)年寄りの友達なんて要らない」
再び沈黙が流れる