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マチネー・昼の舞踏会

それまで放課後の時間が有る時は婚活仲間の令嬢達と騎士科の訓練を見に行っていたんですが、

学園祭以降、私がルイス様に後夜祭に誘われた様に、婚活仲間令嬢のみなさんもそれぞれパートナーが決まって来ているみたいで、揃って騎士科の訓練の見学に行く事もなくなって来ていましたが

創立祭が近づくと、学園祭の後夜祭で私が着ていたなんちゃってポロネーズが可愛かったからと、

ガウンのスカート部分のギャザーの入れ方を教えて欲しいと、

商家も経営している子爵令嬢のお宅に集まって、飾り紐やリボンを一巻きとかお礼を貰いながら、

準備したドレスのたくし上げギャザーを寄せてあげたり、

みんなで一緒にストマッカーにリボン刺繍を刺したりしました。


ストマッカーは基本着る時に侍女にピンで留めて貰うものですが、

私はピンがいつも怖かったので、子爵令嬢が準備してくれたリボンで結んで留める工夫をしました。

おかげで上も下もリボンだらけのなんちゃってロココの出来上がり。

生地や柄はそれぞれ違いますが、

全員可愛いすぎるなんちゃってポロネーズのお揃いで建国祭に参加です。


私はルイス様に迎えに来て頂いて、パートナーにと贈っていただいた。

銀色の布で出来た花の形の髪飾りをつけて一緒に王城に行きました。

18世紀フランス風の異世界なのにヴェルサイユ宮殿じゃないのねぇ?と微かに思いましたが

王城って響きがそれはそれで素敵です。


王城は外から見ても中に入っても、それはそれは素晴らしく大きくて豪華で、

広いホールは冬薔薇で飾られガラス窓から入る光でまだ火の入っていないシャンデリアがキラキラと光っています。


そして壁際にはマカロンタワーを真ん中に様々な、私には見たこともない見事な料理が並んでいて、どれも小さなサイズで綺麗に盛られ、お皿に分けて頂ける様になっています。


国王陛下のご挨拶が終わって、最初のダンスを一曲踊ったら食べられるそうです楽しみです。


そうそう忘れてはいけない

陛下が入場する前にパートナーのお礼をルイス様に渡します。

ご令嬢たちから頂いた飾り紐を更に組紐編にして、先は解して房にして、モアレ柄のリボンに銀色の糸でルイス様の名前を刺繍した剣飾りです。


「これを僕に?」

「立派なお店の物ではなくて、私の手作りで恥かしいんですけど」

「恥ずかしくないよ、どんなお店の剣飾りより見事だよ」

よかった…


感激した様な声色から本当にルイス様が喜んでいる様子が伺えて、造ってよかったと思いました。

マチネーに剣帯は許されませんから、剣の代わりにジュストコールに巻いた、サッシュの結び目から垂らす様に下げた姿は華やかです。


建国の陛下のご挨拶は恙なく終わり、楽団が円舞曲を演奏しはじめると

王子様がすらりと背が高い美人の手を取って踊り始めました。


「あの方が王子様の婚約者?」

「そう、筆頭公爵家エカルラット家のエヴァンジェリン嬢だよ」

「すごく綺麗ね!!」

「うん 美しいけどココの方が可愛いよ」

ルイス様は私を慰めるみたいに褒めてくれたけどそこじゃない


婚約者様の美しい、見事なローブ、ア・ラ・ラングレーズに私は釘付け

前世のダマスク織の様な、紺色に織り込まれた金糸の見事な柄にため息が出ます。

どれ程の布量を使っているのか後ろ腰に縫い込まれた見事なギャザーから

王子様と公爵令嬢が回る度に広がる裾幅が凄い!


「ミシンとかないのよね」

「ココ?」

「全部手縫いで力業で折り込んでいるんだわ」

「確かに殿下のダンスは力業ですね」

いつの間にか隣に来ていた銀髪サン・ジュスト様が私に答える

いやダンスじゃなくて縫製なんだけど…と思いながら二人のダンスに注目すると。


確かに力業?でぐいぐい踊ってる。

王子様の動きはダンスというよりスポーツ?


パートナーの公爵令嬢も負けていない、スピードをあげてホール中を大きく使って回りながら

踊る二人の動きは押せば引く引けば推すの丁々発止、時々王子様が無茶なステップを踏むと婚約者様がそれは違うと逆リードをしたり、

これは婚約者同士の愛のダンスじゃなくて…


「競技ダンス!」

「競技ですか?競技と言えばまあ、エヴァ様は負けず嫌いなので、いつもしっかり殿下の激しいステップにもついて行くだけではないダンスをしていますね」


前世の私はウエディングドレスの会社に就職希望だったけど、ドレスを造るといえば競技ダンスのドレスもかかせない、アレは数年毎に流行が大きく変わるから造りがいが有りそうだったのよね。


「素晴らしい!本当にお似合いの二人だ!」と誰かが声掛けて拍手が広がる。

太陽の様に明るく元気な王子様と凛と美しく負けず嫌いな公爵令嬢です。

「本当にお似合いですね…」

私になんかにセクハラしてないで婚約者と闘ってればいいのに…と思ってつぶやくと

ルイス様が私の手をぐっと握りました。


「僕たちも踊れる曲が始まるよ」

曲調が変わり、婚活仲間もそれぞれのパートナーと集まって、

みんなでお揃いのなんちゃってポロネーズで入れ替わりながら踊るバロックダンスは楽しかった。


踊ったので喉が渇いて果実水など頂きながら、もうお料理に手を出してもいいかなあと

小さなアントレやアントルメを口にしながらみんなで談笑していると

やってきました王子様。


「さあココも俺と踊ろう!」と手を差し出されました。

ルイス様は少し眉毛を下げながらも

「そういえば約束してたよね」と私を促します。

曲は円舞曲の前奏


私たちがさっき踊っていたバロックダンスは触れ合っても手と手のみ

デビュタント前の学生でも踊れますが、

円舞曲、ワルツはデビュタントのパートナーや婚約者同士、既婚者が踊るものです。


戸惑っていると王子様に両手を引かれぐるっと回されたかと思うと片手が私の腰の後ろを支えます。


淑女科の授業で習いはしましたが、それは所詮スローワルツ

容赦なく回して来る王子様のステップの早いヴィニーズワルツに、なんとかついて行こうとするとバランスが崩れまくります。

よろけそうになる度にがしっと支えられて更に逆回転。

最後はとうとう持ち上げられて、本当にもう足は床につかないままぐるぐる回されてフィニッシュです。


自分で自分が信じられない動きをしていた事と床に足がついた安心感からか、

手を放して頂いた後は、今生で初めて声をあげて大笑いをしてしまいました。

貴族令嬢失格です。


そんな目の前の王子様も私と目を合わせて笑ってます。

「大丈夫?」

ルイス様がいつの間にか近寄って来て私の肘を軽く引いて王子様から離してくれます。

「一曲踊っただけだぞ 大丈夫だろう」

私はまだ言葉も出せずにハァハァ息をしながらコクコクと頷いて王子様から離れた場所へと下がらせて頂きました。


果実水のグラスを手にルイス様とバルコニーに出ます。

踊って?回されて熱かった体が一気に冷えるとルイス様が上着を肩からかけてくれました。

「ココ…」

ルイス様がつぶやくように話し始めます。

「ココはもう皇太子殿下のお気に入りと周知されてしまっているよ」

それは私にもわかります。


「でも、今だけかもしれない」

胸が一瞬ツキンと傷みましたけど大丈夫。

「うん王子様が卒業したら 特に会う事もないと私も思う」

私は王子様が見た事も聞いた事もない、貧民街出身の話をする変わった女の子で

少しばかり可愛い年頃の、同じ学園に通う異性だってだけ。


「僕の将来の理想は宮廷騎士だけど」

「現実的に考えるとまず王都の警邏騎士からなら確実に就職出来ると思う」

「警邏でも贅沢をしなければ結婚して奥さんを養えるんだ」

だからもし殿下の気持ちが続かなかったら」

はっとして私はルイス様を見上げます


「僕と将来結婚しよう」


その時私はどんな顔をしていたんでしょう

そのうち王子様に飽きられる辛さとルイス様からのプロポーズへの嬉しさと

複雑な気持ちがきっと出ていたと思います。


ルイス様は私を見てまた少し眉を下げて寂しそうな表情をしました。

「殿下の気持ちが続いても…僕と結婚しよう」


続けて聞いたルイス様の物凄い言葉に私は驚きを隠せませんでした。

「そんな…そんな私に都合のいい事をしてもいいの?」

「僕たちは身分が上の人には逆らえない」


女男爵様にいいつかっています。身分が上の人に逆らってはいけません。

爵位を継げないルイス様もそうなんでしょうか…

「私が…今は王子様の傍に侍って、そして飽きられた、いわば傷物令嬢になっても

残り物の私を貰ってくれるの?」


今度はルイス様はしっかりとした貴族の笑顔で頷いてくれました。

「残り物を貰うんじゃなくて、僕がココと結婚したいんだ、どんなココでも」


「私、私ルイス様と結婚したい!…でも、でもね、だから本当の事を言わなきゃいけないと思うんだけど…


「私王子様の事が好きなの」


心の中でセクハラおやじなんて言葉にして悪口を言っていたけれど、

何故好きになったかなんて解ってる。

この世界に生まれてはじめて、抱きしめてくれた人だから…

本当に単純だと思うけれど、王子様は裏表なく正直に、私の生い立ちに涙を流して抱きしめてくれた。

誰にも触れて貰った記憶がない私にはあの全身を包むような暖かさは堪らなかった。


「知ってるよ」


ルイス様は今度は本当の心からの微笑みを浮かべて私を見て言いました。

「ココは好きなだけ殿下の傍にいるといい僕はいつでも待っている」


サッシュから下げた剣飾りのリボンと一緒に私の手袋をした手をそっと取り

指先に触れる様なキスをしてくれました。

もちろん跪いて、騎士様だから…


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