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【かみはで】神様、うちの巫女達が今日も派手すぎます。  作者: 仁波昼海
第1部第5章:心の内に本心を隠して

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紫だって好きだから

 ※


 〜東雲千尋〜


「ばいば〜い!」「またいつでも待ってるからね〜!」


 辺り一体がすっかり暗くなった午後八時。名残惜しくはありながら、孤児院を後にした。

 私としては大満足だったのだけど、無駄な体力を消費させてしまったかもしれないし、結局一日開けても変わらなかったのかも、と時間が経った今改めて思う。他二人がどこまで動かせたかは知らないけどね。


「で、どうだった? 久しぶりのおうちは」


 行きと違って前を歩く天野。若干見上げる形にはなってしまうんだけれど、帰りは元から顔を上げて帰っているから、あまりしんどくはない。というか身長高すぎよ。


「それなりに面白かったよ。まさかお前に連れてこられるとは思わなかったけどな」

「何? まるで自分から連れて行こうとしてたみたいな言い回しだけど」

「気のせいだ」

 

 気になる言い方ではあるものの、楽しかったのなら私も嬉しい限り。だって何倍も私の方が良い思いしてるはずだもの。

 朝からバスに乗って、知らない場所まで来たこと。

 最初は緊張していたけど、子どもたちと遊んで、ご飯を食べて、話もたくさん聞かせてもらったこと。

 思い返せばシーンなんていくらでも出てくるけど、それはやめておく。今ここで考え始めると、また余計なことまで気になってしまいそうだから。


「でも昨日も掃除を手伝ってもらったし、結局四日間ずっと動きっぱなしよね。疲れてるんじゃない?」


 自分の気持ちを押し込めるようにして、私はそれとなく声をかけた。


「別に。あっという間だったからな」

「あ、別にって言ったわ」

「え?」

「なんでもないわよ」


 朝早くから動いて、そのうえ一日中子どもたちの相手までしていたのだから、疲れていない方がおかしいと思う。

 けれど本人がそう言うのならこれ以上聞く必要もない、そうやって行く前までは思っていたわね。


 私は小走りで隣に並んで、彼の名前を呼ぶ。


「あ、()()

「———は?」

「きょ……今日はありがとね」


 あーあ。やっぱり後ろから言えばよかった。私はすぐに前を向き直した。


 ※


 慣れていない上目遣いから繰り出される感謝の言葉は、実に強烈だ。思いがこもっていない言葉なんて一瞬でわかるだけに、あまりにも破壊的だった。


「っ……」


 慌てて顔を逸らしてしまう。どうしてこんなやつに俺はトキめいちまってるんだ。これは笑いじゃなくて照れ。気付いているのに、尚更分からない。


「あ……おい!」


 衝動に体が固まっていると、何故か先に歩き出していく次女。でもバレると困るから、あまり大きな声は出せなかった。


「先に行くから、後ろをついてきてちょうだい」


 そう言ってだんだんと距離を離して行く次女の背中を、俺はただ見送ることしかできなかった。


「……はぁ。やっぱ俺だめだなあ」


 今日、俺は何一つとしてデートとしての行動ができていない気がする。鬼をなすりつけて運動させたり、勝手に手伝わせて動かせたり、思い出しても嫌なやつ極まりない。しまいには料理も彼女にほぼ聞いてばっかの、ダサい人間だ。

 

「ありがとうって言わなきゃいけないのは、俺の方だったよな……」


 久しぶりにこの星空を見上げて、月に手を重ねた。


 ※


 〜東雲千尋〜


 しんみりとした空気感に包まれるバス停に、人の気配はまるでなかった。

 滞りなくどこからか流れてくる風と、葉の匂い。私は田舎のこういうところが好き。


「待ったか? とは言っても待つところか」

「もうあと一分で来るわ。危なかったわね」

「何軽々しくやばいこと言ってんだよ」


 当然、帰りのバスも一時間に一本。逃すと待たなければならない。

 ふぅ……よかった。もとの調子に戻れているわね。


 やがてエンジンの音が周期的になりながら、二つのライトが近づいて来た。


「二人です」

「はいどうぞ〜」


 運賃を入れて中を見渡すと、車内には誰もいなかった。心なしかちょっとバスの中も新しくなった……?気のせいかしらね。

 私は行きと同じ二人席をとる。別にどこでもいいのだけど、覚えていたら何となく同じ席に座りたくなっちゃうみたいな節が私にはある。


「じゃ、隣失礼しまーす」

「は? なんでわざわざ来るのよ!」

「俺もここ取りたかったんだよ、窓側譲ってやってんだからいいだろ?」

「もう、まったく……」


 私は道を阻まれて、動くことができない。こういうところで頭が働くんだから……。

 私は一度立ち上がるも、断念してまた腰をおろす。諦めて外の景色を見ることにした。


 ※


 〜???〜


「発車しま〜す」


 バックミラーでふたりのことを見て、安心する。


「ふふ、たしかにお似合いね」


 どこまでも、蓮くんは女たらしの才能に溢れてるわ。


 ※


 〜東雲千尋〜


 何も起きない静かな状況となると、やはり思い出にふけてしまうものね。バッグを両手で前に持ちながら、顔だけを窓によっかからせる。

 

 下着を見られて始まったあの日のこと、彼の英語に助けられたその翌日のこと、彼からもらったお守りのこと。ついに決行したお見合いデートは二人とも楽しかったようで、嬉しかったけど不安も増えたわよね。

 いつのまにか慣れつつあった四人分の食器や歯ブラシ。起きると先にリビングにいる一人の男。

 だから私は椎名さんに、あんなことを言ったんだと思う。

 

『隣にいてくれれば、少しは安心するかもしれませんね』


 いつだって隣にいたのは未来や紗理奈。学校の人だってもちろんいたけど、二人に比べればそれほどでもない。だけどそれが変わりつつあるってこと。

 『少し』『かも』。つけた時はそれほど意味を感じていなかったけれど、いつか両方外せるときが来るのかもしれないわね。

 そんなとき、突然ガタンと車体が揺れた。


「ちょ、ちょっと⁉︎」


 タイムリーなことに、揺れた衝撃で天野の頭が私の肩に預けられてしまっている。


「あ……天野?」

「……」


 反応は返ってこない。

 起こそうとしたところで、私の手が止まった。


「……バカ」


 性格からは予想できない静かな寝息を立てる彼のバッグの中には、こんな星空の下には似合わない、折り畳み傘が二本入っていた。


 紫とオレンジ色の傘のうち、青色の方にはビニールがまだついている。


「一本でいいのよ」


 


 





 






 

【紫だって好きだから】




蓮が目覚めた後のお話は、いつかssで描きます!

千尋編これにて終了です!次回第一部エピローグ!

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