情けない強がり
ぱっと見渡しても、赤紫色の髪は見当たらない。
それどころか人混みはさっきよりも増えていた。
「連絡先…聞いてないよな」
一度スマホを取り出すも、すぐにため息をつく。
こういう時に使えなければこんなものただの板と変わらないというのに。
あの時聞いてれば...どこかで後悔し始めている自分もいた。
「…ったく」
頭を軽く掻いて、再び視線は人混みに。
あいつなら大丈夫。
そう思う反面、胸の奥に引っ掛かるものが消えない。
「しかたねぇな」
蓮は小さく呟いて、人の流れの中へと足を踏み出していった。
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「これは腕の見せどころかなあ?未来の神主くん」
高く登った観覧車の赤いゴンドラの上に、足を組んで蓮を眺める者。
狐の仮面をつけて明らかに異様な雰囲気を纏ったその者は、その奥からニヤリとした微笑を見せる。
「紗理奈ちゃんには悪いけどまた見極めさせてもらおうかな」
何の躊躇もなくその場に立ったそれは、横顔でまた天野蓮をちらっと見た後、いつのまにか虚空に消えていた。
※
―――東雲紗理奈―――
「ちょっと待っててぇ」
そう言って、おにーさんに手を振る。
見つけたのはパーク限定グッズのショップだった。 さっき歩いていた時、人混みの向こうにちらっと見えた看板が気になっていたんだよね。
「すぐ戻るから」
返事を聞く前に人混みへ飛び込む。
休日のテーマパークはやっぱり人が多い。 肩がぶつかりそうになって避けて、子どもが走ってきたから少し横へ寄って。
「よいしょっと」
人の隙間を抜けると、小さなお店が見えてきた。
「やっぱりあった」
店先には限定グッズ。 パークのキャラクターに、動物シリーズ。 思っていたより種類が多い。
「へぇ〜」
思わず足が止まる。
やば、めっちゃ可愛い。
未来ねぇが好きそうなもの。 千尋ねぇが興味を示しそうなもの。 順番に手に取っては戻して、また別の棚へ。
「これは未来ねぇかなぁ」
黄色いリボンの付いたマスコット。
くりんくりんのお目目が人を魅力しているらしい。
でも、
「いや、こっちじゃないかも」
未来ねぇも可愛いものは好きだけど、選ぶ時は意外とシンプルなんだよねぇ。私はチャームポイントがあからさますぎるその子を元の場所に戻す。
今度は黒猫のキーホルダー。
「あ、これは千尋ねぇかなぁ」
…いや。
「絶対『いらない』って言うかぁ」
言いながら笑ってしまう。
でも部屋に持って帰ったら、なんだかんだ飾ってそう。そういうところ、想像出来ちゃうな。
「ん〜」
棚をもう一度眺める。
自分用はすぐ決まるのに、人に買うとなると難しい。
「おにーさんならどうするんだろぉ」
本人はいないのに、そんなことを考えていた。
きっとすぐ決めるタイプじゃないはず。ちゃんと相手のこと考えて、迷って。
私たちは姉妹だけど彼ならまた別の考え方があるのかも。
「……似合わないなぁ」
少し笑う。
そんな姿がなんとなく浮かんでしまった自分も、なんだか馬鹿らしいな。
結局、私な一番有名なお菓子を買った。とりあえず安泰かな、姉妹喧嘩は避けたいんだよねぇ。
「さてっと」
袋を揺らしながら歩き始める。
ベンチで待ってるだろうし。
ちょっとくらい遅くなっても平気かな。
そんなことを思いながら歩いていた。
……。
「あれ?」
足が止まる、目の前には噴水。
「さっきも見たような..?」
気のせいかな。
首を傾げながら別の道へ。
テーマパークなんて似た景色ばっかりだし。
そう思って五分くらい歩き続ける。
「…あれぇ?」
また同じ時計塔。
今度は間違いない。
「うそぉ」
笑ってしまう。
「迷った?」
誰に言うでもなく呟いてみる。もちろん周りの誰も気にかけやしない。
いやいや、そんなはずない。
方向感覚はたぶん悪くない方。そう思われてるだろうし。
「こっちかな」
もう一本横の道へ、歩き進んでいく。
「……違う?」
また人混み。
また知らない景色。
「おかしいなぁ」
スマホを取り出して地図を開く。
現在地、パーク内は詳しく書かれてないから見ても分からない。
「便利そうで便利じゃないんだよねぇ」
使えないマップアプリをタスクキルする。
連打してたからそのまま連絡先の画面を開いてしまった。
「あ」
指が止まった。
「そういえば交換してないじゃん」
思わず苦笑する。
家に帰れば会えるし、話そうと思えばすぐ話せる人だったから必要ないと思ってた。
それがまさかこんなことになるなんて...。
「参ったなぁ」
頬をぽりぽり掻く。
おにーさん待たせてるよねぇ...、ついてきてもらった側なのに申し訳ないなぁ。
おにーさん真面目だから。
十分くらいなら待って、二十分ぐらいになったら探し始めるかな。
私の立場でこんなこと考えちゃ行けないのかもしれないけど。
「怒ってるかなぁ」
そんなことを口には出すけど心では分かっている。
おにーさんは怒る、というより困ってしまう人だ。
だから余計に自己嫌悪が強まってしまう。
「私が、探さなきゃ」
歩き出そうとするけれど。
「…あっ」
知らない方向だった。
「もしかして私、本格的に迷子?」
誰にも聞かれないくらい小さな声。
それでも笑うしかない。
さっきまであんなに自信満々だったのに。
「これはちょっと格好悪いねぇ」
情けない強がりを心の奥にいる私にして、肩をすくめる。その時だった。
「ねぇねぇ、お嬢ちゃん」
聞き慣れない男の声。
「一人?」
反射的に振り返る。
そこには二人組の若い男が立っていた。
「よかったらさ、俺らと一緒に回らない?」
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