十六話目
「おいおい、マジかよ。本当にサシュタイン、おまえが出てくるとはなぁ」
やはり闘技場にいたのは見知った三人。ドヴォルザークとノワール、それとヴェルデ。四天王のうちの三人だ。しかし、ドヴォルザークのあの口ぶりは、こっちの情報が向こうに渡っていたと考えるべきか。こっちには相手のことは知らなかったのに……とは言っても俺はこいつらのことは知っている。影響は特にない。まぁ、ブルーはこいつらの事を知らないことは普通に考えれば、少し不利かもしれないけど……そう、普通に考えればね。
と俺は思ったが、ドヴォルザークのセリフに俺はそんな素振りは見せずに答えた。
「まぁ、流れでこうなってな……ってそんな雑談してる暇はないだろ?」
「ああ? 馬鹿か? 勝手に返事したのはお前だろ? 呑気なもんだな。ま、何も知らないんだから.......っと。危ない危ない」
ドヴォルザークはチラリと一人の男に視線を送ってから、肩を竦めた。その男は第二学園の学園長であるヨムー。審判としてこの場に立っている。そのヨムーの刺すような視線を感じ、ドヴォルザークは黙ったのだった。
「ったく……余計なことを……」
ドヴォルザークの言葉とヨムーの呟き。思うところはあるが、ここで何か動いても仕方ない。
俺はチラリと視線を観客席に送る。するとスノウが手を組んでじっと拝むようにこちらを見ているのがわかった。と同時に異様なほど少ない観客だということも……
この観客の少なさは異常だ。俺は見に来たことはないが、この二つの学園の対戦はいつも超満員なのは知っている。が、今は数える程しかいない。
「決まり……だろうな……」
俺はそう呟くと同時にヨムーの声が闘技場に響き渡った。と、同時に俺はパッと左に飛び退く。俺が飛び退いたその刹那、俺が居た場所には炎を纏った岩が、俺の背後から降り注がれた。
「おいおい、約束と違うじゃないか?」
「伝説の手伝いをして欲しいのは嘘だったんですか? ブルーさん?」
俺は背後から聞こえた約束と違うという言葉に、そう返しながら振り返った。そう、俺を狙った魔法は背後から放たれた。俺の背後には一人しかいない。それはブルー。ブルーが俺を狙って放ったのは明白だった。
「何を言ってるんだ? 嘘ではないぞ」
「嘘ではない?」
「対抗戦で死ねるなんて伝説じゃないか?」
そのブルーの言葉にドヴォルザークの声が聞こえてくる。
「そうそう、対抗戦では対戦相手を殺してはいけない。だから死人なんか出るはずがない」
「そんな対戦戦で最初で最後の死人だよ。どうだね? 伝説だとおもわないかね?」
とはブルーの言葉だ。その言葉に俺は少し笑いながら答えてやる。
「そうだな。そりゃ前代未聞だ。まさか、味方が味方を殺すなんて誰も思わないだろうからルールにないしね。ある意味伝説なのは間違いない」
「あはは! なら、さっさと死んでくれないか!」
「そう言われて死ぬわけにはいかないのでね!」
俺はブルーに魔法を放つが、ブルーは俺の魔法で押し潰されるようなことは無かった。するとブルーが得意げに話し始める。
「君の魔法は知っているよ。重力を操る魔法だろう? だが、そんな魔法は僕には聞かないよ」
「どういうことだ?」
「とある人物から、これを貰ってね。このタリスマンを着けている限り、魔法の対象にならないのだよ。生憎と君は対象に重力を操る魔法をかけることしか脳がないようだ。これで君は僕に魔法をかけることはできない。さぁ、諦めさっさと死んでくれ!」
と叫びながらブルーは俺に右手を突き出し、その指先から光の矢を解き放つ。が、その矢は俺の眼前で当たる前に軌道を変えて外れてしまった。
「ん? 外れた? なら……」
そしてブルーは何度も光の矢を放つが、全ての矢が俺を避けるように飛んでいく。
「なに……なぜ当たらないんだ……」
動揺するブルーに俺は何故かを教えてやることにした。
「そりゃそうだろ。俺とお前との間の空気を圧縮してレンズのようなものを作ってるからな。そこでお前の光の矢は曲がって、俺に届くことなんかない」
「な……」
「俺の魔法は人にしかかけられない訳じゃないからな」
俺は肩を竦めてそう続けてやる。
「そ、そんな……俺はお前を殺してガイア・スター様に……」
「おいおい、俺を殺すのはアルファポに頼まれたんじゃないのか?」
「あんな雑魚など眼中にない! 俺はガイ……うぐぅ! い、息が!」
急に喉をかきむしり、苦しがるブルー。泡を吹きながら倒れ込むブルーに、俺は再度種明かしをする。
「ま、空気に重力をかけて圧縮出来るなら、空気を軽くして薄くすることもできるってこと……ってもう聞こえてないか……」
泡を吹き、白目をひん剥きながらブルーはピクピクと痙攣をしている。俺はそんなブルーを一瞥してからヨムー学園長にこう尋ねた。
「ヨムー学園長。まだ続けます?」
「な、何を言っている! お、お前の相手はブルーではないぞ!」
「そう、だから聞いているんです。まだ続けます? って」
俺はそう言いながらクイッと親指でドヴォルザークたちを指さす。そこにはブルーと同じように泡を吹きながら倒れている三人がいた。
「な、な……」
ブルーに対してできたことを三人にやらない道理はない。なんせ、対戦相手なのだから。
状況に呆然としていたヨムー学園長は、ハッとして俺にすがりついてきた。
「サ……サシュタイン君……そ、そうだ! 我が学園に戻ってきてはくれないか? と、当然四天王で一番の座を用意しよう!」
「何言ってるんですか? ヨムー学園長。そのセリフは、もう遅いですよ。俺はもう居場所を見つけてしまいましたからね」
俺はそのヨムー学園長を振りほどき、闘技場を後にしようと歩き出した。
「ま、待て!」
「俺はどっちが勝とうが興味はない。戻るべき場所にさっさと戻るだけです。まだ何か言いたいなら、そこの寝てる人達で続きをお願いしますよ」
そう、俺にはもう第一学園のE組の方が心地よく気に入っていた。それにスノウの頼みもある。例え処遇が良くなったとしても第二学園に戻る理由など無い。
「さ、これから面白くなりそうだ」
俺はこれからの学園生活に思いを馳せ、足取りも軽く歩き出したのだった。




