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現実は乙女ゲーよりも奇なり  作者: 春賀 天(はるか てん)
【第4部】
70/70

【9】有島家の人々4

【9】




奏を前に仁王立ちで有無を言わせぬように威圧すると、奏はさっきの強引さはどこに行ったのやら、戸惑いながらも大人しく私の言う通り椅子に座る。


よしよし、それでいいのだよ、奏くん。



私はズキズキする額を後回しにして、自分の腰に手を置くと説教モードに入る。



「あのね、まず何から言いたいかと言えば、殴りませんっ! 康介ならともかく奏を殴る理由なんて何もないから!!」


「でも、だって、俺はーー」


「でも、だってじゃない!! 大体私の事で奏が気に病む事なんて何もないから。それに助ける助けないとか、頼る頼られないとか、それは子供が気にすることじゃないの。私たちはまだ高校生なんだから。それに私の問題は私の問題であって奏が背負うものじゃないでしょ? だからそこまで私に対して奏が気にしなくてもいいんだよ」



すると、それを大人しく聞いていた奏の顔が一瞬悲しそうな表情になったかと思うと、私から視線を逸らし俯いて小さく「⋯⋯余計なことして、ごめん」と謝るので、その様子に焦って動揺してしまう。



(えっ! なんでそんな泣きそうな顔するの!?)



私は慌てて奏の前に膝をついて奏の顔を見上げる。



「ごめんっ! 奏!! 私の言い方が悪かった!! 余計な事とか私は全然思ってないからね? 奏が私を心配して言ってくれてるのは、ちゃんとわかってるから。それはすごくありがたいんだけど、奏が何かしたわけでもないのに私の事で、そこまで落ち込まなくてもいいってことを言いたいの。それもこれも原因は私が情けない姿ばかり見せているからなんだけど、あ〜なんて言えばいいかな。つまりは、私たちはまだ保護者が必要な子供だから、そこまで難しく考えなくてもいいってこと。それでなくても人間なんて色々問題が出てくるものなんだし、私だって、奏に何かあっても助けてあげられるかどうかなんてわかんないし、頼られないからって落ち込むかといったら、そうでもないかもしれないし、だから、う〜ん。そうだな、本人がSOS言ってきたら一緒に考えてあげるってことでもいいんじゃない?ーーって、なんか日本語わかんなくなってきた」



私は俯く奏の頭をよしよしと撫でながら、自分でも何を言いたいんだと首を傾げていると、奏が顔を上げる。



「ーー俺が傍にいると、珠里は邪魔じゃない?」



悲しげな表情はそのままで、そんな馬鹿げたことを言う奏の頭をこれでもかというくらい、ぐしゃぐしゃと少々乱暴に撫でると、私はそのまま奏の頭を自分に引き寄せ掻き抱いた。



「馬鹿言わないの! 逆に迷惑かけてるのは私だよ? それでも奏は離れていかないくせに何言ってんの! もうっ、奏は身体は大きくなっても子供の頃の気弱な所は変わらないんだから。これだからまだまだ私が傍についていないと心配だよ。奏は真面目すぎるところがあるから、下手したら変な方向に行っちゃう。康介じゃ、そういう繊細なところなんて気にする奴じゃないしな〜」



なにげに康介のことを考えつつ、ぶつぶつ言っていると、ふと奏の身体が固まっていることに気付く。そして、その数秒後、私はまたやらかした事に今更ながら気付いてしまった。



「わーっ!! ご、ごめん。奏。私、つい無意識に子供の頃のくせで、その、あ〜なにやってんだ私!!」



子供の頃、よく落ち込んで泣いていた奏を抱きしめながら宥めていたくせが、つい出てしまい、もうお互い小さい子供でもないのに、昔のように奏を抱きしめていたことに気付き、慌てて体を離そうと立ち上がると、奏が私の腰に抱き着いてきて離れない。



「かか、奏!? ど、ど、どうしたの??」



奏の予測不能な行動に、プチパニックを起こす私。奏の頭は下向きなので、どんな表情をしているのかはわからないが、先に自分から抱き着いておいてなんだが、兎にも角にも離してほしい。抱き着かれている場所が場所だけに自分の腹肉が気になるからっっ!!



そんな私の動揺も気にする素振りも見せず、奏はぽつりと言う。



「ほんとに? 俺が心配をかければ、ずっと傍にいてくれる? 離れて行かない?」


「奏⋯⋯」



⋯⋯『やだ! 珠里お姉ちゃん!! どこにも行かないで!!』



あ〜子供の頃の奏を思い出してしまった。そうだった。奏は小さい時すっごく寂しがりやだったんだっけ。そんなこともあって有島家で私たち家族が帰ろうとすると、奏がいつも私の腰にしがみついて離れようとしなかったんだよな〜



私は過ぎ去りし懐かしい昔を思い浮かべながら、当時の私にしがみついている小さな奏と今現在の大きな奏が重なる。



ーー状況は同じなんだけど、今の奏はほんと大きくなったよなぁ〜でも甘えん坊なところは子供の頃と変わってないのかな? 〜ふふっ、なんか安心しちゃう。



私は笑いながらも、先ほど自分がぐちゃぐちゃにした奏の髪を撫で整える。



「あはは、奏、失敗かければって、子供みたいなこと言ってるし」


「俺は子供だよ。珠里がそう言った」



奏が少し拗ねたように言うのもまた可愛い。



「あ〜確かに言ったね。あはは、そうそう、なんだかんだで私も奏もまだまだ子供だもんね〜」



それでもまだ奏が不安そうに言ってくるので、その心配が杞憂だとばかりに私は頷いた。



「それはもちろん! 奏が私を必要としなくなるまではずっと傍にいるし、離れていかないよ。奏が私の味方だって言ってくれたように、私だって奏の味方なんだから」



私は自信満々に言うと、奏はようやく安心したかのように、いつもの明るい笑顔を向けてくれる。



「うん。俺には珠里が必要だから、これからも()()()傍にいてね。俺から離れないって言質は取ったから、もし嫌だって言っても無効だよ?」


「ん? え〜っと、言質ってーー」



言質って、さっき康介が言った言葉を使ったのかな? でも、嫌だって言っても無効って??



「『俺が必要としてくれるまで、ずっと傍にいる。離れても行かない』ーー珠里がそう言ったんだよ? それとも、やっぱり嫌だった?」



一変して寂しそうな表情を浮かべる奏に、私は慌てて大きく首を横に振った。



「そんなわけない! 嫌だったら初めからそんなこと言わないよ! 奏のことは私がど~んと面倒見てあげるから心配しないで!?」



私はもはや何も考えず得意げに自分の胸をどんと叩いて言うと、奏の表情はさらに明るくなり、満面の笑顔で



「ほんと!? すごく嬉しい! ふつつか者ですが、どうか末永くよろしくお願いします」



と、なぜか奏がテーブルに三つ指をついて、深々とお辞儀をしてきたので、その場の雰囲気に誘われるように「こちらこそ、よろしくお願いします」と、お辞儀を返していた。



(あれ? なんか奏が私の嫁にでもなったかのような感じにーーいやいやいや、これはその場のノリってやつでしょ。ーーあはは、意外に奏も茶目っ気があるんだなぁ。奏ってば、やだなぁ年上からかったりして、あははは、はははは⋯⋯はははーー言質取ったって、それ深い意味はない⋯⋯よね? まっさかぁ⋯⋯あはははーーー)



私はへらへらと笑いながら奏を見ると、奏はすこぶる上機嫌でニコニコと微笑んでいる。その笑顔はどこか紗菜さんを彷彿とさせる。相手に有無を言わせないような何かが発せられている気がするのは、もちろん気のせいだろう⋯⋯うん。



「ねえ、奏。紗菜さんは何時くらいに戻ってくると思う?」



私は妙な感じになってしまった空気を一変させるために違う話題を振ると、奏が時計を見つめた。



「うん。買い物もしてくるって言ったし、行って2時間くらいかな?」



⋯⋯そうなると、あと1時間ちょっとあるなぁ。それまで奏と二人か⋯⋯う〜ん。さて、どうするかな。間を持たせるにも、ここは一応他人の家だし、好き勝手は出来ないしな⋯⋯



そんな時私のスマホのメール音が入る。私は奏に「ちょっと、ごめんね」と断ってから自分のスマホを確認すると、メールの送り主は康介だっだった。



『なるべく早く帰る。どうにもできなきゃ家に帰れ。奏の部屋には入るなよ。一応襲うな』


(はあ? なんだこれ?)



すると、今度は奏のスマホのメール音が鳴る。奏もスマホを確認している。


一見は私を心配しているような文字ではあるが、逆に奏を心配しているようにしか思えない文章に、イラッとする。



(私が奏を襲う心配って! あんたは奏の彼氏かっ! くそっ、なんかムカつくな。康介の言う通りにするのも癪に障るし、よしっ!!)



私は奏がスマホから目を離した時を見計らって声を掛ける。



「奏、突然だけどさ、奏の部屋を見てみたいんだけど」


「え?」



私のなんとも突拍子もない要求に、奏は持っていたスマホを落としそうになった。ーーあ、危なかった。突然すぎて、そりゃあ、びっくりしたよね。



「え⋯っと、俺の部屋?」



驚いた表情をしている奏に、私はさすがに康介への対抗心からとは言えず、本音をいえば少し興味があったのでダメ元で聞いてみた。



「うん。ほら、子供の頃はみんなで奏の部屋で遊んだでしょ? だから私の中では昔の印象しか残ってなくて、久しぶりに奏のうちに来たら、急に懐かしくなっちゃって、リビングも結構変わってたし、奏の部屋はどうなのかな〜って」


「あ〜それはーー」



やはり奏ははっきりOKとは言わないが、難色を示している。そりゃそうだ。うちの康介さえ、最近は私を自分の部屋には絶対に入れたがらないので、ヤツの部屋がどんな内装なのかさえ知らない。一方ヤツは姉の部屋にはなんの遠慮もなく入ってくるけどね。


(ふん、どうせ私に見られたくないものでも隠してるんじゃないの? エロ漫画とかさ⋯でもそれがBLだったらどうしよう)



「あ、奏、無理にとは言わないよ。個人のプライベートな空気だもんね。康介さえ自分の部屋に私を入れたがらないし、だから最近の男子高生の部屋ってどんなのかな〜って、ちょっとした好奇心だから気にしないで? ごめんね、変なこと言って」



私は笑いながら、なんでもないよというジェスチャーで手を振ると、奏が私の顔をじっと見る。



「⋯珠里、絶対無いとは思うけど、他の所でも好奇心で部屋が見たいとか言ってないよね?」



私が急に奏の部屋を見たいなんて言ったせいで、変な目で見られてる?



「ないないない! いくら好奇心があったって、そんな厚かましいこと誰にでも言わないよ! 昔馴染みの奏だから、ちょっと聞いてみただけ。それにこんなこと聞いたのも今が初めてだからね?」



私の弁明に、奏の表情が解けたようにニッコリと微笑む。



「うん。わかった。いいよ、俺の部屋ならいくらでも見せてあげる。でも誤解がないように言うけど、俺もこれが珠里だからいいけど、他の誰にでも部屋に入れるわけじゃないから。だから珠里もここ以外の他人の家で気軽に部屋を見せてなんて、絶対言ったらダメだよ? わかった?」



奏の時折出てくる有無を言わせぬ笑顔に、たじたじになりながら返事をする。



「は、はぁ〜い。了解しましたぁ」



なんかダメ元で言ったのに、あっさりと許可が下りてしまったぞ? う〜ん。康介から奏の部屋に入るなって言われた対抗心からだったけど、いくら幼馴染みとはいえプライベート空間に、そんな簡単に踏み込んでもいいものなの? でも奏も私の部屋に出入りしてるし、私のそれを許可してる側だから、奏も許可してくれているなら特に問題はないよね?



奏の後ろについて3階に続く階段を上がる。昔は2階に子供部屋があったはずだが、聞くと元々奏がある程度成長したら3階の部屋に移る予定だったようで、だから現在2階は夫婦の部屋と凛音ちゃんの部屋。3階が奏の部屋となっているらしい。 



(昔は子供目線だったせいか、お城みたいな家だと思ったけど、今見ても大きい家だなぁ。部屋に続く廊下があるからして、うちとは全然違うんだもん。そういえば当時の子供部屋も結構広かったっけ。私の部屋なんて6畳だし。でもこれだけ家が広いと掃除が大変そうだな。それに比べてうちは小さい家だから掃除が楽だという点では大変良いよね)



そして奏が立ち止まると、部屋のドアを開けようとするので、私はすかさず声を掛ける。



「待って、待って! そんなすぐに部屋に通さなくても大丈夫だよ? ほら、急だったし、色々隠すものだってあるでしょ?」



すると奏は苦笑しながら「大丈夫だよ。見られて困るものなんて何もないから」とドアを開ける。



(ええっ! 私なんて部屋汚いし、服とか脱ぎ捨てたままだし、なんなら飲みかけのペットボトルとか床に転がってるし、恥ずかしくて隠すものばっかりなのに)



視界に広がった奏の部屋は、これが男の子の部屋なのかと思うくらい綺麗な部屋で、きちんと整理整頓され、大きめのベッド、机、本棚、テレビ、しかも芳香剤なのか、爽やかな良い香りまでするではないか。


自分の部屋とあまりにも違う光景に呆気に取られていると、奏が少し照れくさそうに「よければ中へどうぞ?」と勧められて、きょろきょろと見回しながら室内に入る。


そんな奏は気遣いからか、部屋のドアは開けたままにしておいてくれていて、紳士だと思う一方、康介の『一応襲うな』というメッセージを思い出し、まさか私に襲われるという警戒心から? とか思考が過るも、そんな馬鹿げたことがあるかと心の中で舌打ちをしたのは言うまでもない。



改めて奏の部屋を見回し、広く落ち着いた雰囲気の部屋で、筋トレ用の小道具や、バレーボール、スポーツ雑誌などがあって、いかにもスポーツ男子の部屋である。もちろん私の部屋のように、食べ物、飲み物などの空き容器はどこにもなく、ましてや服もきちんとハンガーにかけられ、ベッドの上も紗菜さんの手作りであろうパッチワークのベッドカバーが綺麗にセットされ、その上には私のように脱ぎ捨てられた服など一枚もないし、床にもゴミ一つ落ちていない。


確かに本人の言う通り、見られて困るものなんて何もない綺麗な部屋だ。私としては男の子だし、部屋も散らかっていて、ちょっとしたエロ系雑誌などあって当然だと思っていただけに、自分がどれだけ低俗なのかと、逆に穴があったら入りたい気分になる。



(ほんっとうにごめん、奏! そうだよ奏はどこまでもピュアな子だったのに。私ってば煩悩まみれの腐れ女子で恥ずかしいやつ。これじゃあ、康介に襲うなって信用されなくて当然だ。しかもBL発想まで出てくる時点で私はもう俗世に腐った女。いや、確かに最近は美しい描写のBLに、ちょこっとばかし興味が湧いているだなんて、康介はもちろんのこと誰にも絶対にバレてはいけない。しかも部屋にその手の小説も隠してるってことも⋯⋯)



「奏の部屋って、すっごく綺麗だね。奏が綺麗好きなのはわかってたけど、正直男の子の部屋ってもっとこう、汗臭くて散らかった感じを想像してた」



私の言葉に奏は少し困ったような顔をする。



「さすがにそんな部屋じゃ、いくら珠里でも見ていいなんて言えないよ。だらしない男だって思われるのも嫌だし、それで嫌われたくないから」



うっつ! 今何かがぐさっと刺さったぞ。⋯⋯そんな私は自分の部屋を散らかしたあげく放置するだらしない女。ーーなのに、どうして奏はそんな私を嫌わないんだろう。それどころか私の部屋の片付けも手伝ってくれるし、いくら付き合いは長いとはいえ嫌にならないんだろうか。



「そっか。あははは、そうだよね」



私はどこか後ろめたいような笑いを零して、ふと本棚に飾ってある写真に視線が向いた。そこには小さい頃の私と康介と奏が写った写真が飾ってあった。



「あーこれ! 懐かしい! これって私たちが一緒に映った子供の頃の写真だ。奏、わざわざ部屋に飾ってくれてたんだ〜」 



その写真は、私が真ん中で両隣にいる奏と康介と手を繋いでいる写真だ。その当時は確か奏と康介は5歳で、私は7歳だった。他にも二家族で撮った写真が飾ってある。



「母さんから焼き増ししてもらったんだ。せっかくだから自分の部屋に飾ろうと思って。ちなみに母さんたちの部屋にも同じ写真が飾ってあるよ」


「へー、リビングは有島家の写真が飾ってあったけど、この写真は無かったよね?」


「うん。さすがにリビングは他人が出入りする場所だから、そんな人目のつく所に他所の家の子供が写っている写真を勝手に飾るのはマナー違反になるから、プライベートなところで飾ってるんだよ」


「あ、なるほど。私の家では写真はアルバムに貼るのが当たり前になってるから、そこまで考えなかったけど、そっかぁ、うちも気を付けなきゃね」



私は言いながら、改めて奏の部屋を見渡す。本当に私の部屋とは違いシンプルで綺麗な部屋だ。私なんかゲームの推しキャラのポスターや、グッズが溢れた雑然たる子供っぽい部屋なのに、奏の部屋は大人っぽい落ち着きのある部屋だ。



「ほんっと綺麗な部屋だね。奏はさ、好きなアイドルのポスターとか、グッズとか興味ないの?」



私の問いに奏は小さく頷く。



「うん。そういうのはあんまり。おもにスポーツ関連なら好きだけど」



言われてみれば、確かに奏の部屋にはスポーツ雑誌やトレーニンググッズが視界に入る。私のように漫画やゲーム雑誌が主体とはわけが違う。


⋯もしかして、康介の部屋も奏と同じ感じなのかな。今度突撃してみるか。でももし、エッチな本とか出てきたら、それはそれで身内として気まずいしな。一生口利いてくれなくなりそうだし、やっぱ、やめとくか。 



「そっか〜スポーツやってる子って、そんな感じ多いよね」と言いながら、ふと棚に置いてあるガラスの盾に目をやる。それは奏がジュニアのピアノコンクールで準優勝したときのものだ。



「あ、そういえばさ、奏ってピアノはもうやってないの?」


「うん。元々身体を動かしている方が好きだったから、部活始めた時点でやめた。両立する時間も無かったし」


「そうなんだ。ピアノすごく上手だったから、ちょっと勿体ないなぁ。でも確かにバレーボールしてたら指の怪我はつきものだし、両立はできないよね。だけど紗菜さんは反対しなかったの?」


「ううん。俺も反対される覚悟で、部活をしたいからピアノをやめたいって言ったら、なんかあっさり了承された。俺の人生だから好きなようにしていいって」


「うわぁ〜紗菜さんって子供への理解力がすご! うちのお母さんなんて、昔私が書道教室をやめたいって言ったら、せっかくここまで続けて授業料払っているのに勿体ないからだめだって、めっちゃ怒られたのに。あげく、通わないなら、今までかかったお金の分のお小遣い抜きって言われたんだよ。うちのお母さんって、ほんと暴君だよね。だから康介もあれは絶対母親似だよ。あ〜あ、奏は幸せだよね。理解ある優しいお母さんを持ってて」



遠い目をしながら、ため息交じりに言うと、奏が困ったように笑う。



「そんなことないよ。珠里のお母さんはスポーツも仕事もバリバリ出来て、すごくカッコいいと思う。うちの母さんも珠里のお母さんをすごく褒めてたよ。自分には無いものを持っているから憧れるって」


「え〜うちのお母さん、結構性格きついよ? すぐ怒るし、まぁ最近は会社役員に昇進して仕事が忙しいからか、あまり怒らなくなったというか、単に不出来な娘にいくら言っても無駄だって諦めたのかもだけど、うちのお父さんも完全に尻に敷かれてるし」



そう、うちのお父さんは若い頃から身体が大きく体躯が良かったせいか、バレーボールやバスケ、柔道など色々やってきて、見た目は熊男みたいな肌の黒い色黒おじさんだが、見た目に反して、気は優しく社交性があり人懐っこい。だから母親が子供に厳しい分、父親がすごく子供に甘いところがある。意味合いは違えど、これぞ飴と鞭といったところだろうか。


それを聞いた奏は小さく肩を竦める。



「母さんが言ってたけど、夫婦はバランスが大事なんだって。うちの両親だって珠里のうちとさほど変わらないよ。珠里も知っての通り、うちの母さんは自由奔放で育った人だから、結構それで周りを振り回してるけど、それをうちの父さんは冷静に受け止めて対処してる。息子の俺でさえ、母さんには疲れることもあるのに、不思議と父さんは平気っぽいから、そこは見習わなきゃとは思ってる」



奏の言葉に私も少し考える。ーー夫婦のバランスかぁ⋯⋯確かにお互いが『動と動』『静と静』同士だったら、お互い気が合う反面、対立したり意見がすれ違った時、色々拗れてそうだもんな。だからうちのお母さんと紗菜さんは『動』でお父さんたちは『静』。お互いに無いものを求めるから上手くいくのかも。


私も、もしこの先パートナーを選ぶ選択肢があるなら、そこんとこ参考にしようかな⋯⋯まあ、そんな機会はあり得ないけど。




【続】


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