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白金の乙女  作者: 夢野 蔵
第五章
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第九十五話

(ブルーニコ、ありがとうございました)

『お疲れっす』


 私は剣を消し、ブルーニコとの契約を解除します。


「はぁ、はぁ……ふぅ」


 乱れた息を整えます

 目の前には気が抜けて、地面に座り込むミドリの姿があります。


「大丈夫ですか?」


 私はミドリに手を差し出します。


「え、えぇ大丈夫よ」


 ミドリが私の手を取ったため、それを引き上げて立つ手伝いをします。


「……貴女、強いのね」

「私なんてまだまだですよ」

「謙遜しないでよ。悔しいけど、ミノリ様とのこと認めざるを得ないじゃない!」


 その言葉にどうして良いか分からず、私は視線を他に逸らします。

 少し離れた所には膝立ちのままのキーコ、試合場の中心付近には倒れたままのアカネの姿が見えます。


(……あっ!?)


 えーと、障壁の術はちゃんと効いているんですよね……?

 思い返せば、先程はアカネの胴は横に切り裂きましたし、キーコに至っては胸の中心に剣が突き刺さった様な気がします。

 内心ヒヤリとして嫌な汗が背中に沸きますが、しばらくすると二人共立ち上がったため、ホッと安心します。

 そして後ろから衝撃。


「……ノノ、凄い」


 気付けば、ミノリに抱きつかれていました。


「まさか一人で勝つなんて」

「おーい、二人共。じゃれていないで整列しないとー」


 ユカリの声が試合場の中心の方からします。


「行こう、ノノ」

「はい」


 私は頷き、ミノリと共に整列をします。


「一回戦、第一試合はミノリチームの勝ちとします!」

「ありがとうごさいました」


 審判役の教師の声に、選手の皆が礼をします。

 そして客席からは、健闘を称える拍手と応援の声。


『一回戦、第一試合はノノ選手の無双により、ミノリチームの勝利で決まりました!学院長、如何でしたか?』

『そうですね。ノノさんがAクラスに所属している理由がお解かり頂けたかと思いますわ』

『確かに。いくら相手が初出場のCクラスとはいえ、一人で三人を相手するのは誰でも厳しいと思います。これは次の試合も楽しみですね!』

『えぇ』


「ノノさん、ミノリ様!」


 試合場から立ち去ろうとする私達にキーコが声を掛けます。

 その横にはミドリとアカネの姿もあります。


「キーコ先輩にアカネ先輩。あの、お身体の方は大丈夫ですか?」

「えぇ。私はまだ少し胸の辺りが痺れているけど、すぐに回復すると思うわ。アカネの方も――」

「もう大丈夫よ!」


 キーコは少し調子が悪そうですが、アカネはピンピンしています。

 しかし、障壁の術があっても衝撃自体は完全に消せないのですね。


「あの、ミノリ様!」

「……どうしたの?」


 ミドリがミノリに話し掛けます。


「ミノリ様が出場する最後の大会ですのに、直接戦う事が出来なくてその……残念です。それでも応援していますので、この後の試合も頑張って下さい!それから――」


 ミドリはチラッとこちらを見ます


「ノノさんとの関係も見守らせて頂きます」


 これは……ミノリとの仲を認められたのでしょうか?

 ミノリに視線を移すと、ミノリもいまいち良く分かっていないみたいです。


「……ありがとう。それから大会が終わってから、時間のある時に声を掛けて。いつでも相手になるから」


 ミノリの言葉に「キャー!」と声を上げて喜ぶ三人。

 こういう事をしているから、『白』派というものが発生したのではないかと思います。

 私は三人に聞こえない様にミノリに確認します。


「ミノリ姉様、そんな約束をしてしまって大丈夫なのですか?」

「……その時はノノも一緒」

「私もですか!?」


 いつの間にか私まで巻き込まれています!それでもミノリの頼みであれば仕方ありません。

 私達は三人を分かれるとそのまま東門を通り、元来た通路を戻ります。


「そういえばユカリの方は契約はどうでしたか?」


 私はユカリに聞きます。

 ミノリの方は時間が掛かったものの仮契約には成功した様子でしたが、ユカリの方にまで気が回りませんでした。


「僕は駄目だったね。ウンともスンとも反応が返って来なかったよ」


 ユカリは首を振ります。

 ちなみにユカリ曰く、仮契約を試して失敗した場合、その日に仮契約に挑戦してもは成功した試しが無いとのこと。

 『乙女練武祭』が始まるまでの数日間、何度か仮契約を試して貰ったのですが、私はまだユカリが『娘』と仮契約している姿を見たことはありません。

 そろそろユカリの契約率的に成功してもおかしくはないと思いますが、幾らサイコロを振っても一の目が出ない時もあります。

 やはり当初の想定通り、以降の試合もミノリと私を主軸に戦う方針となります……けど、


「それにしても、さすがに私は飛び出すのが早すぎましたね」


 まさか相手チームも早く契約が終わり、一対三になるなんて。

 そのことをことを見落としていました。


「……ノノは悪くない。私がもっと早く契約出来ていれば良かった」


 項垂れるミノリ。

 このままでいると、私とミノリが「私が――」と永久ループしそうです。


「いえ、私がもっと――」

「……私の方が――」

「まぁまぁ、ノノもミノリさんもそこまでにしておこう。反省会をするのは他の試合が終わってからでも、僕は遅くはないと思うよ。幸いにして、僕達は明日の試合が無いことだし」


 ユカリの言葉で永久ループに入らずに済みました。

 試合の日程では、二回戦が始まるのは明後日。それまで時間はまだ十分にあります。


「この後はどうしますか?私は先にトーナメント表を確認したいのですが」

「それじゃ僕は、今から始まる試合を見てくるよ」

「……私も試合観戦。その試合に勝ったチームが次の対戦相手になる」

「あー、そうなのですか」


 確かにトーナメントで私達が一番端であれば、次の試合の勝利チームが次の相手となります。

 だとしたら、私もその試合を見た方が良いと思います。


「ちなみにトーナメント表はどこで確認できるのですか?」

「闘技場のフィールド内にもあるし、闘技場の出入口にも同じ物が置いてあるよ」


 ユカリの言葉に頷きます。

 だとすれば、ユカリと一緒に試合観戦をしながらでもトーナメント表は見れることになります。


「それでは私も試合を観戦します。ただ少しお手洗いに寄りたいので、先に行っていて下さい」

「……分かった」

「じゃ、また後でね」


 こうして私は、ミノリ達と別れます。

 そして……迷う私。


(……トイレの場所はどこでしょう?)


 トーナメント表の掲載場所ではなく、トイレの場所をしっかりと聞いておけば良かったと後悔しています。

 しかし私が迷うのも仕方ないでしょう。

 何故なら、前世の建物みたいに敷地図があったり、案内のプレートがまったく無いんですから!

 そう心の中で言い訳をしつつ、なんとかトイレを見つけ出して用を済ませた頃には、次の試合は既に終わっていました。




ノノ「私が飛び出すのが早かったから――」

ミノリ「……私の契約が遅かったから――」

ノノ「いえ、私が――」

ミノリ「いや私が――」


ユカリ「いいや僕のせいだ!」


ノノ、ミノリ「そうだね」

ユカリ「!?」

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