第九十四話
「あの人達は……」
西門に居るのは、転入初日に私を校舎裏まで呼び出した『白』派の三人組。
名前は……んー?
「……そういえば、名前を知りませんでしたね」
『西門からの入場チームは三人共、4学年のCクラスに所属しています!順にリーダーのミドリ選手、キーコ選手、アカネ選手!彼女達は三人共、今大会が初参加となります!学院長、さすがに彼女達では、優勝経験のあるミノリ選手の相手は厳しいのではないでしょうか?』
『そうかもそれませんね。ですが彼女達も4年生でCクラスにまで上がってきた実力はあります。それに……』
『それに?』
『戦いは始まってみなければ、何が起きるか分かりませんわ』
実況で名前が分かりましたが、そのままですね。髪の色にちなんだ名前で覚えやすくて良いと思います。
とにかく、ユカリの言っていた知り合いとは彼女達のことでしょう。
その三人組がこちらまでやって来ます。
「こんにちは。あの……ノノさん」
「へ……あ、こんにちは。ミノリ姉様に用があるのではなく、私の方ですか?」
「はい」
黄色の髪のキーコに声を掛けられます。
憧れの『白』様との試合であるため、ミノリに挨拶に来たと思っていた私は、軽く驚きつつも対応します。
「あの……この間はごめんなさい。私達、勘違いをしていたみたいで、ノノさんの言葉も聞かないで一方的に決め付けて責めてしまって」
「本当にごめんなさい!」
キーコに続き、赤髪のアカネに謝られます。
「ほら、ミドリも!」
「……ごめんなさい」
キーコに促されて、一人そっぽを向いていた緑髪のミドリも謝ります。
「えーと、分かってくれたようで何よりです」
まぁ、ミノリの手篭めにされたという誤解は解けたみたいで良かったです。
「それから、『紅光の君』に見つかった時も庇ってくれてありがとう」
「ありがとうございました!」
「ありがとう。……でも私はまだ貴女と『白』様の関係を認めた訳ではないからね!だからこれからの試合では一切手加減なんてしないんだから、覚悟しなさい!」
お礼の言葉を述べるキーコとアカネ、それにミドリ。
ミドリだけ若干、ツンデレ要素がプラスされていますね。
「えーと……わざわさそれを言うために来たのですか?」
「そうよ!」
声を上げるミドリ。
「そうですか。ですが、私達も負けるつもりはありませんので覚悟して下さい」
「――っ!帰るわよ、キーコ、アカネ!」
「待ってミドリ。それじゃノノさん失礼しますね」
「私も私も!」
戻るミドリをキーコとアカネが追い掛けます。
その後姿を見て、私は自然と笑みが零れます。
「……ノノ、緊張はほぐれた?」
「はい」
声を掛けてきたミノリに返事をします。
いつの間か身体から余計な力が抜けて、観客席の目を気にしないようになっています。
あの三人には、後で感謝しないといけませんね。
「まもなく試合を開始致します!両チームの選手は所定の位置に付いて下さい!」
試合場に居る審判役とおぼしき教師から声が掛かります。
私達は円形をした試合場の枠の外側に付きます。
ちょうど円の中心を挟んだ反対側には、ミドリ、キーコ、アカネの三人が居ます。
そしてそれぞれの選手のすこし離れた後ろには、数人の白い服を着た『乙女』の姿があります。
彼女達が選手や観客席を、障壁の術で防御してくれている筈です。
「それじゃ最後の確認。ミドリとキーコは術者。アカネは顕現者だ」
私はユカリの言葉に頷きます。
「ミノリ姉様、ユカリ、勝ちましょう!」
「……うん」
「もちろん」
応じる二人。
「準備はいいですか?それでは一回戦、第一試合を開始します!」
審判役の掛け声と共に、闘技場の脇に置かれた鐘がカーン!と鳴り響きます。
さて、試合開始です!
(来て!ブルーニコ!)
『よろしくっす!』
(よろしくね)
私は速攻でブルーニコとの仮契約を終えます。
ブルーニコを選んだ理由は、接近戦で固有武器の使い勝手が良く、かつ何回も仮契約をして慣れているからです。
そして試合場に入ろうとする前に一つだけやることがあるのを思い出し、足を止めます。
「ブルーニコ!」
それが契約した『タリアの娘』の名を宣言すること。
『乙女』がどの『娘』と契約したのかは、契約した本人にしか分かりません。もちろん固有武器を出せば、周りにも判別できます。
しかしそれでは観客は面白くありませんし、生徒達の能力を評価する教師達も困ります。
そのため仮契約の成功時は、契約した『娘』の名前を口にして周知する必要があります
『何とノノ選手!あっという間に契約を成功させて、一番に試合場に入りました!ミドリチームはまだ契約の最中。そのまま一気に試合場の中心まで向かいます!』
私は試合場の中心付近まで走りながら、相手チームの様子を窺います。
三人共、胸の前で手の平を組んで俯いています。そのため、まだ仮契約の最中なのでしょう。
『さて、ノノ選手の契約しているのはブルーニコという『娘』ですが、学院長はご存知でしょうか?』
『えぇ、転入時の模擬戦闘で一度見たことがありますわ。ただ学院の記録には存在していない『娘』です。そのため、ノノさんが初めての契約者かもしれませんね』
『なるほど。しかし試合場の中心に向かっているということは、ノノ選手自身は顕現者かと思われますが』
『さぁて、どうかしらね?』
中心まで着きました。
私は後ろを振り返り、ミノリとユカリを見ます。
ミノリは三人組と同じ格好を取り、ユカリは腕を組んでいて、仮契約を試しています。
まだ試合開始から1分も経っていないため、しばらくはここで待機する必要がありそうです。
どうでもいいですけど、お湯を注いだインスタントのラーメンを待つより、何か作業をしながら待つ方が体感時間が短く感じますね。
そんなくだらない事を考えていると、
『おーっと、どうやらミドリチームは全員、契約が完了した様子です!』
(――何ですって!?)
実況の言葉に、私は急いで相手チームの方を見ます。
すると試合場にアカネ、キーコが入り、最後にミドリが入って来ます。
私は再度ミノリとユカリの方に視線を戻します……が、二人共まだ先程と同じ格好のまま動く気配はありません。
というか契約に集中しているため、今の状況に気付いてすらいないと思われます。
(くっ、不味いです)
『ピンチっす!』
私が先制して契約を終えた事が、完全に裏目に出た形です。
このままではミノリ達が合流するまでの数分の間、一対三で戦いを凌ぐ必要があります!
(どうする私!?)
しかし私が躊躇している間に、
「うおぉぉーーーっ!」
と声を上げ、顕現者であるアカネが突撃槍を構えたまま突っ込んで来ます!
その姿はまるで馬に乗ったまま突撃する騎士の様に勇ましく、そして速いです。
そしてその後ろでは、術を発現するための文言を詠唱するミドリとキーコの姿も確認できます。
相手チームは、ミノリ達の契約が終わるまで待つつもりは毛頭無いみたいです。
ならば私は――
(ブルーニコ、剣を!応戦します!)
『了解っす!』
ブルーニコの固有武器であるショートソードを顕現。
そして、こちらに迫り来るアカネに向かって走り出します。
「――っ!?」
流石に自身に向かってくるとは予想出来なかったのか、驚くアカネ。
一瞬だけ穂先が下がりますが、すぐに元の位置まで戻して固定。こちらに突撃して来ます。
迫る穂先!
私は突かれた突撃槍を身体をずらしてかわします。しかしその穂先はすぐに引き戻されて、
(――二段突き!?)
もう一撃、突きが迫ります!
アカネの口元がニヤリとした形を取ります。まるで勝利を確信したかの様に。
彼女にとってこの一撃、いえ二撃は必殺の技なのでしょう。
それでも――
(確かに速いけど、ナナの方が迅いっ!)
私は手にしたショートソードで突撃槍に合わせます。
手に伝わる槍の重さ。それに正面から対抗するのではなく、横から最小限の力でベクトルの向きを変えさせます。
結果、突撃の軌道を逸らす事に成功します。
「――いっ!?」
驚愕するアカネ。
突撃槍を抱えたアカネは勢いを殺せる筈もなく、私の横を通り過ぎようとします。
私はすれ違い様にショートソードでアカネの胴を薙ぎます。
「――カハッ!」
「アカネッ!?」
アカネの名を叫ぶミドリの声が聞こえます。
そして私は詠唱を止めたミドリではなく、その横で術を発現しようとしていたキーコに向けてショートソードを投擲します!
「――っ!?」
目を見開くキーコ。
詠唱に集中していて、攻撃が飛んで来るとは考えもしなかったのでしょう。
そのまま成す術も無く、迫った剣に刺し貫かれます。
「――キーコ!?くっ――焼き払え!」
一瞬だけキーコに目をやり、詠唱を終えるミドリ。
炎の術が発現し炎弾がし飛来ますが、その頃には私はミドリの目の前には居らず、その横――ミドリから見て左側に回り込んでいます。
見当違いの方向に飛ぶ炎弾。
キーコに剣を投擲したのは、ミドリが詠唱を中断した分だけキーコの方が先に術が発現すると踏んだからです。
私は一気にミドリに近付き、顕現解除したショートソードを再び顕現。
剣先をミドリの首筋に静かにあてます。
「――ひっ!?」
「降参して下さい」
私の言葉にミドリはコクリと頷くと、両手を上に上げます。
カーン、カーン、カーン!
静寂の中、鐘の脇にいた教師が何回も鐘を叩きます。
試合終了の合図。
ミドリが契約を解除したため、相手チームには戦闘を継続できる者は居ません。
『……し、試合終了っっ!!なんとー、なんとノノ選手っ!一人でミドリチーム全員を戦闘不能にしました!』
実況の声が聞こえます。
それを聞き、観客席の生徒達から盛大な歓声が上がります。
そして、
「ノノ、お待た……せ?」
その頃になって、ようやく契約を終えたであろうミノリの声が私に届きます。
剣は投擲するもの。




