第八十九話
「一体、どういうつもり!?早く私を解放しなさい!!」
「アタラシコさんを拉致したのは、申し訳なく思っています。しかしこうでもしないとアタラシコさんは、私との話し合いにすら応じてくれなかったでしょう」
「いいから早くしなさい!今なら学院に突き出すだけで、勘弁してあげるわ」
私の話をまったく聞かない少女――アタラシコ。
学院に突き出すだけって……どこが勘弁しているのでしょうか。
「大きな声を出しても、誰も来ませんよ。それに私が学院に捕まったら、困るのはアタラシコさんもです」
「何ですって!?」
「私が捕まれば、アタラシコさんが私にしてきた事の全てを学院に話してしまいます。そうすれば私だけでなく、アタラシコさんも反省房行きは免れないでしょう」
私は脅しを掛けます。
そう目の前に居るアタラシコこそ、私に嫌がらせを行ってきた貴族グループのリーダーです。
私が教室で嫌がらせを受けてから、三日が経ちました
教科書を隠された次の日からも、足を引っ掛けられそうになったり、インクの瓶をぶちまけられたりと、様々な嫌がらせをされました。
まぁ、それでも全てのイタズラを回避することには成功したのですが、こちらとしては良い気分ではありません。
そして何より、相手をするのが面倒臭いこと。
私は決意しました。
休日である今日この日。
これ以上の嫌がらせをさせないために、アタラシコとの話し合いの機会を設けること(拉致)を。
「くっ、それで何が目的なのかしら?」
私を睨みつけるアタラシコ。
てっきりアタラシコ自身は手を下さずに命令しかしていないので、惚けられると思いましたが潔いです。
勿論そうなった場合の手札は用意してあったのですが、この様子では無駄になりそうですね。
それとも頭の回転が早いのでしょうか?
「今から私と一つだけ約束をして頂ければ、すぐでも解放します。それは、これ以上私にちょっかいを掛けない事です。そうすれば私からもアタラシコさん達には、ちょっかいをかけません」
「断るわ。貴族である私が、庶民である貴女に何をしようと勝手でしょう!大体、貴女は庶民の癖に『紅光の君』に近付いて、目障りなのよ!」
傲岸不遜なアタラシコ。
この娘は自分の状況が分かっていないみたいです。
この場だけでも「はい」と頷いて、後から約束を保護にしたり、報復をするとか考えたりしないのでしょうか。
どちらにせよ交渉は不成立となりました。
「……それでは仕方ありません」
私はアタラシコの後ろに回ります。
「やっと私を解放する気になったようね。さぁ早くしなさい!」
「何か勘違いしているみたいですが、そんなつもりは一切ありません」
私は彼女の座る、椅子の背もたれに手を掛けます。
「……え?」
「いい加減、私も頭にきてますので、これまでの仕返しをさせて頂きます」
「な、何を……」
アタラシコは首を回してこちらを見ようとしますが、梟でもない限り後方全てを視界に納めるのは困難でしょう。
「それじゃいきますよ。せいぜい今までの自分の行いを後悔して下さい」
「だから何を……!?」
流石にたじろぐアタラシコ。
私は彼女の両脇に手を突っ込み――
一気にくすぐります。
「――んっ!あっははっ、ちょはははっ、なにっあはは、ふふっするのよっはははっ!」
大声を上げて笑うアタラシコ。
私はそのまま手をゆっくりと脇腹の方に移動させます。
「ははっは、駄目っ!あははっ、くすっぐたいっ!はははっ……」
そして一度手を止めて、アタラシコの様子を窺うと、
「はぁはぁ……こ、こんな事で、このアタラシコが屈するとでも思っているのかしら!」
息を切らせながらも、こちらを挑発するアタラシコ。
その姿は、軽く私の嗜虐心を煽ります。
「もちろん、まだまだこれからです」
そして再び、こちょこちょとくすぐり始めます。
今度は背中にも手を伸ばします。
「あははっ、そっふふふ!そんあはっ、所っまでっははは!」
悶えるアタラシコ。
それにしてもこの娘は私以上に感じやすい――くすぐりに弱いですね。
しかしそのお陰で、どこをどういう風にくすぐれば良いのかが手に取る様に分かります。
(……そろそろでしょうか)
私は手を止めます。
「はぁ……はぁ……?」
くすぐりが止んだのを不審に思うアタラシコ。
実は長時間くすぐり続けると、呼吸困難に陥る可能性があります。
ですので一定時間くすぐったら、こうして休みを入れる必要があるのです。
「……き、気は済みましたの?」
「いえ、今日は休みですので、まだまだ時間はたっぷりあります」
寮では朝と夕方に点呼があり、その間であれば自由に過ごして良いことになっています。
つまりそれまでは、アタラシコへのくすぐりは続けられます。
「――っ!?」
私の言葉を聞いて、顔が引き攣るアタラシコ。
そろそろ落ち着いてきたので、私は再開しようと手をわきわきさせながら近付きます。
「待って!分かった、分かったから!」
「何が分かったのですか?」
「約束するわ、もう貴女には手を出さないから!これ以上はやめて」
懇願するアタラシコ。
しかし、
「今更そんな事を……実は口約束だけして、この場を乗り切ろうとか考えているのではありませんか?」
「――何故分かっ――あ!?違っ、今のは……」
動揺するアタラシコ。
本当に馬鹿正直と言いますか、何といいますか。……分かりました。きっとこの娘はアホの子です。
「……まぁ、今更頼まれても、こちらも止めるつもりは無いのですけどね」
「――このっ、庶民の分際で!XX、XXXッ!!」
とても聞かせられない様な、ピーとか付きそうな言葉で私を口汚く罵るアタラシコ。
私は騒ぐアタラシコの片方の靴を脱がせて、そして靴下も脱がせます。
「ひっ、何っ!?」
怯えるアタラシコ。
私はそんな彼女に、あるものを見せ付けます。
「……羽ペン?」
そしてその羽先で、アタラシコの足の裏を軽く撫でます。
「――んっ!……くっ、ふっ。――んんっ!?」
上半身ほどではないのか、先程より笑いは小さいですが、確実に効いています。
私はそれからもインターバルを挟みながら、耳の裏や首筋などに、色々なくすぐりをアタラシコに試します。
……30分後。
「うひゃっ!ひゃひゃ、ちょっ、ひぃっ!なっに、ひっ、してっ、ひゃひゃっ!」
……1間後。
「ひっ!はひっ、ふふっ!んんっ、ひっひゃっ……」
……そして2時間後。
「……」
虚ろな瞳で宙を見つめるアタラシコ。
笑い過ぎたために涙の後が残り、顔は真っ赤に染まって、胸が呼吸で大きく上下しています。
汗だくで服は乱れ、肩やスカートが肌蹴ていますが、恥らう気力も無いようです。
(……流石にやり過ぎちゃったかも!?)
私は額から流れる嫌な汗を拭います。
正直、途中からアタラシコをくすぐるのが楽しく、調子に乗ってやり過ぎた感は否めません。……てへ。
(何かもう、色々スッキリしましたので解放しちゃいましょう。うん)
私は縄を解こうとアタラシコに近付き、手を差し出します。
「――っ!?」
すると私が触ってもいないのに関わらずアタラシコの身体がびくっと跳ねると、力尽きた様に項垂れます。
そして水音と共に刺激臭が辺りに広がります。
「あ……ごめんなさい」
私は謝りつつも、タオルで汚れたアタラシコの身体や汚れた服を拭きます。
そして、
「ユカリー!ちょっと来て下さい!」
ユカリを呼びます。
すると扉を開けて、ユカリが入って来ます。
「どうしたんだいノノ?もしかして僕も混ざっていいのかい?」
「いえ、それよりアタラシコさんを自室まで連れていくのを、手伝ってくれませんか」
私は『娘』と仮契約を済ますと、ぐったりしているアタラシコを抱きかかえます。
教室の方は、また戻って来て掃除をしましょう。
そして私はユカリの先導の元、第二号寮に向かいます。
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アタラシコにとって、それは未知の感覚であった。
始めはくすぐったさで悶えていたが、その内に身体の奥底から歓喜が沸き上がって――
アタラシコは光を視た。
絶頂から果て、ぼーっとしながらもアタラシコは幸福感を感じていた。
そしてアタラシコの中では貴族や庶民とは別に、新しく『ノノ』という特別な括りが増えた瞬間であった。
※良い子の皆さんは、決して真似をしないで下さい。




