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白金の乙女  作者: 夢野 蔵
第四章
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第七十八話

(何が「先輩の『乙女』に対して、『お姉様』と呼ぶ慣習があるの」ですか!「親しい」って単語がすっぽり抜け落ちてしまっているではありませんか!?)


 私はここに居ないコノカに、心の中で悪態をつきます。

 つい数ヶ月前の事とはいえ、素直に聞き入れていた当時の自分が恨めしいです。


「どうしてあの娘達を見逃したの?」


 ハルカが話し掛けます。


「あのままにしておいたら、また貴女に害を及ぼすかもしれないのよ。それならいっそ反省房送りにして、関われば痛い目に合うと解らした方が良いのではなくて?」


 ハルカの問い掛け。

 確かにハルカの言う通りにすれば、あの先輩達は二度とちょっかいを掛けて来ることは無くなるかもしれません。

 しかし、


「泣いていましたから」


 私は答えます。


「自分達のやったことが間違いだと気付いていないのであれば、反省房送りも必要だったかもしれません」


 あの娘達は、まだ14歳ぐらいの大人になりきれていない少女です。

 そんな年頃であれば、色々と間違った事もするでしょう。

 現に私も、前世では人には言えない事をやった経験があります。

 それに今回の件については、あの先輩達は何か誤解をしている様に私は思います。


「でもそれに気付き、その事を後悔していたのであれば、次は同じ間違いは繰り返さないと思います」


 そんな時、一度でも間違いを犯したからといって、いつまでも同じ事をすると決め付けたりするのはおかしいと思います。

 もちろん中には、同じ事を繰り返す人間もいます。

 しかし、あの先輩達はそういう風には見えませんでした。


「ですから涙を流したあの先輩達も、大丈夫だと信じています」


 いえ、本当は信じたいだけです。

 それに今回は、ミノリに対する好意が暴走した結果だと思われます。

 つまり少女達の、「もうー、この娘ったらー(ぷんすか)」的な嫉妬だと思えば、可愛いらしいものです。


「……人のいい娘ね」


 呆れた様子のハルカ。

 自分でもそう思います。が、勿論他にも思惑はあります。

 同学年内の私を避ける動き。

 もし同級生に指示を出していたのがあの先輩達であったのなら、少しは改心して止める様にしてくれないかなー、と心の中で期待していたりもします。


「本当に貴女、一年生なのかしら?」


(――っ!?)


 ハルカの言葉に一瞬だけ、どきっとします。


「い、いやですねー。どこからどうみても10歳児にしか見えないじゃないですか」

「むしろ見た目だけなら、もっと幼く見えなくもないわね」


(それって遠まわしに、私が小さいと言っているのではないですか……)


 そんな私の思いは露知らず。


「どちらにせよ、変な娘ね」

「はぁ」


 うぅ、変な娘って言われました。

 やっぱり、私が変だから同級生に回避されいるのでしょうか!?


「ところで貴女、昼食は摂りましたの?」

「いえ、まだです」


 そういえば、まだお昼ご飯を食べていませんでした。

 意識しだすと、急にお腹が空いてきます。……さっきもお腹が鳴ってしまいましたが気にしてはいけません。


「私もまだですの。良かったら、一緒に食堂に行かないかしら?」

「はい。喜んで!」


 ハルカの申し込みに頷きます。

 始めてきた校舎裏から、食堂まで迷わずに行く自信が私にはありません。

 それに昼休みの時間もかなり経っているため、ありがたいことです。


「それじゃ行きましょう」


 私はハルカと食堂に向かいます。

 その途中――


「そもそも、何故あなたは上級生に絡まれていたのかしら?あの娘達は確か、『白』――ミノリさんを慕う娘達だったと記憶しているのだけど」

「その前にいいですか。その『白』っていうのは何ですか?ミノリね……先輩のことだというのは分かりましたけど」


 危うく、ミノリのことを『姉様』と呼びそうになりました。

 また何か誤解されたら堪りませんので、外では『姉様』という呼び方は使わないようにしなくては。


「それは生徒達が勝手に付けた呼び方ね。ここでは人気や実力のある生徒には、いつの間にかそういった風に呼ばれたりするの」


 つまり渾名や通称みたいなものですね。

 由来はやっぱり、あの白髪からでしょうか。


「その中でもミノリさんは、人気、実力のどちらも兼ね備えているわ……」


 ハルカは立ち止まると、自分の拳をぎゅっと握りしめます。


「ハルカ先輩?」

「……ごめんなさい。とにかくあなたも頑張れば、数年後には何か別の呼び方がされるかもしれないわよ」


 歩き始めるハルカ。

 うーん、私的にはそういうのは憧れますが、呼ばれたら恥ずかしそうなので遠慮したい所です。

 そんなことを考えていると、食堂の入り口まで来ます。


「それで、貴女が絡まれたのはどういった事情なのかしら?」

「実は、昼休みに入った所で先輩の一人に呼び出されて、話を伺ってみるとどうやら私とミノリ先輩の仲を誤解しているみたいでして」

「貴女とミノリさんはどういった関係なの?」

「実は私の寮のルームメイトが、先程まで話していたミノリ先輩なのです」

「――っ!?それじゃ貴女が新しく入ってきた転入生……」

「はい。実は今日が、初めての授業なのです」


 驚いた表情のハルカ。

 どうやら、私――というか転入生の事も知っているみたいです。

 情報収集のために、聞いておいた方が良さそうですね。

 そんなことを考えていると、


「――ノノ!」


 食堂の入り口で声を掛けられます。

 振り向くと、噂をすれば何とやらです。

 近付いてくるミノリの姿が見えます。


「ミノリね……先輩」


 また呼びそうになりました。


「……ノノ?」


 こちらに近付いて、首を傾げるミノリ。

 そして何の前触れもなく、私の身体をぺたぺたと触り始めます。


「……あのミノリ……先輩。どうしたのですか?」

「ノノこそ、何かあった?」

「――っ!?」


 逆に聞き返されて、返答に詰まる私。

 まさかミノリのファンに呼び出されて、手を上げられそうになったとは言えませんし。

 というか、どうして気付いたのでしょう?もしかして、私の顔に出ていたとか?


「そんなに大事でしたら、宝箱に入れて鍵を掛けて閉まっておけば良いのですわ」


 ハルカは紅い髪をかき上げて、きつい口調で言います。

 急にどうしたのでしょうか?


「ハルカ先輩?」

「ハルカ、ノノは物じゃない」


 それに対して否定するミノリ。


「あら、何も知らない転入生を手篭めにしておいて、今更ですわね」


(――手篭めっ!?)


 それって、私がミノリに無理やりにされたってこと?

 ……え?何でそういうことになっているのですか!?


「どちらにせよ、貴女は『乙女』には向いていませんわ。早くこの学院を去った方が良いですわっ!」


 ミノリに向けて、きっぱりと言い放つハルカ。

 また修羅場ですか!?



ノノ(騙されたーっ!)


コノカ「zzz……ハックション!?うーん……zzz」

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