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白金の乙女  作者: 夢野 蔵
第四章
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第七十三話

 昼はキクナ学院長に呼ばれて、学院長室で食事をしました。

 テーブルには銀食器のナイフやフォークが複数置かれていて、私はまともなテーブルマナーを覚えていないために四苦八苦しました。

 また運ばれてきた料理も、この世界で食べた中では最も豪華でした。

 何の肉かは分からないけれどとても柔らかい肉や、無駄に装飾された野菜が出てきましたが、マナーに気を取られて、正直あまり食べた気がしませんでした。

 学院長はいつもこんな料理を食べているのでしょうか。

 ちなみに給仕はカオリがしていました。カオリの仕事は何でしょう?

 そして食後。

 学院長の淹れたお茶を飲んでいると学院長が話し掛けて来ます。


「ノノさんは、この学院ではやっていけそうかしら?」

「はい。食堂で食べるご飯もおいしいですし、何より大浴場のお風呂は広くて最高でした」


 ……まぁ昨晩はあまり楽しめませんでしたが。


「それは良かったですわ」


 私の答えを聞くと、学院長は嬉しそうに微笑みます。


「しかし私はまだ授業を受けたり、『乙女』の訓練を受けた訳ではないので、それが少し不安です」


 私は他の生徒に比べて、2ヶ月以上遅れての入学になります。

 そのため勉強や訓練でも、他の生徒より遅れが生じている可能性があると考えられます。


「あら、カオリからは午前の学力測定では、十分な結果が出ていたと聞いていますわ」

「本当ですか!」

「えぇ、ですから心配しなくても大丈夫ですわ」


 頷く学院長。

 どうやら勉強での遅れは無いみたいで良かったです。


「それからノノさんの『乙女』としての実力についても、午後から測る予定ですの。ナナさんやセンリに教えを受けているとのことですので、私も楽しみですわ」

「いえ、私なんて大した事はありません。ついこの間も母様との模擬戦で、一回も攻撃を当てることが出来ませんでしたし」


 当てていたら、ここに居るのはもっと未来だったかもしれません。


「あら、そうでしたの?まぁナナさんは、『六聖女』の一人ですしね。それに昔の事ですけど、実はわたくしもナナさんとの初めての模擬戦では、手も足も出ませんでしたわ」

「学院長もですか!?」

「――キクナ」

「え?」

「二人っきりの時は、『キクナ様』と名前で呼ぶ約束ですわ」


 口を膨らませる学院長。


(……あれ、そんな約束したでしょうか?とりあえず――)


「すいません。キクナ様」

「えぇ!」


 満面の笑みを浮かべて、とても嬉しそうな学院長。

 そういえばナナの昔話に出てきた、始めて会った時に様付けで呼ぶように言った『乙女』って、学院長のことでしょうか?

 うーん、本人が喜んでいるので良しとしましょう。


「でもその次の模擬戦では、私が勝ちましたのよ」

「そうなのですか!?学い……キクナ様、凄いです!」

「当然ですわ、私だって同じ『六聖女』の一人ですもの!」

「――えぇっ!?キクナ様も『六聖女』なんですか?」


 まさかこんな身近に、三人目の『六聖女』が居たなんて吃驚です。

 あれ?っていうことは学院長も、ナナやセンリ並の強さってことじゃないですか!

 ……うん。この人の言う事は、素直に聞いた方が良さそうですね。


「ちなみに、何て呼ばれているのですか?」

「私は『蒼穹の聖女』と呼ばれていますわ」


 そう言ってお茶を飲む学院長。

 『蒼穹の聖女』ですか、……かっこいいですね。

 私もカップに残ったお茶を飲み干します。


 そうこうしている内に、コンコンを部屋の扉がノックされます。

 学院長が返事をして、中に入ってきたのはカオリです。


「学院長、そろそろ移動しませんと」

「あら、いけませんわ。つい話し込んでしまいましたわ」


 席を立つ学院長。

 私もつられて立ち上がります。


「それじゃノノさん、参りましょうか」

「はい」


 私の『乙女』としての実力が試される時が来ました。


--------------------------------------------------


 私達が移動した先は、バスケットコートが三つは入りそうな広さの建物です。

 中に入ると円形のフィールドが広がっていて、周囲の壁の上には段差の付いた観客席が並んでいます。

 フィールドの地面には硬いブロックが敷き詰められていて、まるで闘技場の様です。

 観客席には二人の女性が居ます。遠目なのではっきりとは見えませんが、制服を着ていないので教師かと思います。

 そして闘技場の真ん中には少女が一人立っています。

 小さな身体に、揺れるツインテール。


「お、待っていましたよ、学院長」


 私達に近付いて来るミコ先生。


「それでは、ミコ先生。よろしくお願いしますわ。ノノさんも頑張って下さいね」


 そう言うと学院長は、ミノリを連れて壁際まで下がります。


「それじゃノノ。とりあえず真ん中まで移動するぞ」


 言われるまま、私とミコ先生は闘技場の中央まで移動します。


「あの、これから何をするのですか?」

「あぁ?……もしかして聞いてないのか?模擬戦さ、模擬戦」


(ですよねー)


 まぁ学院長も『乙女』の実力を測るって言っていましたし、薄々、そうではないかと思っていました。


「ところでルールはどうなっているのですか?」

「特にないな。ま、好きにしな」

「……はぁ」

「何だ、やる気のねー奴だな。そうだ!いい事を思い付いたぞ。お前が私から一本でも取れたら、街に出て何か奢ってやるよ」

「本当ですか!……あ、でも私が一本取られたら、どうするのですか?」

「そんなのいいって、ただのご褒美だし」


 ミコ先生はひらひらと右手首を振ります。


「分かりました。約束ですよ!」

「あぁ、鐘が鳴り終わったら開始だから、しっかり準備はしとけよ」

「はい!」


 良し、やる気が上がりました!

 私は屈伸や上体を反らす準備体操をして、身体を解きほぐします。

 そして


 ゴォーン。


 いい感じで身体の準備ができた所で、鐘が鳴り始めます。


 ゴォーン。


「よろしくお願いします!」

「おうよ」


 ゴォーン。


(お願い、ブルーニコ)

『よろしくっす』


 ゴォーン。


 ……。


 鐘が鳴り終わった瞬間――。

 私は一気に疾走し、ミコ先生との間合いを詰めます!そして走りながら、ブルーニコの固有武器であるショートソードを顕現します。

 相対していた距離は5メートル。この距離と私の速度なら、詠唱省略で術を使用させる暇はありません。

 ミコ先生の取れる行動は三つ。防御か、回避か、迎撃かの何れかです。

 そしてミコ先生の対応は――腰を落とし、その手には一瞬で顕現した戦斧を構えます。

 つまり武器を顕現しての迎撃。

 その戦斧には、円を描くような刃が柄の先に付いていて、ミコ先生の顔がすっぽり隠れる程の大きさをしています。

 あんなものを食らえば、こちらが無事では済みません。

 しかし、それでもこちらの速度に比べれば、今更遅いことに変わりはありません!


「――っ!?」


 大戦斧を振り抜こうとしたミコ先生の手が止まり、驚きで顔が歪みます。

 その隙に、私はミコ先生の首元に剣を突きつけて言います。


「これで一本です。約束は守って下さいね」



六聖女の内、既に半分を攻略済みであるノノ。

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