第七十一話
ゴォーン、ゴォーン。
何処かから聞こえてくる鐘の音に、私は目を覚まします。
見慣れない天井。そして見慣れない部屋。
(……そうです。ここは学院の寮でした)
隣のベッドでは、ミノリが寝ています。
私はベッドから降りて、んーと軽く伸びをします。
そして窓のカーテンを開けると、暗かった部屋が一気に明るくなります。
(今日もいい天気です!)
物音がしたため振り返ると、丁度ミノリも起きたみたいです。
「おはよう」
「おはようございます」
そのまま朝の挨拶をします。
じーん。
コノカ――誰かさんと違って寝起きの良いミノリに、少しだけ感動してしまいました。
……。
食堂は寮から、歩いて数分の所にあります。
昨日も晩御飯をここで食べました。
私は配膳をしているエプロンを着た少女(生徒か教職員か分からないです)から朝食を受け取ると、ミノリと向かい合って座ります。
(……見られています。とても見られています)
食堂は200人は座れるくらい広いです。
まだ朝早いためか生徒全員は来ていないみたいですが、何故か私達の周りの席には誰も近寄ってきません。
そのくせ朝食を食べる私達は、他の生徒からの視線を集めているみたいです。
「ミノリ姉様、私達目立っていませんか?」
私は、周りを特に気にしていなさそうに食事をするミノリに声を掛けます。
ミノリは私の言葉に、一度首を回します。
「……制服じゃないから?」
「うーん、それだけでしょうか?」
私は自分の服を見ます。
一人だけ、白いシャツにパンツ(ズボンの方)姿。
確かにミノリの言う事は間違っていないと思います。事実、私一人だけ私服で、それ以外の少女は制服なため目立ってはいます。
しかしそれだけで、こうもジロジロと見られるものでしょうか?
うまく説明できませんが、どこか変な視線を感じるような……。
そう私が悶々としながらも朝食のスープ飲んでいると、
「ノノが可愛いから」
「――んぐっ!?」
ミノリの唐突な言葉に、私は驚いてむせてしまいます。
(んっ!変なところ入った!!)
「大丈夫!?」
咳をする私にミノリは慌てて駆け寄るとハンカチを差出し、そして私の背中を撫でてくれます。
「……あー、大丈夫です。ありがとうございました」
しばらくすると私の咳も治まります。、
それにしても、この人はいきなり何を言い出すのでしょうか?
そういえば昨日も、ミノリは私に向かって綺麗とか言っていましたね。
確かに自分でも人並みの容姿はしているとは思いますが、この学院の生徒達の方が綺麗で可愛いと思います。
それに――
「私よりも、ミノリ姉様の方が綺麗だと思いますよ」
「そう?」
「そうです」
私の言葉に首を傾げるミノリ。
どうやら自分が綺麗だという自覚が薄いみたいです。
結局、見られる理由が分からないため、気にしないように食事を続けることにしました。
食事が終わると、私はミノリと別れます。
ミコ先生に自室で待っているように言われているため、私はこれから寮に戻らなくてはいけません。
その際にミノリに声を掛けられました。
「ノノ、手を出して」
ミノリが差し出したのは、何かの鍵です。
「部屋の鍵。私はこの後、校舎に行くから」
「でも、それだとミノリ姉様が部屋に戻ってきた時に困るのでは?」
「大丈夫。もう一本持っている」
そう言って、ポケットからもう一本同じ鍵を取り出します。
それならと、私は鍵を受け取ります。
「それじゃ」
「はい、また後で」
私はミノリと別れると、寮に続く道を進みます。
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コンコン。
「おーい、居るか?」
私が寮の部屋で待っていると、ノックの音と共にミコ先生の声が聞こえます。
「はーい!」
私は返事をすると、部屋の扉を空けます。
廊下には、ツインテールの少女――ミコ先生が待っていました。
「おはようございます」
「おう、おはよう。早速だけどついてきな」
そう声を掛けると、ミコ先生は寮の階段に向かて歩いて行きます。
私も部屋の鍵を閉めると、ミコ先生について行きます。
私達は寮を出ると、そのまま校舎の方に向かいます。
その途中――
「そういえばノノは、あの『眠り姫』の推薦なんだってな。昨日、カオリが騒いでいたぞ」
「えーと、その『眠り姫』って何ですか?」
「あぁ、すまんすまん。『眠り姫』っていうのは、生徒が付けた渾名みたいなもので、名前は確か……コノカっていえば分かるか?」
(……あぁ!コノカだから『眠り姫』ですか)
私はミコ先生の言葉に納得します。
それにしてもコノカにそんな渾名が付けられているなんて。どうやら学生の頃から、あまり変わらないみたいですね。
「はい。私の住んでいた村では、とてもお世話になりました」
「あのいつも寝てばっかの『眠り姫』がねー」
その言葉に、私は苦笑します。
やっぱりコノカは、コノカです。
「それじゃ『乙女』になったのも、『眠り姫』に仲介契約されてか?」
ミコ先生が聞いてきます。
そういえば学院長はどこまで、私の事情をミコ先生に話したのでしょうか?
こうして聞いてくるって事は、ナナやセンリの事は知らないと思います。
であるならば、ナナの事は話さない方が良いでしょう。
「えぇ、まぁそんなところです……」
とりあえず、私はお茶を濁します。
「ふーん」
「ところでコノカ姉様の事を知っているってことは、ミコ先生はその頃から、ここで先生をやっているのですか?」
私は話題を変えます。
「そうだな。教師をやるのは、今年でかれこれ10年目だったかな?」
「では私が生まれる前から『乙女』だったのですね。……失礼ですけど、ミコ先生は幾つの時に本契約したのですか?」
「私が本契約したのは、17歳の時だぞ。そういえば、本契約してからもう20年経つのか……」
感慨深そうにするミコ先生。
……今、さらっと凄い発言をしましたね。
ミコ先生は身長が余り大きくないため、正直な所、私と並んでも違和感がなく同年代といわれても全然おかしくないです。
そのミコ先生が、実は17歳になっても小さいままだったとは!
ふむ……世界は広いですね。
しかも今気が付きましたが、今の年齢が37歳ってことは私の年齢(前世含む)と同い年ではないですか。
(何だか親近感が沸きますね)
そう私が暖かい目で見ていると、
「――痛っ!?」
ミコ先生に頭を叩かれます。
「……何故にですか?」
「何だかその目はむかつくから、やめろ」
こちらを睨むミコ先生。
「うぅ、すいません」
「ほら、いいから行くぞ」
そう言うとミコ先生は、私を置いて先に進みます。
私もじんじんと痛む頭を押さえながら、置いてかれないようにミコ先生を追いかけます。
ミコ先生は強気ロリ。




