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白金の乙女  作者: 夢野 蔵
第四章
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第六十六話

「やっと着きました……」


 今、私が居るのは学院の正門と思われる場所です。

 結局、ユカリから逃げた後は、大通りを通って学院を目指しました。

 ……ちなみにパンツは穿いています。まさか屋根の上でパンツ穿く日が来るとは、夢にも思いませんでした。

 まぁ、なんとか日が落ちる前に辿り着けて良かったです。


 さて学院に着いたのはいいものの、どこへ行けば良いのでしょうか?

 学院は周囲を4メートル位の壁に覆われていて、中の様子が分かりません。

 正門は開放されているみたいなので、ここから入るしかないみたいです。

 私がそのまま正門に近付くと、門の中から白い修道服のような服――ナナやセンリに似た格好をした、警備員と思われる少女と目が合います。


「こんにちは」

「こんにちは、どうしたのかな?」


 挨拶をすると、少女は私に近付いて来ます。


「この学院に入学するために来たのですが、どこに行けば良いのでしょうか?」


 私が訪ねると、少女は困った顔をして、


「ごめんねー。今年の入学試験はもう終わってしまったのよ」


 この街の門番の女性と、同じ事を言います。

 もしかして試験が過ぎてからも、こうして『乙女』になるために訪れる人が多いのでしょうか?


「いえ、私は既に『タリア』とは契約していて……そうでした!こうして『乙女』の推薦状も持っています」


 私は急いで荷物の中から封筒を取り出すと、少女に渡します。

 『乙女』には、新しく誕生した『乙女(仮)』を見つけた場合に報告する義務があるとか。

 そして『乙女(仮)』は基本的に学院に入学するため、門前払いされない様にと『乙女』は推薦状を書くらしいです。


「どれどれ……。確かに『乙女』からの推薦状みたいね」


 少女は封筒を裏返して確認します。


「それじゃ、私はこれを偉い人に渡してくるから、ちょっとここで待っていてね」


 そう言うと、少女は学院の中へ歩いて行きます。

 とりあえず門の真ん中で突っ立っているのも邪魔なので、私は門の端に寄ります。

 正門からは学院の中が見えます。

 中に入ると並木道が真っ直ぐに続いていて、その先には学校の校舎みたいな建物が存在します。

 私が待っている間、学院の生徒らしい制服を来た少女が数人、学院の中に入って行きます。

 そして時折通り過ぎる少女達は、何故か私の方をチラチラと見ています。


(私、変な格好をしているでしょうか?)


 私の格好は旅用のマントに、フードを被って顔を隠しています。

 もしかして?と自分の姿を見ますが、どこにも変な所はないと思うのですが。

 そうやって自分の姿を確認していると、後ろから声を掛けられます。


「――ノノさん」


 私に声を掛けたのは、水色の髪をショートカットにした少女です。

 その少女の視線はキリッと引き締まっていて、こちらを睨んでいる様に感じます。

 そして傍らには、先程の警備の少女も居ます。


「推薦状の確認が出来ました。付いて来なさい」


 少しきつい感じで言うと、水色の少女は踵を返して学院の中に戻ります。

 私も取り残されないようにと、慌てて少女の背中を追いかけます。

 すれ違いざま、警備の少女が軽く手を振っていたので、私もぺこりとお辞儀をしてこの場を後にします。


--------------------------------------------------


 私は静かに、水色の髪をした少女の後ろを歩きます。

 『タリアの乙女』は本契約をすると歳を取らず、外見も少女のままであるため、見た目だけではこの少女がどの位偉い人か分かりません。

 また服装も、細部は異なりますが警備員の少女と似たような服を着ているため、判断が付きません。

 素直に話し掛けて聞くのが一番良いとは思うのですが、私と会った時からずっとピリピリしているため、どうにも話し掛け難いです。


 そのまま並木道を抜け、正面の建物に入ると階段を上がって廊下を進みます。

 建物の中は、白い壁に板張りの内装をしています。特に華美な装飾はありません。

 やっぱり印象としては学校の様な雰囲気ですね。

 しばらく進むと、水色の少女はある部屋の前で立ち止まって扉をノックします。


「学院長、お連れしました」

「お入りなさい」


 扉越しにくぐもった女性の声が聞こえて来ます。

 水色の少女は「失礼します」と部屋の中に入っため、私も「失礼します」と後に続きます。

 部屋の中には応接用のソファーとテーブルが置いてあり、奥にはまた別の広いテーブルが置いてあります。

 そして広いテーブルでは、学院長と思われる金髪の女性が幾つかの書類を広げています。


「遠い所、ようこそいらっしゃいました。ノノさん」


 学院長は椅子から立ち上がります。


「カオリ、すみませんが寮長を呼んでき下さい」

「分かりました」


 水色の少女――カオリはこちらをキッと睨みつけると、礼をして部屋を退出します。

 ……私、何か悪いことをしたのでしょうか?


「あの娘も悪い娘ではないのですが、あなたの推薦人がコノカ・トリエステだから警戒しているのですわ」


 学院長は、こちらの考えが分かったかのように疑問に答えます。

 どうやら考えが顔に出ていたみたいですね。

 ちなみに先程渡した推薦状は、実はコノカが書いたものです。そしてそれとは別にもう一通、ナナの推薦状があります。

 ナナ曰く、学院長に渡される前に、他の人に『六聖女』の推薦状だとばれるのは都合が悪いとのこと。

 例えば、『六聖女』からの推薦だとばれると、推薦された私が色々と注目されるとか。

 確かに私もあまり目立つのは好ましくないため、ナナの言う通りになるのは避けたいです。

 それで白羽の矢が立ったのがコノカなのですが……別の意味で目立っているみたいですね。

 一体コノカは、学生時代に何をしたのでしょうか?気になります。


「さぁ掛けて下さい。今、お茶を入れますから」


 そう言ってお茶の準備をする学院長。

 私は言われた通りに座ろうとして、マントを羽織ったままなのに気付きました。

 そういえば脱ぐのを忘れていました。これは少し失礼だったかと思います。

 私はマントを脱ぐとソファーに腰掛けます。


 お茶の準備の間、私はこちらに背を向ける学院長を見ます。

 見かけは17歳位でしょうか。身長も160センチはあり、美少女といっても違和感はありません。

 長く伸びた金髪には緩やかにウェーブが掛かっており、優雅な仕草と相まって貴族のご令嬢みたいです。


(何だか、今まで見た『乙女』は皆、綺麗な娘が多いなぁ……)


 先程の警備の少女や、私を案内したカオリ。

 街中で会ったハルカや双子、ユカリも皆、可愛い娘ばかりです。

 まぁ私の中では、ナナが一番可愛いいですけどね!


(……もしかして『タリア』は美少女としか契約をしないのでは?)


 そんなことを考えていると、


 じー。


 気付いたら、学院長に見詰められています。


「あの何か?」

「……はっ!?い、いえ。失礼しましたわ。知り合いの娘に似ていたから、つい……」


 おほほと言葉を濁す学院長。

 お茶を置き、私の向いに座ると学院長は喋りだします。


「それでは改めまして。わたくしの名前はキクナ・ミラノ。当学院の学院長を務めております」


 そして学院長は微笑むと、


「ノノさん。あなたの入学を歓迎致します」


 右手を差し出してきます。



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