第六十六話
「やっと着きました……」
今、私が居るのは学院の正門と思われる場所です。
結局、ユカリから逃げた後は、大通りを通って学院を目指しました。
……ちなみにパンツは穿いています。まさか屋根の上でパンツ穿く日が来るとは、夢にも思いませんでした。
まぁ、なんとか日が落ちる前に辿り着けて良かったです。
さて学院に着いたのはいいものの、どこへ行けば良いのでしょうか?
学院は周囲を4メートル位の壁に覆われていて、中の様子が分かりません。
正門は開放されているみたいなので、ここから入るしかないみたいです。
私がそのまま正門に近付くと、門の中から白い修道服のような服――ナナやセンリに似た格好をした、警備員と思われる少女と目が合います。
「こんにちは」
「こんにちは、どうしたのかな?」
挨拶をすると、少女は私に近付いて来ます。
「この学院に入学するために来たのですが、どこに行けば良いのでしょうか?」
私が訪ねると、少女は困った顔をして、
「ごめんねー。今年の入学試験はもう終わってしまったのよ」
この街の門番の女性と、同じ事を言います。
もしかして試験が過ぎてからも、こうして『乙女』になるために訪れる人が多いのでしょうか?
「いえ、私は既に『タリア』とは契約していて……そうでした!こうして『乙女』の推薦状も持っています」
私は急いで荷物の中から封筒を取り出すと、少女に渡します。
『乙女』には、新しく誕生した『乙女(仮)』を見つけた場合に報告する義務があるとか。
そして『乙女(仮)』は基本的に学院に入学するため、門前払いされない様にと『乙女』は推薦状を書くらしいです。
「どれどれ……。確かに『乙女』からの推薦状みたいね」
少女は封筒を裏返して確認します。
「それじゃ、私はこれを偉い人に渡してくるから、ちょっとここで待っていてね」
そう言うと、少女は学院の中へ歩いて行きます。
とりあえず門の真ん中で突っ立っているのも邪魔なので、私は門の端に寄ります。
正門からは学院の中が見えます。
中に入ると並木道が真っ直ぐに続いていて、その先には学校の校舎みたいな建物が存在します。
私が待っている間、学院の生徒らしい制服を来た少女が数人、学院の中に入って行きます。
そして時折通り過ぎる少女達は、何故か私の方をチラチラと見ています。
(私、変な格好をしているでしょうか?)
私の格好は旅用のマントに、フードを被って顔を隠しています。
もしかして?と自分の姿を見ますが、どこにも変な所はないと思うのですが。
そうやって自分の姿を確認していると、後ろから声を掛けられます。
「――ノノさん」
私に声を掛けたのは、水色の髪をショートカットにした少女です。
その少女の視線はキリッと引き締まっていて、こちらを睨んでいる様に感じます。
そして傍らには、先程の警備の少女も居ます。
「推薦状の確認が出来ました。付いて来なさい」
少しきつい感じで言うと、水色の少女は踵を返して学院の中に戻ります。
私も取り残されないようにと、慌てて少女の背中を追いかけます。
すれ違いざま、警備の少女が軽く手を振っていたので、私もぺこりとお辞儀をしてこの場を後にします。
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私は静かに、水色の髪をした少女の後ろを歩きます。
『タリアの乙女』は本契約をすると歳を取らず、外見も少女のままであるため、見た目だけではこの少女がどの位偉い人か分かりません。
また服装も、細部は異なりますが警備員の少女と似たような服を着ているため、判断が付きません。
素直に話し掛けて聞くのが一番良いとは思うのですが、私と会った時からずっとピリピリしているため、どうにも話し掛け難いです。
そのまま並木道を抜け、正面の建物に入ると階段を上がって廊下を進みます。
建物の中は、白い壁に板張りの内装をしています。特に華美な装飾はありません。
やっぱり印象としては学校の様な雰囲気ですね。
しばらく進むと、水色の少女はある部屋の前で立ち止まって扉をノックします。
「学院長、お連れしました」
「お入りなさい」
扉越しにくぐもった女性の声が聞こえて来ます。
水色の少女は「失礼します」と部屋の中に入っため、私も「失礼します」と後に続きます。
部屋の中には応接用のソファーとテーブルが置いてあり、奥にはまた別の広いテーブルが置いてあります。
そして広いテーブルでは、学院長と思われる金髪の女性が幾つかの書類を広げています。
「遠い所、ようこそいらっしゃいました。ノノさん」
学院長は椅子から立ち上がります。
「カオリ、すみませんが寮長を呼んでき下さい」
「分かりました」
水色の少女――カオリはこちらをキッと睨みつけると、礼をして部屋を退出します。
……私、何か悪いことをしたのでしょうか?
「あの娘も悪い娘ではないのですが、あなたの推薦人がコノカ・トリエステだから警戒しているのですわ」
学院長は、こちらの考えが分かったかのように疑問に答えます。
どうやら考えが顔に出ていたみたいですね。
ちなみに先程渡した推薦状は、実はコノカが書いたものです。そしてそれとは別にもう一通、ナナの推薦状があります。
ナナ曰く、学院長に渡される前に、他の人に『六聖女』の推薦状だとばれるのは都合が悪いとのこと。
例えば、『六聖女』からの推薦だとばれると、推薦された私が色々と注目されるとか。
確かに私もあまり目立つのは好ましくないため、ナナの言う通りになるのは避けたいです。
それで白羽の矢が立ったのがコノカなのですが……別の意味で目立っているみたいですね。
一体コノカは、学生時代に何をしたのでしょうか?気になります。
「さぁ掛けて下さい。今、お茶を入れますから」
そう言ってお茶の準備をする学院長。
私は言われた通りに座ろうとして、マントを羽織ったままなのに気付きました。
そういえば脱ぐのを忘れていました。これは少し失礼だったかと思います。
私はマントを脱ぐとソファーに腰掛けます。
お茶の準備の間、私はこちらに背を向ける学院長を見ます。
見かけは17歳位でしょうか。身長も160センチはあり、美少女といっても違和感はありません。
長く伸びた金髪には緩やかにウェーブが掛かっており、優雅な仕草と相まって貴族のご令嬢みたいです。
(何だか、今まで見た『乙女』は皆、綺麗な娘が多いなぁ……)
先程の警備の少女や、私を案内したカオリ。
街中で会ったハルカや双子、ユカリも皆、可愛い娘ばかりです。
まぁ私の中では、ナナが一番可愛いいですけどね!
(……もしかして『タリア』は美少女としか契約をしないのでは?)
そんなことを考えていると、
じー。
気付いたら、学院長に見詰められています。
「あの何か?」
「……はっ!?い、いえ。失礼しましたわ。知り合いの娘に似ていたから、つい……」
おほほと言葉を濁す学院長。
お茶を置き、私の向いに座ると学院長は喋りだします。
「それでは改めまして。私の名前はキクナ・ミラノ。当学院の学院長を務めております」
そして学院長は微笑むと、
「ノノさん。あなたの入学を歓迎致します」
右手を差し出してきます。




