第六十五話
「……ここはどこでしょう?」
思わず疑問を口に出してしまいます。
私が居るのは、リネットの街の……どこかです。
どうやら完璧に道に迷ったみたいです。
今思いますと、最初に歩いていた大通りの道が遠くに見える時計塔らしき建物から逸れていたので、ショートカットのつもりで脇の道に入ったのが失敗でした。
途中で「あ、この道は違うな」と思ってはいたのですが、それでも興味本位で進んでみるとその先は行き止まり。
引き返してみるとどこかで道を間違えたらしく、こうして迷っているのが現状です。
あいにく道が狭く、近くの建物のせいで時計塔が見えないため、どっちに行けば良いのかも分かりません。
せめて誰か通り掛かれば道を聞けるのですが、裏路地のためか人が通りかかる気配が全くしません。
(……うーん、どうしましょう)
こう薄暗い路地だと、何か出てきそうで嫌です。
最悪の場合は『タリアの娘』と仮契約して、屋根まで上がれば方角は分かるでしょうか?そう考えていた所で、どこからか足音が聞こえて来ます。
コツコツ。
段々と足音は近づいてきます。
こういう場合、ホラー映画とかですと現れたのは不気味な怪人で、そのまま少女は怪人の餌食になったりとか。……変な事を考えたら、少し怖くなってきました。やめましょう。
とかなんとか考えている内に、足音はすぐそこまで迫っています。
い、一応、警戒はしておいた方が良いかな……?
そして、薄暗い路地の反対から現れたのは――
「……うん?」
一人の少女でした。
身長は160センチ位で、手足はモデルの様に長いです。
顔立ちも整っており、薄い紫の髪は肩まで伸びています。
そして少女の服装は、先刻に出会ったハルカ達と同じ白い制服を着て、上にカーディガンの様な服を羽織っています。
(もしかして、この人も学院の関係者――生徒なのでしょうか?)
すると少女は私の視線に気付いたのか、立ち止まると話し掛けてきます。
「ねぇ、キミ。こんな所でどうしたの?」
「……実は、気が付いたら道に迷ってしまいまして――」
私は道に迷っている事。それに大通りに出たい旨を伝えます。
私の話を聞き終わると、少女は言います。
「もし良かったら、通りの道まで送っていこうか?」
「それは是非、お願いします」
どうやら親切な人みたいです。
「それじゃ着いておいで」
そう言うと、少女は来た道を引き返したため、私も少女の後ろを追いかけます。
「あのっ!お姉さんに聞きたいことがあるのですが」
私は少女の横に並んで話し掛けます。
「お姉さんは止してよ。僕の名前はユカリっていうんだ」
少女――ユカリはくすぐったそうに言います。
まさかの僕っ娘発言に、少しテンションが上がったのは内緒です。
「それではユカリさんで。私の名前はノノといいます」
「分かったよ、ノノ。それで聞きたいことは?」
「その制服を着ているって事は、ユカリさんは学院の生徒なのでしょうか?」
「そうだよ。入学して5年目だね」
「そうなのですか」
どうやらこの制服は、学院の生徒が着るものみたいです。
通りまで出たら、ついでに学院までの道を聞いておきましょう。
「それよりこの辺はあんまり治安が良くないから、キミみたいな娘がうろついていると厄介事に巻き込まれてしまうから気を付けないと」
「……それは、何事もなくて良かったです」
どうやらここは、結構危ない場所だったみたいです。
何か起こる前に、ユカリに出会えてた幸運に感謝したい気分です。
そういえば、
「ユカリさんは何故、このような場所にいるのですか?」
少し気になります。
「ちょっと野暮用があってね……」
言葉を濁すユカリ。
うーん、まぁ誰にでも言いたくなことはありますよね。
それにあまり詮索するのも失礼なので、深くは訊かない方が良いでしょう。
そのまま歩いて数分。
徐々に周りの景色が見覚えのある所まで戻ってきました。
確かここは、通りから一本隣の併走する道だと思います。
「このすぐ隣が大通りだよ。それで提案があるんだけど、良かったら少しお茶でもしていかないか?もちろんキミ、ノノが良かったらだけど……」
ユカリはどうかな?とこちらを見ます。
「そうですね。ここまで道案内をして頂いたお礼もしたいですし、私は大丈夫です」
それに今までずっと歩いていた事と慣れない喧騒により、少し疲れていて小休憩が欲しかった所です。
「そう、良かった。実はお茶の美味しい店があるんだけど、一人では入り辛かったんだ」
嬉しそうに笑うユカリ。
「分かります!何か一人だと恥ずかしくて入り難いんですよね。それに飲み物を飲み終わると、すぐに店を出ないといけない気分になるので、あまり落ち着けなかったりするのです」
私も前世では、一人で喫茶店とか無理でしたのでついユカリに同調してしまいます。
「へー?ノノみたいな小さい娘が一人でお店に入るの?」
「……えぇ。その……まぁ」
やってしまいました。たまに前世の頃の事を、思わず話してしまうのは私の悪い癖です。
別におかしいことは言っていないとは思いますが、怪しまれていないかとユカリの方をそっと見ると、ユカリは立ち止まっていました。
「ノノ、行きすぎ。ここの店だよ」
どうやら店に着いたため、あまり気にしていないようです。
私はほっと胸を撫で下ろすと、建物に入るユカリの後を追います。
建物の中は店……というより、人が泊まる宿みたいです。
入るとすぐにおばあさんが座っていて、ユカリはおばあさんにお金を渡すと、二階の部屋に入ります。そのまま私もユカリに続きます。
「あのー、ここは本当にお茶のお店なのですか?」
私は疑問に思いつつ、とりあえず荷物を降ろします。
部屋の中には、ベッドが一つ。机と椅子が一つずつ備えてありました。
どうみてもここは宿の一人部屋に見えます。
「ここは個室の茶店でね。ついこの間まで、宿だったものをそのまま茶店にしたらしいんだよ」
「へー、なるほど」
個室なんて珍しいお店ですね。
あ、よく見るとテーブルの上に陶器のカップとポッドが置いてあります。
「じゃあ、あれがお茶ですかね?」
そう言ってユカリの方に振り向いた所で――急に私の身体が引っ張られます。
「……へ?」
気付いた時には、私はベッドの上に押し倒されていました。
そして私の上に圧し掛かるのは、ユカリです。
「あの……ユカリさん?」
「ふふっ。こんな簡単に騙されるなんて、ノノは世間知らずだね。でもそんな所も可愛いよ」
ユカリが妖しく微笑みます。
そして私のマントの紐を解くと、フードを外して私の顔を露にします。
「可愛い顔。それに綺麗な髪だね」
ユカリは私の髪に手櫛を入れ、一房を手に取るとキスをします。
「――な、何をしているのですか?」
「ふふっ、怯えないで」
そう言うと、ユカリの顔が私の顔に近付きます。
思わず私は顔を反らしますが、ユカリは私の耳元に顔を近づけ、カプッと私の耳を噛み付きます。
「ヒャッ!?」
びっくりして私の声が漏れますが、ユカリはそのまま私の耳を甘噛みし続けます。
「うっ、ちょ……やめ、ヒャッ!」
私はくすぐったい感触に身を捩じらせますが、ユカリに手足を押さえつけられている為、思うように動けません。
やがてユカリは耳を噛むのをやめると、こちらに向き直ります。
私はその下でぐったりしていましたが、これ以上は流石に拙いためユカリにはっきり言います。
「あ、あのっ!私には、こういう女の子同士で好き合う趣味はないのですけどっ!」
「僕もいつもはノノみたいな小さい娘は対象外なんだけど……ね」
「でしたらっ!」
「でも、大通りでキミの綺麗な銀髪を見た瞬間、我慢が出来なくなってしまったんだ」
ユカリは湧き出る衝動を抑えるように、自分の身体を抱きしめます。
(……ん?大通りで見た……ってことは!)
「もしかして、通りから私の跡をつけてきたのですか?」
「うん!」
嬉しそうに頷くユカリ。
(ギャーッ!実はストーキングされてました!?)
つまり、あそこ――路地裏に通りかかったのは偶然ではなく、私を追いかけて来たのですか!?
そんな私に構わず当のユカリは、上に着ていたカーディガンを既に脱いでいて、今度は制服の胸元のボタンに手を掛けていました
(あわ、わ。早く逃げなくては……)
私が混乱しながらも逃げようとしますが、ユカリにがしっと身体を掴まれます。
「……大丈夫だよ。すぐに気持ち良くしてあげるから」
ユカリは獲物を前にした蛇の様です。
(ひぃっ!?)
さしずめ私は睨まれたカエルでしょうか。
そのままユカリの手が私のスカートに伸びて、下着を掴まれると――バッと一気にずり下げられました!
(――――――――――っっっ!?)
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「はぁはぁ……ここまで逃げれば大丈夫でしょう……」
大通りの近くにある建物の屋根でへたれる私。
気付いた時には私は『タリアの娘』との仮契約を交わし、身体強化でユカリを押し退けると自分の荷物を抱えたまま、板張りの窓を突き破って逃走していました。
息を整えつつも、なんだか下半身がスースーすることに気付きます。
「――あっ!」
……パンツはいてない。




