表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白金の乙女  作者: 夢野 蔵
第四章
66/113

第六十四話

 ガタンゴトン。


 私は馬車の荷台に揺られています。

 暖かな日差し。時折吹く風が優しく身体を撫でて、それが気持ち良いです。

 陽気につられて、こんな日はつい、こくこくと船を漕いでしまうのも仕方ないでしょう。


「おーい、お嬢ちゃん。そろそろ着くぞー」


 前方の御者席から、気の良さそうなおじいさんの声がします。

 その声でうとうととしていた私は浅い眠りから目を覚まし、周囲を見渡して、その視線が馬車の前方に固定されます。


「うわぁ、大きい……」


 思わず感嘆の声を漏らします。

 視線の先には、大きな街が広がっています。

 周囲を壁に包まれ、背の高い建物が幾つも並んでいます。

 とりわけ、その中でも特に高いのが、街の中央にある時計塔のような建物です。

 道中に寄ったサキソの街も大きかったけど、この街も同じくらい大きいです。


(……長かったです)


 バール村を出て、約2週間半。

 ここまでの道程で色々ありましたが、なんとか無事にリネットの街にやって来ました。


(ここで新しい生活が始まる)


 私の名前はノノ。

 一人前の『タリアの乙女』を目指しています。


--------------------------------------------------


「ありがとうございました」

「お嬢ちゃんも頑張ってな」

「はい。お爺さんもお元気で」


 ここまで私を送ってくれた商人のお爺さんに、お礼と挨拶を済ませます。

 リネットの街では年頃の男性が街に入るのを禁止しています。

 そのため街の内外を繋ぐ門では検問が設けられ、街を出入りする人間の審査や、大きな荷物の検査を行っています。

 そして人が通る門と馬車が通る門は分かれて、私は人用の通行門に向かいます。

 門の前には数人の人が並んでいます。

 私の様に旅装束の人も居れば、軽い服装の住人らしき人も居ます。

 私もそのまま、列の最後尾に並びます。


「――次の人」


 数分待つと、私の番がやって来ました。


「あら、こんにちは。……お嬢さんかな?」

「はい。こんにちはです」


 門番らしき若い女性に挨拶をされ、私も挨拶を返します。

 目の前の女性の語尾が疑問系なのは、私が旅用のマントに身を包みフードをずっぽし被っているからでしょう。

 実は私の銀の髪は珍しいのか、これまでの道中でも何かとじろじろと見られる事が多かったため、極力フードで隠す様にしているのです。


「まずは名前を教えてくれるかな?」

「私はノノと申します」

「ノ・ノ、と」


 女性は紙に私の名前を書きます。


「もしかして一人なのかしら?」

「はい。近くまで、知り合いの方に送って頂きました」


 ちなみに一緒に村を出たコノカは、リネットの街まで私を送ってくれて、そこからは先程のおじいさんの馬車に相乗りさせて頂きました。


「そうなの。それでこの街にはどんな用でやってきたのかな?」

「私は『タリアの乙女』になるために、この街に来ました」


 私が答えると、女性は困った様な顔をします。


「うーん。お譲ちゃんは知らないかもしれないけど、『乙女』になるための入学試験は、二ヶ月以上前に終わってしまったのよ……」


 どうやら女性は、私が入学試験を受けに来たと誤解しているみたいです。


「大丈夫です。こう見えても『タリア』との契約は済ませていますので」

「あら……そうなの?でも良かったわ。てっきり入学試験に遅れて来たのかと思ったけど、私の勘違いだったみたいね」


 女性は、ほっと胸を撫で下ろします。


「それじゃ、街の中に入っても大丈夫よ。それから、学院は街の中央にあるから迷わないようにね」

「はい。ありがとうございます」

「頑張ってねー」


 女性に手を振り返し、私は街に入ります。

 そのまま道なりに進むと、やがて大きな通りに出ます。

 通りの左右には大小の店が並び、沢山の人間が行き来しています。


(うーん。やっぱり女の人が多いですね)


 通行人の6割位は女性です。

 露店なんかでも、声を上げて客引きをしている店員の半分は女性です。

 若い男性は全然居らず、たまに見かけるのも既婚者だと思われます。

 また意外にも若い女性が少ないです。もしかしたら若い男性が少ないのも関係あるのでしょうか?


(おっと道草はいけないです。まずは学院に向かわないと……)


 確か街の中央に学院はあると、門番の人は言っていました。

 そうすると街の外から見えた、時計塔みたいな建物は学院のものだと思われます。

 うーん、とりあえず時計塔を目指せば大丈夫かな。

 そう思い上を見ながら歩いていたためか、私は建物の陰から現れた人物に気付けませんでした。


「きゃっ!」

「わっ!」


 肩に何かがぶつかり、私は反動で地面に尻餅を着いていしまいます。

 お尻の痛みに顔をしかめつつ前を見ると、私と同じように少女が尻餅を着いていました。

 どうやら余所見をしていたため、避けきれずにぶつかったみたいです。

 歳は15か16でしょうか。燃えるような真紅の髪に、揃えた色をした真紅の瞳が印象的な美少女です。

 白いワンピースタイプの制服のような物を着ていて、視線を降ろすとスカートが捲くれているのに気付きます。

 そこから覗くのは綺麗な脚部と、大事な所を隠すための下着です。

 これは……いわゆるラッキースケベってやつです!分かります。

 少女は痛みに顔をしかめていましたが、私に気付くとその視線を追い、自分のあられもない姿に気付きます。


「キャーーーッ!!」


 悲鳴を上げて、下着を隠す少女。

 その後ろから


「ハルカ様、どうしました!?」

「大丈夫ですか!?」


 と二人の少女が駆け付けて来ます。

 現れたのは、倒れた少女と同じ服装の少女が二人。

 しかしその顔は鏡写しにした様にそっくりで、もしかしたら双子だと思います。

 その双子に介抱される真紅の髪の少女。

 私も慌てて立ち上がると、頭を下げます。


「すいません。私、余所見をしていて……」


 すると双子の片方が私に近付くと、因縁を付けてきます。


「ハルカ様にぶつかっておいて、ただで済むと思っているのかしら」


 ……なんだか言っていることがどこかの三下みたいで、新鮮に感じます。

 どうやら、私がぶつかった真紅の髪の少女がハルカというらしいです。


「そうだそうだー!大体、謝る時は顔を見せなよっ!」


 双子のもう片方も追随すると、あっという間に私のフードを捲ります。

 急な出来事に対応出来ず、ふわっと私の髪が外に晒されます。


「……銀髪だ」

「……銀髪ね」


 同じリアクションを取る双子。

 やっぱり銀の髪は目立つ様です。

 双子は少しの間、私の髪をじっとみていましたが、はっと我に返ると再びギャーギャーといちゃもんを付けて来ます。

 さすがに余所見をしていた私も悪いとは思いますが、いい加減にしつこいなと思った所で、凛とした声が掛かりました。


「おやめなさい!アイ、マイ」


 真紅の少女――ハルカが双子を一喝します。

 そして私に向かい合います。


「先程は失礼をしたわね。私も急いでいて不注意でしたわ。それに――」


 途中、双子を一瞥すると、


わたくしの連れが迷惑を掛けたみたいです。改めて謝罪するわ」


 ハルカは私に頭を下げます。

 どうやらハルカは話の通じそうな人です。


「いえ、こちらこそすいませんでした」

「怪我はしていないかしら?」

「はい。大丈夫です」


 そして、じーっとこちら見つめるハルカ。


「……?」

「あなた、綺麗な銀髪をしているわね」

「はぁ、……ありがとうございます」

「もし何か困った事があったら、学院に居る私――ハルカを訪ねてきなさい。それでは失礼するわ」


 そう言うと、ハルカは双子の方に向き直ります。

 双子は、どこか不満そうな表情をしています。


「ハルカ様、……いいのですか?」

「いいから行くわよ、アイ、マイ」


 そのまま双子を連れて、ハルカは去って行きます。

 そして一人取り残される私。


(うーん、何だったんでしょう)


 といいますか、学院に居ると言っていました。

 せめて学院までの道でも聞いておけば良かったと、少し後悔します。

 それにしても先程の仕草や言葉遣いから察するに、ハルカはどうやら貴族っぽいです。

 それに先程見えた下着は、柔らかそうな絹製の上にフリルが沢山付いていたため、それだけでハルカが裕福な家の生まれだということが分かります。


(……黒ですか)


 白しか穿いた事のない私には、とても難度の高いものです。



新章始まりました。


あー……名前を付けるのに凄く悩みます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ