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白金の乙女  作者: 夢野 蔵
第三章
51/113

第五十話

 戦いの日。

 昼の少し前。


「母様、それでは後ほど」

「えぇ。手加減しないわよノノ」


 私は村の広場で、ナナと別れます。

 これから、私とナナの模擬戦が始まります。

 私は村の東――街道に至る出入り口へ。

 ナナは村の西――かつての秘密基地へと続く場所へ向かいます。

 開始は村の鐘の音。

 それを合図に、村を迂回して森の中で戦闘をする決まりです。

 私が村の出入り口に行くと、そこには数人が私を待っていました。


「ノノちゃん頑張ってね。怪我だけはしないようにね」

「あ、……頑張って」

「ののー、ひーも応援してるからっ!」


 心配そうに私を見つめるカナデ。

 大人しく応援するソウセキ。

 今日は飛び込むのを我慢しているヒイラギ。


「みんな、どうして?」


 確か、皆には勝負のことは話していなかった筈です。


「私がコノカ先生に聞いたの」


 答えたのはカナデです。


「水臭いよノノちゃん」

「ごめんなさい、カナちゃん」


 どうやら、私の応援に来てくれたみたいです。


「応援ありがとうです。頑張ります」


 私は、来てくれた皆にお礼を言います。

 そして三人から少し離れた所。そこには村の門に寄り掛かっているコノカが居ます。


「珍しく、寝ていないのですね」

「……あの子達がうるさくて、眠れなかった」


 苦虫を噛み潰した様な顔のコノカ。


「コノカ姉様、改めて御礼を言わせて下さい。ありがとうございました」

「私の昼寝のために、ノノちゃんが勝たないと困るからね」


 言っていることはツンデレっぽいですが、コノカは本気でそう思っているのでしょう。

 そのことに、思わず笑みが漏れます。


「……?」

「いえ、何でもありません」


 そして、


 カーンカ-ン


 村の鐘が鳴りました。


「行ってらっしゃい。今晩はしっかり部屋の鍵を掛けるからね」

「はい、大丈夫です!」


 コノカやカナデたちの声援を背に受け、私は村を飛び出しました。


--------------------------------------------------


 森の中。

 私は森を一直線に進み、予め目星を付けていた地点で停止します。

 ここは森の木が開けて、空き地になっています。

 周りに障害物は無く、ナナが近づいてもすぐに分かるでしょう。


 ナナと戦う上で、最初に気を付けるポイントは強襲を受けないことです。

 これまでの模擬戦でも、ナナに気付かず、初撃を貰うことが多々有りました。大体6割の確立において、初撃で決着が付きます。

 本当はこちらからナナを見付けられれば良いのですが、いかんせんナナを見付ける前に、先にこちらが見付かってしまいます。

 あのセンリでさえも、野戦でナナを先に見付けるのは難しいと言っていました。

 そのため、常にナナに先手を握られている状態です。

 それを回避するために、こうして開けた場所でナナを待ち構えます。

 この場所ならばナナが先に仕掛けてきても、こちらも対処できるだけの時間が確保できます。


 そうして待つ事、数分。

 そろそろナナが私を見付ける頃合いですので、『乙女』と仮契約しておきます。

 いつもの仮契約のやり取り。

 ただし5年前とは違う点があります。

 それは、


(お願い、ウーディネ!)


 私は心の内で『娘』の名前を呼びます。

 すると、


『了解ですー』


 『タリアの娘』――ウーディネも私に応えてくれます。

 5年前に『街食い』と戦ったあの日、私はセンリの仇を討とうと無我夢中で『娘』の一人であるインペリアの名前を叫び、そのまま仮契約を交わしました。

 あの時以来、一度契約したことのある『娘』は、私の声に応えてくれるようになりました。

 私にもどうしてこんな事が出来るのかは分かりません。

 もしかしたら、仮契約に失敗しないのも関係しているかもしれません。

 学部に行けば、その辺も何か分かるのでしょうか?


『考え事ー?』

(ごめんなさい。ウーディネ、よろしくです)

『よろしくー』


 ウーディネはおっとりした『娘』です。

 つい最近、契約が出来るようになりました。

 今回ウーディネと契約しているのは、コノカの契約している『娘』――トリエステの得意な術と、ウーディネの得意な術が似ているからです。

 コノカに教えて貰った術。他の『娘』でも使用することはできますが、最も相性の良いのがウーディネでした。


『えへー』


 照れるウーディネ。

 そのウーディネに声を掛けようとして、


 ゾクリ。


 一瞬。

 ほんの一瞬だけ、背中に異物が入った様な感じがしました。


(もしかしてナナ!?)


 周囲に気を配ります。

 しかし、どこにもナナの姿は確認できません。


(さっきの感覚は何でしょうか?)

『警戒ー!』


 何でしょうか嫌な感じがします。ここに居ては不味いのかもしれません。

 しかし、ナナがどこから来るのか分からないため、迂闊に動くの危険です。

 であるならば、


「汝、力を発現し、絶対なる障壁で、我を……」


 術を使用するための文言を唱えます。

 これでいつでも術を発動する準備が整いました。

 そのままナナを待っていると、


『影ー!』


 ウーディネの声に、地面を見ます。

 私の影の先。何か別の影があります!

 私がはっとして、空を見上げると、

 そこには大鎌を縦に振り被るナナの姿が――!!


(――なっ、いつの間に!?)


 迫る大鎌。

 その軌道上には私が居て、避ける暇はありません!

 このままでは、確実に一撃を食らってしまう所で、


「――守りたまえ!」


 しかし私に届く前に、ガキンと硬質な音と共に大鎌が弾かれます。


「――!?」


 眉の上がるナナ。

 私はその隙に、急いでナナから距離を取ります。

 それと同時にナナの足が地に着き、大鎌を構え直します。


(あ、危なかった!)


 一瞬の危険を回避できたためか、嫌な汗が流れて心臓がバクバク鼓動しています。

 そのまま距離を置いて向かい合う私とナナ。


「ノノ、今のは詠唱待機ウェイトキャストしていたのかしら?」


 先に声をかけたのはナナです。


「はい」

「ついこの間までは使えなかった筈だったけど、そう――コノカに教えて貰ったのね」

「母様の言う通りです」


 詠唱待機ウェイトキャスト

 その名の通り、術を使用するために詠唱する文言を途中で止めて、術の使用を待機することです。

 コノカに教えて貰っていなかったら、今の一撃でダウンしていたでしょう。

 何にせよ、コノカのお陰で初撃は回避できました。



うああああああああぁっ!

総合評価が1000超えました。

ありがとうございます!

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