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第4話:第3の被検体!

俺の部屋は、コンビニ弁当のゴミと外れ馬券で埋まっている。薄暗いアパートの一室。俺、ユウジ(35歳)は、スマホで知人から流れてきたゴシップ記事を眺めていた。


…やっぱりな。例のアーティストも、裏でコスプレイヤーと繋がってたか。エッチするのは全!員!悪!ま。俺は知ってたけどな。…あー!俺もレイヤーとエッチしてえーッッッ!……この世は結局、全部コネと『運』なんだよ。真面目に働く奴は、情弱。コスパとライフハックなんだよ!


そう。先週までやっていた深夜の倉庫バイト。年下のガキが、汗水たらして真面目に荷物を仕分けてやがる。 「お前さ、そんな必死にやって時給いくらだよ。どうせ上級国民に搾取されて終わりだって。酒松大臣に搾取されてんだよ。もっと要領よくやれよ、要領。な?」 俺はもちろん、監視カメラの死角でスマホゲームのスタミナを消費していた。それが「要領」ってもんだ。


「あーあ、俺にも一発逆転の『チャンス』さえ来ればなぁ…。ソシャゲのガチャも爆死だし、ツイてねえ」


その帰り道、スマホのガチャ結果に絶望し、画面を睨みながら階段を降りていた俺は、足を踏み外し、転落し、車道に落ち、トラックに撥ねられた。ああ、ツイてねえ。


『あらあら、あなたは世の中の『真実』を見抜く、鋭い目をお持ちなのね♡』


目を開けると、お決まりの、やたら露出度の高い女神とやらがいた。


『その鋭い目、前の世界じゃ生きづらかったでしょう? 特別サービス!あなたのその才能を活かすスキルをあげる!物事の『欠陥』がわかる『看破』と、最強の『幸運』よ!』


「『幸運』!?キタコレ!『看破』?ハッ、そんなの俺の元々の才能じゃん。俺は論破王ゼクロムだぞ?中学生たちをぶっつぶしてきたのはこの俺だぞ?……まぁいい、これで俺も『勝ち組』だ!」


俺が転生したのは、水と商業の都「エルドラド」。 まずは、女神の言葉通り、自分の『幸運』を試しにカジノへ直行した。 ルーレット、カードゲーム…面白いように勝てる。ディーラーの顔が引きつっていくのが笑える。これが『幸運』スキルか!俺は一晩で大金を手にした。


「フハハハ!見たか!これが『持ってる男』の実力よ!異世界チョロすぎ!」


勝ち金で一番高い宿に泊まり、豪遊三昧だ。 次に俺は『看破』スキルを試してみる。 道具屋に並ぶピカピカの剣。…フン。なんとなく「刃こぼれしやすい」とわかる。 防具屋の、いかにも強そうな鎧。なるほど。「関節部分が脆い」となんとなくわかる。


俺は確信した。これが「俺にしか見えない真実」だ。


「この街、見かけ倒しのガラクタばっかじゃねえか。俺の『目』は誤魔化せねえぞ」


俺が汗水流して働く? バカいえ。このスキルを使えば、もっと楽に儲けられる。


俺は、街の広場で「異世界コンサルタント」を名乗り始めた。 カモは、冒険者ギルドで装備を整えたばかりの新米パーティだ。俺はそいつらに、わざとらしくため息をつきながら声をかける。


「おいアンタら。……悪いこと言わねえ。その装備じゃ──死ぬぞッ!」


「えっ?」


「その剣、3回振ったら折れる。その鎧、ゴブリンの爪で貫通するぞ。俺の『看破』スキルで見抜いたんだ」


ガキどもは真っ青になる。「そ、そんな…!どうすれば…」


「まぁ、俺に情報料として金貨1枚払うなら、どこの店の品が『マシ』か教えてやってもいいぜ? 俺は『裏』を知ってるからな」


もちろん、「マシ」な店なんて俺は知らない。別の店の高額な商品を適当に勧めるだけだ。 数日後、街で連中が騒いでいた。


「ユウジに勧められた高級な剣を買ったら、一瞬で折れたぞ!」


「あいつのせいでパーティが半壊した!」


俺は、詰め寄るそいつらに、鼻で笑ってやった。


「は? 俺は『欠陥がある』って『事実』を教えただけだろ。どう使うかはアンタらの自己責任だ。大体、使い方が悪いんじゃねえの? 要領悪いなぁ。情弱乙。ホイプシーッ!ウイーッ!フォーッ!」


俺は、街のインフラにまで目を向けた。


「あー、この街の城壁、あそこの石垣、絶対『欠陥』あるね。近いうち崩れるね、あれ。ま、俺は知ってたけど」


どう直すかって? そんなの俺の仕事じゃねえ。俺は「真実」を教えるだけだ。


エルドラドは、街の地下水路に魔力を流して、その水圧で動力を管理してるらしい。 街の中心部には、その魔力水路の「中央制御室」がある。いかにもヤバそうだ。


俺は『幸運』スキルを信じて、警備の薄い時間帯に忍び込んだ。 「ここにこそ、この街最大の『利権』があるはずだ!多分金持ちとかが、なんか悪いことしてるんだ!だったら俺が『看破』してやる」


制御室のメインクリスタルを見る。『看破』スキルが発動した。


(…ビンゴ。なんとなく「魔力の流れが不安定」だとわかる)


「ハッ、やっぱりな!こんなガバガバなシステムで運営してたのかよ、この街の連中は。素人が。俺が『最適化』してやるよ」


俺は、魔力の流れも、この複雑な機械の仕組みも一切理解していない。 だが、俺の「目」が「不安定」だと言うんだ。素人ほど本質を突くってもんだ。そこが「非効率」な部分に決まってる。俺は、制御盤をデタラメに操作し始めた。


「こっちの流れが多いから…こっちを絞って…こっちに流せば『効率的』だろ? 要領、要領」


その瞬間、足元から凄まじい地響きがした。同時に、街中にけたたましく警報が鳴り響く。


「うおっ、なんだ!? …フン、どうせ俺が『看破』した城壁の欠陥でも見つかったんだろ。遅えよ。俺の言った通りじゃねえか。元々壊れてたんだもんな。やっぱ俺、天才だわ」


俺は、自分の「最適化」が成功したのだと確信した。



・・・・・・・・・・



私の名はエラーラ・ヴェリタス。私の全ての行動原理は、ただ一つ。「知的好奇心」。 私は今回、このエルドラドの「魔力駆動型水路システム」の、極めて効率的な流体制御アルゴリズムを観測するために訪れていた。


だが、突如として制御システムが異常値を検出し、街に警報が鳴り響く。貴重な観測対象が、人為的な愚行によって汚染されようとしている。 私は即座に中央制御室へ向かった。そこには、制御盤を前に満足げな顔をしている男が一人いた。


私がシステムの緊急停止と復旧作業に入ろうとした、その時。男が、私に話しかけてきた。


「お? なんだアンタ。ほわーっ、白衣なんか着ちゃってさあ、学者さん?あーでも頭わるそ。俺ユウジ。見ての通り、この街の『欠陥』を見抜いたコンサルタントだ。アンタもこのクソシステムのせいで呼び出されたクチだろ? 残念だったな!俺がさっき『最適化』しといたから。もう大丈夫だぜ。さ、俺に感謝しろよ?」


…ほう。 この、システムの基礎すら理解していないだろう個体が、この私に「感謝」を要求するとは。


私は、復旧作業の手を止めず、観測した『事実』のみを最小限に告げることにした。


「君は、ユウジ。地球からの転生者だねぇ。スキルは『看破』と『幸運』。その『幸運』スキルは、すでに効力を失いつつあるが」


「なっ…!? なんでそれを…!?」


男が狼狽するのが視界の端に入った。私は、暴走を続ける制御盤を指し示す。


「君の言う『看破』は、物事の『欠陥』の存在を感知するだけの、極めて低次な知覚スキルだ。原因を特定する『分析力』も、解決策を導く『知性』も、君には備わっていない」


「そ、そんなことは…! 俺は『真実』がわかるんだ!」


「真実、かね? 君は、この制御システムが『負荷分散』のために行っていた正常な魔力変動を『不安定な欠陥』と誤認した」


私は、システムログに表示された、彼が介入した操作記録を示す。


「そして、君のその無知な『最適化』が、水路全体の魔力流を逆流させ、現在、街の低地は壊滅的な浸水被害を受けている。君の浅薄な『要領の良さ』が、この街の機能を停止させた。理解できたかねぇ?」


ユウジは、その場に崩れ落ちた。 自分が「勝ち組」になるための「要領の良さ」だと信じていた行為が、ただの破壊活動であったという事実。 自分が「情弱」と見下していた人々が、今まさに自分のせいで水に飲まれようとしている現実。 彼は、何も言い返せず、ただガタガタと震え始めた。


「あ…あ…お、俺は…ただ、効率的に…」


私は、その非効率な存在にはもはや興味を失い、復旧作業に集中する。


「…観測対象の汚染、深刻だ。緊急パージを開始する」


私は、制御室の隅で蹲る男を意識から外し、即座にシステムの再構築に取り掛かった。彼がどうなろうと、私の知的好奇心には関係のないことだ。

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