41.安眠を妨げるものと助けるもの
雨が降る。
雷が落ちる。
現代日本と違って、アースや避雷針などの設備がないからか、精霊や魔力の作用なのか、どうやらこの世界の雷は落ちやすいらしい。
もう、普通に振ってる時はともかく、急激に夜のように暗くなり出したら、与えられた部屋のベッドに入り、頭から掛布を被って通り過ぎるのを待つ。
当然、いつ来るかも判らないから、部屋から出なくなった。
写本もお絵描きも、刺繍やパッチワーク、レース編みなどのお習い事も、自室のテーブルセットでする。
雨が強い日は、窓から遠い、寝室に近い場所で、次第にいつも寝室に籠もるようになってしまった。
ルーシェさんは、雨期に入ってから2度ほど帰ってきたが、お忙しいらしく、ここしばらく帰ってきてない。雨の中、王都から馬を駆けて戻るのも大変だろう。
どうやら、魔道士らしく、転移魔術で、直接帰ってきているらしい。
お土産を持って挨拶に来てくれるが、まったく髪も服も湿ってないのだ。
恐らく、お城か魔道省って部署から直接、お屋敷の中に移動しているらしく、部下のお兄さん達は一緒じゃなかった。
転移魔術は、某竜退治ゲームでもレベルを上げないと中々覚えられなかったりするし、ラノベにありがちな、条件か必要魔力かの制約があって、騎士の人はついてこられないのかもしれない。
ゲートとかの設置はないのかな? 魔力のある人や偉い人しか使えない、特別なものなのかな?
夜もなかなか眠れない。
夜、雨風が酷く嵐になったり、風の音が不気味だったり、風の音が影響してるのか、目覚めると覚えてないけど怖い夢を見るらしく、不眠症手前になっていた。
本が読めないストレスも関係しているかもしれない。
このまま冬になって、雪に覆われたり樹々の間を風が吹き抜けて起こる虎落笛が続くと、ノイローゼになったりしないだろうか……
お母様の許可を得て、毎日ルイヴィークに傍にいてもらっている。
庭の番犬のお仕事は大丈夫なのだろうか……
ッドオォォーン
また、樹に落ちたらしい。お庭の方が俄に騒がしくなったので、今度も火がついたのかもしれない。
ルイヴィークが、カウチの背から首を伸ばして、窓の外を覗いた。
──また、可愛い子達が黒焦げになったのかもしれない……
知らずブルッと震え、掛布を被って、外の音を遮断しようとする。
ただ雷が落ちただけなら、ルイヴィークはいちいち外を確認したりしない。
園庭の番人の彼だからこそ、侵入者や敷地内の事故、生き物の危険などにのみ反応する。
「ヴァニラジェイヴァン、オッテルヒフ……」
マーサさんが様子を見に来てくれた。
「大丈夫」
本当は大丈夫じゃなかったが、どうしようもない事なので、そう答える。
ルイヴィークが掛布を捲り、頰を舐めてくれる。
「ルイヴィーク…… ありがとう」
まわりきらないほど太い首に手をかけ、耳の後ろのふかふかした毛に顔を埋めた。
魔獣なのか、霊獣なのか、犬の形をしているけど精霊なのか、獣臭くない。無臭に近い。だからずっと傍にいられる。
抜け毛が衣服につくこともない。やはり、精霊とか妖魔とかなのかな? 手入れが行き届いてるだけ?
マーサさんが呼んだのか、ルーティーシアさんが来て、額の辺りを撫でる。
「熱はないですよ?」
目に溜まった、零れる寸前の涙を柔らかい夜着の袖で拭ってくれる。
「ヴァニラ、スァィーフィングトルテッティオ」
なんて言ってるのかさっぱりだけど、気遣ってくれてるのは判る。
ただ、あの可哀想な小さい子達を、見てしまった事を、なかったことに出来ないだけ。
自分の歳も恥も忘れて、ルーティーシアさんの柔らかなお胸にすり寄って、怖いこと、嫌なことを祓おうとした。
そのまま、寝落ちしたらしいが、明け方に嵐が酷くなるまではなんとか眠れたのだった。




