18.子供扱いだからいいのか、それともやっぱり問題アリなのか?
なにやら、お母様に似た綺麗なお顔に慈愛の笑みを浮かべて、少し抱き込むような感じで背中や頭を撫でながら、ゆるく体を揺らして、先程のように苦しくない程度に抱き込んでくる。
体格差で、すっぽり埋まった私は、まわりから見たら、眠いのに上手く眠れなくてグズる幼児をあやす公爵様(父性愛全開)の図 に見えるに違いない。
でも、肩や背中から伝わるルーシェさんの熱が心地よく、ぬくぬくしてくる。
ぼんやりしてるとペタッとほっぺがルーシェさんの胸にくっつき、やや熱めの温かさと心音が聞こえてきて、飛び込んできたままの早鐘が段々落ちついてくるのを聴いてると、こちらも落ちついてくる。
落ち着くと言うより、羞恥心が麻痺してくると言った方が正しいのかも。
大丈夫か、私、しっかりしろ! 親兄弟でもない男性に抱き込まれてるんだぞ?
寝起きだからか力の入らない右手を掬い上げ優しく握られると、ああ、私、手を繋ぐの好きだったなぁと思い出した。
中学の頃、私は、精神年齢はまだ中学生に達していなかったのかもしれない。
甘えん坊でさみしがりだった。
困ったことに、誰に対しても、である。
学校の先生には親か親戚のオジサンオバサンのように気安く話し、友人達も兄姉のように親しげで距離感を配慮出来ないやつだった。
まぁ、今も適切な距離感を守れるかと言われれば微妙だが。
登下校の同行者と会話中、無意識に気がつけば手を握ってた。何回も「なんで手ぇ握ってくんねん」と振り払われた。無意識なので、何度も繰り返してた。
……今から思えばヤバいやつだった。
帰りの電車で、みんなで桜井駅から乗って、乗り継ぎ駅の石橋で豊中組と川西宝塚組とに別れる。そこでもう寂しくなって、豊中組が各停に乗るのを見守ってから地下道を下りて宝塚方面ホームに上がるのだが、豊中だけでなく庄内で降りる人や服部、曽根で降りる人など色々なので、急行や準急は見送るため、各停が来るまで喋り続ける。
その後も、私は、当時、雲雀丘に住んでたので、川西の子が降りた次に、中山や宝塚まで行く子達より先に降りるはずなのだが、別れ難くて一緒に中山まで行き、2人が改札を出るのを、姿が見えなくなるまで見送ってから上り線ホームに上がり、雲雀丘花屋敷に戻ってくるという、今から思えばほぼ毎日キセル乗車してたのだ。(阪急電車様、もう時効ですよね? 35年前ですからっ)
また、話が反れたな。
つまり、私は、相手が許せばずっと手を繋いでいたいキモチワルイ奴だったのだ。無意識なので中々やめられないし、気がつけばくっつきたがりで、手を繋いでなくても、立ち位置が近かった。肩や腰が擦りあうほど近くに立つ事もある。無意識なので、これも中々直らなかった。気持ち悪がる人もいるだろう。
ひと学年一クラスしかない中学の頃ならまだ甘えたがりの変な奴で済んだけど、高校に進学するとさすがにそれはヤバいだろうと、自重するように頑張ったが、淋しがりの甘えん坊な根は変わらない。
外部受験生との間にちょっとした揉め事もあり、結局、中等科から内部進学してきた身内以外に特別親しい人を作らないようにして来た結果、小学生低学年時代のちょっとしたトラウマもあいまって、人の顔色を覗ってばかりでしかも読み取れず、誰とも馴染めない変な人間が一人出来上がってしまった。
久し振りに優しく手を握られて、この人は親兄弟やない男性なんだとか、恥ずかしいとか、距離感を計れないばっかりにジュードさんと別れる事になったんとちゃうんかとか、全部この時はすっ飛んで、ただ温くて、嬉しくて、弱々しくきゅっと握り返して、理由の解らない涙が滲むのを、くっついたほっぺをより押しつけることで誤魔化して、ほわほわと浮くような心地で……
公爵様のお膝の上で寝てしまった!
お母様やルーティーシアさん、女中頭さんやメイドさん達がいっぱいいる中なので、ルーシェさんの名誉は守られてるとは思うが、親兄弟でもない男性に抱き込まれたまま、くーすーと眠ってしまう中年女は、いっぺんと言わず、何度でも死んで生まれ変わってこないとダメなのかもしれない。
天蓋の幕の隙間から朝陽を感じて目が覚めると、ルーシェさんの膝枕で寝てた。
優しく握られていた右手はそのままで、ルーシェさんの膝や腿に左腕で抱きつくようにして寝てた。
ルーシェさんは、たくさんのクッションに身を預けて、壁に凭れて座ったまま眠ってる。
首を傾けて寝苦しいだろうに、寝顔も爽やかで綺麗だなぁ……
──睫毛長っ……
──本当に、お母様とルーティーシアさんと三姉妹のように似た面差しが、なんとも綺麗だなぁ……眼福やあ…………
──しばらく美しい寝顔を眺めてたが、段々頭が起きてくると、あまりにも恐ろしい現実に、喉の奥が引き攣れて、悲鳴のような変な声が出てしまう。
「……っぎっ、うひぃいいぃぃ」
「どうした!? また、夢を見たのか?」
握られた手を強く引いて抱き寄せられ、膝の上に座らされる。空いた手で頰を撫で、眼を覗き込むように、顔色を確かめてくる。
「ち、違っ……ビックリしただけ。一緒に寝てると思わなかったから……」
「不安なようだったので、手を握ったまま添い寝したのだ。
……昨日より顔色はいいみたいだな。良かった。もう朝だ、このまま食事にしよう
マーサ! ヴァニラが起きた。昨日よりも顔色がいい。食事にしようと思う。彼女の支度を……!」
キラキラの笑顔で、おでこにちゅーして来る。
いや、挨拶はおはようだけでええねんけど。
ルーシェさんに喚ばれて、メイドさん達が寝室に入ってくる。
「今日も、ベリーをたくさん食べるか?」
「うん、ベリー好き♡ いつもありが……と…う?」
「ん? どうした?」
どうした? ぢゃないよ!
「ルーシェさん、日本語話せるの!?」
次回 第2章 19話
天才魔道士は、言葉も操る?




