1.巨人の里? 私はちびっ子ぢゃないやい
電車でも寝れる私は、美女の魔法のお陰でそんなに揺れないし、支えてくれてるので、ほぼ爆睡に近い感じで寝てたらしい。
起こされたら、お城の前に居ました。
本当に、お城、としか言い表せない自分の語彙力のなさを怨みたい。
そう言えば、ジュードさんは、美女の事を、魔道王とか、子供好きの領主とか言ってたっけ?
領主様って事は、お貴族様だよね。ここは公爵領って言ってた…公爵様!?
地球と階位基準が同じかどうか判らないからなんとも言えないけど、『公爵』って、貴族の最高位とか、王位継承権を持った人達な事が多そうだよね?
王族なの? この人。
見上げる私に微笑んでくれて、片手で抱え直し、サッと馬から降りた。魔法を使ってるのか、鐙や手綱の扱いにコツがあるのか力があるのか、震動も殆ど感じず、静かだ。
寒さと空気の乾燥で、事件からずっと止まらない涙を、綺麗な手入れの行き届いてる指先でそっと掬ってくれる。
が、離れていくと、その指の綺麗さは解らなくなる。だって、元々強めの近視で、更には強乾燥から水晶体縮んでピント合わせられないし。目を眇めると、上着の隠しから眼鏡を出してかけてくれる。
巻き付けてたマントを肩まで上げて巻き直し、殆ど蓑虫状態の私を再度抱え直して、馬は迎えに出てた馬番に預け、お城としか思えないお屋敷に入る。
勿論、ジュードさんを担いだターミネーターシュワちゃんみたいな男性や、ジャニーズジュニアみたいな少年も続く。
たぶん、お帰りなさいませ、ご主人様、的な事を言ってるのだろう、たくさんの使用人達が玄関ホールの左右に並び、公爵様をお迎えする。
日本の感覚で行くと、普通の3階建て二世帯住宅が丸ごと入りそうな、高い高い天井。
シャンデリアがきらきらしてるけど、電気が通ってる訳じゃない。
全体の骨組みに使われてる金属が白金色で、綺麗に磨かれてて、ブリリアントカットに似た多面的デザインの、透明度の高いダイヤモンドかジルコニアっぽい宝石が鏤められている。
その金属骨組みと装飾部分の宝石が、光を乱反射しているけれど、蝋燭じゃない。さすが異世界。ほわっとした魔力の塊を規則正しく纏っている。
大理石調のマーブル模様が美しい石で構成された床や壁。床には、孔雀色の毛脚の長い絨毯が敷かれ、これも魔法なのか、壁にある暖炉の火なのか、夜中の、石造りの広いホールでも暖かかった。
高い位置から柔らかな女性の声がする。見ると正面の、幅の広い、翡翠色の絨毯が敷かれた階段から、女性が2人降りてくる。
やや年配、中年から熟女に移りゆく色香を醸し出す奥様な人は、お母様かな? お若いですね。胸元を強調したデザインの裾を長く引くドレスが艶やかです。
もう1人は、首までかっちりとスタンドカラー、足元も靴先しか見えない長いふわっとしたドレスで、白いお肌を隠した、美少女。いや、淑女でいいのかな? 成人はしてそう。
最初は、公爵様の奥様かと思ったけど、お母様らしき熟女と面立ちが似てるので、ご姉妹でいいのかな? 美人姉妹ですね。あ、公爵様は男性でしたっけ(笑)
(たぶん)お母様のほうが、にっこり微笑んで近寄ってくる。
淑女のほうは、何か固まってるようにも見える。
さっきから扉の横に立ってた執事さんっぽい男性も、ハッとした表情で近寄り、公爵様の分厚い上着を脱がそうとする。けど、私を抱えてるから、当然、右腕が脱げない。
(たぶん)お母様が私の方に両腕を差し出すが、公爵様は首を振って、若草色のエプロンが可愛い深緑の衣装で揃えたメイドさん達に何かを指示した。
メイドさん数人は、頭を下げてから音もなく静かに散っていく。
こんな夜中の突然の訪問なのに、みんな嫌そうな顔もせず、挨拶したり頭を下げてから仕事に戻っていく。プロですね。
「ジュードさん…」
ターミネーターシュワちゃんみたいな男性が、肩に担いだまま、ジュードさんを右手奥の方へ運び込もうとしてた。
「心配すんなや。有罪や言うたかて、死刑になる訳やあらへん。もう会えへんようなるやろけど、元気でな」
不安そうに見えるのだろう。事実、これからどうなるのか、自分も、彼も、先行きが見えない。
それでも、私を気遣って言ってくれてる。やはり、本当は気遣いさんで優しい人なのだ。
私を抱えたまま、公爵様は、執事っぽい男性とメイド頭かな、やや年配の藍色のメイド服の女性に先導されて、2階へと階段を昇る。
ジュードさんは担がれたまま、右手の扉から奥へ運ばれて、もう、見えない。
急に不安が押し寄せる。
私、どうなっちゃうんだろう。
ジュードさんは、この公爵様は、女性や子供を大切にする事で有名な領主だから、待遇は悪くないはずだから、おとなしく連れられとけって言った。
実際、優しく涙を掬ってくれたり、剥き出しの足を隠してくれたり、夏服で凍える体を魔法で温めてくれたり。気遣ってくれてる。
にっこり微笑んで、何言ってるのか解らないのが申し訳ないくらい良くしてくれるのに、言葉が通じない、先がわからないという事は、疑う訳じゃなくて、本当に怖くなるのだ。
階段を、日本基準で二階建てのベランダくらいの高さまで昇ると踊り場になってて、壁に私の身長より大きな額縁が飾ってある。
公爵様に似てる、ダークグリーンの髪がつやつやの若草色の目をした女性で、隣にオレンジ色の髪の男性が彼女の肩に手を置いて立っている。夫婦で、女主人なのかな? ご先祖様かも。
踊り場から更に左右に分かれて階段が続き、公爵様は、肖像画をチラッと見た後、左を昇る。
階段を昇りきると廊下を進む。やはりふかふかの絨毯が敷かれていて、底冷えはしない。
向こう側は判らないけど、この廊下、扉が三つしか無い。その内の1番手前の扉を執事さん(判らないけど多分そうだと思って言い切る!)が恭しく開くと、公爵様は、何も言わずに中に入り、後について入った女中頭(これも推測で言い切る!)が前に回り込み、壁についてる小さめの扉を開ける。
もあっと湯気が漏れて来た。浴室のようだ。
うぇえ? 深緑のメイドさん達が5人、もう一度言うよ、5人居る!!
嫌な予感するけど、まさかだよね?
公爵様は、優しく微笑まれて、私を包むマントを剥ぎ取り、浴槽の隣に立たせる。
ずっと抱き上げられてたし、恐怖から力が抜けたままなので、生まれたての子鹿の宴会芸状態でカクカクふらふらしてると、蹲るように崩れる手前でメイドさん2人に両脇から支えられる。
公爵様は、剥き出しの足を見ないように斜め向きで近寄り、困った顔で何かを囁いてくれる。そのまま私の顎をしゃくり、もう片っぽの手で未だ溢れる複雑な理由の涙を掬ってくれた。
恐怖の余韻、夜の寒気、不安。めまぐるしく動く状況に、ぶっ壊れた涙腺は休むことを忘れたようだ。
何か優しげな声で囁かれると、再びおでこに口づけが降ってきて、公爵様は、そのまま浴室を退場なさった。
おでこにちゅーの瞬間、メイドさん達や女中頭、執事さんまでもが、少し動揺したっぽかったけど、そりゃそうだよね。見ず知らずの中年女を突然連れて帰ってきて、慰めるためとはいえ、涙を拭ったりでこちゅー。
子供扱いされてた屈辱もびっくりしてどっか行ったけど、恐らく使用人達だって『公爵様』が身元不明の中年女に気遣いと手篤い保護をされるなんて、普通驚くよね。
女中頭さんが、にっこり微笑んで、メイドさん達に声をかける。たぶん、呆けてないで仕事をしろって事だろう。
続いて、執事さんにキツい語調で睨むようにして、浴室から追い出す。当然だ。恐らくこのまま、私はお風呂に入らされるんだろうから、男性はご退場願わないと。
震える手で、綿シャツを脱ごうとするけど、上手く肩がまわらず、もたもたしてると、メイドさんが私の手を包むように止める。
その後は、思い出したくないデス。
5人のメイドさん達に寄ってたかって、ひん剥かれ、猫脚の瀟洒な湯船にぶち込まれ、丁寧に優し~ぃく垢すりされて、髪も丁寧に梳られ撫でるように洗って貰い、体が温まったら引っこ抜くように出されて、ふわふわのタオルで包まられる。
あちこち磨かれる間、湯に浮かんだ綺麗な珠に掴まって心を無にしてた。でないと、羞恥で死ぬるわ!
お湯で温まってるのか温かくて、水晶みたいな結晶に見えるのに微妙に弾力があって。殆どビーチボール扱いで抱きかかえてました。
これで苦行は終わりかと思えば、旅の間はあんなに欲しかった化粧水や美容クリームなどを、これでもかこれでもかって全身に塗り込められる。
たまたま保護した身元不明の中年女への対応としてはおかしくないかい?
まさか、夜のお伴と勘違いしてないでしょうね?
さっき仲良しだったジュードさんを丁重にお断りしたばかりですよ?
こちらの不安げな様子は伝わったようで、女中頭さんは、にっこり微笑んで、どこから出したのかホットミルクを私に持たせる。両手で包み込むように持つと、温かくてホッとする。
着せられたドレスのような夜着の上から、ふわふわの暖かいガウンを掛けられる。
ノックの後(ここでも扉はノックする習慣だな。覚えたぞ)正面の扉が開いて、シルクっぽいシャツを覗かせたナイトガウン姿の公爵様が入って来た。
なんか、つい身を硬くしてしまった。
まさかまさか、本当に夜のお伴するんじゃないよね?
次回、第2話 巨人の里? いや、だから!ちびっ子ぢゃないんだってば!!




