11.王都まで後1日? 森のともだち出来ました
結局、1度も魔道は成功しないまま寝落ちし、ジュードさんに起こされて、朝を迎える。
「あれから結構頑張ってたみたいやな」
「うるさくしてごめん」
「ええて。誰かて夢の魔法が使えるてなったら、試したくてしゃあないやろ」
苦笑しながら、手をつかんで起こしてくれる。
「もう少しでパン無くなるけど、明日の朝までは保つやろ。
川沿いに進むと、道は楽やけど王都の方角からやや逆向いて、今夜か明日の朝公爵領内の町に出る。そこからなら王都まで馬が借りれれば1時間ほど、歩いて半日から1日くらいかな。
様子で保存食補給して、直ぐ王都に向かうか公爵領内でもう一泊するか考えよか」
さすが元旅行会社添乗員、段取りとスケジュール組むのはバッチシやね。
私は、この世界の地理と環境、生活習慣を全く知らないので、恥ずかしながら殆どをジュードさんに任せっきりにしていた。
彼も、世話をやける相手が居るのが嬉しいと言っていた。きっと、ツアコンは彼の天職だったのだろう。
「そう言えば、ヴァニラは馬に…」
「ごめん、乗れへんと思う。鞍に座るだけとちゃうやろ?
鐙に立って、腿で馬を挟むようにしてバランス取りながら、手綱さばきで馬に言うこときかすなんて、すぐにはマスターでけへん。
鳥取かどっかで馬や駱駝に乗った事あるけど、乗せられてるって言うか座ってるだけで、飼育員さんが手綱引いて歩くだけやったし」
「ほな、歩きやな。あまり休憩取らんと歩いて町に出て一泊するか、今夜はもっぺん街道沿いの川岸で野営して、早朝に町で旅仕度調えて出るか…」
ジュードさんは予定を組みながら、朝食の用意を始めた。
私は、毛布の端っこで丸まってるヤマネちゃんを残して、川に顔を洗いに行く。
化粧水とか乳液とかないから、手と顔、ちょっと水分がヤバい。年齢が出るかも。
水分は足りないままに、自力でなんとかしようとしてか、おでことか顎とか小鼻の横とか、皮脂がどんどん補填されてる。
う~ん、乾燥肌と脂性のダブルパンチ、アンバランス肌になりそう…。町で何か入手出来ないかな?
と、そこまで考えて愕然とする。
金持ってない。
川岸に両手両膝ついて項垂れる。
「なんや、どないした? 水面に映る顔見てうっとりしとるんか? 水仙になってまうで」
小型の鍋を持って、ジュードさんが背後から声をかける。ジョークも忘れない。
「美少年ちゃうし。
いくら魔法が存在する異世界言うても、人間が水仙になってまうかいな」
鍋に水を汲むジュードさんは笑ってるけど、もしかして強ちない話でもないんやろか。
そして、ジュードさんと会話するようになってから、兵庫関西弁から大阪に傾いてんな~と感じた。親や友達との会話やったら、『水仙になるわけないやん』と言ったはず。
この歳になる今まで、複数の地域の関西弁が混じった話し方をしてきたけれど、実は、小学校低学年までは、周りが関西弁だからイントネーションは仕方ないけど、言葉遣い自体は標準語に近い話し方だった。
小三で転校して、吹田市民から池田市民になったのだが、同じ北摂、そんなに環境変わらないと思ってた。
けど、初めて、イジメほど陰湿ではないものの、転校生は目立つのかイジられたのだ。曰わく、
「お前、大阪府の人間やのに、なんで大阪弁喋らへんねん!」
「すましとんのか」
である。
もう、この歳で既に、集団からはみ出るものを叩くのである。怖っ。
仕方なく、身近なお手本があるもので誤魔化そうと、祖母の倉敷市と小松島市の言葉が混じったものを使ってみた。
ところが、使い所が良くなかった。
校庭に入り込んだ犬を見て、
「あんな所に犬おるがな、何しとんじゃ」
と言ったら、
「何しとんじゃってヤクザかっ。怖っ」
と帰ってきた。
違うの、お祖母ちゃんが岡山と徳島の言葉を使っててコレが普通なん、河内弁とちゃうんよと言い訳しても、本当は口汚い怖いヤツと言うことになってしまった。
他にも、トイレの水を小と大のどっちに回すとか筆箱がどうだとか、みんなサクラマット水彩絵の具やのに私はぺんてるだとか、筆洗は黄色い丸い4つか5つに分かれてる物が基本なのに、私はクリーム色の四角い3つ重ねた物をバラして繋げるヤツだとか、小さな事でいちいちつつかれて、集団心理に辟易させられた。
次に箕面の私立に編入した時は、あまり喋らないようにして、おとなしい子なんかな?と思われてるうちに、まわりの子の言葉遣いを覚えようとしてみた。
勿論、完璧に模倣出来た訳ではないけれど、おかげでヘンな言葉遣いで変なヤツという目立ち方は避けられた。
以来、私は中学高校でも大学でも、話す相手の言葉遣いに近い言葉を話すようになった。
特に大学ともなると、同じ近畿圏でも奈良、和歌山、京都、兵庫も日本海側から山間部、明石や神戸、私と同じ川西も宝塚(当時はまだ宝塚造形大学は無かった)も居たし、もっと広域に、中部地方、中国地方、四国、九州と、色んな地域の学生が集まるので、それぞれと話す内に、色んな言葉が混じって戻らなくなってしまった。それが今のわたしである。
「で? 何ががっくりの理由なんや?」
解ってて言うてたんか。てか、また、話ひとりで脱線してた。誰かと居る時に失礼だよね。
でも、気にしててくれてるのは素直に嬉しいかな。3日間独りだったから、ちょっと気が弱くなってるかも。
「金持ってない」
「知ってる。着の身着のまま飛ばされて来たんやろ? 第一金持ってても、アッチの金なんかあっても意味ないやろ。気にせんときや」
「でも、宿とったら金要るやん。王都までの旅仕度だって…」
小鍋を抱えて立ち上がり、ジュードさんは笑って答えてくれた。
「それもしゃあないやろ。王都で自由民株発行して貰たら色んなとこ冒険して、出世払いで返して貰うし、な?」
今朝のごはんは、昨日の獣肉の焼き〆た物の薄切りと、岸辺に生えてた食べられる(らしい)葉っぱを挟んだ固めの薄いパンのサンドウィッチだった。
野菜(葉っぱ)とおかず(獣肉)と主食が同時に食べられるお手軽朝食に、お鍋の中は、獣肉の薄切りが入った、香辛料とジュードさんお手製チーズが溶け込んだスープだった。
「豪勢な朝食ありがと。美味しいです。なんも手伝わんとゴメンね」
「コッチの生活に慣れたら色々返して貰うから、今は、借りときや。俺も、爺さんや色んな人に助けて貰って、今があるんやで?
それに、もしいつかヴァニラも日本人の迷い子に出会ったら、助けたってや」
そういう考え方もあるんだ…。今は、甘えてていいんだ。少し、だいぶ、気が楽になった気がする。
「うん、ありがとう。そうする」
食べ終わり、手についた肉汁を舐める。ヤマネちゃんに手を出してもふんふん臭っただけだった。昨夜はあんなに舐めたのにね。
昨夜から、この子達はヤマネと断定することにした。
背中は一筋模様で間違いなくシマリスとは違うし、大きさもジャンガリアンハムスターよりやや小さいくらいでほぼ同じだけど尻尾は長くてふさふさ、丸くなって眠る姿は見れば見るほどヤマネっぽい。
ヤマネは漢字で山鼠、或いは冬眠鼠って書くはず。山の森の中で出会ったから山鼠、略してヤマネでいいよねと、自分に納得させた。
通称のマリネズミ(毬のように丸くなって冬眠して、巣から落ちてもそのまま雪の上を転がるから。更にそのまま眠り続けるという強者)のように、まん丸になって眠る姿に、とっても癒されるので、ジュードさんはまだ反対したけど、
「野生動物なんだから、飼われるの嫌でそのうちどっか行ってまうやろし、それまでええでしょ? ホンマのヤマネやったら雑食で、昆虫は捕るん難しいかもしれんけど、木の実や果物、種子、鳥の卵なんかを食べるハズやん? 餌は困らへんて」
と、押し通してしまった。迷惑かけてるのに我が儘だとは思うけど、アッチではまず手にできない癒しもふもふを手放せなかった。
ひとりは肩にちょこんと座り、もうひとりは私の腕を肩まで行ったり来たりちょこちょこ可愛い♡
「公爵領の町に出る手前の森の切れ目までやで。日本やったら、野生動物を飼うんはNGやろ?
野生動物を人間に馴らしてしもうたら、どっちにも被害が出るんは、アッチでも度々ニュースにあがる問題や、知ってんねやろ?」
「うん。…解った。森から出るまで。
それまでに餌取りに居なくなるかも知れんし、森から出ても離れんかったら…このベリーを投げて追いかけてるうちに、森から出る」
そこまで懐いてたらそんなんで離れるかいな。ジュードさんは苦笑したけど、一応頷いてくれた。
午前中は昨日のように、魔力を集めて体中を巡らせる練習を歩きながらする。いつでも出来るようにならないと、魔道を使うレベルにはならないとか。
今にみてろ~2次元オタクの執念見したるで~。と、まわりの警戒やその他のなにかもみんなジュードさんに任せっきりで、景色を楽しみながらやや急ぎ足で歩く。
そうするうちに解ったこと。
このヤマネちゃん達が、木の実は食べなかったけど、ベリー擬きを受け取る理由。
この子達は、木の実やベリーからエネルギーを得ているのではないという事。
これを言うと、ジュードさんに退治されちゃうかもしれないから言わないけど。
ヤマネちゃん達は、見たとおりの小動物ではないのかもしれない。
昨夜はあんなに私の手を舐めてたのに、食べ物の汁がついた手は臭い嗅ぐだけで舐めなかったし、鼠の仲間の割に木の実は見向きもしなかった。
どうも、普通の木の実は無視して、ポケットから出したベリー擬きは受け取ったのは、私の魔力が混入してたからのようである。
何故混入してるかと言うと、魔力を集める練習中、何か核になるものがあればイメージしやすいかなと手のひらに載せて試したからだ。
検証のため、木の実にも魔力を集めてみると、見向きもしなかったはずが途端、ふたりで取り合いになったから、この子達は、魔力が好きなのか、必要なのだろう。
ますます、額にルビーが埋まってたらカーバンクルなんだけどなぁ。
いや、リスやチンチラっぽい姿に額にルビーなのは、ゲームや漫画の設定で伝説上では、紅玉だか鏡だかが頭にある小動物としか書かれてなかったんだったかな。玉を掲げた竜って説もあったんだっけ?
まぁいいや、私的にはカーバンクルは額にルビーかガーネットのピカチュ○っぽい生き物って事で。
でも、魔力がご飯なら、このまま飼える?
ハイ、ああは言ったけど、実はこっそり諦めてません。だって可愛いもん♡
噛みついたり引っ掻いたり、害をなす様子もないし、時々なら撫でさせてくれるし。
周りをちょろちょろする姿も可愛くて、懐いてるとまでいかなくても警戒してない感じがとても嬉しい。癒される。
魔獣なのかな?
妖精とか妖怪とか、魔族とか、生き物のカテゴリーから外れた存在なのかな?
ジュードさんにバレないようにしないと。
凄いよ、魔法! 私も早く使いたいよ~
次で、アルファポリスでの先行投稿分に追い付きます




