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喧嘩と魔法並びに剣は異世界の花

お久しぶりです

 目を開けると白色に塗られた天井が視界に入ってきた。今置かれている状況を確認するために顔を左右に動かす。左にはフィアが可愛らしく寝息を立て、右を向くとミーナがピョコンと猫耳を直立させながら、むにゃむにゃと夢の世界を満喫していた。時折ミーナがもうお腹いっぱい、とか寝言を言っている。オマケとか言わんばかりによだれも少し垂れていた。


「それに対してフィアは優等生だな。弄るところが全くない」


 二人とも目元に隈が出来ているところを見ると俺が寝ていた間、相当苦労したんだと思う。恐らく個々で鍛錬などもしていただろうし。だから今だけは眠らせてあげよう。疲れている女の子を起こすのも野暮ってもんだ。

 俺ももう少しだけ眠ろう……このふかふかなベッドの感触を感じながら。

 覚めかけていた意識を手放すように目を……と、じ……て……。


 バンッ‼︎‼︎


 どこか遠いところで勢いよくドアの開く音が聞こえてくるけど、その音が現実のものなのかそうじゃないのかの判断がつかず、また意識を沈めようと思考するのをやめた。

 どうせ夢。

 そう、この腹部に響き渡る衝撃、そして鋭いパンチがクリーンヒットしたかのような突き刺す痛みもきっとゆ、め?


「痛ったぁぁぁぁ⁉︎⁉︎」


 あまりの痛さに微睡みかけていた意識が一気に覚め始めるのを、全身で感じながら上半身を起こす。両隣りにいたフィアとミーナも俺の悲痛な叫び声を聞いて目覚めたのか目をパチクリさせていた。

 俺は痛みの原因を探るために腹へと視線を落とす。するとそこには、実家に帰省中であるはずのリアナがとてもお怒りな様子でちょこんと座っているではないか。


「リ、リアナ。そこをどいてくれないか? 痛いんだけど」


 苦笑いしつつ俺はそうリアナにお願いをしてみたものの、効果は全くと言っていいほどにない。ジッとリアナは俺の目や身体を見て、それが一通り終わるとリアナは何か安堵した面持ちになった。

 次の瞬間、リアナが俺の胸に飛び込んできて抱きついてくる。理由はあまり分からない。

 いきなりの出来事でフィアやミーナも固まっている。かく言う俺も思考回路がショート寸前までに、情報を処理出来ずにいた。


「……アインのバカァァ‼︎」


 次にリアスも俺の横まで来て、心配そうな顔を浮かべて口を開いた。


「アインが大怪我を負って、メーアさんが誘拐されたと聞いて実家から急いで学院へ戻ってきました」


「というとここは学院の医務室か?」


 その問いにリアスは頷いてくれた。そうだ今は、何月だ。六月に始まった夏休みは約三ヶ月間ほどある。そしてメーアが捕まったのは六月中旬。


「なあ、リアス今は何月だ?」


「はい、今は八月の中旬でアイン、あなたは約二ヶ月間ベッドの上で眠っていました」


 リアナの温かさを感じながら、次にするべきことを考える。今八月の中旬なら、神降ろしまで約一ヶ月か。

 ならあの炎をコントロール出来るまで修行を再開するしかない。しかし、あの力を人前に晒すわけにもいかないし、もし修行するとなると時間帯も気をつけないと……

 その時、トントンと俺の胸がリアナの小さな手で叩かれた。

 俺がリアナへと視線を落とすと、リアスは上を向き、一言呟く。


「あたし達、アインのこと知ってるよ。その……い、忌神の加護を得てるってこと」


 その小さな口から発せられた小さな言葉の意味、それは俺にとってとても強大な意味を持っていた。

 みんなに忌神の加護を持つことがバレた……だって?

 俺の心を察したのかさっきまで黙り、背中を壁に預けていたフィアが静かに前へ歩み出る。


「私が言ったわ」


 その一言で、感情が爆発しそうになって、咄嗟にフィアを物凄い剣幕で睨んでしまった。しかし、それにフィアは驚くこともたじろぐこともなく、ただそこに立っている。


「な、んで……」


 俺が呟いた小さな言葉もフィアは聞き漏らさずにそれにも答えようと口を開いた。


「そろそろ、限界でしょ? あなた一人で背負わなくてもいい。私たちは、忌神の加護を持っているからって嫌いにならないし、それに私たちはアイン、あなたの味方よ」


 違う、俺は背負わなくてもいいんじゃない。俺は背負わなくちゃいけないんだ。この力を持っているなら、誰かを助けられる力があるなら、使わなくちゃならない。

 力を持つ意味が無くなる。


「そういう意味じゃねぇ! 俺が嫌われるのはいっこうに構わない。だけど俺に味方したお前らが、白い目で見られることが我慢出来ないんだ!」


 そう怒鳴ってしまったのがいけなかったのか、フィア達が一斉に青筋を立て始める。


「ふざけんじゃないわよ! 」


 フィアが他一同の声を代弁するようで、声を荒げた。俺はすぐに悟った。フィアを怒らせたらやばいことを。


「私たちが白い目で見られるのが怖い? 上等よ! 私はそんなに弱い人間なんかじゃないし、ミーナやリアスにリアナだって同じよ! もし怖いとしたらすぐにあなたと縁を切ってどこかに行くわ!」


 ……なんで。


「まあそんなに声を荒げなくてもいいですよフィアさん」


 フィアをなだめるのはリアス。


「どうやら私達は、この分からず屋のクソガキに見くびられているようですね」


 え? まさかこの中で一番怒らせたらやばい人って、リアスか?

 彼女はにこやかに笑っているが、目だけ全く笑っていなかった。しかし、リアスが言うとおり俺は心のどこかでは、彼女達をなめているのかもしれない。

 無言を貫くとリアスが更にたたみかけた。


「なめられているなら、することは一つ。私達一人一人と一対一の試合をしなさい」


「で、でもお姉ちゃん。メーアの救出は……」


 リアナは既に布団から降りていて、リアスの隣に立っている。そのリアナがもっともなことを言った。


「今からやればいいでしょ? 時間を無駄にするの勿体無いし、そこの朴念仁も運動しないと。あ、まさか私達四人に負けるのが怖いの? それなら戦うまでもなく、私達の勝利になりますけど」


 さすがにああも言われて黙っていられるほど、俺は出来た人間なんかじゃない。


「ああ、正直言って俺はお前らをなめてる。守る者は、守られる者より強くあるべきだからな。いいぜ、その試合。受けてやろうじゃねぇか」


 今の俺なら負けるなんてことはない。がむしゃらに強くなろうと修行した時があるからな。


「負けて吠え面を見せてくださいねアイン。開始時刻は今から三十分後に第一アリーナで。一年前、あなたとミーナさんと戦ったあの場所で待ってる」


 そう言うとリアス達は、部屋を後にした。

 俺もベッドから降りて装備を横にあった箱から取り出し、袖を通す。

 久しぶりに握る剣の柄の感触は、妙に馴染んだ。

 鞘から剣を抜くと剣身が、黒々しく光を反射し、あたかもそれは作られたばかりのような輝きを放っている。誰かが手入れをしてくれていたのだろうか。ならその人に感謝しないとな。

 その剣を腰に履き、部屋を後にした。

 容赦はしてやらない。絶対に負けてやるものか。


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