認めよう
とても遅くなりました
約束の時間まで10分ほど前、アインは一人アリーナ内の木にもたれかかっていた。彼が目指してきた強さにアイン自身近付いてきていると思っていた。しかし、実際はそうではないのかもしれない。そうアインは快晴の空を見上げながら思っていた。誰にも頼らず、己のみで強くなろうとしていた前までの姿。その姿は、泥沼で足掻く少年のようなものだったと、アインは認識している。
「でも、俺は力がある。だから守らないといけない。大切な仲間を。守る者は、守られる者よりも強くあるべきなんだ」
アインは、遠くに見えるフィアたちの姿を見据えて、小さく呟いた。アインはその場から立ち上がると一歩、また一歩と彼女達の近くへと歩く。
「逃げずに来たみたいですね」
先頭に立ってそう言ったのは、リアス=アークライト。この中で1番の弓の名手であり、魔法も得意だ。矢こそは、模擬戦闘用であるものの弓自体はリアスの弓だった。他の人たちも完全戦闘モードといった感じだろうか。例に漏れず、アインも剣を腰にぶら下げている。
「逃げるわけないだろ。で、誰からやるんだ?」
アインは、フィア、リアス、ミーナ、リアナを見て言う。私から行くと、ミーナが元気よく手を上げた。声音は明るいが眼だけは、冷たくアインを射抜いている。
「いやー、あたしさ。本気でアインと戦ったことないんだよねー。ちょうどイラついてたし、あたしと戦おうよ」
承諾の合図として、アインは鞘から剣を抜き放つ。それを見て、ミーナは口角を釣り上げて笑い、槍を構えた。
「ミーナさん、こんなザコやっちゃって〜」
リアナがヤジを飛ばす。しかし、そのヤジはもうすでにミーナ、アインの二人に届くことはなかった。集中しきっている二人は、お互いとごく僅かの景色しか見えていないからだ。
アインは横薙ぎの技、我流抜刀術壱ノ型『紫電』の態勢に入る。どうやら、アインは一瞬でカタをつけるつもりらしい。目つきは鋭く、ミーナ一点を見据えていた。前傾姿勢よりもなお低く、足は大股に地べたに這いつくばらせたような姿勢は、特異な形相を作り出している。
ミーナも紫電自体は見たことがある。それは1年ほど前、サバイバルマッチという催しの時に、一度か二度は見た。だが、その時の姿勢とは全く違うモノとなっていた。
「んじゃ、両者準備は出来たようだから、始めるよ! スタートの合図は、あたしが投げたコインが地面に落ちた時ね」
リアナは、とびっきりの大声で二人に伝える。そして、コインを二人の間に空高く投げた。晴天の空を舞うコインは、太陽の光を反射しながらくるくると回って落ちていく。緊張感がアリーナを支配する。ミーナの顔も鋭い。
時間は止まらず、過ぎるのが当たり前。例外などあり得ない。時を止める魔法は確かにあるが、それは一時的なものに留まっている。
コインが地面に落ちた。広がる金属音の波紋。それをかき消すように、両者ほぼ同時に動いた。
アインは、踏み込み足が地面にめり込むくらい強い力で、大地を蹴る。とんでもないほど速い初速で、ミーナとの距離を詰めた。
「ちょ、は、速っ⁉︎ アインってあんなに速かった? 」
そう言ったのはリアナで、その問いに答える人はいなかった。みんな残りの二人も驚きを隠せないでいたからだ。
「確かに速い。けどあたしは獣人だよ? 」
ミーナはアインの横薙ぎに合わせて、跳躍しすれ違いざまに刺突を放つ。アインはそれを体を捻ることで避けた。
「我流抜刀術ニノ型『黒雷』」
体を捻ったアインは、再び攻撃へと移る。刹那の間に二回切り裂く技を繰り出す。しかしそれもミーナは、見極めて受け流した。
「ならこれで終わらす……」
そう言ったアインの雰囲気が全く別物になる。どこまでも研ぎ澄まされた刀剣のような鋭さ、危うさを帯びていた。それのオーラにミーナは一瞬、そう一瞬だけ萎縮してしまう。だがその刹那でアインには十分。
「我流抜刀術終ノ型『無絶』」
絶対に避けることのできない無影の刃。高速の域にまで達する抜刀術。
「こんな序盤で大技なんて、実は相当焦ってる?」
ミーナの問いにアインは、ほんの少しだけビクつくがすぐに平常心を取り戻した。だがたったそれだけで、攻撃のチャンスを与えることになる。
身体の震えをミーナは見逃さず、コンマ数秒の硬直状態に入ったアインの横っ腹を蹴り飛ばした。
「なっ⁉︎」
二人の激しい攻防を他所に、他の彼女達は先ほどの蹴りが決まった瞬間、勝敗が見えたらしく雑談を始めだす。話題は、年頃の女子らしく。
「そういえば私、最近魔力量が上がったのか上位魔法連発しても疲れなくなったんですよ」
フィアが嬉しそうに笑いながら話している。
「え、 いいなー、あたし魔法は点でダメでお姉ちゃんにいつも魔法では負けっぱなし」
平和的な会話を他所にアインとミーナの戦いは、時間が経つごとに激しくなってゆく。しかし、僅かにスピード面でアインが押されてきている。剣と槍が交わり、互いの強さを証明しようとしていた。アインの頬に切り傷が出来始め、服が裂かれる。
「どうしたのさ! アインの強さはこんなものだったのかい! ならあたしの方が上だね」
勝ち誇ったようにミーナは笑みを浮かべ、槍を操る。その言葉を聞き、アインは青筋を立てた。
「認めるよ。俺は焦ってた。ここまで追いつかれてたんだな俺は。きっとフィアたちも同じように強いんだろう。だからと言って俺は負けるわけにはいかねぇな」
この瞬間、アインの表情が引き締まり、存在感の凄みが更に深まる。アインが纏う空気が変わったことに気付いたミーナは、冷や汗を出すも笑顔のままだった。戦いが終盤になったことを察知した傍観者達は、アインの変わりように驚愕し、胸が踊った。
「宣言してやる。次の一撃でこの戦いは終わる」
アインは低くかつ相手に伝わるような声量で告げた。




