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助けるための力

大変お久しぶりです。受験生の身ですので亀投稿です。

 〜〜ほらほら! もっと気合い入れろ! 〜〜


 アティウスと鍛錬を始めて、数時間以上経ったが、全く疲れが来ない。やっぱり夢の世界だからだろうか。

 ……ちょっと待てよ。


 〜〜なあ、アティウス。俺おっさんの世界で鍛錬してるけど、ちゃんと現実世界で反映されるのか? 〜〜


 そう問題はそこだ。アティウスは身体ができてないと言った。なら現実世界の身体を鍛えるべきなのに、精神世界で鍛錬してる。ということは精神世界で鍛錬しても現実世界に反映されるということなんだろう。

 そう問うとアティウスはあっけらかんと言い放つ。


 〜〜おいおい、俺の世界つまり精神世界で鍛錬しても、現実世界には影響ないぞ? 〜〜


 こ、こいつ……こ、殺してやろうか。


 〜〜そんな顔するなよ。現実世界には関係ないんだからよ〜〜


 〜〜は?〜〜


 〜〜身体という言葉には多少語弊があったようだな。なら言い直そうお前が俺の力を使いこなせなかった最大の原因は、精神のせいな。精神とは魔法を扱う上で、もっとも大切なモノだ。イメージ力も足らないな。まあ、三ヶ月以内で十分くらいは持つようになるから頑張れよ〜〜


 そんなこと言われても困るんだが。アティウスが指を鳴らすとあいつの象徴である灰色の炎が溢れ出てきた。


 〜〜はい、ここで質問です。魔法を発動する時に魔力を使うがどこから捻出している? 〜〜


 いきなりなんだ。子供でも分かること。


 〜〜体内と体外。体内魔力は、その個人が産まれた時から量など決まっている魔力で体外魔力は、大気中に漂ってる魔力のこと。だいたいの人は、体内魔力を使って魔力を使っている。しかし、体内魔力には内包量の上限があるため無限に魔法を使うことは不可。だろ? 〜〜


 アティウスは、幼児を褒めるように拍手をするが、なぜだろう褒められているのにちっとも嬉しくない。


 〜〜優等生かお前は。まあ合ってる。補足すると、なぜ体外魔力を使って魔法を使わないのか。理由は簡単、使いにくいからだ。体内魔力は常日頃、産まれた時から自分の身体に宿っているから使いやすい。しかし、体外魔力は、非常にデリケートだ。だからデキる魔法使いは、体外魔力も使うことができる。そしてなぜこの事を言わせたかというとだな〜〜


 そう、王国に仕える上級魔法使いは、その大半くらい体外魔力を自由に使えるという。俺も何度か体外魔力を使って魔法を発動する練習を、やってみたがあまり上手くいかなかった。


 〜〜俺の力をコントロールするには必要不可欠だからだ。あ、ちなみに言うと神降ろしまで現実世界の時間だとあと一ヶ月と半月だからな〜〜


 もう、そんなに過ぎてたのか……マズイだろ。どうやったら出来る。精神を鍛える? んなこと言われても……。

 この世界でも、神の力を使ったら痛みが走ることは、少し前に検証済み。

 そこが同じならっ!


 〜〜タブーゴッド! 始まりの浄火アティウス〜〜


 コントロールできない理由は、神の魔力に精神が耐えることができてないからだ。魔力の放出を抑えたら精神への負担も軽減するはず。

 考えろ……どうすればできる。


 あ、フィアがそういえば使ってたのって魔力を衣のように纏っていたな。魔力を衣の形に固定するのか? いや、それは違う気がする。


 突然、思い出したように懐かしい声が俺の頭をよぎった。


「魔法というのはね二種類の発動方法があるの。一つは、みんな知ってる自分の中に循環してる魔力を利用して発動する方法。二つ目は、空気中の微量に含まれてる魔力を使って発動する方法。一つ目のメリットは、二つ目よりも早く発動できること。デメリットは内包量に上限があるから無限に魔法を使うことができない。そして二つ目の方法のメリットは、体内魔力を消費せずに魔法を使えること。デメリットは非常に扱いづらいことね。今の年齢でアインは理解できないかもしれないけど、一応言っておくわね。魔力をコントロールするには魔力の流れを理解することが必要なの。例えば、今から見せるわね。


 魔を祓う剣となれ‼︎


 とこのように物理生成魔法の場合は、魔力をその場に留まらせるのではなくて、剣の形を取るように魔力を循環させるの。ってごめんっ! まだあなたには分からないわよね」


 綺麗な顔で熱弁する母さんは、とても生き生きとしていた。その言葉一つ一つに強い意志を持っていたんだ。


 〜〜ああ、少しだけ分かった気がする〜〜


 魔法は流れを重視させる。今まではそんこと気にすることなく使っていたけど、こんなに大切なんて思ってもいなかった。

 集中しろ……大気の魔力を感じて、流れを読み取れ。

 可視化はしないものの、肌で感じるようになった。あとは神の力を衣……というかロングコート状にし、体外魔力で神の力をコーティングすれば……

 すると、ダダ漏れだったアディウスの炎が少しずつ姿を変えてロングコートへとなっていく。

 俺の頬に汗が滴っているのを意識した瞬間、ロングコートは霧散してしまった。これをマスターするにはとてつもない集中力を培わなければならないらしい。そして、魔力を循環させるのは簡単だったものの、体外魔力でコーティングするのが難しい。

 これを平然とやっていたフィアは、どんな精神力の持ち主なんだろうと感嘆の声を上げずにはいられなかった。


 〜〜アディウス、神降ろしまであとどのくらい時間があるんだ〜〜


 そう誰も居ない空間で独り言のような言葉を発すると、聞き慣れた声が前から聞こえてきて、数秒遅れでアディウスの姿が現れた。


 〜〜なんだよ。まだ一ヶ月と数日は残ってるわ。……と言いたいところだがもうコツは掴めたようだし、現実に戻ってから練習しとけ。精神世界で出来ても現実で使えなかったら意味がないからな〜〜


 頭を片手で掻きながらそう告げたアディウスは、両の手を高く上げ思いっきり手のひらを叩き合わせた。その音は俺の精神を大きく揺さぶり、精神世界にも関わらず大気を振動させる。思わず耳を塞ぎたくなる衝動に駆られるがそうはしなかった。

 何故かというと、今目の前で起きていることを五感全てで感じていたかったから。


 さっきまで俺が鍛錬していた世界は、ガラスが割れるような音を立てて、崩れ落ち無残に消えていく。消えていく先は虚空。一寸先を闇が覆い、何があるのかと手を伸ばしてみたくもなった。

 アディウスはとっくに自分のテリトリーへと帰っていて、姿形はなく気配すらも感じることが出来なくなっている。

 不意に眩しい光の柱が真上から俺を照らし、上を見上げてみるとフィアやミーナが俺の看病をしていた。

 そろそろ戻らないと、メーアのこともあるし。あの仮面の男のことも考えなきゃいけない。

 全ては現実に戻ってからだ。

 そう思いながら俺は、光の柱の中で目を閉じた。

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