大きすぎる力
「タブーゴッド【始まりの浄火】」
そう言った瞬間、扉が豪快に開けられて一気に炎が溢れ出す。現実世界でも灰色の炎が、これでもかとばかりに俺を中心に燃え盛り、次第に収束してゆく。
道化は、無言のまま俺を見ている。
照りつける太陽の光でさえ、始まりの浄火の前では霞む。
「これは予想外ですね。私も多少本気を出さねばなりませんか……どうか死なないでくださいよ? 神の力を使う者として言いましょう。神の力は放出するだけだと雑魚に過ぎません」
道化は、指をパチンと鳴らした。すると周りに無数の仮面が現れて、ふわふわと浮遊している。
「クラウンゴッド【道化の遊戯】……と思いましたが、やめです。私が本気を出すまでもない」
そういうと周りに浮かんでいた仮面が消え去り、道化は俺を直視している
いったい何が言いたい……っ⁉︎
突然、痛みと吐き気が俺の身体を襲った。体内で循環していた魔力が暴走を始めたらしく、内臓をぐちゃぐちゃにされたような感覚がして、その場に倒れこんでしまった。
「発動はできるようですが、まだ身体がついていけてませんし、コントロールもできていない。まあ、私と君が会うことはしばらくないでしょうが、彼女を取り戻すためにもっと強くなってくださいね」
そういうと仮面の男は、メーアを抱えてどこかに歩いていこうとする。心では今すぐ助けたいのに、身体が動いてくれず目線をやるくらいしかできなかった。
まただ。俺は力を手に入れても、また結局見ているだけだった。意識も遠のいてゆく。世界の全てが遠のいてゆく感覚、これほど恐ろしいものは存在しない。
消えゆく意識の中で見えたのは、動けるようになったフィアとミーナが、泣きじゃくる姿で、本当に俺はどうしようもないくらい弱い人間なんだと自覚させられる。
完全に意識がなくなると俺は、アティウスの前にいた。
〜〜よっ! アイン、盛大に負けたな〜〜
〜〜てめぇなんでそんな陽気なんだよ!〜〜
今ならハッキリと見えるアティウスの姿は、真っ白なローブに身を包み、灰色の髪を揺らし、金の瞳で顎に生えている髭をいじりながら俺を見ている。
〜〜まあまあ、落ち着け。神降ろしにはかなりの準備時間が必要になる。理由は、聖女を手中に収めてから準備を始めるからだ。最低でもあと三ヶ月は丁重に扱われるだろうな〜〜
三ヶ月……その間に仮面の男へ依頼した奴を探し、そいつの家を見つけ、メーアを助けないといけないのか。
〜〜あとすまねぇな。お前なら耐えられると思ったんだが、まだ無理だったらしい。出オチとはこのことだな〜〜
〜〜うるせえよ。お前の力を使いこなすには何をすればいい〜〜
ゆらりゆらりとアティウスは、揺れて近づいてくる。二人の距離が目と鼻の先までに縮まった時、アティウスが拳を構えて、俺に向け打ち出した。
当たった瞬間、身体が何メートルも吹き飛び転がる。いつの間にか周りの景色が変わり、真っ白な部屋から色彩が反転した世界になっていた。太陽は黒く、空は紅い。暗いところは明るく、明るいところは暗い。そんな世界なのに、日中と変わらないくらいよく周りが見える。
〜〜これは……〜〜
不意に出た呟き、驚嘆の気持ちがこもっていた。
〜〜俺が作った。ここでは俺のやりたい放題だからな! はっはっ!〜〜
高笑いするアティウスをよそに、世界構築を俺も魔法でできないだろうかと考えていた。
〜〜ほらそこ! 他事考えるんじゃない! そんな余裕ないだろ! 〜〜
と考えているとアティウスが、容赦なく攻撃を仕掛けてきた。神とはいえ俺だって接近戦の自信はあるからと避けようとするも、避けることができずに食らってしまう。
速すぎるんだって!
気合の声とともに攻撃を仕掛けてみるも、全ていなされて、逆にカウンターを一打二打と入れられる。
なぜか親父と鍛錬に励んでいた頃を思い出した。おそらく今の俺でも親父には敵わない、そして直感で感じたのは、アティウスは親父よりも遥かに強いこと。
これが神なのかと思い知らされた。
〜〜だからと言って、やめるわけにはいかないんだ! 〜〜
〜〜その息だ……〜〜
強くならなきゃいけない。そう分かっているが、暗くなる。強がることができない。いや、できるだろうけど、すぐにボロが出る。
「意識不明のまま一週間」
一方、現実ではメーアを除くアイン、フィア、ミーナは学園へと戻っていた。
そして、メーアが誘拐されたこととアインが意識不明になったことを聞きつけたリアスとリアナも、実家から帰ってきている。
現在、全員学園内に設置されている病院の病室に集まっていた。
「何があったのアイン」
そう呟いたフィアは、何かを決めたように頷き少し話があると他の三人に言った。
「これ以上隠すのは無理だから言う」
他の三人、特にリアナは何のこと? と首を傾げているが、ミーナとリアスは心当たりがあるようで引き締まった顔つきで聞いている。
「アインは、忌神の加護持ちよ」
その言葉にリアナが一番驚いた。目を見開き、口はあんぐりと。
リアナは以前に知ったので別にだったが、ミーナもまさかね、といった感じだが今の言葉で理解した。
「アインが、忌神の加護持ちってどういうことよ!」
そう叫んだのはリアナ。教科書等で習った忌神が近くにいるなんてと、彼女はアインに視線を落す。
「今言えるのはそれだけ。本人が目覚めたらまた集まって話し合いましょ」
そう言ってフィアは病室を後にする。その表情は怒りと悔しさだった。
残された三人は、それぞれ黙って考えている。リアナだけがアインのことをどう扱えばいいのか分からなくなっていた。
忌神とは一般的に、最悪な存在であり忌むべきモノ。太古の昔に、現存の神々に戦争を仕掛け大量虐殺をした神。
そんな加護を持つなど、不名誉極まりなく見つけ次第処刑されてしまう。リアナは、アインを見つめた。
「ねぇ……あたしはどうアインと接すればいいの? 」
いつもみたいにハツラツとした声音は影を潜め、迷いしかない弱々しい声でリアナは呟いた。
やがてリアナ以外の二人は病室を出てゆき、一人リアナだけが、真っ白な病室に残っていた。




