服選びは楽しかったり、可愛かったり
だいぶ遅れたのに短いw
「アイン、これどうかな?」
「おう、似合ってるぞ」
「アイン、これは?」
「おう、似合ってるぞ」
「アイン、こっ『おう似合ってるぞ』」
突然、頭に痛みが奔る。
ぐぉ⁉︎ 痛ッ。
強襲か! どこからだ!
周りを見渡すがそれらしき人物は誰一人とて見つからなかった。
逃げ足の速いやt ぐはっ‼︎ 横っ腹に何かが突き刺さる。その何かを確認するため、視線を落とす。
握り拳が刺さっていた。
フィアの方を向くと、無言でこちらを見つめていた。
「似合ってるっていうんだったこっち見て言いなさいよ」
改めて、フィアの全身を見る。
おお、やっぱりスタイルはいいんだな。
今試着しているのはロングスカートにTシャツ。色は決まって黒だった。
せ、センス! センスはどこにいった!
「私に魅力がないの?」
あ、また上目遣い。何これ。卑怯だわ。
仕方ない。俺が仕立ててあげるか。
白に銀、そして赤……。
「いやいや、フィアは充分可愛いと思うぞ。でもさ、何で試着する服の色が、全部黒なんだ?」
「うっ、それは……。私の生い立ち知ってるでしょ? ヴァイスフェアレーター。世界の裏切り者。私たちが奴隷から解放されたのは、私が8歳のころなの。奴隷の時に身に付けていた服は何時も黒。理由は邪悪な民族には邪悪な色がピッタリだって。一年前にイフリート倒した時は、民族を誇りに思うって言ったけど、奴隷だった頃の習慣は、まだ抜けないのよ」
「……」
「私たちがもう奴隷じゃないのは分かっているんだけど……」
「ちょっと待ってろ」
フィアに似合う色は……
フィアはクールではあるけど、勇敢でもある。言動もそっけないが、その言葉の裏には、優しさも見え隠れしている。
赤、火だ! 火は暗闇を照らす唯一の光。その輝きは見るだけで安らぎを与えてくれる。
そして、邪悪な民族? それ言った奴連れてこい。消し炭にしてやる。
よし、白だな。
で、色は決まったから。どんな服が似合うんだろ。パーカー?いや、似合うと思うけど違うな。
あ、白のフリフリの付いたスカートが似合いそうだ。で、赤はどこに、し、下着……はっ。ダメだろ俺。
うーん。
フィアの方に振り返り、フィアをまじまじと観察する。白のフリフリは却下で赤のフリフリだな。シャツは白の七分袖。十字架のネックレスもいいな。よし決めた。
店内を漁り、さっき決めた服をフィアの場所まで持っていく。
「これなんてどうだ?」
服を差し出すとフィアは、少し困惑気味な顔を見せた。
「し、白……」
弱々しいフィアも可愛いが、いつも通りのフィアの方が、らしい。
後押しくらいはしてやるか。
「大丈夫だって、絶対似合うからさ。過去なんて、所詮は過ぎ去ったモノに過ぎないのさ。だったら今を大切にしようぜ?ほらっ、更衣室に入った入った」
あ、これ名言だわ。いや、そう思った時点で名言じゃなくなるか。
まあ、これは素直に思ったことだけど。
フィアを更衣室へ無理矢理押し込み、ついでに服も持たせる。俺は後ろを向いて、もしもの事態に備える。ないとは思うけど、何かの語弊で着替えを覗くのは良くないからな。
後ろから聞こえる着崩れの音。俺の耳には、それしか聞こえてこない。
きっと、他の音も空気の道を、往来しているんだろうけど。
妙に待つ時間が、長く感じられた。
更衣室と外を仕切るカーテンが開かれる。
更衣室から出てきたフィアは、想像通りいや想像以上に可愛いかった。髪と服のコントラストも絶妙にマッチして、可愛さと綺麗の両立が成り立っている。フィアは、恥ずかし気に髪を弄り、頬を朱に染めていた。
「ど、どう?」
「ああ、とても似合ってるぞ。特に白色がマッチしてる」
頭から煙でも出るんではないかと思うほどに、フィアは顔を真っ赤に染めた。
その場に座り込み、ブツブツと何かを言っているフィア。両手を頬に当てて、頬を膨らませたり、膨らんだ頬を突ついて空気を抜いたりしていた。
「白が似合ってるって……わ、私本当に似合ってるのかな。でもアインが、似合ってるって言ってくれたんだし。そ、そうだわ。灰色は黒と白を混ぜた色なのだから…………私だって着ていいはずよ!」
ブツブツと独り言を言い終わったと思ったら、急に立ち上がり何かを宣言する。
何を言っているのかは全くわからないが、さっきまでのどんよりしている雰囲気は、変わっていたのでなによりだ。
そして、服を買ってやり自室へと戻る。
心なしか、フィアの足どりはとても軽く見えた。




