魔王様 その後
初投稿作品を読み返し、羞恥で悶えた作者。
だけど、この時はこの時で、必死に頑張って書いたんだよな。……文章おかしいけど。
短いし視点バラバラだし、当時はそれが変とも思わず、緊張しながらUPした懐かしい作品。
私が魔王様のもとに来てから、半年が過ぎた。
だけど、魔王様は特に破壊活動をするでもなく、穏やかな毎日が過ぎゆく。
こんなんでいいの?
思わず私が心配になってしまうほどの、平和な毎日だ。
そんな中、魔王様に届いた一通の封書。それによれば、魔王様のご友人とやらが訪ねてくることになったらしい。
「面倒だな」
呟いた魔王様の言葉を聞き、何事かと思う。魔王様のご友人とあれば、きっと同じような系統かしら。
そして二人で夜な夜な、人間達を滅ぼすような計画でもするのかしら。
そんな私の不安をよそに、ご友人はやってきた。
「やぁ、久しぶり。元気にしていたかい」
若草色の瞳に、金の糸を束ねたような髪。すらりとした長い手足。
その容姿は美形なのだけど、魔王様とは種類が違う、どちらかといえば天使様のように見える。
いやいや、騙されてはいけないわ、ケティ。
魅力的な外見は、人を惑わすために必要なのよ。私は注意深く、ご友人を観察する。
「それで、そこのカーテンの隙間から、こっちを凝視しているレディは誰だい?」
き、気付かれていた……!
私としたことが、カーテンの陰に隠れて、魔王様とそのご友人をこっそり観察していたつもりが、見破られてしまった……。
衝撃を受け、軽く眩暈がする。
「気にするな、あれの定位置だ」
そんな魔王様の発言を聞いて、さらに打ちのめされる。
定位置だなんて、当たっているけど、でもでも……いつから気付いていらっしゃったの!!毎日、こっそり見ていたつもりだったのに!!
「いいなぁ。楽しそうだな。王都にちっとも戻ってこないし、こんな辺境の地で何をしているかと思えば、女を囲いこんでいたとはね」
ご友人がヒューと口笛を吹く。
「どれ、顔を上げてごらん」
いつの間にか指で顔を上げられた私は、ご友人と真正面から向かい合った。
「へぇ、流れる蜂蜜色の髪に、好奇心の塊のような、茶色の大きな瞳」
そんなご友人の瞳こそ、興味しんしんといった様子で私を見ている。
「いいなぁ、可愛いな、これ欲しいな。ねぇこれ、どこで拾ったの?」
「森」
「森?なんで、そんなところにいたんだ?普通、人間は落ちてはいないだろ。昔から傷ついたウサギやらなんでも、拾ってくるのが得意だったやつだが、今度は面白いのを拾ってきたな」
ご友人は多少なりとも口が悪い、そう思って聞いている。
「で、君はなに?情婦なの?」
情婦?聞きなれない言葉に、首を傾げるつつも答える。
「はい、体は丈夫です」
「なんだ、それ。ボケているのか、それとも天然か。なんだかお前、ずれてるな」
「――ケティ。紅茶を頼む」
「は、はい」
次々に私のことを聞いてくるご友人に、落ち着かない気持ちになっていたので、魔王様から紅茶の申し出があったことに、ホッとして、台所へと向かった。
「あっ、なんだよ。今、それとなく、俺と引き離しただろう」
背後から聞こえた声は、扉を閉める音にかき消された。
**
紅茶セットを用意してカートに乗せ、廊下を進む。
すると前方からご友人が歩いてきたことに気付いた。私は驚いて頭を下げると、声がかかる。
「せっかくの紅茶だけど、もう帰るよ」
「え」
急いで用意したのだが、遅かったのだろうか。それとも、私がなにか、そそうでもしたのだろうかと不安になる。
「んー、なんかね。機嫌が悪いからさぁ、出直すよ」
出直すってことは、またいらっしゃるということですよね。その時は、最初から紅茶の用意をしておこうと思う。今頃気づくなんて、私のバカ、愚鈍。
魔王様のご友人だというのに、なんて気の利かない対応なのかしら。
「だけど、今日はすっごくいい発見をしたから、大人しく帰ることにするさ」
対するご友人は言葉通り、上機嫌。なぜだろう。
「あの人嫌いの伯爵がねー。なかなか王都に帰ってこない訳がわかったよ」
そこで私の頭をぐしゃぐしゃっと撫でたご友人。わ、わ、髪がもつれる。
「じゃあね。早く紅茶を持って行ってあげて。早くしないと、今以上に、ご機嫌急降下だからさ」
「は、はい」
そう言ったご友人に、挨拶もそこそこに魔王様の元へと駆けつけた。
**
扉をノックして開けると、魔王様はいつものソファに腰かけていた。魔王様の表情は、ちょっと険しい。なるほど、少し不機嫌かもしれないな。そう感じた私は無言で紅茶の用意を始める。部屋中に紅茶の香りが漂い始めると、魔王様の眉間の皺が少しだけ綻んだ。
テーブルに紅茶のカップを置く。魔王様がそれを口にしたあと、私を呼ぶ。
「今日は、なんの絵本を読む?」
「え……は、はい」
内心、ゲッと思いながらも返事をすると、本棚の前に立ち、その中から一冊の本を選んだ。
なるべく字の大きい、挿絵は綺麗なお姫様と王子様が描かれているやつだ。
そうしてそれを手に持ち、魔王様の隣のソファに腰かけた。
ページを一枚めくり、私が声に出す。
「あ、あるくに……に、おうじ……さまが……いました。その、となりの……くにには、たいそう……きれいなおひめさまが……すんでいました」
私はつっかえつっかえ口にする。
そう、私は恥ずかしながら字が読めない。
だって孤児院育ちで、養父母に引き取られてからも、字の読み書きを学ぶ暇などなかった。
本だって手にしたことなんて、なかった。だから初めてこの部屋で本を見た時は、素晴らしい挿絵のついた絵本に、思わず感激の声を出してしまった。
それに気づいた魔王様に、本棚にある本を好きに読んでいいと言われた時は、すごく嬉しかった。だけど、それと同時にものすごく恥ずかしかった。
だけど、勇気を出して言ったのだ。
「あの、私、字が読めないのです」
そう言った時、魔王様は少しの間だけ、表情を変えずに私を見つめた。
対する私は照れて顔が真っ赤になっていたけど、なおも続けた。
「だけど、こんな素敵な絵本、私は挿絵を見ているだけで幸せな気持ちになります。だから嬉しいです!!」
「ケティ」
力説していると、魔王様は手招きをして私を呼んだ。そうしてソファの隣に座れと、目で訴えたので、私は言われるがまま腰をかけた。
「昔、昔、この国には王子様とお姫様がいました――」
驚いたことに、魔王様は、私が手にしていた絵本を取り、読み始めたのだ。
子供の読む絵本を、ごく真面目な顔で私に読んで聞かせる魔王様の横顔を見て、とても不思議で温かい気持ちになった。
そして、私に字を教えてくれ、少しずつ覚えた私は、こうやって魔王様に絵本を読み聞かせるようになったのだ。
「そうして……おうじさまは……おひめさまの、ほほに……くち…くち……」
たどたどしい私は、なかなか読み進める事が出来ない。
つぎのスペルが難しい。なんだっけな?気持ちが焦ってくる。
「くち……この次のスペルが読めません」
顔を上げると、魔王様の微笑みが、ドアップで視界に入る。その次の瞬間、頬を指でそっと撫でられた。驚いたと同時に、頬に感じたのは柔らかな唇の感触。
これって……
「口づけをしました、と書いてある」
「――ッ!!」
私は頬を押さえて、思わず立ち上がる。
魔王様ってば、魔王様ってば、私から精気でも抜いたか!?それが力の源か!?
顔を真っ赤にして、挙動不審になる私に、魔王様は微笑しながら続けた。
「ケティ、続きを」
「……はい」
そうして私は改めて座り直し、必死に絵本を読むのだった。
それがここ最近の、私と魔王様の日常だった。
なんだか懐かしくなって、思いつきで書いた一話です。
続きそうで、続きません。
お読みいただき、ありがとうございました。