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リィズの回想と森を抜けて

 その彼が《デミホルン》にやって来て間もない頃、言いつけを無視して危険な《死神の丘・デッドヒル》にたった一人で出向き、あやうくオオカミのモンスターに襲われそうになったことさえある。

事前にそのことに気づいて間一髪、救出が間に合ったから良かったものの無茶なことをする。何故そんな危険な場所に行ったのだと聞けば「綺麗な花が見えたんだ、それをプレゼントしたくて」と答える。

「もう危ないことはしないよ。お母さん」

意志ある幼子というのは恐ろしいと感じると同時に母親代わりというのはつらいものだと感じた。

あれから月日がたち、現在はカイトよりも年齢は少し上であろう。

どう思われようと……またここに帰ってくることも……彼の選んだ道ならば……。

愛おしいという感情に偽りはなかった。

ただ、生きてほしかった。それだけ……


――ズ……リィズ!

その名を呼ばれ、はっとして目が覚めた。目の前にはカイトが片膝を立ててしゃがみリィズを見降ろしていた。どうやら岸にあがった後、砂浜で寝てしまっていたようだ。

「すやすやと寝ているところ悪いがそろそろ行こうぜ」

「カ、カイトの言う通りですね。こんな場所で寝ているなんてどうかしてました」

リィズは自分の迂闊さに戸惑いを隠せなかった。

「疲れていたんだろう?森を抜けたら街を探そう」

カイトは軽く笑みを浮かべて穏やかに言った。

「もうすぐ森は抜けられるでしょう」

「そっか。んじゃ、さっそく」

カイトは立ち上がり砂を払った。

「カイト。その……いなくならないで下さい。私の前から」

「え?」

一呼吸おいてカイトは答えた。

「大丈夫さ、また危ない目にあっても今みたいになんとかなる。な!」

ニッと笑い頼もしげに右手でサムズアップして見せた。

 二人は今度こそ出口を求めて、再び森の中へ入っていった。

――歩いて数十分でリィズの言う通り、次第に視界から緑が薄れていき遂に森エリアを突破した。

「ふううう。ようやく抜けられたな」

森を抜けた先も草原地帯が続いてはいた。その先は荒野エリアへと繋がっていた。起伏のある地形に歪な岩塊がそこかしこに見える。緑はほとんどなくあったとしても気だるく色あせたサボテンが無作為な間隔で生えているくらいだ。さいわい、うねりつつも道らしい道はあるのでここを進んでいけばどこか街にはいずれ辿り着くであろう。

しかし、森エリアで感じたのとはまた違う《異質の殺気》が感じられた。

「嫌な予感がするな。少し急ごう」

カイトが言いようのない不安を口にすると二人は駆け出した。

「確かに何かにずっと見られているような、そんな気がしますね」

リィズも言いしれない肌を刺すような不安感を同じく感じていた。

――どこまで続くかわからない荒れ果てた大地をただひたすら道なりに進んでいった。

「またサボテンが突然動き出すなんてことないよな」

カイトが皮肉めいてぼやいた。

「むしろ、モンスターの気配は怖いぐらいに感じないのです……それなのに」

「ああ、でも《なにか》はいる。それは俺にもわかるぜ」

用心深く進むと奇妙なものが見えた。カイトたちが進もうとする道を横切るようにして《線路》が敷かれていたのである。

「なんだ?電車?汽車?こんなところを通って……」

言い切る前にその線路付近に気配を感じた。紫の霧のようなものが集まって突然モンスターが姿を現した。アンデッド型モンスター《スカル・リーパー》、クライシス・モンスターである。まさに死神のごとく骸骨が漆黒のマントを背に垂らし、頭には所々メッキの剥がれた兜をかぶり胴体部分のいたるところにおごそかに光る金銀の装飾品を身に着けている。さらに両手にはリーパー〈刈り取るもの〉の名の通りギラリと不気味に光る大鎌が握られている。

「グハハハ、お前たちノ旅もここで終わりダ」

聞こえてくるのはその口から発生された声ではなく胴体から響いたずっしりと重みのある音のようだ。

「とうとう現れやがったか」

カイトとリィズはその異形を前にして身構えた。


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