第二十四章 疑い
一月。
第二ノードの干渉が止まって十日。
拠点の日常は戻りつつあるように見えた。畑仕事が再開され、焼却作業も冬のペースで続いていた。北九州との物資交換も滞りなく行われていた。
だが、目に見えない亀裂が広がっていた。
最初の兆候は、些細な口論だった。
配給の場で、鹿児島から来た男と福岡の元住民の女が言い争った。配給の米の量が違う、と。
「こっちは三合しかもらっとらん。あっちは四合もらっとうやないか」
「同じ量たい。あんたが数え間違えとうだけやろ」
「数え間違えとらん。俺の頭はちゃんとしとう」
「ちゃんとしとう? あいつに脳みそいじられた後で、よう言うわ」
場が凍った。
言った女は、すぐに自分の言葉を後悔した顔をした。だが、口にされた言葉は取り消せなかった。
**あいつに脳みそいじられた後で。**
その一言が、全員の中にあった不安を表面に引きずり出した。
誰の記憶が正しいのか。配給の量が三合だったのか四合だったのか。どちらかの記憶が間違っている。それは単なるミスなのか、あるいは第二ノードの干渉の後遺症なのか。
区別がつかない。
その日から、拠点の空気が変わった。
人々は互いの言葉を疑い始めた。「昨日こう言ったろ」「言ってない」。その食い違いが、以前なら笑って済ませられた程度のものでも、今は深刻な意味を帯びた。
**あの二十日間に、脳を書き換えられたのではないか。**
根拠はない。篠原は「干渉信号は消えた。後遺症についてはデータがない」と繰り返した。だが、「後遺症がない」とは言えなかった。データがないのだから。
そして、疑いは特定の人物に向かい始めた。




