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第一章 静かな始まり
四月八日、午前六時十二分。福岡市中央区天神の交差点で、一人のサラリーマンが倒れた。
心臓発作だと、誰もがそう思った。
救急車が到着するまでの七分間、通行人の女性が心臓マッサージを続けていた。彼の瞳孔はすでに開き、脈は完全に途絶えていた。医学的に見て、彼は死んでいた。
だが、救急隊員が到着した時――彼は起き上がっていた。
「あ、大丈夫みたいです。意識戻んしゃったみたいで」
女性は安堵の笑顔を浮かべた。
男の目は濁った灰色に変わっていた。彼は女性の腕を掴み、そして――噛んだ。
これが、公式に記録された「最初の事例」だった。




